中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第十一節『疾走、激走、東奔西走!』
風倉天覇


人間一度は誰もが経験し、思い、そして思い出して言う事



その日は人生最悪の日だった



ルーカスにとって、ある意味その日がそうだったのだろう









悠久幻想曲Symphony 第一章『タナトスの歌』 第十一楽章『疾走、激走、右走左走!』









AM10:28

ルーカスは遅めの朝食を取っていた
内容はバタートーストにサラダにヨーグルトとシンプルな物

「あーむ・・・んぐんぐ・・・ん、やっぱりアリサさんの作った朝御飯は美味しいなぁ」
「ふふふ・・・褒めても何も出ないわよ」
「朝御飯が出てるだけで十分ですよ」
「ふふ、ありがとう」

いつも通りの朝の光景
普段からいつもこう言うやり取りをしている
そこにテディが話しかける

「ルーカスさん、ルーカスさん」
「ん、どうしたよテディ?」

ヨーグルトに夏みかんのマーマレードを入れて、掻き混ぜながらテディを見る

「今日はどうして起きるのが遅かったっスか?」
「ん〜・・・昨日ちょっと徹夜したからなー・・・」
「徹夜っスか?」
「ん・・・ちょいと魔術書の写本に夢中になっちゃってな」
「ルーカスクン・・・好きな事をするのは良い事だけど・・・無茶したら駄目よ?」

ルーカスは気まずそうな顔をしながらアリサに頭を下げる

「うっす・・・以降、気をつけます」
「分かってくれればいいわ」

そうして、ルーカスは再び食事に手を伸ばす
ヨーグルトから手を引き、サラダに手を伸ばそうとしたその時


  バダンッ


突然の来客
そして、来客は入るなり大声で叫ぶ様に言った

「ルーカス、匿ってくれ!」
「・・・・・・アレフ?」

アレフは少し息切れをしながら必死の形相でルーカスを見る
ルーカスはサラダのトマトにフォークを刺した状態で硬直常態でアレフを見ている
少しして硬直状態が解けアレフに訪ねる

「・・・・・・何がどうして何から匿ってやれば良いのか説明してくれ」
「デートでダブルブッキングして女の子達から匿ってくれ」
「帰るか、俺の手で女の子達に突き出されるか、ここに血の海を作るのに貢献してくれるか、三つから選ばせてやる」

ルーカスはフォークをテーブルの上に叩き付ける様に置きながらアレフを睨みつける
その表情はまるで鬼や修羅と言ったモノに見えないでもないぐらい恐ろしい

「ひぃぃぃ、この薄情者、非情、鉄面皮!」
「鉄面皮の意味が違うぞ」

ルーカスは淡々とした態度で答えながら再びサラダに手を伸ばす

「鬼、悪魔、サタン、デビル!」
「何とでも言え愚か者」
「獄潰し、変態、ロリコン、犯罪者ー!」
「誰が変態でロリコンで犯罪者だ、この万年発情期男!」


  ヒューン―トスッ


「がはっ!?」

ルーカスの投擲したフォークはアレフの額に綺麗に刺さる
刺さった場所からは血が流れ出る

「痛いじゃねぇか!」

アレフは激昂しながらルーカスに食って掛かる
現実なら即死モノだろうが、ギャグ話なので問題なかったりする(爆死)

「知るか、んな事!」
「んだと!?」
「大体、追いかけられてて何でジョーロショップに逃げ込むか、貴様は!?」
「五月蝿ぇ、逃げ込めれそうな場所がココしかなかったんだよ!!!」

アレフは血涙を流しながらルーカスに訴える
しかし―

「だったら逃げ込まずに走れってんだ、このド阿呆!!」

そんな訴えをルーカスが聞く筈もない


  ガンガンガン


その時、ジョートショップのドアを叩く人影が現れた
ルーカスはドアの方に視線をやりながら、ドアの向こうの来客に声をかける

「は〜い、どちらさんですかー?」
「アレフがココに逃げ込んで来たでしょ、出しなさい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・をい、アレフ君」
「・・・・・・・・・・・・・・・何でしょう、ルーカス君?」
「君・・・入ってくるの見られたね?」
「・・・・・・・・・みたいですね」

硬直する二人
そして―

「逃げるぞ、ルーカス!」
「何故に俺まで!?」

ルーカスの抗議を聞き流し、アレフはルーカスの襟を掴み、裏口から出ようとする

「死なば諸共、一蓮托生!!」
「ちょっと待て、俺を巻き込むなああぁぁ!!!」

ルーカスのそんな叫びも虚しく、アレフに引き摺られて行きましたとさ





場所はさくら通り
そこを二人の男と大多数の女が追いかけっこをしている

「アレフ待てー!」
「アレフ様お待ちになってー!」
「アレフ君待ってくださーい!」
「アレフちゃん待ってよー!」

7歳ぐらいの少女から30代後半ぐらいの美女までもがアレフを必死に追いかけている
当然、その前方には追いかけられているアレフ、それに無理矢理つき合わされているルーカス

「おい、アレフ、お前ダブルブッキングじゃなかったのか!? 明らかに二人以上じゃねぇか!!」
「いや、それから色々と話が拗れて何時の間にかこんな風に!」
「大馬鹿野郎ーーー!!!」

ルーカスは絶叫しながら走り続ける
対するアレフはルーカスの絶叫も聞き流し、自分の意見を述べて行く

「しかし、いつまでも追いかけっこしてても限界があるしなぁ・・・」
「そりゃそうだ・・・」
「どうすればいいかな・・・」
「ふむ・・・だったら―」

ルーカスは走るのをやめ、振り向いた
そして、両掌に魔力を溜める
次第に魔力はルーカスの掌で光球となる
そして、それを思い切り地面に叩き付けた


  ボフン


魔力の球は土の地面を抉り、辺りを土煙で満たし始めた

「ちょっと、何これ!?」
「げふんげふん!」
「ごほっ、アレフの隣に居た奴、小賢しい真似を!」
「見つけたらただじゃ置かないわ!」

彼女等の恐ろしい発言を無視し、ルーカスはアレフに近付いてから言った

「よし、今の内に何処かに逃げ込むぞ!」
「おぅ!」

そして二人はある程度走り、見慣れた建物に逃げ込む
そこは―

「いらっしゃー・・・って、何だ、アレフとルーカスじゃない」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・どうしたの、そんなに息切れして?」
「いや、ちょっと・・・全力疾走しまして・・・」

機嫌を損ねるパティを宥めながらルーカスはカウンター席に腰を掛けた
その隣に同じ様に腰を掛けようとするアレフ
だが、ルーカスはアレフが腰を掛ける直前に椅子をどかす

  
  ドスン


「ぎゃっ?!」
「お前に座る椅子などくれてやるものか」
「・・・・・・何かあったの?」

パティが少し心配そうにルーカスに声をかけた

「何かあったも、この阿呆な軟派万年発情期男がデートのダブルブッキングをやらかした始末でさぁ、姉御」
「遂にやらかしたかコイツは・・・それと、姉御は止めて」
「Yes Sir」

ルーカスは敬礼で返した
一方のアレフはと言うと、思い切り地面に叩きつけた尻を撫でながら立ち上がる

「つつつ・・・今回は仕方なかったんだよ・・・」
「仕方ないなんて事はないわよ」
「パティの言う通りだね」

ルーカスは話に入って来た声の主を見る
そこには―

「よぉ、リサ・・・・・・は、良いんですが・・・何すか、その瓶は」
「よぉ、ボウヤ・・・何って、酒瓶以外の何に見えるのさ?」

リサは少し赤い顔をしながらアレフの隣に座る

「で、アレフ・・・・・・」
「う・・・リサ・・・沢山飲んでないかい・・・?」
「五月蝿い・・・それより、アンタには前から言いたい事があったんだよ」
「は、はぁ・・・」

アレフはリサの気に圧されて話を聞き始める
ルーカスとパティは、その二人から少し距離を取り、ひそひそ声で話し始める

「おい、パティ・・・リサの奴、何かあったのか?」
「さぁ・・・でも」
「でも?」
「ハースと二人きりで話してからずっとああなのよねぇ・・・」
「ハースの奴と?」

ルーカスは眉間に皺を寄せパティを見る

「うん・・・」
「ふーん・・・アイツ、何か酷い事言ったのかね?」

ルーカスが少し思案に耽ろうとした丁度その時
さくら亭の周りが騒がしくなってきた
その気配を察したルーカスがポツリと一言

「・・・・・・もう、追手が来たか」
「・・・追手?」
「ちっ・・・仕方あるまい」

ルーカスは立ち上がり、リサの肩を叩く
リサは不機嫌そうに振り向いた

「何だい、ボウヤ! 今私はコイツに説教を―」
「今、外に紅月が居たぞ」
「何ぃ!?」

リサはルーカスの言葉を真に受けて外に飛び出す

「よし・・・今の内に逃げるぞ、アレフ」
「あぁ・・・助かったぜ、ルーカス」
「一蓮托生と言ったのは何処のどいつだよ・・・パティ、裏口借りるぜ」
「駄目・・・って言っても無視するんでしょ・・・良いわよ、使って」
「恩に着る」

ルーカスはアレフを連れてさくら亭の裏口から抜け出した





しかし、うまく抜け出したものの、すぐに見つかった

「だーっ、何でこんなに早く追いつかれてんだ!?」
「知るか、俺に聞くな!」

二人はフェニックス通りを相変わらずの全力疾走で駆けずり回っている
ルーカスはチラリと後ろを見る
当然、そこには―

「アレフ様、いい加減にして下さいましー!」
「いい加減に止まれー、アレフー!」
「アレフちゃん、待ってくれないと泣いちゃうよー!」
「アレフさん、私が嫌いなんですかー!?」
「いや、俺が君の事を―」
「追いかけられてるのに律儀に返事しようとすんな、この大馬鹿!」

ルーカスはアレフの頭を叩き倒し、それの襟を掴んで引きずる様に走る

「しかし、何時までも追いかけっこしてても不毛だな・・・何処かに逃げ込むか!」

そして、ルーカスは何処か逃げ込めそうな場所を探す
そして、見つけて逃げ込んだ先は―


  ドンドンドン


「すんませーん!」
「はいはい・・・お、ルーカスさんではありませんか」
「どもっす、執事さん!」

そう、あのルーカスの因縁の相手の居るマリア邸だ

「今日はどうなされました?」
「マリアの奴居ますか?」
「えっと・・・今、お嬢様はお出かけになられてますが・・・?」
「・・・まぢっすか?」

ルーカスは硬直する

「・・・・・・マリアの奴なら転送系の魔法知ってると思ったのに・・・」(ボソリ
「転送系の魔法なら私も使えますが?」
「・・・・・・まぢっすか?」
「はい、おおまぢです」

ルーカスは数秒間執事の目をぢっと見て―

「この馬鹿をすぐに何処かに転送してください!」

執事の手を握り頼み込んだ

「はぁ・・・分かりました」

そう言うと執事は手印を組む
そして呪文を小声で呟き始める

「・・・転送・・・せんと・・・」
「おぉ・・・マリアと違ってうまくいきそうな・・・」
「ふかひれ・・・なまこ・・・・・・」
「・・・・・・雰囲気じゃない気がする」

ルーカスが嫌な予感で額に脂汗を垂らした瞬間

「きえーっ!!!」

執事がルーカスに向かって掌を突き出す
直後、ルーカスとアレフの姿はその場から消えた
残った執事は―

「ふぅ・・・魔法の苦手な私ながらうまくいきましたな」

・・・等と、危ない発言をしていたりした



で、飛ばされた二人はと言うと

「・・・・・・・・・・・・」
「ん〜・・・ここは・・・?」

アレフは起きて、辺りを見回す
辺りには見慣れた女性がキョトンとした顔でこちらを見ている

「・・・・・・アレフ・・・3、2、1で逃げるぞ」
「へ・・・」
「3・・・2・・・1・・・行くぞ!」

ルーカスはアレフの襟を掴み走り出す
その直後、キョトンとしていた女性達も動き出した

「待てーーー!」
「あ、追っかけられてたんだっけ、俺等」
「忘れるな、それで俺等じゃなくてお前だけだ!!!」

ルーカスの絶叫がフェニックス通りに木霊した





「はーっ・・・はーっ・・・疲れた」

ルーカスは息切れを起こしながら役所の前を歩いていた

あの後、アレフが何を思ったか、自分から彼女達の元へと走って行った
まぁ、その末路は言うまでもなく、と言う奴である

「しっかし・・・ここまで走ったのは初めてな気がする・・・」

そうしてルーカスはボヤキながら歩く
その時

  
  グニッ


「ん?」

ルーカスは靴越しに何かを踏んだのに気付く
足をどけ、そこを見ると―

「・・・・・・瓶?」

そう、瓶
ガラスの香水等を入れるのに最適な瓶がそこにはあった
ルーカスはそれを拾い上げる
中には透明な液体が入ってるのが見える

「香水か何かかな・・・?」

ルーカスは興味本位で蓋を開ける
そして、瓶の口に鼻を近づける

「・・・・・・あんま匂わない香水だな」

そう言って瓶の蓋をする
それをズボンの後ろのポケットに突っ込むと、再び歩き出した

「んー・・・フェロモン香水とかそんなのかなー・・・?」

そんな事を呟きながらジョートショップの前まで来る
そして、いつもの様に階段を少し上がり、扉を開けてジョートショップの中に入る

「アリサさん、ただいま帰りましたー」

ルーカスはいつもの様に挨拶をする

「おかえりなさ・・・い」

しかし、返って来たアリサの返事は少し変だった
アリサは少し頬を赤らめ、とろんとした目つきでルーカスを見る

「いやー、災難でしたよ・・・アレフの奴の所為で」
「・・・・・・・・・・・・」
「しっかし、ココまで走ったのは初めてですねー、まぁ、記憶の無くなる前はどうだか分かりませんけど」
「・・・・・・・・・・・・」
「ったく、アレフの奴も馬鹿ですよねー・・・・・・って、アリサさん?」

そこでルーカスはアリサの状態が普段の違うのに気付く

「アリサさん・・・大丈夫っすか?」
「大丈夫っスか、ご主人様?」

アリサの足元に居たテディがアリサに訪ねる
すると、アリサはテディを見た

「テディ・・・」
「何スか、ご主人様?」
「少し・・・隣の部屋に居て貰えないかしら?」
「どうしてっスか?」
「ちょっと、ルーカスクンとお話があるの・・・」
「分かったっス!」

そう言うとテディは隣の部屋へと行ってしまった
そして、部屋に残ったのはルーカスとアリサの二人だけ

「・・・・・・話・・・ですか」
「えぇ・・・ルーカスクンと二人きりで話をしたいの」
「・・・・・・何でしょう?」

ルーカスは緊張した面持ちでアリサを見据える
すると、アリサは突然こちらに寄って来る
そして、何を思ったか、ルーカスに抱き着いて来た

「・・・・・・・・・・・・アリサさん?」

一瞬何が起きたか分からず、硬直しながらも抱き着いて来た人の名を呼ぶルーカス

「ねぇ・・・ルーカスクン・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・何でしょう、アリサさん?」
「ルーカスクンは・・・私の事・・・どう思ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どう・・・思ってるですか?」
「えぇ・・・」

ルーカスはこの時、心の中で物凄く慌てふためいていた

(な、な、アリサさん、何かあったのか?! 普段のアリサさんとはまるで様子が違うし・・・今日は体調が悪いのか? いや、でも、俺がジョートショップを出るまでは特に何も無かったし)

「ルーカスクン・・・答えて」
「え、えっと・・・俺が怪我してココに来た時に手当てしてくれて、記憶のない俺を引き取ってくれて、おまけにあんな事があっても俺を信じてくれて・・・何て言うか・・・その・・・何重の意味での恩人・・・って奴ですかね・・・」
「・・・女、としては見て貰えないのかしら・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

数十秒の間を置いてルーカスは答えた

(一人の女として・・・それって・・・即ち・・・・・・・・・待て、待て俺・・・アリサさんだぞ、幾らなんでもいきなりアリサさんがこんな事言う筈・・・いや、だがしかし、今まで秘めてたとか・・・いや、アリサさんだし、幾らなんでも)

ルーカスの思考が無限ループに入り始めた時、アリサはルーカスを強く抱き締めた

「ルーカスクン・・・私を一人の女として見て・・・・・・」


  ピシッ←ルーカスの理性の一部に皹の入る音
  カンカンカンカン←ルーカスの理性が必死に理性の皹を直す音
  ピシッ←ルーカスの(略)
  カンカンカンカン←ルーカスの(略)


ルーカスの思考と理性と本能の境界が完全に無限ループに入った時、最悪の来訪者は訪れた

「ちわーっす、アリサさんいま・・・・・・!!?」
「・・・・・・・・・待て、この声は・・・?」

ルーカスはその時、自身の体温が3度下がるのが実感出来たと、後に語っている
ルーカスは首だけを声の主に向ける
声の主はルーカスの現状を見て完全に硬直していた
ルーカスは勇気を振り絞って、声の主に声をかけた

「い、いよぉ・・・・・・アルベルト」
「――――――――――――」





その日、ハースは役所からの仕事を請けていた
内容は『エンフィールドの美化』
ぶっちゃけた話、ゴミ拾いである
肩に大き目の籠を背負い、ゴミを見つけては籠に放り込んでいる
ゴミの選別は後からするようだ

「やれやれ・・・日曜だってのに仕事だなんて・・・僕も真面目だなぁ」

苦笑しながらゴミを見つけては鉄バサミで籠に放り込んで行く
そして、ジョートショップの前を通ったその時の事だった


  パリーン


ジョートショップの窓から何かが飛び出してきた
ハースは咄嗟に鉄バサミを捨て、懐から刀を取り出す
四代目吉宗作『風凪』
ハースがイザと言う時の為に、普段から懐に入れている懐刀と言う奴である
風凪を鞘から抜き、準備万端、と言う所で飛び出した何かの正体を見た

「・・・・・・ルーカス?」
「よぉ、ハース、でも話してる余裕無いからまた後、じゃな!」

そう言ってカール・ル○スも真っ青なスピードで走り去って行った
その直後、割れた窓から再び飛び出してきたモノ
ハースはそれに向けて風凪を向ける
そして、モノが何かに気付く

「・・・・・・アルベルト?」
「待てぇ、ルーカス! 殺す、絶対に今日と言う今日は天地神明に掛けて殺す!!!」

アルベルトも先のルーカス同様、カー○・ルイスも卒倒する様なスピードでルーカスを追いかける様に走り去って行った
そして残されたハースは何が何やらと言う表情でその場に立ち尽くしていた





二人は先程からずっと追いかけっこをしている

「待てぇ、ルーカス!」
「待ったら俺を殺す気だろ?!」
「そんな事は無いぞ!」
「・・・・・・何?」

ルーカスは足を止めアルベルトを見る
アルベルトは頬を赤らめ、目をとろんろさせている

「・・・・・・待て、上の説明文はちょっと前に何処かで見たぞ?」
「ルーカス・・・・・・」

アルベルトは荒げる息を落ち着かせた後、大声でルーカスに向かって言う

「お前が好きだあああぁぁぁぁっ!!!」
「―クリムゾン」

前回とは打って変わって物凄い詠唱スピードで詠唱を完成させ、色の名を冠する魔法をアルベルトにぶつける
ルーカスは黒焦げになった猪をその場を捨て置いて走り去って行った





その日、闘技場の受付嬢ことステラ・リップスは真面目に仕事をしていた
ただ一つ、ある事を悩んでいた

「はぁ・・・何処かに格好良い男の人居ないかなぁ・・・」

そう、男の事だ
彼女は今年で17歳
しかし、同時に彼氏いない歴が同時に17年でもあったりする

「はぁ・・・」

彼女は本日89度目のため息を吐く
ちょうどその時だった

「はぁ・・・はぁ・・・!」

橋の向こうから一人の男が走って来た
茶色の髪を揺らしながら、チラチラと後ろを見ている
そして、足取りを徐々にゆっくりさせ、そして足を止める

「ココまで・・・来れば・・・来ないだろ・・・!」

男は肩で息をしながら下を見る
ステラはその彼をジッと見つめている
そして、胸の奥が熱くなって来るのが分かった
彼女は思った
コレは恋だと

「はぁ・・・はぁ・・・ん?」

男は漸く自分を見つめているステラの存在に気付く
ステラは恐る恐る男に声をかけた

「あ、あの・・・」
「・・・・・・まさか」

男は引き攣った笑いを浮かべた
だが、そんな事はステラには見えていなかった

「えっと・・・もし、よろしかったらお名前を・・・」
「あー・・・・・・それは・・・・・・」

男は相変わらずの引き攣った笑みを浮かべながらジリジリと後ろに下がって行く
何故ならステラがジリジリと男に近付いているからである

「あの・・・お名前を・・・」
「ルーカス・・・だけど・・・その・・・だね・・・」

男―ルーカスは完全に困惑し、そして―

(ま、またかよ! さっきもパティとトリーシャに言い寄られて、それから逃げてきたのに・・・!)

心の中で滝の様に涙を流していた
割合としては困惑4:迷惑5:歓喜1の割合の涙である(爆)
丁度その時であった
ルーカスの耳に聞き覚えのある声

「ルーカスさん何処ー?」
「ルーカス何処行ったのー?」
「ハッ?!」

トリーシャとパティの声
ルーカスは目の前の少女の肩を掴む

「もし、話があるんだったらまた後日、じゃあな!」

そう言って彼女の横から抜け、走り去るルーカス
それを見送る様に見つめるステラ
その瞳にはルーカスの走り去る姿が映り込んでいた





「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・今日は何なんだ・・・厄日か?」

ルーカスはエレイン橋の下で座り込んでいた

アレからルーカスはエンフィールド中を駆け回った
しかも、追っかけてくる面子も徐々に増えて行った
最初はトリーシャとパティの二人だけだったのだが、何時の間にか数十人の老若男女が追い掛けて来る事態になった

「畜生・・・女の子やらお姉さんやらに言い寄られる分には良いが・・・むっさいおっさんやら、手ぇ出したら犯罪になる嬢ちゃんまでは・・・流石にな・・・」

その時、向こうからやって来た人影がルーカスに声をかけた

「・・・ルーカス?」
「んぁ・・・マリア?」

ルーカスは顔を上げる
そこには少し顔に泥のついたマリアの姿があった

「・・・・・・どうしたよ?」
「ルーカスこそこんな所でどうしたのよ?」
「俺は――ハッ?!」

そこでルーカスはマリアから飛び下がる

「る、ルーカス?」
「マリア、来るんじゃない! つーか、来ないでくれ、もう追っかけまわされるのは勘弁だ!」

血涙を流して訴えるルーカス
・・・何か、ちょっと惨めだ(爆死)

「誰が惨めだよ! てめぇの所為じゃねーか!」

説明文に突っ込むな(怒)

「ルーカス・・・大丈夫?」
「ハッ! マリア、来るんじゃない!」
「えっと・・・どうしたの?」
「・・・・・・言い寄ってこない?」

その瞬間、ルーカスの頭の中で一つの式が物凄いスピードで構築されて行く
そして、立ち上がってズボンの後ろのポケットをさばくり出し、目当ての物を見つけ出す

「マリア・・・もしかして・・・コレ」
「あーっ、それ!」

マリアはルーカスに飛びかかり、瓶を奪う様に取る

「・・・・・・おい、マリア」
「・・・ルーカスもしかして・・・」
「もしかせずとも、その瓶を開けたぞ?」
「え? ・・・じゃあ・・・何で・・・?」

マリアは考え込む様に俯く
が、それを許すルーカスではなかった

「おい、マリア」

ルーカスはマリアの頭を掴み自分を見る様に視線を上げさせる

「きゃっ!?」
「それ・・・何だ?」
「えっと・・・」
「正直に答えないと、バイト代全額カットにするぞ?」
「う・・・・・・」

マリアは困った様な表情を浮かべる
それを睨み付けるルーカス
そして、マリアは観念した様に話し始めた

「えっと・・・・・・昨日、マリアが見た本に書いてあって・・・」
「ふんふん」
「イモリの尻尾とリンゴの芯に、魔法薬を合成させて・・・」
「で・・・何を作ったんだ?」
「・・・・・・惚れ薬を」
「・・・じゃあ、何故に俺は誰かに惚れず、色んな人に惚れられまくってんだ?」

二人の間を沈黙が包み込む
それを先に破ったのは、少し呆れた表情を浮かべるルーカスだった

「・・・はあ・・・マリア」
「な・・・何?」
「惚れ薬って事は・・・誰かに惚れたのか、お前?」
「え、えっと・・・・・・」
「・・・なぁ、マリア」

ルーカスは屈み込み、視線をマリアに合わせる

「仮に誰かに惚れて、それを使って両思いになろってんだったら・・・やめな」
「な、何でよ!?」
「はぁ・・・あのな・・・惚れ薬なんて、所詮偽りの感情だぜ・・・そんなもんで両思いになってお前は嬉しいのか?」
「あ・・・」
「分かったみたいだな・・・それならよし」

そして、ルーカスはマリアの肩を掴んで、ドスの利いた最高の笑顔でこう言った

「で、俺の惚れ薬ならぬ惚れられ薬の効果を解いてくれないか?」





「ただいまーっす」
「あ、おかえりなさい」

アレからすぐにマリアに惚れ薬の効果を解除させると、その効果は忽ち消えて行った
そして、すぐにその場を離れ、ジョートショップに帰還した
途中、トリーシャに会ったが、どうやら惚れられ薬の効果は消えていた為、言い寄ってくる事は無かった(代わりに顔を赤らめていたが)

「いやー・・・酷い目に遭いました」
「あの・・・さっきはごめんなさいね」
「あ、いや、アリサさんが悪い訳じゃないですし、それにどっちか言うとアレは良い目かなーって・・・って、俺は何言ってるんでしょうね・・・はは・・・ははは・・・」

ルーカスは乾いた笑いを浮かべながら椅子に座る
そして、机の上に乗っているとある物に気付く

「・・・アリサさん」
「何、ルーカスクン?」
「コレ・・・何ですか?」

ルーカスは机の上に鎮座している1mはあろうかと言うサイズの木彫りの魚を指差す

「何って・・・木彫りの鮭だけど?」
「・・・・・・何故にそんなものがココに?」
「お仕事で頼まれた物っス!」
「ふーん・・・随分と奇怪な仕事を頼む人も居たもんだ・・・」

そんな事をぼやいている時
ルーカスにとって、本日3人目の悪魔がやって来た(爆死)


  カランカラン


「こんにちわ〜!」
「ん、メロディか・・・何か偉くご機嫌そうだな」
「うん!」

すると、メロディは机の上に置いてある木彫りの鮭に気付く

「・・・・・・」
「ん・・・どした、メロディ?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・メロディ?」

じーっと木彫りの鮭を見つめるメロディ
そして、何を思ったのか―

「ふみゃ〜!」
「のわっ?!」

木彫りの鮭に飛びかかった
ルーカスの咄嗟の機転で木彫りの鮭はルーカスが奪う様に取る
そして、メロディは木彫りの鮭の乗っていない机を―


  ガガガガガガガガガガ―ズゴン


机の真ん中を木の削り粉にしてしまい、机を真っ二つにしてしまった

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

呆然とそれを見つめる二人と一匹
しかし、そんな一同を無視して無垢な悪魔は行動を起こす

「ルーカスちゃん、じゃましちゃだめなのだー!」
「ルーカスクン、それを持って逃げて!」
「イエッサー!」

珍しく取り乱しているアリサの指示の元、ルーカスは―




「ふぅ・・・今日は良く働いたな」

ハースはその時、自警団事務所から自警団寮に帰る途中であった

「しっかし・・・アルベルト・・・大丈夫かな・・・・・・なんか、物凄く落ち込んでたけど」

ハースは腕を組みながら、午後からずっと頭を悩ませていた同僚の事を思う
丁度、その時ジョートショップの前を通った


  パリーン


「!!?」

ハースは先程同様ジョートショップから飛び出してくる何かに気付く
それに視線を向けると同時に懐から風凪を取り出す
そして、硬直しポツリと呟く様に言った

「・・・・・・ルーカス?」

そう、飛び出してきたのは先と同じでルーカスであった
ただ、先とは違い、手に木彫りの鮭を抱えている

「よぉ、ハース!」
「さっきと言い今と言い・・・どうしたんだい、今日は?」
「すまん、今詳しく話してる暇は―はっ?!」
「へ・・・?!」

ルーカスは自分が飛び出してきた方を見る
そこから、再び飛び出してきた影
それは―

「ルーカスちゃん、まて〜〜!」
「ちぃ、悪いがそう言う訳にはいかん―ハース、許せ!」

メロディであった
そして、ルーカスは何を思ったか、ハースの襟を掴む
そして―

「てりゃあ!」
「へ、へ、へ?」

メロディに思い切り投げつけた
投げつけたのと同時にルーカスは反対方向に逃げ走る
そして、メロディは自分の方に投げつけられたハースに対し―

「ふみゃあ!」


  ガガガガガガガガガガガガガガ


「ぎにゃあああああ!!!」

思い切り引っ掻きまくっていた





「はぁ・・・今日の俺はどうかしてるんだろうか・・・」

その時、アルベルトはエレイン橋の上を歩いていた
思い切り落胆した様子でトボトボと歩いている
その髪は、少しアフロが入っている(爆)

「何故によりにもよってあんな奴にあんな事を・・・・・・」

思い出しているのは当然あの事
ルーカスに思い切り大声で愛の告白をした時の事だ(爆)

「俺にはアリサさんと言う思い人が居ると言うのに・・・何故―」
「どけえええええええ!!!」

前方からの絶叫
それは、言われるまでも無く―

「な、ルーカス!?」

ルーカスは相変わらずその両手に大事そうに木彫りの鮭を抱えながらこちらに向かって走ってくる
その目は血走っていて、正直言って恐い

「ちぃ、どく気が無いなら―」

ルーカスはアルベルトの前まで来ると

「許せ、アルベルト! この恩は忘れるまで忘れない!」

そう言いながら、アルベルトの髪を掴み、後ろに思い切り投げる

「ぬをっ?!」

突然の事に驚くアルベルト
だが、驚きを感じているのも束の間―

「アルちゃん、じゃまなのだー!」


  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


「ぬがああああああっ?!?!」

思い切り顔面を引っ掻かれたそうな





それからルーカスはエンフィールド中を三度駆け回り、途中寄った夜鳴鳥雑貨店にて手に入れた猫用爪とぎ板にて問題を解決、そして今に至る

「・・・・・・疲れた」

ルーカスはさくら亭の樫の木のテーブルに伏して寝言の様に呟く

「はは、お疲れー」
「今日は大変だったもんね」
「そうなのだー」
「その原因は三人だと言う事を忘れないようにな」
「「うっ」」
「?」

ルーカスのドスの利いた声に気圧されるアレフとマリア
一方、メロディは何が何だか良く分かっていないっぽい

「ま、まぁ、良い運動になったって事で・・・」
「そ、そうだよ、よく運動できたって事だよ☆」
「どう考えても必要以上の運動だったんだがね・・・」
「「うぅ」」
「??」

良く分からない様子で三人を見ているメロディ





そして、拗ねたルーカスの機嫌を直すので大変な夜を過ごすアレフとマリアでありました・・・
中央改札 交響曲 感想 説明