中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第八節『夏の日の休日、In天窓の洞窟』
風倉天覇


その日、エンフィールドは記録的な猛暑に襲われていた
そんな中、ルーカスはと言うと―

「あ〜、あんまり深い所に行っちゃ駄目だよー!」
「はーい!」

高い椅子の上から今から水の中に入ろうとしている女の子に注意を投げ掛ける

ローズレイクで避暑する人達の監視をしていた
高い椅子に座り、ゴミをポイ捨てする人を注意したり、深い所に行こうとしたりする人に注意したり等をしている
ルーカスは首から笛をぶら下げ、Tシャツにスパッツと言う格好にキャップを被った、正に監視員と言った格好で臨んでいる

「ふぅ・・・しっかし・・・あちーなぁ・・・」

ルーカスは天を見上げた
見上げた空には太陽が必要以上の熱光線を放っている

「そうだね・・・僕も結構長い事住んでるけど・・・ここまで暑いのは初めてだね」
「ん・・・何だ、ハースか」

ルーカスは目線を下に下げると、両手にジュースの入った紙コップを持ったハースがいた
ハースはいつもの自警団の制服に、キャップを被っている

「はい、差し入れ」
「お、あんがとよ」

ハースは紙コップを軽くルーカスに投げ、ルーカスはそれをナイスキャッチする
キャッチした紙コップに刺さったストローで中身をすすると、中から冷たい液体がルーカスの喉を潤す

「ふー・・・生き返った・・・」
「それは良かった」
「あぁ、このクソ暑い中、一時間も何も飲まずにやってると本当に死んじまいそうになるぜ」

ルーカスは軽いため息を吐きながらハースに愚痴る

「そっか・・・でも、ごめんね」
「何が?」
「本当は第三部隊の仕事なのにジョートショップに回しちゃって・・・」

ハースは本当に申し訳なさそうな顔でルーカスを見る

実はルーカスが今ローズレイクで監視員をしているのは、第三部隊から回された仕事なのであった
第三部隊は現在、他の仕事に人を回している為、こちらに人を割けない状況で、そこでジョートショップに白羽の矢が立った訳なのである
ちなみに、余談ではあるが、現在別の場所でエルとピートが監視員の手伝いをしてくれると申し入れてくれたので、手伝ってもらっている

「なーに、気にすんなって・・・こっちからすれば割の良い仕事回して貰ってる様なもんだからよ」
「そう言ってくれると助かるよ」
「しかし・・・こうやって見てると羨ましいよ・・・ああやって泳いでる人見てるとさ」

ルーカスは再び軽いため息を吐きながら湖で泳いでいる人々を見る
泳いでいる人は皆、涼しそうで、ずっと太陽の下にいるルーカスからすれば羨ましい限りであった

「はは、でも仕事しなきゃ駄目だよ・・・」
「そうなんだよなぁ・・・しかも、明日は天窓の洞窟に行かなきゃなんねぇしよ・・・」
「天窓の洞窟に?」
「そ・・・ドクターからの依頼でな・・・何でも目薬茸用の地下水を取ってくるのと、この間からクラウド医院で働く様になった子に道を教えろって奴なんだよ・・・」

ルーカスは俯きながら、今度は深いため息を吐く

「ふーん・・・・・・あ、そうだ、ルーカス、ちょっと耳貸して」
「ん、何だ?」

そんなルーカスを見て、ハースは何かを思いついたらしく、それを進言する
そして、それが今回のお話の始まり









悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第八節『夏の日の休日、In天窓の洞窟』









翌日、ジョートショップには十数人の人が集まっていた

「さて、皆さん・・・今回の依頼は他でもない、クラウド医院からの依頼であります」
「それは知ってるけど・・・何でこんなに人が集まってるんだい?」

リサが部屋を見回しながら言う

現在、ジョートショップの中にはアレフ、クリス、ピート、エル、シェリル、シーラ、パティ、マリア、リサ、メロディの従業員メンバーと、ルーカスとアリサ、それにテディを含めた十二人と一匹で構成されている

「そうだよね・・・」
「しかも・・・水着持参って・・・何でなんですか?」

シェリルは心底不思議そうにルーカスに訪ねる

そう、今回は参加するメンバー全員に水着を持参する様、ルーカスは先に連絡を入れて置いたのだ
連絡を受けた一部の面々は何故、と思いルーカスに訪ねるも「理由は明日話す」と言われている

「ふむ、理由は今から話す訳だが・・・一応聞くが皆さん、水着はちゃんと持ってきたかい?」
「一応持ってきたけど・・・何で水着が要るの?」
「今から説明するよ、シーラ・・・今日のクラウド医院からの依頼ってのは天窓の洞窟の地底湖の水を汲んで来る事なんだよ」
「あぁ、あの水かい?」
「あぁ、あの目薬茸を煎じる為の水をな」

エルは思い出した様に声をあげる

「でも、それと水着と何の関係があるんだい?」
「それなんだがな・・・」

するとルーカスは、急に皆に背を向けた

「諸君・・・ここ最近、エンフィールドは凄まじい猛暑に襲われている・・・」
「・・・何だよいきなり・・・らしくない・・・」

アレフの言葉を無視してルーカスは自分の言葉を続ける

「しかし、諸君等には、この過酷な猛暑の中、必死に働いてもらっている訳で・・・」
「そうだよ〜・・・昨日なんか地獄だったしよぉ・・・」

ピートが昨日の仕事、即ちローズレイクでの監視員の仕事について愚痴を言うが、それもルーカスは無視した

「してだ、諸君・・・今回の仕事、そう大変なものではない・・・そこでだ!」

ルーカスは再び皆の方を向く
そして、その顔には満面の笑みが浮かんでいる

「今回の仕事を終えた後、そのまま天窓の洞窟でバカンスと行こうと思うのだよ!」

「バカンス・・・ですか?」
「へぇ・・・あんたも偶には良い事思いつくじゃない」
「ふみぃ・・・ばかんすってなんですか?」

各々がそれぞれの反応をする中、ルーカスは三度言葉を続けた

「無論、アリサさんからの許可も出てるし、更にはアリサさんがお弁当を用意してくれたのだ!」
「おおーっ!」

ルーカスはいつの間にか机の下に置いて置いた七段重ねお重を机の上に取り出し、それに皆は感嘆の声をあげる

「まぁ、偶にはこう言うのも良いんじゃないかしら?」
「そうっスね!」

アリサは微笑を浮かべながら一同を見守り、テディはその腕の中にいる

「と、言う事で天窓の洞窟に行くぞ!」



「と、その前に、当然クラウド医院に寄る必要があるんだがね」

そう言いながら歩くルーカスを先頭に、一行はフェニックス通りを歩き、クラウド医院へと向かっている

「そりゃそうだろうよ、一応が付くけど仕事だしな・・・」
「そう言うこった」

そうこうしている内に一行はクラウド医院前に着いた
すると、そこには見慣れた人影があった

「うっす、待たせたなハース」
「いや、そんなに待ってないよ」
「あれ、ハースじゃないか、どうしたんだ?」
「何、今回の事を提案したのはハースだからな、その提案した当人を連れてかないのは変だろ?」

ルーカスは親指で私服姿のハースを指差す
そんなルーカスを見て、一部のメンバーは・・・

「・・・何だ、ボウヤの考えた事じゃなかったのか」

リサは半ば呆れながら軽くため息を吐く

「でも、よくよく考えると、ルーカスがそんな事思いつくわけ無いよね・・・」
「ま、マリアちゃん、それは言い過ぎなんじゃ・・・?」
「良いじゃない、聞こえてないだろうし」
「マリア・・・安心しろ、バッチリ聞こえてるから」
「え、あはは・・・マリア、何の事だかわかんな〜い☆」

ルーカスの冷めた声に、白を切るマリア
そんな2人を見ていたハースは足をクラウド医院へと向ける

「さて、それじゃ中からディアーナを呼んでくるから少し待っててね」

そう言うと中へと入っていった

「なぁ、ルーカス」
「何だ?」
「ディアーナって、ディアーナ・レイニー?」
「・・・流石はアレフ、女の子の情報だけは早いな」
「はは、そんなに褒めるなよ」
「・・・褒めたつもりは無かったんだがな」

ルーカスとアレフが漫才の様な会話をしていると、中からハースと若葉色の髪をした女の子―ディアーナ、それにもう一人女の子が出てきた

「・・・トリーシャ?」
「やっほー、ルーカスさん!」

そう、ハース達と一緒にトリーシャが出てきたのだ

「ん〜・・・ハース、もしかして誘ったとか?」
「そのもしかして・・・いや、正確には口を滑らしちゃったから、誘ったって所かな・・・」

苦笑しながら頬を掻くハース

「ふーん・・・まぁ、でも一人増えたぐらいだったら問題ないし・・・別に良いだろ」

そうして一行はトリーシャも連れて、天窓の洞窟へと向かった





一行はクラウド医院を離れ、現在天窓の洞窟への道のりを歩いている
先頭にルーカスとリサ、それに道を覚える必要のあるディアーナ
最後尾にアレフと耳の良いエル、それにピート
他のメンバーはその間に挟まれた状態になっている

「んでだ・・・アソコの木、見えるか?」
「えっと、どの木ですか?」
「ほら、あの幹に傷のついた」
「あぁ、あれですか?」
「そそ、あれが見えたら天窓の洞窟まであと少しって訳さ」
「そうなんですか」
「そうなんですよ」

ディアーナに目印を教えるルーカス
まぁ、ちょっとしたやり取りはご愛嬌という奴だ

「でも、思ったより遠くなかったですね」
「ん、そうだな・・・今回はモンスターに会わなかったしな」
「そういえば・・・今回は大蜘蛛一匹すら見かけてないね」
「え゛?!」

ルーカスとリサの会話に驚くディアーナ

「言われて見ればそうだな・・・一応言っとくけどなディアーナ、この辺時々モンスター出るから注意はしといたほうが良いぞ」
「そ、そんな所なんですか?!」
「あぁ・・・でも、まぁ、出ても大蜘蛛程度だし・・・そんな大層な相手じゃないだろ」

そんな事を言いながら歩を進めるルーカス
そのルーカスを背を見てディアーナは一言

「私は・・・一般人なんですけどぉ・・・」

だが、将来一般人の範疇から逸脱する事をここに明記する(爆死)





「さてと・・・到着」

一行は洞窟に入り、目的地である地底湖に到着した

「うおーい、湖だー!!」
「みずうみなのだーー!!!」
「待てぃ、ケモノっ子2人」

今にも湖に飛び込まんとするピートとメロディの襟を掴み、飛び込むのを未然に防ぐ

「一が応でも仕事で来たんだから、先に仕事を終らせんぞ」

2人を放し、クリスから空の20ℓポリタンクを2つ受け取り、湖の岸まで寄ると、ポリタンクを水の中に入れる
それを二度繰り返した後、一同の方を振り向いて

「よし、女性陣はアッチの方に小部屋っぽい場所があるから、そこで着替えるように、野郎はここでさっさと着替えるように、以上!」

その場にいた女性陣はルーカスの指差す方へと歩いて行く
が、しかし、ルーカスはその中の一人の肩を掴んみ、そして―


  ドギュン


全力でその人物の腹部にボディブローを打ち込んだ
打ち込まれた人物は、その場で蹲り、光る液体を口の端から漏らしながら悶絶している
ルーカスはそれを見て冷徹に一言

「アレフ・・・世の中やって良い事と悪い事があるんだぞ?」

人物―アレフは腹部の異常なほどの激痛の所為で、その言葉はまともに聞き取れてはいなかった





「ったく・・・アレフの奴・・・はぁ・・・」
「ね、ねぇ、ルーカスさん・・・」
「何だ、クリス?」

ルーカスはズボンを脱ぎながらクリスの方を見る
そのズボンの下からは既に穿いてあった海パンが見える

「あ、アレフ君・・・なんかやばそうだよ・・・放っといていいのかな?」
「大丈夫、大丈夫、アレぐらいじゃ死なんよ、人間は」
「でも・・・」

クリスは心配そうにアレフを見る
アレフは痙攣を起こしながら、相変わらず床に蹲っている

「まぁ、大丈夫だとは思うけど・・・それより、ルーカス・・・君、何かした?」
「何って・・・何を?」
「だって、君のパンチじゃアソコまでアレフを悶絶させる事なんて出来ないもん」
「そういや、そうだよなぁ・・・オレだってアレフにアソコまで出来ないしなぁ・・・」

ハースもルーカス同様、下に穿いてきたスパッツの上にTシャツを着た姿になる
昨日のルーカスと同じ格好だ
一方、ピートも他の面々同様、先に穿いてきた海パン姿になっている
ちなみに、先に穿いてこなかったのはクリスのみであった

話は戻るが、ハースはその言葉を続ける

「それに・・・あの一瞬、君の魔力を感じたしね」
「ん・・・やっぱ分かる?」
「まぁね」
「まぁ、実際そうだしな・・・よし、種明かしをするか」

そう言うとルーカスは皆に見える様に拳を握る

「実はだな、ちょいと前に魔術師組合で仕事があってな・・・その時に、ちょこっと失敬して読ませて貰った本に書いてあったんだけどよ」
「何が書いてあったんですか?」
「それはな―」

ルーカスが拳を更に強く握り、魔力を開放させた瞬間―


  ボフン


ルーカスの拳から赤い火が起こり、その火は拳に纏わり付く様に存在している
それを見たハースは驚きながら呟いた

「属性攻撃・・・!」
「正解」

ルーカスは不敵な笑みを浮かべながら手で燃える火をかき消す

「うわぁ・・・僕、本とかで見た事はあるけど・・・実際に見るのは初めてだよ!」
「すっげー・・・何か、ムチャクチャ格好いいじゃん!」

クリスとピートが羨望の眼差しでルーカスを見る

「ははははは、褒めろ、称えろ、ふははははははは!」

当然の如く、それに図に乗り始めるルーカス
しかし、そんなルーカスの肩を掴む地獄の幽鬼の様な存在が居た

「ルーカスぅ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「今さっきのにはそう言う仕掛けがあったんだなぁ・・・」
「ま、まぁ・・・試したかったしぃ・・・それに、色男のアレフ君だったらコレぐらい許してくれるだろうなぁ、って・・・」

ルーカスは顔に滝の様な冷や汗を流しつつ、後ろを振り向く
そこには、顔を般若の様に変形させた、普段女の子と接する時には絶対にしない様な顔でルーカスを見ている

「ははは――許すと思うか?」
「はははははは・・・・・・駄目?」
「無論」

そして次の瞬間には―

「死ねっ、ルーカス!」

ギュンッ!

「嫌じゃあ!」

チッ―――バタン


状況を説明させて頂く
アレフが大声と同時に黄金の右フックをルーカスの頭部目掛けて放ち、それをルーカスが回避しようとした
しかし、完全には回避しきれず、ルーカスの顎の先端―即ちチンと呼ばれる部位を掠める形でヒットする
このチンの呼ばれる顎の先端、ウマい具合に攻撃が当たると、相手の気を失わせる事の出来る部位なのである
そして、ルーカスはその部位を見事にやられ、気を失い地面に倒れ込んだのであった





ルーカスが目を開いた時、一番最初に目に入ったのは―

「・・・・・・・・・シーラ?」
「あ、る、ルーカス君、大丈夫?!」

頬を少し赤く染めたシーラの顔だった
だが、普通と違って逆さになって見えた
その状態で、意外と冷静だったルーカスはシーラに訪ねる

「・・・シーラ、もしかして今俺が置かれてる現状って・・・」
「え、えっと・・・」

ルーカスの言いたい事が分かるのだろう、シーラは先程よりも頬を赤く染める
しかし、ルーカスはそんなシーラを状況を気にもせず言葉を続けた

「伝説の『膝枕』と言う状況なのでしょうか?」
「えっと・・・・・・・・・」

そう言うとシーラは顔を完全に真っ赤にして黙り込んでしまった
それを見てルーカスは―

「うーん・・・まだちょっと頭クラクラするし・・・当面この状態で―」

しかし、平穏とは脆いもの
そんなルーカスの腹部に―

「何してんの、このスケベ!」

  ドスンッ!

「げばぁっ?!」

43kgの物体こと、パティが振ってきた(爆)
パティの体重と落下の際のスピード、更には膝を立てていた為、諸にダメージを喰らったルーカスは先のアレフ同様、悶絶している

「ちょっと、ルーカス、シーラに何セクハラしてんのよ?!」
「ぱ、パティちゃん?!」
「げふふぇふ、ぱ、パティ、お前何すんだよ?!」
「アンタがシーラにセクハラ紛いの事をやってるからよ!」
「せ、セクハラって、シーラちゃん・・・」

シーラは少しオロオロしながら2人を見ている

「野郎・・・言ってくれるじゃないか・・・!」

すると、ルーカスはいきなり立ち上がり、パティを掴まえて肩に担ぐ

「ちょ、な、何するのよ?!」
「ふふふふふ・・・こうする」

先のシーラの様に顔を真っ赤にしたパティを担いだルーカスは湖へと足を向け、そのまま歩き出す

「ちょっと、やめてよ!」
「だぁ、暴れるな、いて、痛てぇ!」

ルーカスは、暴れるパティを無理矢理抑えながら水の中に足を踏み入れた

「え、え、え?!」
「ふっふっふ・・・泳げないパティ君の為に態々水の中に入ったのだよ・・・」
「な、それ知ってるならやめてよ!」
「ふっふっふ〜♪」

パティの文句を聞き流しつつ、ルーカスは自分の鳩尾の辺りまでの水位の所で足を止めた

「さて・・・よいしょっと」
「きゃっ?!」

そして、ルーカスはパティの手を掴みながら肩から下ろした

「よし、始めるぞ」
「始めるって・・・何を?」
「水の中でテニスの練習する奴は聞いた事ないな」
「・・・・・・・・・もしかして?」
「勿論、泳ぎの練習だよ」
「な、何でよ?!」

ルーカスは呆れた様にため息を吐きながらパティを見る

「あのなぁ・・・お前、いざって時に泳げないと辛いぞ?」
「い、いざって時って何よ?」
「そりゃ、お前、船上事故とかにあって、救命ボートに乗り損ねたらどうするよ?」
「船になんか乗らないわよ」
「川が氾濫してそれに巻き込まれたら?」
「そんな事になる前に逃げるわよ」
「・・・・・・・・・言うね、パティ君」
「・・・・・・悪い?」

ルーカスとパティは互いに睨み合う
しかし、次の瞬間にはルーカスが邪笑を浮かべていた

「そっかぁ・・・そんな事言うなら・・・」
「な、何よ?」
「ここで置いてくか」
「え、えぇ?!」
「死ぬ気になれば泳げるだろ」
「そ、そんなの無茶よ、無理に決まってるじゃない!」
「だろ・・・だからこう言う事された時の為にも泳ぎを覚えた方が―」
「あんた以外にこんな事する奴いないわよ!」

パティの怒声が地底湖に響いた





「いやはや・・・元気だねぇ・・・あの2人」
「そうだね・・・でも、まぁパティが泳ぎを覚えた方が良いのは本当の事じゃないかな?」
「そうだね・・・クィーン貰い」
「・・・やるね」
「以前によ・・・2人とも、こんな所でチェスやるか、普通?」

向かい合って座りながらチェスをしているハースとエルにアレフは声をかけた

アレフははトランクスタイプの海パンにフード付きのジャンパーを羽織っており、ハースもそれに似た格好だ
エルは青色のワンピースにフードの付いてないジャンパーを羽織っている

「何だい、文句あるのかい?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ・・・」
「まぁまぁ、落ち着きなよエル・・・確かに水着着てまでやる事じゃないよねチェスは」

そう言いながら駒を動かすハース
エルはそれを見て眉間に皺を寄せながら、駒を動かす

「・・・・・・中々やるようになったね」
「まぁね・・・前に負けたの悔しかったし・・・・・・チェック」
「・・・む」

エルは再び難しい顔を浮かべる
アレフはそんな2人から視線を外す
その外した先には―

「ごふっ、ごふっ!」
「はぁ・・・はぁ・・・し、死ぬかと思ったじゃないの!」
「お前が泳いでる最中に首絞めるからだろうが!」
「だ、大丈夫、2人共?」
「無茶したら駄目ですよ、ルーカスさん・・・」
「でも、パティが泳げないの知ってて、ああ言う事するルーカスさんもルーカスさんだと思うけど?」
「それもそうですよね」

シーラやシェリル、トリーシャにディアーナが咽ているルーカスを心配している
傍から見ていると一種のハーレムだ
当然、そんな光景を見たアレフが黙っている訳がなく―

「ルーカスをボコしてくる」
「いってらっしゃい」

本気の目をしてルーカスに向けて歩き出した
そんなアレフをハースは微笑みながら見送った

「・・・・・・放って置いていいのかい?」
「何、ああ言うのは若い証拠だから良いんだよ」
「・・・・・・そう言うお前は今年でいくつだよ?」
「ん〜、19だったかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

呆れるエルの耳にルーカスの悲鳴が耳に入ったのは少し経ってからであった





「あー・・・今日は災難だったような、極楽だったような・・・」

天窓の洞窟からの帰り道、ルーカスは右手にポリタンク、左手で腹部を抑える形で歩いている

「さぁな、どっちもじゃねぇのか?」

隣を歩くアレフも右手にポリタンク、左手で腹部を抑える形で歩いている

「あー、今日は楽しかったなー!」
「そうだね、また来たいよね〜!」

その後ろでピートとトリーシャが意気投合している
そんな2人の会話を聞いたルーカスは首だけ後ろを向ける

「そうだな・・・今度は何時になるかは分かんねぇけど、またこういう機会を作ってやるかな」
「やったー!」
「はは、何時になるか分かんないけどな・・・」

ルーカスは喜ぶ2人を見て微笑んでいた




そうして、この夏の日は終っていった・・・
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