中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第四節『軟派戦争と死の影の胎動』
風倉天覇


その時ルーカスは王立図書館から出てきた所だった

「すみません、ルーカスさん・・・わざわざ休みの日に勉強教えてもらっちゃって」

ルーカスの右隣にいる青い髪の少年はルーカスに礼を言う

「な〜に、気にすんなよクリス。 俺で教えられる事だったら大抵の事は教えてやるからよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

ルーカスの右隣にいる少年―クリスは笑顔を浮かべる

「でも、ルーカスさんって博識ですよね・・・本に載ってない様な事まで知ってるなんて」

ルーカスの左隣にいる紫髪の三つ編み少女は目をキラキラと輝かせながらルーカスを見る

「な〜に、これぐらいどうって事ないよ、シェリル」
「そんな、謙遜なんてしないで下さいよ」
「そうだよ、謙遜なんてルーカスさんらしくないよ」

少女―シェリルの横を歩く茶髪に黄色のリボンをつけた少女がルーカスに言う

「謙遜じゃないって・・・本当の事だよ」

ルーカスは苦笑しながら茶髪の少女―トリーシャに答える
余談ではあるが、先日の『噂』の発生源は彼女である事は言うまでもない

「あはっ、ルーカスさんったら格好良い〜♪」

トリーシャは冗談半分でルーカスを誉める

「ははは―・・・ん?」

ルーカスは苦笑を浮かべながら前を見ると、見慣れた人影が前方にいた

「あれ・・・アレフじゃないか・・・?」

ただ、見慣れた人影―アレフは肩を落とし、元気がなさそうだった





悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第四節『軟派戦争と影の胎動』






「おーい、アレフー!」

ルーカスは前方にいるアレフを大声で呼ぶ
アレフは呼ばれたのに気付き、とぼとぼと、元気のない足取りでこちらに向かってくる

「アレフ君・・・何だか元気ないみたいだね」
「みたいだな・・・珍しいな」
「そうだね、いつも元気なのに・・・」
「女の子に声でも掛け損ねたかな?」

トリーシャの何気ない一言の直後、アレフの足が止まる

「・・・・・・アレフさん?」
「図星なんだろ・・・きっと」

ルーカスが言った直後

「そうなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・」

地獄の底で響いてそうなぐらいの低い声を発するアレフ
4人はそれを聞き、一気に引く

「・・・・・・珍しい・・・お前が女の子を引っかけ損ねるなんて」
「そうだよねぇ、あのアレフさんが女の子を誘えなかったなんて」
「それなんだけどよぉ・・・」

アレフはため息をつきながら、更に俯いてしまう

「・・・・・・どうしたの、アレフ君?」
「・・・・・・先を越された」
「・・・はぁ?」
「先を越されたって言ってんだよぉ!!!」

「な、何いいぃぃっ!!?」
「あ、アレフさんが先を越された!?」
「「えぇっ!?」」

4人が一斉に驚く
尤も、あのアレフが女の子に声をかけるのに先を越された等と聞かされれば誰だって驚く・・・と思う(ぉぃ

「先をって、誰にだよ?!」

ルーカスは半ば動転した状態でアレフに聞く

「分からん、ただ余所者だって事だけしか分からないんだ・・・」
「余所者?」
「あぁ・・・・・・俺のキャッシー・・・」

アレフはそれだけ言うと、再び俯いて肩を落とす

「・・・アレフさん?」
「アレフ君?」

トリーシャとクリスの2人がアレフを心配して近付くものの、アレフは相変わらず俯いたままだ

「・・・・・・どうしたもんだかねぇ」

ルーカスは頭をポリポリと掻いて困っていた







「いらっしゃーい、って・・・何だか珍しい組み合わせね・・・」

アレからルーカス達4人はアレフと一緒にさくら亭に向かった
丁度、かき込み時を過ぎたさくら亭には数える程の客しかいなかった

「まぁ、確かにな」

ルーカスは裏を軽く見ながら、手前の方の大き目の机に腰掛ける

「ま、それは良いとして・・・注文は?」

全員が席に着いたのを見計らって注文をとるパティ

「俺は日替わり・・・皆は?」
「僕は・・・ルーカスさんと同じでいいや」
「私も同じもので」
「ボクは今日のお勧めで!」
「はいはい・・・アレフは?」
「ん・・・バーボンと何かつまみを」

それを聞き、パティは眉間に皺を寄せる

「何、あんた昼間からお酒飲む訳?」
「良いじゃねぇか、別によぉ・・・」

アレフは机に頬を付けながら答える
流石にその反応を見兼ねて、パティがルーカスに聞く

「ねぇ・・・アレフの奴、何かあったの?」
「ん・・・端的に言うと狙ってた女の子を誘えなかった・・・しかも、その子を余所者に取られたらしい」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・」

アレフが机に屈しながら涙を流す

「余所者・・・それって・・・アイツの事?」

パティはそう言うとカウンターの奥を指差す

「「「「へっ・・・?」」」」

ルーカスやアレフ以外の他の面々はパティの指差す方向を見る

そこには、ダン○ィ坂○が着る様な白いタキシードを着た男がリサ相手に何かを話している(爆)
ちなみに、その男はダン○ィより遥かに格好良いのでご安心を(何を安心しろと?)

「へぇ、君は凄いね・・・その美貌、強さ・・・どれを取っても一級品、いや、超一級品のダイヤモンドの様だ・・・」
「はは、褒めても何も出ないよ」

リサは微笑を浮かべながらガイの褒め言葉を流している
しかし、それでも何処か楽しそうだ

「・・・・・・アレが件の余所者か・・・如何にも軟派そうな面してやがる」

ルーカスは眉間に皺を寄せながら余所者を見る

「みたいね・・・私もさっき口説かれたわよ」
「・・・・・・アイツ、良く死ななかったな・・・」

心底感嘆したような呟きを漏らすルーカス
それは運良くパティの耳には入らなかった
聞こえていたらルーカスは間違いなく肉塊になっていただろう(ぉ
一方、余所者と談笑しているリサはふとこちらを見て、ルーカス達の存在に気付く

「はは・・・ん、何だいボウヤ、来てたのかい?」
「おぅ、今さっき来たばっかさ・・・」

ルーカスは軽く手を挙げながら挨拶代わりにする

「おや・・・そちらにまた美しいお嬢さん方が・・・」

余所者がカウンター席から立ち上がりルーカス達の方へと近付く
しかし―

「こっち来るな、クソ野郎・・・」

ルーカスがポツリと呟いた一言に、余所者は足を止める

「・・・何だ、男もいたのか」
「悪いかよ、余所者」

ルーカスは唇の端を持ち上げながら余所者を見据える

「この私を余所者呼ばわりとは・・・失礼な奴だな」
「だって、お兄さんの名前ボク達知らないもん」

トリーシャの的確な一言に余所者は一瞬だけ体を硬直させる

「・・・失礼・・・名乗ってなかったね、私は流離いのナンパ師ガイ・・・世界中の美しいお嬢さんに一夜の夢を与える為に世界を旅している者です・・・お見知りおきを、お嬢さん」

そう言ってトリーシャに手を伸ばすガイ

トリーシャは少し引きながら手を伸ばす

だが、ガイの手がトリーシャの手に触れるより早く、ルーカスがその手を掴み強く握る

「っ・・・! 何をするんだ君は・・・!」

ガイは苦痛に顔を歪めさせながらルーカスを睨む

「けっ、お前みたいな奴が女の子に触ったら孕みかけないからな・・・念の為だよ、念の為」

先程から唇の端を持ち上げているルーカスの米神に青筋が浮かび、それがピクピクと動いている

「ボウヤ、その辺にしときな・・・痛がってるだろ?」

リサが苦痛に耐えているガイを見て、ルーカスを止める

「む・・・・・・ちっ」

ルーカスは数瞬考慮すると、苦々しい顔で舌打ちをしながら手を離す

「まったく・・・この街の男は君みたいな奴ばかりなのか・・・」

ガイもルーカスと同じ様に苦々しい顔をしている

「俺は俺だよ、ボケ・・・なぁ、アレフ?」

ルーカスがアレフの方を見る
だが、アレフは相変わらず机に伏している

「アレフ・・・・・・この男がアレフ・コールソン・・・?」

ガイの一言にアレフは机から起き上がり、そしてガイを見て―

「あーーーーーーーーーーーっ!!!!?」

さくら亭にいた人間が大声をあげたアレフに注目する

「ちょ、ちょっとアレフ! 店の中で叫ばないでよ!」

パティが憤慨しながらアレフを睨みつける
しかし、アレフはそんな事もお構いなしに次の句を続ける

「お前は俺のキャシーを取った余所者!」
「ガイだ・・・覚えて置いてくれたまえアレフ君」

ガイは髪を気障ったらしく掻き揚げる

「・・・そのガイさんが俺に何の用だよ?」

アレフは低い声でガイを睨みつけながら米神に脂汗を垂らす
脂汗を垂らす理由はパティが手に麺棒を持ち出したからだ(爆)

「何、簡単さ・・・この街ナンバー1のナンパ師たる君にナンパ勝負を申し込む!」

ガイはビシッとアレフを指差す
中々、格好良いものだ
だが、それを見てアレフは―

「断る」

先程よりも更に低い声でガイに答える

「おや、どうしたんだい・・・怖気づい「違う」

ガイの挑発と思われる言葉をアレフの低く重い言葉が遮る

「俺はそんな事の為に女の子を口説く気は毛頭ない・・・お前みたいに一晩付き合って女の子を捨てるみたいな事もな」

アレフは普段の軽薄そうな口調とは打って変わった口調でガイに言い、睨みつける

「流石はアレフ・・・エンフィールド1の硬派なナンパ師だねぇ・・・」
「矛盾してませんか、それ?」「矛盾してる事ないですか・・・?」「何だか矛盾してるような・・・」
「・・・・・・・・・・・・気にするな」

クリスのツッコミに汗を垂らすルーカス
しかし、そんな4人を尻目に口論はエスカレートしていた

「はん、勝ち目がないからって逃げるのは男らしくないんじゃないのかい?」
「だから違うって言ってるだろうが!」
「だから、店の中で大声はやめろって言ってるでしょうに・・・・・・!」

口論が更に激しくなろうとし、パティが麺棒を振り被りそうになったその時、さくら亭のドアが開いた


カランカラン


その場にいた面々はカルベルの音に気付き、見ると―

「こんにちは」
「どーもっス!」

テディを腕に抱いたアリサの姿があった

「アリサさん・・・どうしたんすか、一体?」

先程の不機嫌さが嘘の様な爽やかな顔でアリサを見るルーカス

「あら、ルーカスクンここにいたの?」
「えぇ、クリス達と飯食おうって話になりまして・・・で、どうしたんですか?」
「えぇ、実はね、パティちゃんにお届けものがあるの」
「私?」

パティは麺棒を後ろに隠しアリサを見る

「えぇ・・・はい、コレ・・・確かに渡したわよ」

アリサはパティに封筒を渡すとルーカスを見て

「じゃあ、ルーカスクン、私は今からちょっとお買い物に出かけてくるわね」
「うぃっす、いってらっしゃいまし」

ルーカスは冗談半分で敬礼をし、アリサを見送った
アリサが出て行った後、ルーカスはパティの手にしている封筒を見る

「何、それ?」
「ちょっと待って・・・遠くの親戚の子の手紙みたいね」
「へぇ・・・」

トリーシャも興味深々パティの封筒を覗き見る

「開けろよパティ」

「おぃ、お前」

「何であんたがそんな事言うのよ」

パティは封筒を破り、中から一枚の紙を取り出す

「別に良いじゃねぇか」
「良くないから言ってるんでしょう?」

「おぃ、お前!」

「ちっ、心の狭い奴だな・・・」

ボソッと文句を呟くルーカス
今度も、パティの耳には入らなかったようだ

「おい、お前!!!」

先程からルーカスを呼んでいるガイが遂にキレて、ルーカスの肩に掴み掛かる

「・・・何だよ?」

ルーカスは目の前のガイをムスッとした表情で見据える

「今さっきの女性は誰だ?」
「今さっきの女性って・・・アリサさんの事ですか?」

クリスは遠慮がちに答える

「そうだ!」

ガイはルーカスの肩から手を離し、今度はクリスの肩を掴む

「今さっきの女性は誰なんだ!? 早く答えるんだ!」
「え、えっと・・・」
「アリサ・アスティアさん。 エンフィールドの便利屋さんジョートショップのオーナーにして俺の命の恩人で俺の上司・・・分かったならクリスから手を離しな」

怯えるクリスの代わりにルーカスが答えた
ただ、ガイを思い切り睨みつけ、更には腰のナイフに手を持っていっている
しかし、ガイはそれを気にも留めていない様子だ

「アリサさんか・・・・・・よし!」

ガイは先と同じ様にビシッとアレフを指差すと、次の瞬間にはとんでもない事を口走っていた

「アレフ、先に彼女を口説いた方がさっきのナンパ勝負の勝者という事にしよう!」

「な!?」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
「・・・・・・!?」

その場にいた全員がガイの発言に驚きを隠せなかった
そして、一番に立ち直ったアレフはガイに文句を付ける

「だから俺は勝負を受けないって言っただろう!」
「五月蝿い、兎に角彼女を先に口説き落とした方の勝ちだ、良いな!?」

ガイはそれだけ言うとさくら亭のドアを乱暴に開けて、外に出て行った





ガイが出て行った直後、ルーカスがさくら亭内で一騒動起こしたが、それは割愛(ぉ
ルーカスとアレフはジョートショップに向かった
幸いにもジョートショップには誰も来ていなかった
アレフは向かい側に座っているルーカスを見て一言

「先に言っとくが俺は勝負を受けはしないぞ」
「良かった、勝負受けるとかぬかしたらおもいっきり殴り飛ばしてたと思う」

赤く腫れ上がった頬を氷嚢で冷やしながら答えるルーカス

「当たり前だろうが・・・いくらなんでもアリサさんを口説ける訳ないだろ・・・」

アレフは椅子の背もたれに体重をかけながら天井を見る

「・・・だろうな・・・アリサさん、今でも旦那さんの事想ってるもんな・・・そんな人を口説ける奴の方がおかしいぜ・・・」

ルーカスはテーブルの上に屈服しながら言う
丁度その時、ジョートショップのドアが開き、店の主であるアリサが帰って来た

「ただいま・・・あら、おかえりなさい、ルーカスクン」







「いや〜・・・しかし、無事に終って何よりだな」

ルーカスは笑顔で隣にいるアレフを見る
アレからアリサに訳を話し、その直後にガイがジョートショップにやって来て、それをアリサが見事にそれをいなし、万事解決―

「何処が無事だよ・・・・・・はぁ・・・」

―とは行かなかった
何故ならアレフが口説こうとした女性―キャシーが当面男性とは会いたくないといったらしい
それを聞いたアレフは再び肩を落としたと言う訳だ
そして、今2人はさくら亭のカウンターで酒を飲み交わしていると言う経緯だ
尤も、ルーカスは下戸なのでグレープフルーツジュースを飲んでいる

「はっはっは、ま、お前の普段の行いが悪いんだろ」
「お前よりは絶対良いと思うけどな」

笑いながら言うルーカスに対し、ボソリと愚痴を吐く様に言うアレフ

「む、普段から仕事に勤しんでいる俺に言う言葉か、それは?」

「おぅ、言う言葉だよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

2人は睨み合うが、それを遮るモノが2人の間に音を立てて刺さる


   ドスッ!


それは厚さ2cmを誇るまな板だった

「2人とも・・・喧嘩は駄目よ?」

それを投げた張本人であるパティが冷ややかな目で2人を見る

「・・・・・・おぅ」
「・・・分かってるよ」

2人は米神に脂汗を流しながら了解する

「それと・・・そろそろ店じまいなんだけど?」
「え、もうそんな時間か?」
「そっか、おんじゃま勘定っと」

ルーカスはパティに2人分の代金を渡す

「おい、ルーカス・・・」
「ま、偶には奢ってやるのも良いんじゃないかってね♪」

笑みを浮かべながらさくら亭のドアをくぐるルーカス

「・・・ったく、お前が奢ってくれるとはね」

苦笑を浮かべながら、アレフもそれを追う
それを見送ったパティも苦笑を浮かべている

「まったく・・・2人とも仲良いわね・・・」

そう言うとパティは店を見渡す
すると、カウンターの奥に一人、客が残っていた

「あ、お客さん、そろそろ店じまいなんで・・・」

「・・・ん、分かったよ」

客―男は立ち上がりパティに代金を渡すとドアをくぐり、外に出る
外は当の昔に月が昇り、星が瞬き、闇が空を包んでいる
男は空を見上げてニヤリと笑い―

「・・・王様が今じゃアレか・・・ふっ、ま、楽しませて貰おうか・・・クックックックッ・・・」

男は口元を歪ませ、厭な笑い方をすると闇夜に溶けていった





影は動き始める
中央改札 交響曲 感想 説明