中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第十二節『紅き月下に咲く赫い華―汝、根源に触れし者(前編)』
風倉天覇


その日の月は紅かった

紅い光が地を照らし

まるで血の染み込んだ大地の様に

そんな中を

一人の男が立っていた

男は、ただ約束の為に

男は、ただ戦場で生き残る為に

愛する人との約束の為に―


―愛する人と添い遂げる為に









悠久幻想曲Symphony 第一章『タナトスの歌』 第十二節『紅き月下に咲く赫い華―汝、根源に触れし者(前編)』









時は夜の十時より少し前

「ふぅ・・・今日は満月か・・・」

ルーカスは空を見上げる
見上げた空には雲が掛かっている満月が見える
満月は本来の青白さ陰に潜め、ただ紅く煌々と輝いている

「・・・・・・こんな月だから・・・出るよな・・・紅月」

そう呟いた後、ルーカスは目的地へと足を向ける
目的地はさくら亭
今回、紅月の相手を目的とした面々との合流場所





ルーカスがさくら亭の扉を開けると、既に面子は集まっていた

「いよぉ、リサ、ハース」
「よぉ、ボウヤ」
「やぁ、ルーカス」

さくら亭の窓際の樫の木のテーブルには普段と余り変わらないリサと鉢金を巻いているハースの姿

「何だ・・・ハースはヤる気満々だけど・・・リサはそんな風に感じないな」
「・・・ボウヤ、喧嘩売ってるのかい?」
「まさか・・・ただ、装備とかあんまし変わんないっぽいし」

そう言いながら椅子に座るルーカス

「そんな事無いよ・・・ほら」

そう言ってリサは机の上に一本のナイフを乗せる
鞘や柄に彫刻がしてあり、美観を損なわない程度に彫ってある
そして―

「・・・少し魔力を感じるな」
「マーシャルの秘蔵品なんだと・・・紅月を倒す、って言ったら快くただでくれたよ」
「それはそれは・・・羨ましいね」

ルーカスは机の上に乗っているナイフを手に取り、鞘から抜いてみる
鞘から抜かれたナイフの刀身は金属とは違う鈍い光沢を放っていた

「ふーん・・・中々の代物ですな」
「マーシャルが言うには竜の骨を削って作ったナイフらしいよ」
「竜骨か・・・十分過ぎるね、奴さんを仕留めるに」
「そうだね・・・僕なんかコレなのにね」

そう言ってハースは足元に転がっている鉄塊を軽く蹴る

「コレって・・・それで十分だろ?」
「まぁ、そうなんだけどね」

そう言って苦笑を浮かべるハース
それを見ていたリサがルーカスに尋ねる

「それよりボウヤ・・・例の物は?」
「ん・・・あぁ、コイツね」

そう言ってルーカスは懐から三枚の札を取り出し、机の上に置いた

「それが・・・?」
「あぁ、魔術師組合特製の魔術付加用のお札だよ・・・」
「へぇ・・・」
「コレなら・・・イケるだろうね」

ハースは札を手に取って見る
リサもそれと同じ様に手に取る
それを見たルーカスは立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる

「さて・・・全員必要な物は持ったし・・・行きますか」





そこは日の当たる丘公園
昼間なら人が賑わう公園
だが、今は夜
今は紅い月が煌々と照る夜
そんな中を歩く人影は無い

「さて・・・前回はココで会った訳だ・・・が」

―事も無かった
その場にはルーカスとリサの二人が居た
ハースは途中で―

〜回想〜

「・・・うーん・・・・・・」
「どしたよ?」
「今日何か用事があったような・・・」
「仕事でも残してきたか?」
「いや・・・・・・あ゛」
「・・・・・・もしかして?」
「夜警が入ってたよ・・・今日」

〜回想終了〜

と、言う事があったので、現在夜警をしながら、目的の為に頑張っている

「今回もココに出るかどうかだよな・・・」
「そうだね・・・」

リサは警戒しながら辺りを見回す

「でも、アイツは絶対に出る・・・・・・あの紅い月が出ている限り・・・!」

リサは拳を強く握る
それを見たルーカスはリサに近寄る

「・・・・・・リサ」

そして、リサの拳を己の両手で包み込む
リサはいきなりの事に、頬をほんの少しだけ赤らめる

「ぼ、ボウヤ!?」
「気負いすぎんなよ・・・気負いすぎっと、出来る事も出来なくなるぜ」

ルーカスは微笑を浮かべてリサを見る
リサはそんなルーカスを見て、そして微笑返した

「・・・・・・そうだね・・・ありがとう、ボウヤ」
「なーに、気にすんなって」

丁度その時であった
一陣の風が吹いた
その風は雲を運んでいった
そして空に浮かぶは紅い光を携え、煌々と照る月
その月の下に現るは―

「・・・・・・お目当ての方が漸く登場のご様子ですな」

ルーカスはリサの拳から手を離し、腰からナイフを抜き放ち、振り向く
リサも竜骨のナイフを鞘から抜き、怨敵を見据え、怨念の篭った声で呟いた

「来たな・・・紅月・・・!」

「また出会ったな・・・女」

紅き月の下に現れ、兇刃振うサムライ
手には青白く輝く、三日月が如き刃

「おいおい・・・俺を忘れてるぜ・・・―」

ルーカスは左掌を突き出し、魔力を溜め、一瞬にして解き放つ

「―アイシクル・スピア!」

それが闘いの始まりの鐘の音であった





その日、彼女は残業を言い渡されていた
無論、言い渡された以上、こなさなければならない仕事な訳で
仕事をこなし、時計を見ると、時間は既に夜の十時を回っていた
彼女は急いで仕事場を出る
橋を渡り、今度自警団第五部隊として再編される災害対策センター前を通り、芳しい香りを放つラ・ルナの前も通り、曲がり角を曲がる
そして、近道をする為に日の当たる丘公園を通ろうとしたその時であった
公園から騒がしい音が聞こえてくる

「・・・・・・こんな時間になんだろ?」

彼女は気になって公園に近付く
無論、近道の為にでもある
そして、そこで見た光景は凄まじい、彼女の仕事場ですら滅多に見られない様な、凄まじい闘いであった





「おらぁ!」

ルーカスのモーションの早い蹴り
しかし、それは容易く躱される
そして、返撃を放とうとする紅月
だが、それを許すリサではなく―

「はあっ!」

ハースから分けて貰ったスローイングナイフを投擲する
それを察知した紅月はルーカスへの攻撃を投擲されたナイフへの迎撃へと変更する
紅月は剣を一閃させる
スローイングナイフは弾かれ、地に刺さると、ナイフに刻まれているルーンの効果により炎上する
ルーカスは足を引っ込め、後ろに飛ぶと、左掌を紅月に向け突き出す
その掌には金の魔力が集う
その掌に集うは風
狂い、暴れ、周囲を無に帰さんとする風

「ヴォーテックス!」

ルーカスの掌から金色の狂風が放たれる
その狂風は紅月の動きを封じ、その身を切り裂く

「ぬぅっ・・・!」

紅月は呻き声をあげながらその風が止むのを待つ
その間に、ルーカスは右掌をリサに突き出す
魔力を束ねると、そこに精霊が集まる
精霊の名はシルフィード
緑色に光る光球を、ルーカスはリサに向けて放つ

「シルフィード・フェザー!」

緑色の光球はリサに向かって飛び、そしてリサの体の中に消え行く

「リサ、上から行けぇ!」
「あぁ!」

リサは本来より更に俊敏に動ける様になった体を動かす
木に向かって走り、その木を足場に高く飛ぶ
降りる先は金色の狂風の中心
台風で言う台風の目
そして、そこに彼女の怨敵は居る
彼女は刃を振り上げた

「てえりゃあああああああ!!!」
「何?!」

紅月が上を向いた時には鈍い白色を輝かせる刃を持つ女の姿
そして、二人の姿が交錯した


  ザシュッ


何かを斬る音
それを聞いたルーカスはリサが仕留めたと確信した

だが、その直後


  ダスンッ


金色の狂風から吹き飛ばされる人影
その直線状には大木
その人影を見て、状況を瞬時に理解したルーカスは一瞬にしてその掌に魔力を束ねる
その束ねられた魔力にシルフィードが集う
そして、束ねられた魔力を自分に使う

「シルフィード・フェザー!」

精霊はルーカスの体の中に消え行く
そして、消えて行ったと同時にルーカスは人影に向けて駆け出した
そのスピードは吹き飛ぶ人影よりも速い
そして、ルーカスはその人影を受け止める

「ぐうっ!」
「大丈夫か、リサ?!」

ルーカスが受け止めたのはリサだった
リサは二の腕が切り裂かれており、出血していた

「大丈夫だよ・・・そんなに深く斬られた訳じゃない」
「そうか・・・」

どうやら見た目ほど酷い怪我ではなかったらしい

「リサ・・・やったのか?」
「いや・・・まだだね・・・斬撃はそんなに深くは入ってない・・・」

リサは金色の狂風を見据える
そして、金色の狂風が収まると、その中心には紅月が立っていた
胸が切り裂かれており、服と内に着込んでいる鎖帷子を切り裂き、胸に傷を作っていた

「・・・男・・・小賢しい真似を」
「わぉ、やっと俺が対象範囲内になったか」
「軽口叩いてる場合かい・・・?」

紅月は刀を上段に構える
二人は今まで紅月が見せた事の無い構えに警戒する

「我が全身全霊を持って・・・貴様等を屠る・・・!」

そして、紅月が刀をその場で振り下ろす
ルーカスは背中に寒気を感じた
それと同時にリサを掴み、横に飛んでいた


  ザシュン


ルーカスの背後にあった大木は切り裂かれていた
紅月の飛ぶ斬撃によって

「・・・月影流斬撃術・・・飛燕」
「飛ぶ斬撃ですか・・・極悪だねぇ」
「同感だ・・・!」

そして、再び紅月は刀を上段に構える
それと同時に二人はその場を飛び退く


  ザシュン


そして、二人の居た位置を飛ぶ斬撃が通って行く

「極悪だけど・・・所詮は斬撃だろうが・・・!」

ルーカスは掌に魔力を溜める
そして、一瞬だけ後方に目をやった
そして気付く
その先に人影があった事に
ルーカスは溜めた魔力を解放し、その人影に向けて走る
その速さは先程の比ではない
そして、人影の横に来た時には、紅月の飛ぶ斬撃は目前まで迫っていた
ルーカスは人影に向かって飛ぶ
そして―


  ズシャアッ


紅き月下に赫い華が咲いた





その時、ステラ・リップスは何があったか分からなかった
ただ、理解したのは
物凄いスピードで男が走ってきて、その男が自分に飛びかかってきた
そして今
自分の懐の中で足から大量の血を流していると言う事

「ぐああぁぁっ・・・・・・!!!」

男は痛みからか、悶絶し、呻き声を発する
そして、ステラはその男に見覚えがあった

「る、ルーカスさん?!」

男―ルーカスは自分の名前を呼ばれた事に気付き、引き攣った笑いを浮かべる

「があっ・・・嬢ちゃん・・・逃げな・・・あのサムライの格好した変人に殺されるぜ・・・!」
「で、でも!」

ステラはルーカスの傷口を見る
足は半ば以上まで切り裂かれており、骨も断たれ、筋繊維で何とか繋がっていると言う状況だ

「俺は良いから・・・早く!」

その時だった
一陣の風が再び吹いた
風に靡く雲が紅く輝く月を隠す
そして、ステラは気付く

「あ・・・」

前方のサムライの格好をした男が消えていくのに
そして雲が完全に月を隠した時、男も同時に完全に消え去った

「どうした・・・?」
「男の人が・・・消えた・・・」
「そっか・・・なら嬢ちゃんもリサも大丈夫かな・・・―」

懐の中のルーカスは徐々にだが、確実に体温が下がって行く

「俺は・・・駄目かもしれないけど・・・・・・な・・・・・・・・・」

「ルーカスさん!? ルーカスさん!? ルーカスさん!!?」
「ボウヤ、しっかりしな! こんな所でくたばるのはまだ早いよ!」

その言葉を聞くのを最後に、ルーカスは気を失った





夜空には煌々と紅い月が輝き、それを雲が覆い被さっていた・・・































雷鳴山の山頂
そこに一人の男が立っている
拘束衣の様なレザースーツで身を包み、両目を隠す眼帯をしている
男はただ空を見上げていた
その空に浮かぶは紅い月

「・・・・・・あの時もこんな月だったな・・・」

男はしみじみと言う

「・・・・・・・・・ちっ、俺らしくねぇ・・・」

男は前を向く
その視線の先にあるのは街
あの男のいる街

「しかし・・・アイツもアレを見て良く耐えたもんだ・・・・・・―」





―――根源と言う名の神ですら手の出せぬモノを触れたんだからよ―――





ただ空には紅く煌々と輝く月
その月は何を嘲笑うか
それは他人の為に足を怪我した者を嘲笑うか
それはただ約束が為に人を殺め続ける者を嘲笑うか
それは影を嘲笑うか



それは根源に触れし者を『神に背きし、神に仇なし、神に逆らいし者』と嘲笑うか



それは誰にも分からない・・・・・・・・・
中央改札 交響曲 感想 説明