中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第九節『紅き月、金の狼』
風倉天覇


その日の夜はとても静かだった
そんな静かな夜、エレイン橋を渡る青年が一人

「ったく・・・レックスの奴・・・俺に見回りの仕事押し付けるなんて・・・」

青年は愚痴をこぼし、足を止める
そして辺りを見回した

「特に異常はないな・・・」

青年が前を向き、足を踏み出そうとした瞬間
背後からとてつもないモノを感じ、振り向いた
すると、そこには―

「おい・・・あんた、何持ってんだ・・・?」

青年は右手に持っていた槍を構え、前方の人物を見据える
前方の人物は体格、人相からして男だろう
格好は東方の国のサムライと呼ばれる騎士の様な存在の着る服に酷似している
そして、その男の手には、三日月が如く光る刃

「小僧・・・我に剣を向けるか」
「へっ、アンタが変なもん持ってるからじゃねぇかよ・・・」
「・・・死に急ぐか?」

その一言を聞いた青年は男に飛びかかった
男との間合いを詰め、槍の切先を男の手に目掛けて突く
しかし、男はその切先を刀の鍔元で受け止め、それを流す
青年は勢い付いて、そのまま川に落ちそうになるも、必死で振り向く
そして、目に映ったモノは

紅い目を輝かせるサムライと

紅く輝く満月

それを見た直後、青年―アルベルト・コーレインは後頭部に衝撃を感じ、意識を手放した









悠久幻想曲Symphony 第一章『タナトスの歌』 第九節『紅き月、金の狼』









場所は移りジョートショップ
その中でルーカスは―

「ふぅ・・・やっぱり、食後の茶は緑茶だねぇ・・・」

緩みまくっていた
漫画風に言うならば、完全にデッサンが狂っている

「ボウヤ・・・もうちょっと気を引き締めた方が良くないかい・・・?」

その隣ではルーカス同様緑茶を啜るリサ
しかし、ルーカスとは違い顔は普段通りの凛々しい顔だ

「まぁ、良いじゃねぇか・・・仕事終って、ゆっくり飯食って、んでもって茶を啜る・・・最高だなぁ」

ルーカスは再び自分の湯飲みに手を伸ばす
その湯飲みには墨で『漢』と書かれている

「まぁ・・・アリサさんのご飯食べて、お茶啜って・・・そんな風になるのも分からないでもないけどね・・・」

リサは手にしている湯飲みを口元に持っていく
その湯飲みにも『客』と書かれていたりする
ちなみに、この墨字は全てルーカスが書いたものだったりするから驚きである
そんな時、別の部屋からアリサが帰って来た

「おかえりなさい、アリサさん・・・テディの奴、いました?」
「それが・・・・・・」
「となると・・・テディ、何処に行ったんだろうねぇ・・・?」

その場の全員が心配そうな顔をする

実はこの日の晩、夕飯時になってもテディが帰って来なかったのだ
無論、夕飯を食べる前に探したのだが、その時でも見つからず、今に至る

「ったく・・・テディの奴、何処行きやがったんだ・・・?」
「本当だねぇ・・・あの食い意地張ってるテディが夕飯になっても帰って来ないなんて・・・」
「リサに言われたくないだろうけどな・・・」
「・・・・・・ルーカス、何か言ったかい?」
「いえいえ、何も言ってませんよ」

リサの鋭い目線を合わせない様に目線を逸らすルーカス

「テディったら・・・本当に何処に行ったのかしら・・・?」

一方、アリサはテディを心底心配している様子だ
そんな様子を見た二人は目を見合わせると立ち上がった

「さて・・・こんな時間になっても帰って来ないし・・・馬鹿犬を探しに行くとするかな」
「ボウヤ、私も手伝うよ」
「ん、サンキュ」
「お願いしていいかしら、2人とも?」
「勿論ですよ、アリサさん」
「そうですよ、いつもお世話になってますしね・・・」

そうしてルーカスが外に出ようと扉に手をかけようとした瞬間


  バダン―ドスッ


扉がいきなり開き、ルーカスは―

「がふっ?!」

顔面からドアにぶつかったりした
そんなルーカスを知らない来客は開口一番、大声でこう言った

「大変っス、大変っスよ〜!!」
「テディ?!」

来客改め、テディは大慌てで机の上に乗り、身振り手振りで何かを説明しようとし始めた

「アルベルトさんが橋でボッチャンで怪我したっス〜!」
「はぁ?」
「テディ、落ち着いて話して」

慌てるテディを鎮め様とするアリサの顔の横を、ヌッと大きな手が伸び、テディの頭を掴む

「テディ・・・鼻の事は後にしといてやるからゆっくり説明しろ・・・アルベルトが何だって?」

鼻を押えながらルーカスがドスの利いた声でテディに話しかける
そんなルーカスを見て、テディは一気に興奮が冷め、そして皆に分かる様に説明し始めた

「え、えっと、アルベルトさんがエレイン橋で辻切りに襲われて、それで橋から落ちて怪我してクラウド医院に担ぎ込まれたっス!」
「何ぃ!?」
「えぇ!?」
「本当かい!?」

ルーカス、リサ、アリサの三人は三者三様に驚きを見せる
この場にいる全員は、アルベルトの実力を知っている

「おい、それ本当かよ?」
「本当っス!」
「しかし・・・あのアルベルトが辻切りにねぇ・・・」
「大丈夫かしら、アルベルトさん・・・」

三人とも、それぞれ別の事を考えながら黙っている
その沈黙を破ったのはルーカスであった

「よし、アルベルトの見舞いに行くか!」
「えぇっ、本気っスか!?」
「無論、あのアルベルトが襲われて怪我したんだ、見舞いに行ってその心を慰めてやるんだよ」
「本音はどうなんスか?」
「馬鹿猪を徹底的にからかいまくる・・・・・・ハッ?!」

言ってからルーカスは自分の過ちに気付いた
ルーカスは油の切れたブリキ人形の如く、首をアリサの方に向ける
アリサは珍しく顔を顰めながらルーカスを見ている

「ルーカスクン・・・今の、本気なのかしら?」
「い、いや、今の冗談ですよ、冗談、俺が本当にそんな事する訳ないじゃないっすか!」

ルーカスは滝の様な汗を顔に流しながらアリサに弁解をする
そんなルーカスを他所に、リサは顎に手をやりながら何かを考える
そして、結論が出たようだ
ルーカスを見て、リサは一言

「ボウヤ、私もついて行くよ」





場所は変わり、そこはクラウド医院
大柄な男―アルベルト・コーレインがベッドの上で横たわり、天井を見つめている
その目は悔しさの光を秘めている

自分の渾身の突きが躱された

それがやはり大きく響いている
そんなアルベルトの下に来客、その時アルベルトの最も会いたくない人物がやって来た
その人物はドアを開け、自分の姿を見ると、軽く手を挙げて声をかけてきた

「よぉ、アルベルト、元気か?」

その人物はルーカスであった
ルーカス・リディエル
半年ほど前、ジョートショップの前に大怪我をして倒れていた男
そして、自分の憧れであるアリサ・アスティアの家に居座っている男
その男の姿を確認した時、既にアルベルトは槍を手にし、ルーカスに向けて振っていた

「貴様、何をしに来た!?」


  カキン


「っと・・・見舞いに来たんだが・・・思ったより元気そうで何より何より」
「帰れ、貴様の顔など見たくも無い!」
「ん〜・・・俺はお前の顔をちょっと見たら帰ろうと思ってたんだが・・・実はお前に用事のある方が一名」
「何・・・?」

ルーカスがそう言うと、ルーカスの後ろから一人の女が入って来た
リサ・メッカーノ
一年ほど前にこの街にやって来た女傭兵
実力は中々の物で、自分と同じぐらい
余談ではあるが、戦績(訓練等での)は7勝8敗2引き分け
・・・少し負けている
いや、それ以前に女が剣を握ると言うのは間違っていると思う
・・・・・・それを言った後、闘って負けたが
兎に角、ルーカスの顔も見たくなかったが、リサの顔も見たくなかった
そんな風に考えているアルベルトを他所に、リサはアルベルトに話し掛けて来た

「やぁ、アルベルト・・・早速で悪いんだけど、アンタが襲われた時の話を聞かせ―」
「断る!」

アルベルトはリサが皆言う前に言葉を遮った

「何だと!?」
「帰れ、お前達に話す事等一つも無い!」

そう言ってアルベルトはそっぽを向こうとした
が、それより早くリサは動き、アルベルトの首筋にナイフを立てた

「嫌でも話して貰うよ・・・!」
「な、リサ何を・・・・・・!?」

アルベルトはリサの顔を見た瞬間驚いた
リサの後方からそれを見ていたルーカスも驚いていた
リサの目尻に光るモノ

「お願いだから・・・話してくれ・・・・・・!」

リサが切実そうに言う
その態度を見てアルベルトは冷静になっていく
そして―

「分かったよ・・・」
「そうか・・・それで、相手はどんな奴だったんだい?」

気付くと、リサの目尻に光るモノはなく、戦士の目で自分を見ていた
先程のモノは気の所為だったのだろうか?
ルーカスとアルベルトは一瞬だけそう考えると、ルーカスは話に耳を傾け、アルベルトは話し始めた

「俺が巡回している時にエレイン橋で不審な奴を見かけたんだ」
「不審な奴?」
「あぁ、前に本で見た・・・サムライって奴の格好に似ていて、手に刀を持っていた」
「サムライの格好・・・」
「それで、刀を持っていたからそれについて注意しようと思ったんだが・・・」
「だが?」
「・・・・・・アイツの放つ気、って奴がな・・・異常だって俺の本能が言ってきた」
「・・・それで?」
「それで・・・そう、俺は槍を構えて、それで相手も構えたんだ・・・そして・・・俺が渾身の刺突を放ったんだが、躱されて・・・」
「それで川にボッチャンっスか?」

ルーカスの足元辺りからテディの声が聞こえた
その言葉の内容にアルベルトは必要以上に反応する

「五月蝿い!」
「アルベルト、落ち着け、犬に当り散らすな」
「犬じゃないっス!」

テディの抗議すると同時ぐらいにリサが立ち上がる

「・・・よし!」

それだけ言うと、リサはルーカスを押し退け外に出て行った
数分の間ルーカスとアルベルトの間に沈黙
それを先に破ったのはアルベルトであった

「・・・・・・結局、リサはお前に何が聞きたかったんだろうな?」
「・・・あの雰囲気からすると・・・因縁の相手って感じがしないでもないな・・・」
「因縁の相手?」
「そ、例えば戦場で何回も会ってるとか、誰かの敵とか」

ルーカスは半ばジョークで言う
それを聞きアルベルトは一瞬だけ顔を青褪める
そして呟く様に言葉を紡ぎ始めた

「仮に・・・敵とかだとして・・・それで奴と戦おうって考えてるなら・・・ルーカス、リサを追いかけろ!」
「・・・何で?」
「リサじゃアイツには勝てない・・・間違いない」

ルーカスはアルベルトのその言葉を聞き、アルベルト同様顔を青褪めさせる

「おぃ・・・そんなにヤバイ相手なのかよ、そのサムライモドキ」
「あぁ・・・仮にアイツに勝てる人間がいるとすると・・・リカルド隊長・・・それと―」





同時刻 日の当たる丘公園
時間が時間なら人もたくさんいるだろうが、この時間では人の姿は殆どない
そんな公園の中を歩く人の姿
手に刀、東方のサムライの格好に身を包み、公園を歩いている
パッと見た限りじゃコスプレ野郎に見えないでもないが、そんな類の人間が決して放つ事のない気、と言うのモノを放っている
殺気、怨気、呪気等、負のオーラが彼を取り巻いている
そんな彼に声をかける輩が一名

「・・・見つけた、紅月・・・・・・!」

紅月は声の方を向く
そこには彼―紅月を思い切り睨みつける女―リサ・メッカーノの姿
そして、凄まじい敵意を紅月にぶつけている

「女・・・何用だ?」
「黙れ、弟の敵・・・・・・取らせて貰うぞ・・・!」

それだけ言うと、腰の短剣を抜き放つリサ
紅月はそれを見て、剣を中段に構える

「死に急ぐか・・・女」
「黙れ!」

リサは紅月に飛びかかる
ナイフを持つ右手を思い切り紅月に振い、壱撃目を放つ
紅月はそれを苦も無く捌く
リサは弐撃目を放つ
紅月はそれも苦も無く捌く
参撃目
捌く事も無く躱す
リサは悔しさに顔を歪ませながら次の攻撃を放つ
連続した斬撃―俗に言う連撃と呼ばれる攻撃、そしてリサの最も得意とする技
カンマ数秒の間に神速の三連撃を放つ
肆撃目
バックスウェーで難なく躱す
伍撃目
躱せないと判断し、刀で受け止める
陸撃目
躱せると判断し、体を捻る
リサは陸撃目を放ち終えると、バックステップで後方に飛ぶ
紅月はその場で構えを取り直す
だが、その時紅月は気付いた
頬から垂れている紅い血に
しかし、リサは己の最も得意とする攻撃で仕留め切れなかったからか、再び顔を悔しさに歪ませる

「女・・・中々の手練れだな・・・」
「黙れ!」

リサは紅月の言葉に激昂する
しかし、紅月はそんな事はどうでも良いような態度―いや、どうでもいいのだろう、兎に角言葉を続ける

「しかし・・・我には及ばぬ!」
「な―」

リサが反応するより早く
神速より早く
紅月は刀を上段に構え、リサに飛びかかる
本来なら間違いなく、リサは斬られた事すら気付かずに死んでいただろう

そう、本来なら

紅月は飛んで来た何を弾き落とし、それの飛んできた方の対極の方へと飛ぶ
弾き落とされた何かは、地面に突き刺さると―


  ボフン


勢い良く燃え始めた

「な・・・!?」

突然の事に、状況を良く把握出来てないリサは慌てふためく
そんなリサに声をかける人物

「ヤレヤレ・・・トーヤの所に行こうと思って近道したらコレか・・・何だかねぇ・・・」

リサはその声に反応し振り向く
すると、そこには背中に大降り、否、その人物の背丈と同じぐらいの大刀を背負った人物
リサの記憶の中に、この様なサイズの大刀を振う人物は一人しかいない

「ハース!?」
「やぁ、リサ・・・何だか良く分からないけど、そいつ相手に一人は危ないんじゃないかい?」

人物―ハースは普段と変わらない微笑をリサに投げ掛ける
しかし、すぐにその微笑を崩し、真剣な眼差しで紅月を見る

「さて・・・こんな夜中にそんな危なげな物を持って徘徊されると僕の仕事が増えるんですけどねぇ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

皮肉の篭ったハースの言葉を無視し、刀を再び中段に構える紅月
それを見たハースは軽く首を横に振った後、背中の大刀を抜き放つ

「やれやれ・・・その様子だとヤる気満々、って所かな・・・―」

左足を後に引き、大刀を左耳の横に引き寄せ、刃は上を向ける
俗に言う霞の構えを取り、次の瞬間

「―僕も同じだけどね!」

十数メートルあった距離を一瞬で、それも音も無く詰め、鋭い突きを放っていた
常人なら何があったかすら分からず貫かれていただろう
しかし、相手は常人ではなく、化物であった
紅月はハースの突きを紙一重に躱し、斬撃を放つ
しかし―


  カキン


甲高い金属と金属のぶつかり合った様な音がした
しかし、それはハースが己の大刀で紅月の刀を受け止めたからではなく―

「まさかね・・・アレを躱されるとは・・・」

ハースは額に冷や汗を垂らしながら、振り返り見る
しかし、紅月もハース同様、その能面の様な表情を一変させ、額に一筋の汗を流しながら驚愕していた

「小僧・・・貴様・・・妖の類か・・・?」

紅月がハースにそう尋ねた理由
それは―

「・・・あの斬撃を素手で受け止めた・・・!?」

リサも紅月同様驚愕していた
ハースが、紅月の斬撃を、左手一本で、後ろを見ずに、受け止めたからだ

「妖って・・・酷いなぁ・・・コレでもただの人間だってのに、さ!」

ハースは振り向き様に、大刀を振り回す様な形での斬撃を放つ
拳撃で言うと、バックブローと同じ形だ
しかし、事前にそれを読んだのか、紅月は後ろに飛び、それを回避する
だが、完全には避けきれなかったようで、服の胸元が裂け、中から薄っすらと紅い血が滲み出してきている

「・・・困ったなぁ・・・アレだけ早かったら躱せないと思ったのに・・・」
「・・・我でも危うかったよ・・・今のはな・・・だが、しかし―」

紅月が、先程リサに飛び掛ったのと同じ様に飛びかかる
―否、飛びかかろうとしたが、邪魔が入る

「アイシクル・スピア!」

紅月はサイドステップでその場を飛ぶ

  ザクザクザク

先まで紅月の居た場所には魔力の氷塊―氷槍が突き刺さっている
その場にいた面々は氷槍の飛んできた方を見る
そこには、片手を先程まで紅月の居た場所に突き出しているルーカスの姿があった

「ったく・・・2人で楽しそうにやってないで俺も混ぜてくよ・・・ってな」

手を下ろしながら口端を吊り上げるルーカス

「わぉ、格好良いねぇ、ルーカス」
「ははは、今更それに気付くなんて遅いよハース君」

HAHAHA、とインチキ臭い笑いをするルーカス
そのルーカスに紅月が飛び掛ろうとする
紅月が飛び掛ろうとするのを見たリサは咄嗟に叫ぶ

「ボウヤ、危ない!」
「へ―のわっ?!」

ルーカスがリサの声に反応した直後、紅月の斬撃が放たれ、それを紙一重に躱す
しかし、攻撃は止まらず、紅月は続けて第二撃をルーカスに放つ

「おおっ?!」

しかし、それも服だけを掠め躱される
そして紅月が三撃目を―


  
『ワオオオォォォォォォォォン!!!』



放つ直前、何かの遠吠えを聞き動きを止める
そして全員が一斉に遠吠えのした方を見ると―

「金の・・・狼?」

ハースがポツリと呟いた
そうなのだ
日の当たる丘公園からギリギリに見える旧王立図書館の屋根
その上に、金色に輝く狼がハッキリと見えたのだ
しかし、普通の狼とは違い、二本の足で人の様に立ち、服を着ている、即ちアレは―

「いや・・・人狼・・・それも、ゴールデンウルフだ・・・!」

人狼
それは数少ない種族である獣人族の中でも少ない種族の一つ
普段は人の姿をしているものの、夜になると人狼になる事の出来る種族
月が満ちれば満ちる程その力も増すと呼ばれる種族
そして、ゴールデンウルフはその人狼の中でトップとされている種族である

『ワオオオオォォォォォォォォォォォン!!!』

屋根の上に乗っている人狼は再び遠吠えをする
そして、一瞬だけこちらを向いたかと思うと、屋根の上から飛び降り、彼等の視界から消えた
そして、その直後の事

「・・・我もここまでか・・・」

ルーカス達は声の主―紅月の方を見て、再び驚く

「な・・・!?」
「姿が・・・!?」

そう、紅月の姿が薄っすらと、フェードアウトする様に消えていく
それを見たリサは―

「待て、紅月!」

リサは手にするナイフを紅月に向けて投げつける
投げられたナイフは刃先を紅月に向けて飛んで行く
そして、ナイフが紅月に―

  スッ

刺さる事は無かった
刺さらなかったナイフは紅月を通り越し、その奥の木に突き刺さる
リサは三度驚愕に顔を染める
紅月は、そんなリサを一瞥しながら一言

「女・・・貴様の事、覚えておこう・・・」

そして紅月は消えて行った





「・・・・・・何だったんだ・・・あのサムライ野郎も、人狼も・・・」

ルーカスは辺りを見回す
辺りには何も無く、夜中の静寂が公園には戻っている
辺りを一通り見回した後、リサを見る

「で・・・リサはあのサムライ野郎と知り合いな訳?」
「違う・・・アイツは・・・紅月は・・・弟の敵だ・・・!」

リサは拳を強く握る
その拳からは血が滴り落ちる

「・・・・・・成る程、リサが本気にもなる訳だ」
「でも・・・アレ相手に一人は無茶だよ」

ハースが二人の会話に口を挟む

「だけど、紅月は弟の敵だ・・・!」
「それは分かるけど、一人じゃ・・・」
「まぁ、あんなヤバ気な奴に一人じゃ無理とは言わずとも無茶苦茶厳しいだろ・・・」
「だけど!」
「まぁ、でも・・・それでもあの野郎をぶちのめすって言うなら・・・力、貸すぜ?」

ルーカスは自分の親指で自分の胸を指す
リサはそれを見て少し唖然とした後、微笑んだ

「そうだね・・・まぁ、気が向いたら協力して貰うかな」
「ま、気が向いてくれる事を祈るかな」

ルーカスもリサ同様微笑む
それを見ていたハースは得物を背中の鞘にしまう

「さて・・・僕はそろそろトーヤの所に行くかな・・・」
「ん、そうか・・・アルベルトの奴、結構荒れてるから気ぃ付けろよ」
「ご忠告ありがとう・・・それじゃあね」

それだけ言うとハースはルーカス達に背を向け、クラウド医院へと歩き出した
それを見送った後、ルーカスはリサの方を向く

「さて・・・そんじゃ、俺等も帰りますか」
「そうだね・・・」
「その前に、お前はジョートショップ寄って貰うがな」
「何でだい?」
「ほれ、お前の手・・・強く握りすぎで血が出てるじゃねぇか・・・」
「あぁ・・・」
「それの手当てと、アリサさんのケーキが―」
「よし、行こうか!」

ルーカスが全部言う前にリサはジョートショップに向かって歩き出す

「あ、おい、待てよ!」

ルーカスもそれを追いかけた





場所は変わりクラウド医院の診察室
クラウド医院の主たるトーヤは目前の人物を真剣な眼差しで見る

「・・・・・・その紅月とやらの斬撃を受けて・・・か」
「あぁ・・・」

ハースは自分の左手を見る
左手には包帯が巻かれており、紅月の斬撃を受けた部分からは血が滲んでいる

「そんなに凄い斬撃だったのか?」
「いや、斬撃だけで言うならリカルド隊長や、自慢じゃないけど僕の方が凄いよ」

苦笑しながらトーヤを見るハース
それを聞いたトーヤは眉間に皺を寄せる

「となると・・・」
「そうだね・・・あの刀・・・気を付けた方が良いかも知れないね」

ハースは真剣な口調で呟いた





そして、その紅月の刀が、後に一つの悲劇を生む
中央改札 交響曲 感想 説明