中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第二節『女装』
風倉天覇


「・・・・・・・・・俺は嫌だぞ?」
そこは由羅の屋敷
そこでルーカスは窮地に立たされている
額に冷や汗を垂らし、腰のナイフに手を伸ばしている
そのルーカスに近付くのは屋敷の主たる橘由羅
その両手には白いポンポンと白粉


「良いじゃないの〜♪ ルーカス君の女装姿・・・案外綺麗かもよ♪」




そう、ルーカスは男としての窮地に立たされていた




悠久幻想曲Symphony 第一楽節 第二章『女装』




事は4月の15日の朝

ジョートショップの仕事を手伝う事になった面々―アレフ、リサ、メロディの3人と
ルーカス、それにジョートショップの店主であるアリサとそのペットのテディは朝のミーティングをしていた
「で、本日の仕事なんだが・・・モンスター退治なんだ」
「へぇ・・・モンスター退治ねぇ・・・」
「そ、モンスター退治・・・なんだがなぁ・・・」
ルーカスはしかめ面をしながら頭をかく
「? どうかしたのか?」
アレフがそれを不思議そうに聞く
「いやなぁ・・・・・・取り敢えずこれを見てくれ」
そう言ってルーカスは3人に一枚の紙を渡す
3人はそれぞれ紙を見る
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アレフとリサはその紙を見ていく内に表情がどんどん消えてゆく
その反面メロディはと言うと―
「・・・・・・ねぇ、ルーカスちゃん」
「ん、何だいメロディ?」
「このじ、なんてよむの?」
メロディの指差す先には『食料盗難』の四文字
「あぁ、それはね『しょくりょうとうなん』って読むんだよ」
「しょくりょうとうなん?」
「つまり、食べ物を盗んだって事・・・分かったかい?」
「うん!」
「俺としては・・・その下の方が気にならないでもないがな」
アレフが呟く様に言う
「ん・・・あぁ、『婦女子の入浴中の覗き』か・・・でも、お前だって何時もやってんじゃねぇのか?」
「いや・・・流石に捕まるような事は・・・って、お前は俺を何だと思ってやがる!?」
「アレフ」
激昂するアレフに対し、サラリと返すルーカス
「・・・・・・つまり、お前の中の俺のイメージは
いつも女の子の尻を追い掛け回して覗きをしてるような奴だと?」
「よく分かったな」
ガタンと立ち上がるアレフ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アレフとルーカスの間に緊張が走る
しかし―


  ストンッ


2人の間を割って入ったナイフによりその緊張は解かれた
「で・・・このモンスターの退治を依頼された訳だ・・・」
「そういうこと」
「でも・・・こんな間抜けっぽい奴だったら簡単に捕まえられるんじゃねぇのか?」
椅子に座りなおしながらアレフが言う
「ん・・・俺もそう思ったんだが・・・どうやら奴さん、逃げ足が凄いらしいよ」
「成る程・・・じゃあ、ぼうやはその逃げ足の凄いのをどうやって捕まえるつもりなんだい?」
「そうだな・・・・・・追いかけっこじゃ無理そうだしな・・・」
「じゃあ罠を置くってのはどうだよ?」
「ナイス提案だ、アレフ」
ルーカスはビシッとアレフを指差す
「でも、罠って・・・何を仕掛けるんだい?」
「そうだな・・・・・・」
「ふみぃ・・・どうするの?」
すると、ルーカスは唐突にメロディの方を向いた
そして―
「よし、由羅の家に行こう!」

して、場面は最初に戻る





「・・・・・・・・・俺は嫌だぞ?」
そこは由羅の屋敷
額に冷や汗を垂らし、腰のナイフに手を伸ばしている
そのルーカスに近付くのは屋敷の主たる橘由羅
その両手には白いポンポンと白粉
「良いじゃないの〜♪ ルーカス君の女装姿・・・案外綺麗かもよ♪」
「良くないから言ってんだけどな・・・」
ジリジリと近寄ってくる由羅に対し、ジリジリと後方に下がるルーカス
「まぁ、良いじゃねぇか、なぁリサ?」
「まぁね・・・私もやるんだし・・・覚悟を決めな、ぼうや」
「ルーカスちゃんもいっしょにやろうよ〜♪」
由羅の後ろで傍観する3人はルーカスを諭そうとする
しかし―
「俺は嫌だ!」
首を立てに振らないルーカス
それに痺れを切らしたのか、由羅は―
「しょうがないわねぇ・・・・・・アレフくん!」
「ん、何だい?」
「『アレ』をやっちゃって!」
「・・・OK」
邪笑を携えアレフがルーカスの前に立つ
「・・・・・・・・・・・・何だよアレフ?」
「ルーカス・・・・・・許せ!」


  トスッ!!


その刹那、アレフの抜き手がルーカスの鳩尾当たりに吸い込まれるが如く入る
そして、その抜き手を受けたルーカスは―
「うっ!? ・・・・・・・・・zzz」
一瞬だけ呻くとすぐに眠りに入ってしまった
「これぞコールソン流奥義『眠りのツボ』・・・」
「うん、やっぱいつ見ても凄いわねぇ」
「アレフちゃんすご〜い♪」
「・・・・・・アレフ、あんた何処で覚えたんだい・・・そんなの?」
感心する由羅とメロディを尻目に呆然とするリサであった・・・





それから数十分後・・・
ローレライ前の道を数人の女性達が歩いている
「うぅぅ・・・何故に俺がこんな格好を・・・・・・」
目に涙を貯めた女性―もとい、ルーカスが呟く
顔には薄くファンデーションが塗ってあり、唇には薄紅色の口紅
髪は肩甲骨の半ば辺りまである茶髪のウィッグを装着している
格好はルーカスのサイズの女物の服が無かった為、
大きめのTシャツにジーパンと言う格好だ
元の顔立ちも良かったので綺麗な女性が男性者の服を着ている様に見える
余談ではあるが、下着としてブラジャーを着けていたりする(中身は詰め物)
「良いじゃない、結構似合ってるわよルーカスちゃん♪」
「ちゃん付けするなぁ!!」
隣でからかう由羅に叫ぶルーカス
「まぁ、良いじゃないかぼうや」
「良くないから言ってんだっての!」
涙を零しながらリサに訴える
そのリサはと言うと、普段はしない化粧をし、髪を下ろし、更に中々品のある女物の服を着ている為、
知らない街を歩いたら間違いなく声をかけられるであろう程の『美女』になっている
ちなみに、このリサの格好で少し騒動がなかったでもないが、それは省かせて貰う
「でも、アレフは文句ないみたいだぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そのリサの隣を歩いているのはアレフ
結局、ルーカスが起きた後(当然化粧及び着替えは終っている)
アレフも女装をする事になった
当然アレフは嫌がったが、ルーカスの顎を掠めるフックにより気絶
その気絶している間に化粧及び着替えをさせられた口である
しかし、アレフも『美女』になっていた
格好こそルーカスと同じであれど、ルーカスと比べても化粧は薄く、
ウィッグも付けていないのに女性らしさがある
言うなれば『男装の麗人』といった感じである
「・・・・・・どう見ても不満ありそうだけどな」
「・・・まぁ、兎に角モンスターを捕まえるまでの我慢じゃないか、それぐらいでグダグダ言わない、男だろ?」
「いやね、男だからグダグダ言うんだって・・・」
そうやって街の人々の視線に耐えながら(ルーカスとアレフは気にしないように努力している)
罠を張る地点までの道のりを歩く
そこに―
「あ、リサさんにメロディちゃんに由羅さん・・・こんにちは」
彼女等の前に一人の黒髪の少女が現れた
「やぁ、シーラどうしたんだい、こんな所で?」
少女―シーラは微笑みながらリサに答える
「実はローレライに今度の発表会用のドレスを合わせに行くんですけど―あら、そちらの方々は・・・?」
シーラがルーカスとアレフに気付く
その直後―
「あっ・・・」
ルーカスが艶めかしい声をあげながらよろめく
「え、大丈夫ですか!?」
シーラがよろめくルーカスに近付く
が―
「どうしたの、ルーカスちゃん?」
「え?」
―メロディの半ば暢気な声にシーラは足を止めた
「ん、俺は大丈夫・・・ただ、ちょっと試したかっただけさ」
そう言いながら確かな足取りで立ち上がるルーカス
「悪いなシーラ、君を騙すような事をしちゃって・・・」
「えっと・・・ルーカスくん?」
苦笑しながら腰に手をやるルーカスにおずおずと聞くシーラ
「あぁ、そうだよ・・・ちなみにこっちはアレフな」
親指でアレフを指すルーカス
アレフは照れてからか、帽子で顔を隠してしまった
「あの・・・・・・何で・・・その・・・」
「ん、この格好か・・・話せば長くなるんだがな・・・」



「・・・変なモンスターもいるのね」
「あぁ・・・おかげさまで俺もアレフもこの格好さ・・・」
涙を流すルーカス
「まぁ、しょうがないじゃないか・・・モンスターを退治するまでの我慢じゃないか」
「・・・そうだな、よし、さっさと行ってモンスター縛り上げて役所に突き出しに行きますか!」
意気込むルーカス
その隣でアレフも意気込んでいる
「よぉし、さっさと行くぞルーカス!」
「おぅよ!」
2人はこの街の正門である祈りと灯火の門に向けて走り出す
「ちょ、ぼうや、アレフ!」
「ルーカスちゃんまって〜」
「あらあら・・・元気ねぇ、まったく」
ぼやきながらも2人を追いかけるリサ、メロディ、由羅
それを見送るシーラ
そしてシーラは一言ポツリと呟く
「・・・楽しそう・・・皆」





「で、ここで罠を張るのかい?」
「そ、ここで張るの」
街を少し出た街道のど真ん中に由羅以外の全員が揃っている
ちなみに由羅はさくら亭に向かうつもりだったらしく、さくら亭近くで別れた
「罠を張るって言っても・・・どうするんだよ?」
気を持ち直したアレフがルーカスに問いかける
「取り敢えず・・・由羅の家で練習した奴をやってみるか」
全員が頷き―
「あぁっ、胸が・・・」
「ふみぃ、ごろごろごろ・・・」
「あぁっ! 胸が・・・痛い・・・!」
「アァッ、胸ガ・・・」
仮病大会もとい、作戦を開始する
ちなみに上の台詞の順だが、敢えて言わないでおく(言わずとも分かるとも言う)
そこに―
「うひ」
(((―来た!)))
メロディ以外の3人が自分たちの声以外の音に反応する
しかし―
「うひひひひひひひひ」
反応は少し遅かったらしい
「のおおぉおぉっ!!?」
いきなり出てきたモンスターはルーカスに抱きつく
「こら、舐めるな、太腿をさするな、ズボンを脱がそうとするなあああぁああぁぁぁああぁぁぁ!!!」
その場にルーカスの絶叫が木霊する
その後
「何で、私じゃなくてぼうやなんだあああああああああ!!!!!」
リサの絶叫が反対側の雷鳴山まで響いた




「・・・・・・死ぬかと思った」
化粧が崩れウィッグもずれ、服もぼろぼろなルーカスが呟く
場所は由羅の家
リサが役所にモンスターを届けに行っている間にルーカス達は由羅の家に帰還する
「まぁ・・・そうだな・・・普通なら死んでたかもな・・・」
隣にいるアレフは化粧を落とし、いつもの服装に戻っている
「うぅぅ・・・リサの奴・・・少しは手加減しろよ・・・」
服を脱ぎ、下着を外しながらルーカスがぼやく
「でも、リサの気持ちも分からないでもないけどな」
「あ? 何でだよ?」
「だって、モンスターが女の自分じゃなくて男のルーカスの所に着たんだぜ?」
ルーカスは少し動きを止める
「・・・そうだな・・・でもさ」
「何だよ?」
「そう考えると・・・リサも女なんだな、って思うよな・・・」
「・・・・・・そうだな」





そうしてこの夜は更けて行く





余談
この事件の後の数日間
ルーカスに女装癖があると言う噂が流れたそうな
噂の発生源は言うまでもないが
中央改札 交響曲 感想 説明