中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第六節『ハース・ノイマン』
風倉天覇


目薬茸騒動から3日が過ぎた日の事

「納得いかん」

エンフィールドで唯一の高級レストランの前を歩くルーカスは眉間に皺を寄せ、腕を組みながら文句を言う
何故なら―

「何故に俺がアルベルトの奴に魔法の講義をせにゃあならんのだ?」
「しょうがないじゃないですか・・・・・・お仕事なんですから」

隣にいるクリスがルーカスを嗜める
今回、ルーカスは自警団からの依頼を受け、自警団内の魔法を苦手とする面々に魔法についての知識を講義する事になった
依頼を受けた時は少し嫌がった物の、依頼主である第三部隊隊長のカール・ノイマンの説得と料金の高額さにOKしたのであった
しかし、後日、講義する面々のリストを貰った時にアルベルトの名前があり、それ以来、ルーカスは不機嫌な状態にあるのだ

「ちっ、アルベルトが出るんだったら受けるんじゃなかったな・・・」
「でも、そんな事言ってると、信頼とかそういうのに響きませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それもそうか」
「そうですよ、それに請けた仕事はちゃんとやるのがルーカスさんじゃないんですか?」
「・・・そうだな」

ルーカスはうんうんと頷く
そうこうしている内に自警団前に到着した

「さて・・・行きますか」
「うん・・・」

ルーカスは自警団の扉を潜り、中に入る
その直後―

「あーーーーーーーーーっ!!?」

イの一番にアルベルトと遭遇した

「ちっ、ハナっから嫌な奴に会っちまった」
「る、ルーカスさん!」

露骨に嫌な顔をするルーカスをクリスは嗜めようとする

「おい、犯罪者! 自警団に何の用だ!?」

アルベルトは何処からか取り出した槍の鋒先をルーカスに向ける

「犯罪者とは失礼だねぇ・・・態々魔法の苦手なアルベルト君に魔法について色々と教えに来て上げたのに」
「なにぃ!?」

ルーカスの言葉に青筋を立てるアルベルト
アルベルト同様青筋を立てているルーカス

「はぁ・・・ノイマンさんの依頼で相応額の報酬がなかったらこんな依頼蹴ってたんだがな・・・」
「別に蹴っても良いんだぜ、つーか寧ろ蹴ってくれ」
「や・だ・ね!」
「・・・・・・・・・言うじゃねぇか犯罪者」
「そっちこそ言ってくれるじゃねぇか、役立たずの猪自警団員・・・」

2人の間にア○リカ、イ○ク間さながらの緊張感が走る

「る、ルーカスさんやめてようよ、アルベルトさんも!」
「だってよ・・・そっちがその物騒なもん引っ込めてくれりゃあ・・・なぁ?」
「そっちが帰ってくれれば万事解決なんだけどなぁ・・・」

クリスはソレを必死に止めようとする物の、2人の間の緊張感は更に高まって行く

「生憎仕事なんでね・・・帰る訳にはいかんのですよ・・・」
「そうか・・・じゃあ、俺も仕事をしなくちゃな・・・犯罪者を野晒しにするのは自警団として・・・なぁ?」

ルーカスは得物に手を伸ばし、アルベルトは槍を腰溜めに構える

「る、ルーカスさん、アルベルトさんもやめてよぉ!」

クリスは2人の間でオロオロとしている

「犯罪者を捕まえるのが少し荒くなるのは仕方ないよなぁ・・・!」 「暴漢に襲われたら、自分の身は自分で守らないとなぁ・・・!」

2人が同時に言い、同時に反応する

「誰が犯罪者だぁ!!」 「誰が暴漢だぁ!!」

そして、今にも2人が飛び出そうとした瞬間―

「ただいま・・・と言いたいんだけど・・・コレはどういう状況かな?」

3人は第四者の声に反応し振り向く
すると、そこには一人の少年が立っていた
背丈はそれこそクリスより少し高いぐらい
だが、足元には、その背丈とは不釣合いな大きな荷物が置いてある

「・・・・・・誰、あんた?」

ルーカスが眉間に皺を寄せ第四者を睨む
しかし、アルベルトとクリスの反応は同じものだった

「「ハースさん!?」」
「や、元気そうだね2人とも」

少年は片手を挙げて微笑んだ









悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第六節『ハース・ノイマン』









「しっかし・・・帰ってきて早々にアルベルトが知らない人に槍を向けてる所を見るとはね・・・」

先程ハースと呼ばれた少年は微笑を浮かべながらアルベルトの隣を、ルーカス達の前を歩いている
その手には先程の大きな荷物が持たれている

「うるせぇ・・・大体それはコイツが悪いってさっきも言っただろうが」
「お前が悪いのに人の所為にすんな」

再びルーカスとアルベルトの間に緊張
しかし―

「アルベルト、よしなよ・・・大人気ないからやめなよ」
「・・・ちっ、分かったよ」

ハースがアルベルトを嗜めると、アルベルトは大人しくなる
それを見たルーカスは唖然としながら一言

「・・・アルベルトがリカルドのおっさん以外の言う事を聞いてる・・・!?」
「・・・うるせぇ」

アルベルトは憮然とした表情でルーカスを睨みつける

「はは、2人とも喧嘩しない、喧嘩しない―っと、到着っと」

ハースはある部屋の前で足を止めた
その部屋の扉には『第三部隊事務室』と書かれたプレートが貼ってあった
ハースはその扉をノックする

「何方かな?」

中から男性の声が返って来る

「僕です、ハース・ノイマンです」
「おぉ、ハースか! 入りなさい」
「はい」

ハースは扉を開け中に入る
ルーカス、アルベルト、クリスもそれに続く
部屋の中には一人の老年の男性が机に向かって座っていた

「自警団第三部隊所属、ハース・ノイマン・・・ただいま帰還しました」
「うむ、ご苦労・・・して、連邦での研修はどうだった?」
「はい、中々良い勉強になりました」

ハースは微笑みながら老人を見据えながら微笑んだ

「ふむ・・・そうか・・・・・・ところで、何故後ろにルーカス君達がいるんだね?」

老人はハースの後ろにいるルーカスに目をやる

「うっす、ノイマンさん、依頼で来たぜ」

ルーカスは片手を挙げてフランクに挨拶する
隣のクリスは丁寧に頭を下げる

「おぉ、そうだったね・・・して、アルベルト君も一緒だったかね」
「はい、そうです、ノイマン隊長」

アルベルトは老人―第三部隊隊長であるカール・ノイマンに敬礼する

「んで・・・俺はこの猪に魔法を教えれば良いのか?」
「誰が猪だ、誰が!?」

今にもルーカスに飛び掛らんとするアルベルト
しかし―

「アルベルト君、やめたまえ・・・大人気ないぞ」
「・・・・・・くっ」

それはノイマンによって抑えられる

「おー、ハースと同じやり方で抑えてるよ・・・」
「本当だね・・・」

ルーカスとクリスは感嘆としてノイマンを見る
そこでルーカスはある事に気付く

「・・・・・・ん? ノイマン・・・・・・?」

ルーカスは顎に手をやり考え始める
それを見てハースがルーカスに声をかけた

「どうしたんだい、ルーカス君?」
「いや、ノイマンさんはカール・ノイマンさんだろ・・・で、お前はハース・ノイマン・・・親子?」
「そうだよ」

ルーカスの問いに対し、しれっと返すハース

「おぉ、そうだったのか」
「うん、尤も、頭に『義理』って言葉が付くけどね」
「え、ハースさんとノイマンさんって血は繋がってないんですか?!」

ハースの苦笑しながらの言葉に驚くクリス

「でも、隊長は僕の実父みたいなものだしね・・・あんまり気にしてないんだよ」

ハースは微笑んでクリスに返す

「嬉しい事を言ってくれるね・・・さて、それは置いておいて、ルーカス君」
「はい?」
「そろそろ仕事の方をお願いしても宜しいかな?」
「俺はいつでもどうぞ」
「ふむ、では宜しく・・・アルベルト君は今回の会場までルーカス君を案内してあげてくれ」
「・・・・・・・・・・・・了解」

アルベルトは少し嫌そうに了解する

「そして最後にハース」
「何でしょう?」
「お前には―」








「はい、ルーカス・リディエルの簡単、猪でも分かる魔法講座〜♪」

そこは自警団事務所の中にある中庭、つまり演習場だ
そこに数名の自警団員とルーカス、クリスがいた
ルーカスは何処からか持ってきたホワイトボードに綺麗な字で『猪でも分かる魔法講座♪』と丁寧に猪の絵まで書いてある

「ちょっと待て、ルーカス・・・猪って誰の事だ・・・?」

ルーカスの一番前の席に座るアルベルトが怒気の篭った視線でルーカスを睨む

「はい、自覚症状があるから聞くんだろうね」
「何だとぉ!?」

ルーカスの言葉に激昂したアルベルトは、足元に置いてあった槍に手をかける
が、しかし―

「アルベルト、やめないか」

アルベルトの隣の席に座っているハースがアルベルトを止める

「・・・ちっ!」

盛大な舌打ちをしながらアルベルトは席に座り直す

「そう言う反応するから猪って言われるんだよ?」
「し、しかしだな・・・」
「はいはい、お喋りは授業中にしない、ってね」

ヒソヒソ声で話す2人をルーカスは注意する

「あ、すみません」
「ってか、ハースも魔法が苦手なん?」
「苦手、と言う程でもないけどね」

ハースは苦笑を浮かべる

「ふーん・・・まぁ、それは良しとしまして・・・早速講義と行きましょうか・・・クリス、皆にテキストを配ってやってくれ」
「はい、分かりました」

ルーカスの指示に従い、クリスはルーカスお手製のテキストを配布していく

「それじゃ、今配ったテキストの一番最初を開いてください」

こうして自警団内でのルーカスの魔法の講義が始った





「故に、千年前に現在の魔術体系の72%は魔導王タナトス、そしてその弟であるヒュプノスの手により完成しているのであります」

ルーカスの講義が始ってからはアルベルトも文句一つ言わず講義に耳を傾けている
尤も、ルーカスが真面目に講義しているから、と言うのが最大の理由である
しかし―

「さて・・・ここで一旦講義は中断します」
「はぁっ!? お前、いきなり何言い出すんだ!?」

ルーカスのこの一言にアルベルトが食って掛かる

「まぁ、落ち着けアルベルト・・・それより俺はさっきから気になっていたんだが・・・」

ルーカスはハースのすぐ傍まで寄る

「なぁ、ハース」
「何?」
「コレ、何だ?」

ルーカスは指で足元に置いてある大きな荷物を指差す

「あぁ、コレ?」
「そう、コレ」
「僕の獲物の刀だよ」
「・・・・・・・・・刀!?」

ルーカスは一拍置いて驚く

「何なら見てみるかい?」

ルーカスは、このハースの提案に―

「よし、机を即効で片付けろ!」

即断した








「それじゃあ、皆・・・少し離れててね」

机を片付けた演習場は中々広かった、と言うのがルーカスの感想である
そんな風な感想を思い浮かべているルーカスを他所に、ハースはファスナーを開ける
そして中から出したのは―

「・・・・・・それを刀と呼んで良いのか?」

そう、ハースが取り出したのは刀と呼ぶには相応しくなかろう、と言った質量を持つ『鉄塊』
更に、刀の特徴とされる反りも無く、それがまた一層『鉄塊』に見させる要因でもあった
刃渡りはざっと見積もって140cm程
柄まで合わせれば、長さはハースよりも大きい

「そうだね・・・でも―」


ヒュンッ


ハースは見えない程の速さで剣を振い、剣先をルーカスに向ける

「下手に銘刀とか呼ばれてる刀よりは斬れるよ・・・」
「・・・・・・・・・剣先をこっちに向けないで貰いたいね」

米神に汗を一筋垂らしながら剣先を手でずらすルーカス

「おっと失礼・・・」

ハースは剣先を下ろし、地に下ろす

「しっかし・・・それ、重くないか?」

ルーカスはそう言いながらハースに近寄る

「そんなに重くないけど・・・持って見る?」

ハースは剣を逆手に持ち替え、剣の柄尻をルーカスに向ける

「それじゃま、お言葉に甘えて」

ハースは片手で柄を掴む
それを見てハースは手を離した、直後―

 ドズンッ

ルーカスは片手では持ちきれず、剣先をじめんん落としてしまう

「っ!? 何だコレ・・・!?」

ルーカスはもう片方の手を使ってやっと持ち上げた
両手で持ってやっと持ち上げれる程の重さ
重い―それも、とてつもなく
ルーカスはそれを振り被り、そして振り下ろす


 ブオンッ


重さの力も相まって凄い風切り音を立てながら地面に突き刺さる
そして、改めて剣の重さを実感する
それと同時に―

「ハース・・・お前、凄い馬鹿力だな・・・」

ルーカスは半ば呆然とした目でハースを見る

「そんな事ないよ」
「何がそんな事ないだよ」

何時の間にかハースの隣に立っているアルベルトが呟く様に言う

「俺に腕相撲で勝った癖に・・・」
「はぁっ!?」
「アレは偶然だってば」

ハースは苦笑を浮かべアルベルトを見る
対照的にアルベルトは苦い顔でハースを見ている

「けっ、何言ってやがる・・・」
「アルベルトが・・・負けた・・・」

ルーカスは呆然としながらアルベルトとハースを見比べた後、徐にアルベルトに近付く
そして―

「・・・お前って実は貧弱?」

その直後、アルベルトがルーカスを殴り飛ばしたのは言うまでも無い








「いってぇ・・・・・・」
「こっちもな・・・・・・」
「でも、どっちも悪いんだよ?」

ルーカスとアルベルト、それにハースは災害対策センター前の道を歩いている
ルーカスとアルベルトの体の所々にはバンテージが貼ってあったり、包帯が巻いてあったりしている

アレからルーカスとアルベルトの喧嘩になった
最初の内はただの殴り合いで済んだのだが、途中アルベルトが槍を持ち出した事により、事態が変わった
そこからルーカスは魔法を使うは、アルベルトは壁を壊すは、周囲で煽っていた面々から怪我人が出るはの大惨事
当然、何時までもそんな事が続くわけも無く、途中でリカルドの乱入により、引き分け
更に二人に二時間の説教と言うプレゼントまでくれたのであった
そして、彼等は―

「しっかし・・・何かここんと頃ずっとさくら亭に行ってる気がする・・・」

さくら亭へ向かってると言う訳だ
ちなみに、クリスは学生寮の門限の為、帰宅した

「そう?」
「そうなんだよ、なんか三日に一回とかのペースで通ってる気がする」
「貴様、アリサさんが家に居ると言うのが分かってるのか?」
「・・・・・・手痛いお言葉ですな」

米神に汗を垂らしているルーカス
そんなこんなしている内に目的地であるさくら亭に到着した
ハースを先頭に扉を開け、中に入る


 カランカラン


中に入ると―

「いやーん、ハースくんじゃなーい♪」

ルーカスやアルベルトの知ってる声がハースの名を呼び、その声の主がハースに抱き付く

「やぁ、由羅、久しぶりだね」

ハースは、心成しか普段よりも嬉しそうに微笑みながら抱き付いてきた由羅を剥がす

「ハースくん、何時こっちに帰ってきたの?」
「今日のお昼頃にね」

苦笑しているハースの腕を引き、由羅は自分の座っていた席へとハースを連れて行く
半ば呆然としているルーカスを無視し、アルベルトもそれに付いて行く
その席にパティが注文表を持ってやって来た

「久しぶりね、ハース・・・で、注文は何にする?」
「そうだね・・・僕は美少年で」
「了解、っと・・・・・・そこ、入り口で立ち尽くしてると他のお客さんに邪魔よ」

パティがルーカスを指差し、注意する
ハッとしたルーカスは、いそいそとハース達のいる席に着く

「アレ? ルーカスくんじゃない」
「よぉ、由羅、久しぶり」
「へぇ、君もハースくんと知り合いだったの?」
「昼間知り合ったばっかだよ・・・それより、メロディはどうしたよ?」
「あの子は家で寝てるわ」
「そっか・・・・・・しっかし・・・いきなり抱きつくか、普通?」

ルーカスは呆れた様な視線を由羅に投げ掛ける

「良いじゃない、ハースくん可愛いんだし♪」

そう言いながら再びハースに抱き付く由羅
ハースは少しだけ頬を赤らめ、苦笑を浮かべる

「はは、僕も慣れてるから気にしてないし、別に良いんだよ・・・」
「・・・良いのか・・・?」

ルーカスは米神に汗を垂らす
そんな折―

「はい、注文の物持ってきたわよ!」

パティがお盆の上につまみやら何やらをまとめて持ってきた

「よーし、ハースくんもいるし、お酒とかも来たし、パーっと行くわよー!」

由羅の声に苦笑するルーカスとアルベルト
それに対し、ニコニコ笑っているハースであった






そうして、夜は騒がしく過ぎていった







余談
翌日、自警団に元気に出団するハースと、頭痛で頭を押えるアルベルト、ジョートショップには酒気にやられたルーカスが転がっていたそうな
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