中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第十三節『流れるモノ、それは―汝、根源に触れし者(中編)』
風倉天覇


そこは何も無い闇黒の空間

そこに男は立っていた

膝まである長い髪、装飾された黄金色の肩当の付いた赤い外套は風もないのに揺れている

男は目を上に向けていた

その目線の先にあるのは光

だが、その光は辺りを照らさずに煌々と輝いている

男はその光に向けて手を伸ばす

それは神を恐れぬ行為

それは神が恐れる行為

神に言わせれば『人如きが』と言うであろう

だが、男は手を伸ばす

光を掴もうと手を伸ばす

そして指先が光に触れる

その瞬間、光は更に輝いた

男は余りの眩しさに目を閉じた

そして次に目を開いた時には

白い天上と無機質な光が辺りを照らしていた









悠久幻想曲Symphony 第一楽章『タナトスの歌』 第十三節『流れるモノ、それは―汝、根源に触れし者(中編)』









「・・・・・・・・・ここ・・・は?」

ルーカスは天井を見ている
天井は白く、ただ無機質な光を放っている電灯が見える

「・・・・・・病院・・・クラウド医院の病室・・・?」

ルーカスは上半身を持ち上げる
体が重く感じたが、これぐらいなら大丈夫だろう
辺りを見回すと、見た事のあるベッドや椅子、他に洗面台などがあった

「・・・・・・・・・しかし・・・変な夢だったな」

ルーカスは顔に手をやる
そして、今さっきまで見ていた夢を思い出した
誰かが闇の中に立っていて
その誰かは闇の中に浮かぶ、何も照らし出さない光に手を伸ばし
光に触れると光は強く輝きだし
そして、男は知る事のない智識を、力を―

「・・・・・・え・・・・・・何で・・・識って―」

それを考えた途端、ルーカスはとてつもない吐き気に襲われた
それこそ、自分の中身が全て吐き出してしまうのでは、と疑ってしまう程の吐き気に

「げぶっ・・・・・・ぐをっ・・・・・・!!?」

ルーカスは急いで入院患者用の洗面台に向かった
そして、洗面台で胃の中身をぶちまけた

「げふぉっ・・・ごふぁっ・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

そして幾分か落ち着いた時
隣の診察室から知っている声が聞こえてきた





クラウド医院の医師、トーヤ・クラウドは正直、気が重かった
何故なら、今から告げるのは世辞にも良い話ではないからだ
しかも、目の前にいる、このメンバーにこの事を告げるのは勇気がいる―トーヤはそう考えている

「それで・・・ルーカスクンはどうなんですか?!」

正面には先程、担ぎ込まれて来たルーカス・リディエルの保護者的存在のアリサ・アスティア

「アリサさん・・・落ち着いてください、今から話しますから・・・」
「ドクター・・・早く話してくれ・・・」
「そうですよ、トーヤさん・・・私の所為でルーカスさんが・・・・・・」

その右斜め裏に立っているのがルーカスを担ぎ込んで来た面子の内の一人、リサ・メッカーノ
その後ろに同じくルーカスを担ぎ込んで来た面子の一人、ステラ・リップスが心配そうな顔でトーヤの奥の病室を見ている

「だから落ち着け・・・」

トーヤは呆れた様に見せながら二人を嗜める
そして、深呼吸をする

「すぅ・・・・・・はぁ・・・よし」

トーヤは椅子に腰掛ける

「正直に言おう・・・お世辞にも良い状態とは言えない」





「・・・・・・え?」

ルーカスは唖然とした
トーヤは間違いなく言った

お世辞にも良い状態とは言えない

それは何に対する言葉か
言われるまでもなく、ルーカスは理解していた
それは自分の足の事だろう
だが、今、ルーカスは普通に立っている
ルーカスは自分の足を見た
足には包帯が巻かれている
それを引き千切る様に取る
その下からは、数年経ったかの様に見える痕があった
しかし、ルーカスにこんな傷はなかった
となると・・・コレが

「・・・・・・紅月にやられた傷・・・だよな・・・」

ルーカスがその痕に触れる
周囲の肌の触感とは少し異なるが、普通の肌だ

「・・・・・・変わらないよな・・・痕以外」

その時だった
痕の辺りに激痛が走ったのは

「があっ・・・・・・!?!?」

まるで斬られたかの如き痛み
まるであの時の痛みが再現されている様な痛み
余りの痛みに、ルーカスは倒れる
それと同時に洗面台の下のバケツを思い切り蹴飛ばしてしまった
だが、痕からは血は流れ出ておらず、ただルーカスの脂汗が浮かんでいた

「ルーカス?!」

診察室からトーヤが入って来た
ルーカスの蹴飛ばしたバケツの音の異変に気付いたらしい
そして、床で痕を押えながら倒れているルーカスを見て、トーヤは顔を青くする

「ちっ、早速来たか!」
「ルーカスクン、しっかりして、ルーカスクン!」
「ボウヤ、しっかりしな!」
「ルーカスさん、ルーカスさん!」

ルーカスはその声を最後に、気を失った・・・





男は立っていた
目前に広がるのは何も無い荒野
そこに男は一人で立っていた
膝まである長い髪を風に靡かせ、また着ている赤い外套も風に靡いている
その男の周りは十数人の男達が取り囲んでいた
男の周りを取り囲んでいるのはエルフの様な耳を持ったヒース色の髪を持つ男達
囲まれている長髪の男は周囲を一瞥すると、正面にいる、リーダー格の男を睨み付ける

「・・・・・・無駄だ・・・数を集めた所で何にもならん」
「ふん・・・脆弱なる人間如きがほざいてくれる」
「そうだ、我ら神に愛されし一族を仇なすとはな・・・愚の骨頂と言っても過言ではあるまい」

リーダー格の隣の男がそう言うと、周囲を取り囲んでいる男達もそれに同意する様に、長髪の男に罵詈雑言を投げ掛ける

「そうだ、我々神に愛されし一族を仇なす愚か者めが!」
「そうだそうだ!」

そんな中、長髪の男は呟く様に言う

「何を言う・・・邪神にして死の神、魔王ヴァロール如きに加護された位で上位種族気取りの貴様等の方こそ愚の骨頂よ・・・」
「何だとぉ?!」

リーダー格の隣にいる男が長髪の男に食って掛かろうとするが、リーダー格の男の手により押し止められる

「・・・ふん・・・口は達者だな・・・我らが神と同じ異名を冠する者よ・・・」
「神か・・・貴様等は良くあんな傲慢な輩を崇拝しようと思うかね・・・」

長髪の男は吐き捨てる様に言う
それを聞いたリーダー格の男は長髪の男を侮蔑を込めながら睨み付ける

「神に愛されぬ・・・実に神に背きし、神に仇なし、神に逆らいし者が言いそうな台詞だな・・・実に下らん・・・己が神に愛されぬからと言っての嫉妬とはね」
「違う」

長髪の男はリーダー格の男を睨み付けた
そして、手を外套の中から出す
その手には異常な程の、一個の生命体の保有するに考えられぬ程の魔力を紡ぎ出している
その異常な魔力にリーダー格の男は目を疑った

「な・・・!?」
「俺はあの時・・・千年前のあの時に決意した・・・」

長髪の男の目に映っているのはリーダー格の男
だが、長髪の男はそれを見ていない
見るはその奥
この場にいない、己と同じ名を冠する神―ヴァロール
いや、それすらも見ていないのだろう
敢えて、彼が見ているモノを挙げるとするならそれは―神と言う存在

「あの様な傲慢な輩共から護ると・・・我が民草―否、人類が安寧と命を護ると決めたのだ!!!」

長髪の男は咆哮と共に腕を薙ぎ払う
それと共に異常な魔力が地を抉り取って行く
それが闘いの始まりであった





ルーカスは目を開けた
その目線の先にあるのは白い天井と無機質な光を照らし出す電灯
そして窓からは太陽の光が入って来ていた
そして無意識の内に時計に目を向ける
時刻は朝の9時を少し回った程度だった

「・・・・・・ゆめ・・・?」

先程の光景が思い浮かぶ
見た事のあるような長髪の男がヒース色の髪を持つ男達―ヘザー達に囲まれ―

「あ・・・れ・・・何で、俺そんな事知って・・・」

その時だった
診察室の扉が開かれて、そこから見た事のある少女が入って来た
そして、ルーカスを見るなり、手にしていたシーツの類を床に落とす

「あーっ! ルーカスさんが起きてる!」
「・・・・・・起きてちゃ悪かったか・・・ディアーナ?」
「い、いえ、そんな事ありません! 寧ろ、良い事ですよ!」

そう言ってディアーナは目を輝かせている
ルーカスはそれを見て、軽くため息を吐く

「そっか・・・ふぅ・・・」

そして顔に手をやり、考え込む様に俯き、視線だけをディアーナに向ける
数秒間その状態でいた後、ルーカスは決意した様にディアーナに告げる

「それより、ディアーナ・・・ドクター、呼んで来てくれないか?」
「え、あ、はい、分かり―」
「安心しろ・・・もう来ている」

ディアーナは後ろを見た
そこには既にトーヤが腕を組んで立っていた
ただ、髪が少し跳ねていたりする

「・・・・・・ドクター、寝起き?」
「昨晩のお前の所為でな・・・あー・・・ふ」

欠伸を噛み殺し、病室に入るトーヤ
脇にはカルテを挟んでいる・・・恐らくルーカスのものだろう
それに続く様にディアーナも入って来る
それを見越してルーカスはドクターに神妙な面持ちで話し掛けた

「で・・・ドクター・・・寝起きかつ早速で悪いんだが・・・話して貰えないかな?」

その言葉に息を呑むトーヤと顔を俯かせるディアーナ
それを見てルーカスは言葉を続ける

「ドクター・・・例え悪い事でも話してくれないか・・・俺の怪我の状態・・・そして、昨日のあの激痛について・・・・・・」
「・・・・・・分かった・・・話そう」

トーヤは近くの椅子に腰を掛け、ルーカスを見る
ディアーナはそのトーヤの後ろに立っている

「まず一番最初に説明するべきなのは、お前の怪我についてだろう」
「そうだな・・・何であんなに深々とやられたのが一日も経たない内に治ってんだよ?」
「それはリサの持っていたナイフのお陰だ」
「リサのナイフ・・・あぁ、あの竜骨のナイフとか言う奴か?」
「そうだ・・・どうやらあのナイフに困られている魔力で傷は完治した様だ」

ドクターは脇に挟んでいたカルテを見る

「・・・・・・成る程・・・じゃあ、次は・・・」
「・・・・・・あぁ」

ドクターはカルテを一通り見終わると、膝の上に置く
そして、衝撃的な発言を口にした

「率直に言う・・・コレから無茶な動きはするな・・・激しい運動もなるべく控えろ」
「・・・・・・・・・・・・」

ドクターの発言にルーカスは唖然とした

「傷に関しては竜骨の魔力で一気に完治した・・・だが、その状態で無理矢理治ったのが祟ったんだろうな・・・神経の方が少し異常をきたしている」
「・・・・・・・・・神経が・・・?」
「あぁ・・・そして・・・斬られた部位に異質の魔力とでも言うべきか・・・・・・そう言う類の物が神経を蝕んでいる」
「異質の魔力・・・・・・?」

言われて初めて気付く
傷の辺りにほんの僅かであるが、自分の魔力ではない、魔力の様なモノを感じ取る事が出来た

「それをだな、不本意ながら俺にはどうしようも出来ないから魔術師組合に頼んで、それを見て貰った・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・結果は?」
「普段の生活や魔法等の行使、その他諸々に問題はない・・・・・・だが、時々その異質の魔力が感じられる辺りに激痛が走る可能性がある―昨日の様にな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・詰まる所、医学的なモノでは無理・・・と?」
「現代の魔法医学では無理だろうと長は言っていた・・・現代医学では手の出しようがない」

ルーカスは無意識の内に傷に手を伸ばしていた
そして、そこを触れていた
そんなルーカスを見ながら、トーヤは言葉を続ける

「ちなみに激しい動きをするな、と言うのは下手に動くと神経に異常をきたす可能性がある為に言っている・・・分かったか?」
「・・・・・・一応・・・・・・な」

ルーカスは静かに答えた
そして、意を決してトーヤに聞く

「なぁ、ドクター・・・俺は・・・また、ナイフ持って、魔法使って・・・戦う事が出来るか?」

トーヤは眉間に皺を寄せる
そして、数拍の間を置いてから答えた

「・・・しようと思えば出来るだろう・・・だが、先程も言ったように無茶な動き、激しい動きは止めろ・・・つまり―」

「今まで見たいにナイフ使って前に出ては止めろ・・・いや、無理・・・って所か?」

「・・・・・・・・・残念ながらな」

そのトーヤの発言はとても静かなものだった―





場所は変わりジョートショップ
時刻は朝の11時頃
今、ジョートショップの中では殆どオールメンバーが集まって深刻な顔をしている
何故なら、今先程トーヤがルーカスに話していた事を、アリサが皆に伝えたからだ

「・・・・・・・・・・・・・・・」

全員、その場の空気に飲まれ、黙って、誰も口を開こうとしない
その時だった


  カランカラン


ジョートショップの扉が開けられ、外から誰かが入って来る
全員が扉を方を見た時、全員が全員揃って驚き、全員が入って来た男の名を呼ぶ

 「ルーカス!!?」
 「ルーカスさん!!?」
 「ルーカスクン!!?」
 「ボウヤ!!?」

「おいおい・・・何、皆驚いてんだよ・・・」

ルーカスは驚いた顔をしながらも、平然と中に入って来る

「ルーカス、お前、足の方は良いのかよ?!」
「別に怪我は問題ないんだし・・・何処が悪いんだよ?」

アレフに懐疑的な視線を投げ掛けながら本棚から書類を取り出すルーカス

そして、それを机の上に置く

「さて・・・ほんじゃま、遅ればせながら本日の仕事に行ってみようか」
「え!?」
「ちょっと、アンタ、それより足の―」
「エルとピートでバクスター家の庭の手入れの依頼、シーラとクリスとアレフはラ・ルナのウェイターと演奏の依頼を、リサと俺は大蜘蛛退治、残りのメンバーは待機、もしくは個人の事をするように、以上!」

エルの言葉を遮る様に大声で指示を出す
そしてルーカスは足早に自分の部屋へと行ってしまった





そして、時は少し経ち、ローズレイク
そこにルーカスとリサが居た

「ボウヤ・・・本当に大丈夫かい?」
「だから、ジョートショップ出る時からずっと言ってんだろうが・・・俺は大丈夫、だから安心しろって」

ルーカスは呆れた表情を浮かべながらリサを見る
そのリサの表情には、明らかに心配の色が取って見える
リサの表情を見てルーカスは軽くため息を吐いた

「はぁ・・・リサ、お前ちょっと心配性すぎなんじゃないか?」
「そんな事ないよ・・・ただ、ボウヤが今までの様に動けないって事を考慮した上でだね・・・」
「へぃへぃ・・・っと・・・お客様のご来訪のご様子ですな」

ルーカスは周囲に軽く目を向ける
すると、周囲から大蜘蛛が5、6匹

「ま、大蜘蛛如きだから問題ないだろ」

そうしてルーカスとリサは腰からナイフを抜く―筈だった

「!!? がっ・・・・・・!!!」

突然、ルーカスが足を押えて蹲った

「ボウヤ?!」
「ぐぁっ・・・・・・があっ・・・・・・!!!」

額から脂汗を大量に流し、苦悶の表情を浮かべている

「ボウ―ちぃっ!!」

リサはルーカスに駆け寄ろうとするものの、途中、大蜘蛛に邪魔される
そんな光景を見てルーカスは―

(何でだよ・・・!)

そのルーカスの目に浮かぶのは己も知らない何時かの情景


『彼―は何もし―ないだ―!』


『ほざけ・・・愚―徴たる人―と比―しよ―た罰だ・・・』


『貴様!』


『ふはははは・・・やはり、―たのは間―なぁ・・・』


『―よ・・・この日、この時を覚えておけ・・・俺は・・・俺は必ず貴様等を滅ぼし尽くす!!』


『力無き者が何をほざくか!!!』


『今は無いだろう・・・だが! 必ず・・・先の時代の者が私に代わり力を得て・・・貴様を、貴様等を必ず―』


『黙れ、脆弱な―』

(あの時の誓いの為に・・・俺は力を・・・それを・・・そして・・・今も・・・・・・!!!)






そこでルーカスは意識を手放した

































彼の者の欲した力
それは神に背き
それは神に仇なし
それは神に逆らいし行為なのだろう
だが、彼の者はそれでも力を欲した
ただ、傲慢な神を滅ぼさんとする為に
そして
彼の者の名を継ぐ青年はその力を得た―
中央改札 交響曲 感想 説明