中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第三節『片鱗―起』
風倉天覇


その日ルーカスはエンフィールド学園で魔法学科の臨時講師の仕事を終えて帰る所だった

「あー・・・疲れた」
「そうっスね・・・」

ルーカスの頭の上でへばっているテディが相槌を打つ

「ガキの相手は嫌いじゃねぇけど・・・あぁまで嫌われるとなぁ・・・」
「そうっスね・・・ルーカスさん、子供達に恐がられてるっスからね・・・」


  ベシッ


ルーカスが頭の上のテディを叩き落とす

「煩い・・・俺だって好きで嫌われてるわけじゃねぇんだよ・・・」
「うぅ・・・だからって毎度毎度叩き落とさないで欲しいっス・・・」

鼻面を押さえながらテディがルーカスの後を追う

そんな折、ルーカスの前を一人の少女が走り去って行った

それを見たルーカスは―

「・・・何をあんなに急いでんだ、マリアの奴・・・?」

等と暢気に見送った


しかし
この時、少女―マリアを止めていればルーカスは痛い目に合わなかっただろう





そして、目覚める・・・・・・片鱗が








悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第三節『片鱗―起』








ルーカスはその後まっすぐジョートショップに帰った

「ただいま―」

その直後―

「マリア様あああああぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!!」


   ボギグギョメギョバギョ


「モガルル!?」
「ルーカスさん、大丈夫っスか!?」

頭の上のテディが足元のルーカスを心配する

「マリア様ああああああ、心配―ん?」

そこでルーカスに抱きついた(ベアーハッグとも言う)をかけてきた人物は初めて気付く

「何だ、貴様は! マリア様ではないじゃないか!!」
等と言った事を吐いた後、ルーカスを横に投げ捨てる(酷)

「る、ルーカスサン、大丈夫っスか!?」

うまくルーカスの頭からテーブルの上に居場所を変えたテディはルーカスを心配する
そして、心配されているルーカスはと言うと―

「先に逝く俺を許して下さい・・・アリサさん・・・」

今にも本当に逝ってしまいそうな表情で呟いている



それから数十分掛けて(途中、寄り道してきたアレフの助力もあって)回復したルーカスは目の前の男性に向かって一言―

「死ぬか、おっさん?」

腰のナイフに手を伸ばしながらそう呟く
そのルーカスの米神には青筋が浮かび上がっている

「る、ルーカスさん、落ち着くっス!」
「そうだぞ、流石にジョートショップで殺人事件はまずいだろ!?」

隣にいるアレフとテディが必死にルーカスを抑える

「・・・・・・ちっ、ここがジョートショップじゃなかったら良かったんだがな・・・」

危険発言を呟きながら椅子に腰掛けるルーカス

「で・・・何で行き成りに俺に抱きついてきた、っつーかあんた誰よ?」

相変わらず不機嫌なままルーカスは目の前の男性に問いかける
そのルーカスの疑問に答えたのは、奥からお茶を持ってきたアリサだった

「その方はマリアちゃんの家の執事さんよ」
「マリアん家の?」

ルーカスはお茶を受け取りながら目の前の男性を見る

「はい、私はマリアお嬢様の家で働いている者です」
「で、その執事さんがどうしたんだよ?」

アレフもルーカス同様、お茶を受け取りながら執事に問う

「実は・・・実は・・・マリア様が居なくなってしまったのです!!」

執事は目に涙を貯め、叫ぶ

「あぁ、もしマリア様に何かあったら私は、私は―」
「マリアならさっき見たぞ?」

そのルーカスの一言に―

「何ですとおおぉぉおおおぉぉおおおぉおおおぉおおぉぉおぉ!?!?!?」

執事が絶叫ながらテーブルを乗り越えルーカスの首(頚動脈)を掴む

「何時、何処で、どうして、どうやって、どの様に見かけたのですかああああぁああぁぁああぁああぁ!?!?!?」

興奮しきってる執事に対しルーカスは―

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ワザとかと聞きたくなるような手際の良さで頚動脈を押えられている所為で気を失ってしまっていた





それから十数分後、意識を取り戻したルーカスは目の前の男性に向かって―

「兎に角マリアの奴を探しに行って来ます」
「どうかお願いしますぞ」

ロープで椅子ごと固定された執事はルーカスに頭を下げる(縛ったのはルーカスとアレフ)

「わーってるって・・・行くぞ、アレフ」
「ったく・・・しょうがねぇなあ・・・」

文句を言いながらもちゃんとルーカスに付いて行くアレフ
何だかんだ行って付き合いの良い奴である

「で、何処をどう探すんだ?」
「そうだな・・・取り合えず、お前はお前の心当たりを探してくれ」
「了解」

そう言うとアレフは役所のある方へ行った

「さて・・・俺らも探すか・・・」
「そうっスね」

ルーカスはアレフとは逆の方向のラ・ルナの方へと足を向ける

「しっかし・・・マリアの奴も何考えてんだかねぇ・・・」
「あのぉ・・・ルーカスさん、それなんスけど・・・」
「あ、どうしたテディ?」
「僕、心当たりがあるっス」
「何!?」

ルーカスは相変わらず頭の上にいるテディを両手で掴み、自分の顔の前まで持っていく

「で、その心当たりってのは?」
「実は昨日、マリアさんとエルさんが喧嘩したっス、それで―」
「皆まで言うな、もう分かった」

テディを再び頭の上に乗せるルーカス

「・・・やっぱ、分かるっスかね?」
「マリアにエルに喧嘩、っつったら魔法関連だろうに・・・まったく・・・エルもちったぁ大人になれっつーの」
「へぇ、人の居ない所で陰口叩く奴は大人なのかい?」

ルーカスは自分の直ぐ後ろからの声に反応し振り向く
そこには若葉色の髪をしたエルフの女性

「あー・・・これはだな、ちょっとした論議の際に出た客観的な意見でして」

エルフの女性―エルに睨まれながら弁明をするルーカス

「論議?」
「そうっス! マリアさんがいなくなったんでその原因を話し合ってたっス!」
「あぁ、あの爆裂魔法お嬢かい・・・まったく・・・何考えてんだか・・・」
「兎に角、マリアの奴を探さにゃならんのだが・・・エル、お前、何処か当ては無いか?」
「無いね」

ルーカスの質問に即答するエル

「第一、あの爆裂魔法お嬢の事だし・・・腹が減れば帰ってくるだろ」
「おいおい・・・マリアは犬じゃないだろうに・・・」

呆れた様なルーカスを尻目に、踵を返すエル

「あ、おい、何処行くんだよ?」
「帰る・・・まったく、あんたもあんなお嬢に付き合う必要ないだろうに・・・」

そう言って歩を進めるエル
そしてその場に取り残されるルーカスとその頭の上のテディ

「・・・・・・なぁ、テディ」
「何っスか?」
「エルってさ・・・マリアの事になるといつもああだよな・・・」
「・・・そうっスね」
「・・・・・・ちっ、兎に角マリアの奴を探さないとな!」

そう言って先のエル同様、踵を返すルーカス
直後―

「ルーカス!」

背後から声を掛けられた
ルーカスは首だけ後ろを向けると、そこにはエルが立っていた

「マリアの奴ならさっき誕生の森に行ったよ・・・何か紙袋持って私に『後で凄いもの見せてあげるから』って言って来たよ・・・」

それを聞きルーカスは、笑みを浮かべて―

「あんがとな、エル! 俺、行ってみるわ!」

そう言って誕生の森の方へと向かって走り出すルーカス
その背中が見えなくなるまでエルはそこに立っていた
そして一言―

「まったく・・・アイツは何であんなにお人よしなのかねぇ・・・」







「で・・・森に来たは良いが・・・」
「全然見当たらないっスねぇ・・・」

ルーカス達は誕生の森まで来ていた
しかし、入り口辺りではマリアは見つからず、今は森の中ほどまで来ている

「しっかし・・・本当に何処行ったんだ・・・?」
「本当っスね・・・って、いたっスよルーカスさん!」
「何!?」

ルーカスはテディの向く方に顔を向ける
するとそこには金髪のツインテールの少女が呪文を唱えながら何かをやっていた
そしてルーカスはその少女の元まで走り、声を掛けた

「おい、マリア! お前、何してんだ!?」
「五月蝿いわね、少し黙っててよ!」

金髪の少女―マリアは怒鳴ってきたルーカスに怒鳴り返した

「五月蝿いじゃない!」

ルーカスは更に怒鳴ると、マリアは―

「あ、ルーカスじゃない☆」

ようやく相手がルーカスだという事に気付いたらしい

「『ルーカスじゃない☆』じゃない! お前はここで何をやってんだ!?」

ルーカスはマリアの直ぐ前に立つとマリアを見下ろす

「聞いてよ、ルーカス! マリアはね黄金魔法を―」

マリアが黄金魔法と言う名を挙げた瞬間


  パチン


ルーカスはマリアの頬を叩いていた

「えっ・・・?」
「な、何してるっスか、ルーカスさん!?」

突然のルーカスの行動に驚くマリアとテディ

対するルーカスは落ち着き払った様子でマリアと目線を合わせる様に屈む

「マリア・・・黄金魔法ってのはあの錬金術の極みたる黄金魔法だよな?」
「え・・・う、うん」

未だに混乱していながらもルーカスの質問に答えるマリア

「黄金魔法は確かに凄い魔法だ・・・ただの鉄屑を金に変えるんだしな・・・」
「で、でしょ、だからマリアがね、金を作ってジョートショップに―」
「でもな、あれは下手したら術者の命に関わる禁呪だ」
「!!!」
「しかも、成功の確率なんか万に一つも無い・・・なんだ、マリア、お前は命をどぶに捨てるつもりなのか?」
「ち、違うよ、マリアは―」

何か言おうとするマリアを無視し、ルーカスはマリアを軽く抱きしめる

「え・・・!?」

当然、マリアは突然の事に驚くが、それを無視しルーカスは―

「お前がジョートショップの事を思ってくれるのは嬉しい・・・けどな、もし失敗してお前が死んだら哀しいぜ・・・俺とか、お前の親父さんとか、他の沢山の人達がな」

それだけ言うとマリアを放すルーカス

「それに・・・確かに金は欲しいけどさ、そんなにすぐにいる訳じゃないし、自分で稼いでこそ意味があるんだよ」
「そう・・・なの?」
「あぁ・・・それに、お金の為だけじゃなくて街の人に信頼されて貰う為にも働いてるんだ」

照れ臭そうに笑いながら話すルーカス

「だからさ・・・マリアの気持ちはすんげー嬉しいけど・・・受け取れないな・・・さっき言った理由もあるし」
「そっか・・・」

ルーカスの言葉にシュンと項垂れるマリア

「あ、でもな、嬉しい事には間違いないんだぜ、だからさ、元気出せよ、な?」

苦笑を浮かべながらマリアを元気付けようとするルーカス

そのルーカスにマリアは―

「・・・うん!」

笑顔で答えた
それに安心したルーカスも笑顔を浮かべて

「よし、んじゃま、帰ります―」

そして直ぐにその笑顔が凍り付く

「・・・ルーカス?」

ルーカスはマリアの奥をジッと見て、否、睨みつけている
そのルーカスの頭の上のテディは、先のルーカスの様に固まっている

「テディ、降りろ・・・マリア・・・俺が手を離したら直ぐに街に戻って自警団に行くんだ・・・良いな?」

テディはルーカスの頭の上から降り、マリアの頭の上に乗る

「えっ、何で―」

マリアがその理由を聞こうとした時には、既にルーカスはマリアから手を離していた
そして―

「てりゃああああ!」

マリアの奥にいる何かに向かって突撃を仕掛ける
そして、マリアは自分の背後にいた何かを一瞬だけ見ると、直ぐに街に向かって走り出した
そして、マリアの背後にいた何かは

「GYAOOOOOOOO!!!」

何か―オーガー、それも世間一般で超オーガーと呼ばれているハイオーガがルーカスに襲い掛かった

「でりゃあ!」

ルーカスはハイオーガの爪を紙一重で躱しながらハイオーガの胸板を抜刀したナイフで切り裂く
ナイフの切先は胸板を走り、切り裂いた
だが、ハイオーガはそれを物ともせず二撃目を放ってくる

「ちいっ!」

今度の攻撃は躱し切れず、頬を掠める
そして、ルーカスもハイオーガと同じく二撃目の突きを放つ
だが、それは避けられる
避けられた事により体勢の崩れるルーカス
そして、体勢の崩れたルーカスはハイオーガの三撃目を躱す事は出来なかった
ハイオーガの腕を横に振るう打撃がルーカスの肩に入り、ルーカスはその衝撃で吹き飛ぶ

「がっ・・・・・・!」

苦痛に耐える呻き声を発しながら吹き飛ぶルーカスを、一本の樹がそれを遮る

「ぐふっ!」

更に樹に当たった衝撃で更に痛みが増す

(くそっ・・・さっきの攻撃で肩の骨にひびが・・・! このままじゃあ・・・!)

ルーカスは冷静に自分のダメージを計算し、自分の状況の悪さに毒づく
そして、そのルーカスにハイオーガは止めを―

(えっ・・・?)

刺さずに何処かへ行こうとする
ほんの一瞬だけ安堵するルーカス
そう、ほんの一瞬だけ

(・・・・・・・・・・・・!!!)

そしてルーカスは気付いた
ハイオーガの向かっている方向は
先程マリアが逃げた方向―つまり、街の方だと

「くそっ、待ちやがれ・・・!」

ルーカスは体に鞭打って立とうとする
しかし、予想以上にダメージが大きかったのか、うまく立てないルーカス
ハイオーガはそんなルーカスを一瞥し
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ



まるで人の如く唇の端を持ち上げた



それを見てルーカスは
いや、ルーカスの中で
誰かの、何かの声が響いた



オマエハマモレナイデイイノカ・・・マタ、マモレナイデイイノカ?



その直後、その場所で赫い光が炸裂した







そこは病院―エンフィールドで唯一の病院であるクラウド医院
そこのベッドを一人の青年が占領している
そして、今、目覚める・・・

「ん・・・・・・ふぁ〜あ・・・」

青年―ルーカスは体を起こし、周囲を見渡す
そして一言―

「・・・・・・おやすみ」

再び眠りに付こうと―

「寝るな!」


  スパーン


―したが、ベッドの脇にいた眼鏡をかけた白衣の男性のハリセンによる突込みにより阻まれる

「がふっ! ・・・・・・なんだ、ドクターか」

ルーカスが白衣の男性―トーヤを一瞥すると―

「おやすm「だから寝るなぁ!」


  スパーン!


再びトーヤのハリセンが唸りをあげる

「がはっ! ・・・・・・何をしたいんだよ、ドクター?」
「それはこっちの台詞だ」

トーヤは米神に青筋を立てながらルーカスを見据える

「・・・・・・えぇい、で? ドクターは俺に何用よ?」
「いや、特に無い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

トーヤのその言葉に、トーヤを思い切り睨みつけるルーカス
傍から見ればそれは、チンピラが睨んでるようにも見える

「ただ、さっさと出てけと言う事だ・・・怪我はこれと言ってないしな」
「・・・・・・え?」

ルーカスは自分の肩を触る
ハイオーガの攻撃で出来たと思われる肩のひびは微塵にも感じられなかった

「あぁ、お前の肩だがな・・・それはマリアが治したぞ」
「マリアが・・・?」
「あぁ、マリアが自警団に駆け込んだ後、マリアもお前の所に戻ったんだ」

トーヤは近くの椅子に腰掛け、詳しく話し始めた

「そしたらお前の言ってたハイオーガはいなくて、代わりに怪我をしたお前が樹にもたれ掛かっていてな・・・」
「・・・いなかった?」
「あぁ、代わりに―さっきも言ったように怪我をしたお前がいただけだ」

トーヤは一瞬何かを言い留まったが、別の事を言った

「で、怪我をしたお前をマリアが神聖魔法で治療したと言う訳だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ルーカスはその言葉を聞き、再び肩に触れる
肩は包帯が巻かれているが、特に問題は無い

「大丈夫だ・・・珍しくマリアの神聖魔法は成功していた」

珍しく、と言う所を強調しながらトーヤは言う

「・・・・・そうか、珍しくか」

ルーカスも珍しくの部分を強調して言う

「まぁ、兎に角怪我の方は当面無茶な動きをしなければ直ぐに完治するだろう」
「そっか・・・っと」

ルーカスはそう言うとベッドから降りる

「む、何処へ行く?」
「帰る・・・怪我の方も特に問題ないんだし、だったら家で安静にしてるさ」
「そうか・・・気をつけてな」
「へっ、誰に言ってんだよ」

それだけ言うとルーカスは軽く手を振りながらトーヤに背を向けた





その帰り道

ルーカスは日の当たる丘公園の横を歩いていた

「さって・・・早く帰ってアリサさんを安心させたげないとな・・・」

一人呟きながら歩いている途中、前方から一人の人影がこちらに向かってやって来るのが分かった
それは壮年の男性で、肩幅もがっしりとしている―そしてルーカスの見覚えのある男性で、苦手とする人物

「け゛っ・・・・・・」
「ん・・・何だ、ルーカス君じゃないか」

壮年の男性―リカルドはルーカスに声をかけた

「よぉ・・・どうしたんだよ、こんな時間に?」
「いや、私は夜鳴鳥雑貨店にね・・・そういう君は?」
「・・・何だっていいじゃねぇか」

ポツリと呟くように答えるルーカス

「ふむ・・・・・・ん?」

ルーカスの態度にため息をつくリカルドはある事に気付く

「どうした、おっさん?」
「いや・・・君の雰囲気がね・・・」
「俺の雰囲気?」


「何だか変わった気がするんだが・・・・・・私の気のせいかな?」


「気のせいに決まってるだろうが」

ルーカスはムスッとした顔のままリカルドの横を通り過ぎ―

「じゃあな、おっさん・・・早く帰らないとトリーシャが心配するぜ」

そう言って歩いていった
そして残されたリカルドは―

「・・・・・・私の気のせい・・・・・・なのか?」

それだけ呟くと、自分の本来の用である夜鳴鳥雑貨店に向かう
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