中央改札 交響曲 感想 説明

悠久幻想曲Symphony 第十四節『汝が放つ、其の名は魔弾―汝、根源に近付きし者(後編)』
風倉天覇


男は手を引く

すると光から輝きが失われ、元の状態に戻る

そしてジッと手を見る

手は汗ばんでいた

だが、青年には別のモノが見えた

それは魔の力を繰る法ではなく

それは生命から生み出される力ではなく

それは大地に渦巻く力を繰る術ではなく

それは神が扱う力でもなく

それは紅蓮の焔でもなく

それは蒼い氷河でもなく

それは弾丸

弾丸に己を吹き込み、己が意のままに繰る力

人はそれをこう呼ぶだろう

人はそれを撃つ者をこう呼ぶだろう


魔弾


そして魔弾の射手



今まさに生まれようとしている

今まさに力を手にする―否、思い出そうとする


其の者の名は―









悠久幻想曲Symphony 第一章『タナトスの歌』 第十四節『汝が放つ、其の名は魔弾―汝、根源に近付きし者(後編)』









その光景は奇妙な夢だった

俺がただ一人白い何も無い空間で立っている

俺は辺りを見回す

何も見当たらない

俺が夢だと実感したのはこの辺だったんだろう

ちょうどその時だった

その空間に声が響く

『汝、何を求める?』

俺は答える

力が欲しい

響く声は答えた

『貴様に力はある』

俺は尋ねる

俺の何処に力があると?

足に傷を負い、まともに走れず、戦う事の出来ぬ俺の何処に力が?

響く声は笑う

『貴様の力はその様なものではないだろう』

俺は問う

ならば俺の力はどの様なものだ?

響く声は答えた、力強く

『貴様の力は魔なる力を繰る法・・・そして、根源に触れし者の力なり』

俺は再び尋ねる

魔なる力を繰る法は魔法として・・・根源とは何だ?

響く―否、声は響く事無く答えた

「貴様はそれすらも忘れて―否、奪われてしまったのか・・・」

俺は問い返す

奪われる・・・俺は何を奪われたんだ?

声は答える

先程より近い位置で声がした

「根源に触れし者の力・・・それは魔無く、意志無く、ただ暴虐の力を繰る術だろう」

俺は尋ねた

暴虐の力を繰る術・・・?

気付くと、俺の目の前には男が立っていた

膝まである長い髪を、華美な細工のしてある赤い外套を風も無いのに揺らせて

男はジッとこちらを見ている

そして、口を開いた

「そう・・・意志無き暴虐の力を己が意志にて繰る術・・・其の名を―」

そこで意識が飛んだ





〜ルーカスの視点〜

目を開けると、リサの姿があった

「・・・リサ・・・?」
「大丈夫かい、ボウヤ?!」

俺は半身を起こしながら辺りを見る
辺りを見ると、大蜘蛛だったモノが沢山転がっている
そして、自分の置かれていた状況を思い出した
そう、俺はリサと組んで大蜘蛛の退治に来て、それで―

「・・・・・・ごめん・・・足手纏いになっちまった・・・」
「・・・そうだね」

リサはハッキリと言う
・・・まぁ、ハッキリして貰った方がこっちにとってはありがたいもんだ

「・・・・・・・・・すまない・・・なんて言ったり、謝ったりしても駄目だよな・・・でも、すまない・・・」
「・・・・・そんな事より・・・帰るよ」

リサは立ち上がり、背を向ける
だが、俺は―

「悪い・・・先に帰っててくれ・・・ちょっと考え事したいからよ・・・」
「・・・分かった」

リサは俺の心情を理解してくれたのか、そのまま背を向けて歩いて行った
そして俺に襲い掛かるモノ
それは眠気

「またかよ・・・・・・でも、間違いなく俺の力になる夢・・・」

そう言って俺は仰向けに寝転がった
そして、目を瞑る





俺は再び立っていた

何も無い、白い空間に

俺は声を挙げた

出て来いよ・・・何処の誰だか知らないけどよ

そう言うと

「呼んだかな・・・?」

俺の目の前に男が―いや、違った

今度は女が現れた

髪の長さや、赤い外套を羽織っているのは一緒

だが、明らかに男と違った声をしているし、何より―

「おい・・・人の胸をジロジロと見るな」

目の前の女性は頬を赤らめながら抗議する

俺は頬が少し熱くなるのを感じながら女性に謝る

す、すまん・・・いや、さっき会った・・・と言うべきかな、兎に角、さっきは男だったから・・・

そう言うと、彼女は微笑んだ

「そうか・・・さっきは・・・16だったからね・・・ちなみに、僕は13さ」

俺は尋ねた

さっきのが16で・・・あんたが13?

すると、彼女は悲しそうな表情を浮かべる

「そうか・・・今の君は・・・そうだったね・・・」

何哀しそうな顔してんだよ・・・

「いや、気にしないでくれ・・・そう言えば、君は力が欲しいそうだね?」

俺は答える

そうだけど・・・でも、さっきの奴は―

「彼はああ言う人だから・・・曖昧な風にしか言わないんだよ」

そう言うと彼女は俺に手を伸ばしてきた

そして、俺の顔に触れる

「君の力は彼の言った様に魔法・・・それと根源に触れし者の力・・・それともう一つあるんだよ」

俺は尋ねる

もう・・・一つ

彼女は微笑みながら俺の米神の辺りを撫でる

「そう・・・君のもう一つの力・・・それは目・・・流れを・・・力の流れを見るの事出来る目さ・・・」

そして俺の意識は再び飛んだ―





場所は変わりジョートショップ
その中でアリサが心配そうな表情を浮かべながら椅子に座っている
そんなアリサを見て、ハースが立ち上がる

「アリサさん・・・僕も探しに行って来るよ」
「えぇ・・・お願いして良いかしら?」
「勿論・・・これはルーカスの為、それ以上にアリサさんの為ですから」

ハースは微笑を浮かべる

そう、実はルーカスが帰って来ないのだ
ルーカスと一緒に仕事に行ったリサが帰って来て、ルーカスは後から帰って来ると言った
だが、何時まで経ってもルーカスは帰って来なかった
そして、それが心配になったリサは捜しに行った
同じ様にアレフとエルも捜しに外に出ている

アリサもハースと同じく微笑を浮かべる

「ありがとう・・・ハースクン」
「いえ・・・それじゃ、行ってきます」

そうしてハースが外に出ようとしたその時
ジョートショップの扉が開けられた
二人は同時にそちらの方を向き、声を挙げた

「ルーカスクン!!」
「ルーカス!」
「ただいまっす・・・ってハースが何でいるんだよ?」

そう、ルーカスが帰って来たのだ
ただ、体の所々に引っ掻き傷の様な傷が見える

「君が何時まで経っても帰って来ないからって・・・怪我してるじゃないか、どうしたんだい?!」

ハースは慌てて近寄り、怪我を見る
見た限り思ったより深い傷ではない様だ

「ん〜・・・ちょっとオーガーとじゃれ合って」
「オーガーとじゃれ合う?!」
「本当は違うけど・・・ま、似たようなもんさ」

そう言って椅子に腰を掛ける
ハースはそんあルーカスを訝しげに見る

「ルーカス・・・リサから聞いたけど・・・君はアソコに自分から残るって言ったそうじゃないか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君はアソコで何をしてたんだい・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハースの問い掛けに黙りこくるルーカス
その態度に珍しくハースが声を荒げる

「ルーカス、答えるんだ!」
「・・・・・・・・・・・・俺は」

ルーカスはハースを見る
その目に宿りし意の名は決意

「俺は戦いにおいて皆の足手纏いになりたくない・・・だからと言って、後ろでジッとしてるのは嫌なんだ」
「ルーカス・・・?」
「だから・・・俺は・・・今の俺が戦える術を捜して・・・見つけた、って所さ」

ルーカスは唇端をニッと吊り上げる
ハースは半ば呆然としてルーカスを見る
そして、隣の部屋からアリサが救急箱を持って帰って来た

「ルーカスクン、怪我は大丈夫なの?!」
「あ、アリサさん、大丈夫っすよ・・・全部掠り傷みたいなもんです」

苦笑しながらアリサの手当てを受けるルーカス
そして、それを呆然と見るハース

そして、それから少しした後にアレフやリサと言ったルーカスを捜しに行った面子が帰還した
その後、ルーカスは徹底的にその面々に叱られ、その日は過ぎて行った





立っているのは何も無い白い空間

再びそこに立ち尽くす一人の男―ルーカス

ルーカスは口を開き呼ぶ

誰か出て来いよ・・・

すると、ルーカスの前に一人の男が降り立つ

「やれやれ・・・随分と偉そうだね?」

ルーカスの前に立つのは今まで現れた人物同様、膝までの長髪に、赤い外套を羽織った人物

今回は声から察するに男のようだ

ルーカスは長髪の男に声を掛けた

いよぅ・・・

「やぁ・・・で、今回なんだけどね・・・」

何だよ?

「ヒントを君に」

ヒント?

「そう・・・君にヒントを」

そう言うと、長髪の男は懐に手を入れる

そして、取り出したのは一発の鉛の塊

それは・・・?

「君の力さ・・・」

そして、意識は飛んで行った





その日、エル・ルイスは店番に励んでいた
理由は、店の本来の主たるマーシャルが隣街に仕入れに行ったからだ
ただ、一つ心配な事が

「マーシャルの奴・・・また変なもの仕入れてこないと良いんだが・・・」

欠伸をしながら頬杖を付く
そうして、再び店番に励み始める
しかし、客は全く来そうにない
それから数十分経った時、エルは店の奥に眠気覚ましに紅茶を取りに行こうとした時
そこに客が来た
客は片手を挙げながら、フランクな態度でやって来た

「いよぉ」
「・・・・・・アンタかい」
「んー・・・なんか眠そうだな」
「誰の所為だと思ってるんだい、ルーカス?」

エルは怒気を孕んだ声で客に言う
そう、客はルーカスであった
ルーカスは肩を竦めながらエルの前に立つ

「おーおー・・・恐いねぇ」
「へぇ・・・誰の所為で恐くしないといけないのか・・・分かってるのかい?」
「・・・俺の所為だな・・・すまん」

そう言って目の前で頭を下げた
そして、顔を上げると同時に、エルに尋ねる

「なぁ、マーシャルは?」
「ん・・・昨日言ったろ? 今日は隣街に仕入れに行くって・・・」
「あー・・・そう言えば、言ってた様な気がせんでもないなぁ・・・」

ルーカスは頭を掻く
そんなルーカスにエルは半ば呆れながら声を掛けた

「で・・・今日は何の用なんだい?」

すると、ルーカスはエルを見て、一言

「店の物を見たいんだ―」
「好きにしな」

言い切る前にエルは了承する
すると、満面の笑みを浮かべるルーカス

「んじゃま、遠慮なく♪」

そうして、ルーカスは店の中を歩き始める
その様子を少し見た後、エルはルーカスに声を掛けた

「ルーカス」
「ん〜、何だ?」

ルーカスは手にマーシャルの仕入れてきたホーリーナイフを持ちながら応える

「ちょっとお茶入れてくるから、客来たら呼んでくれないかい?」
「おー、悪いな」
「誰もアンタに淹れるなんて言ってないよ」
「・・・・・・良かったら俺にもください」
「はいはい」

そう言ってエルは店の奥に行く
そこにはちょっとした食堂があった
普段はここでエルとマーシャルは食事している
エルはまずお茶を入れる為のお湯を沸かす
やかんに水を入れ、沸騰するまで沸かす
お湯が沸くまでの間に、机の上に置いてあるティーポットを準備する
そうして、お湯が沸くと、まずティーポットに湯を注ぎ、蓋をしてから少し待つ
ティーポットが十分に熱を持ったら、お湯を捨てる
そして、漸く茶葉をティーポットに入れ、お湯を注ぐ
その後、十分に蒸らし、サーブ用のポットに注いで出来上がりだ
余談ではあるが、これはハースに教わった方法だったりする
まぁ、何故こんな事をハースが知っていて、ハースに教わったかは後に話そう
お盆の上にサーブ用のポットとティーカップと受け皿を二つにティースプーンと砂糖を乗せ、カウンターに戻る
カウンターに戻り、カウンターの上に受け皿を置き、その上にティーカップを乗せる
そして、紅茶をティーカップに注ぎ、ティースプーンを添えれば完成、と言った所だ
そして、エルはルーカスを呼ぶ
ルーカスは何かを手に取って、それをジッと見ている

「ルーカス、紅茶が出来たぞ」

しかし、ルーカスは返事をしない
エルは少し声を大きくして呼ぶ

「ルーカス、紅茶のが出来たぞ!」

それでも、ルーカスは反応しなかった
エルは少し機嫌を悪くさせながらルーカスの許に行く
そして、ルーカスの肩を掴み、声を掛けた

「おい、ルーカス!」
「・・・・・・見つけた」
「え?」

ポツリと呟いたその一言
その一言を呟いた青年の口許には笑み
そして手には意思なき暴虐を放つ得物
そして、それを掲げて大声で吼えた

「見つけた、見つけたぞ!!」

まるで失くした物を見つけた様な子供の様に喜びを表情に映していた





時はそれより遡り―

「ふぁ〜・・・おはようございます」
「おはよう、ルーカスクン」
「おはようございますっス!」

ルーカスは寝惚け眼でアリサとテディに挨拶をしながら自分の席に着く
そして、マグカップに注いである黒い液体に砂糖とミルクを少し入れて啜る

「・・・ふぅー・・・やっぱ目覚ましにはコーヒーかな・・・特にアリサさんの」
「ふふ・・・そう言って貰えると嬉しいわね」

アリサは微笑を浮かべながらルーカスの目の前にこんがり焼けたトーストを置く
そして、トーストにバターを塗り、口に運ぶ
すると、口の中をバターの風味が包んで行った
それからコーヒーを幾度と啜り、トーストを齧って行く
そして最後の一口を口に運ぼうとしたその時であった


  カランカラン


ジョートショップに来客を告げるカウベルの音

「おはようございまーす!」
「トリーシャ・・・それにローラにシェリルにディアーナと・・・どったよ、揃いも揃って?」

最後の一口のトーストを口許に近づけながらルーカスは来客達に尋ねる

「えっとね、今日はアリサさんにケーキの作り方を教わりに来たんだよ」
「はい・・・今度学校の方で調理実習があるんで・・・」
「ふーん・・・ディアーナとローラはそれにあやかろうってか?」

ルーカスは視線をディアーナと隣にいるローラに移す
二人は笑顔で答えた

「うん、アリサおば様のケーキは美味しそうだから、教わろうって思ったの!」
「はい! アリサさんのケーキは美味しいって話ですからね!」
「ふーん・・・そいつは良い心がけだな」

そして、漸くトーストを口に入れる
それをしっかりと噛み、飲み込むと、ルーカスは視線をトリーシャに移した

「んぐんぐ・・・まぁ、それじゃ頑張ってくれたまえ」

そうして立ち上がり、トリーシャの横を通り、ドアの前に立つと振り向く

「っと、アリサさん、俺ちょいと出かけますんで・・・まぁ、トリーシャ達のケーキが出来る前までには帰ります」
「えぇ分かったわ、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいっス!」

そう言うとルーカスは外へと出て行った
ルーカスが出て行くと、アリサはぽんと軽く手を叩く

「さて・・・それじゃあ、早速始めましょうか」
「「「「はーい!」」」」



そして、それからアリサによるケーキの作り方講座が始った
ローラがいる時点で順調には進まない、と思われていたが(誰に?)意外にも順調に進んで行った
途中、昼食を挟み、ケーキの作り方講座は進み、やがて―



「出来たー!」

アリサにケーキの作り方を教わった彼女等の前に中々立派なケーキが置いてある

「うわー、美味しそう!」
「本当、予想以上の出来だわ」

アリサが微笑みながらその様子を見ている

「そうっス! ローラさんがいるから、てっきり失敗するかと―」
「ちょっと! それどういう意味よ、テディ!」

ローラがテディの暴言に食って掛かる
丁度、その時だった


  ガタン カラランカラン


ドアが乱暴に開けられ、同時にカウベルも乱暴に鳴る
その場にいた面々はドアの方を向く
そこに立っているのは三人の男
その内の一人の青い髪の男が此方に銃を向けながら言い放った

「騒ぐなよ・・・生憎人殺しまではしたくないんでね」





ルーカスは帰路に着いていた
ただ、行きとは違い、普段着の上に赤いジャンパーを羽織っており、手には紙袋を持っている

「いや〜、今日は良い買い物したなー♪」

ルーカスは上機嫌に鼻歌を歌いながらルクス通りを歩く
何だか、周りが少し騒がしいが、上機嫌な為、そんな事は目にも耳にも入っていない
だが、ジョートショップの近くまで来た時、流石に気付いた
何故なら、ジョートショップの周りを自警団が取り囲んでいるからだ

「・・・・・・・・・何かあったのか・・・まさか!?」

ルーカスは急いで自警団の許に走り寄る
そして、目的の人物を見かけると、声を掛けた

「ハース!」
「あ、ルーカス! 良かった、捜してたんだ!」

相変わらずその身の丈ほどの大刀を背負い、額に鉢金を撒いた状態のハースがルーカスに近付く
そして、ルーカスの目の前に来た時、いきなり肩を掴まれ、顔を近くに寄せられて、大声で尋ねられた

「もしかして、マリアがケーキ作り失敗して何かおっかないものでも喚び出したのか?!」
「・・・・・・・・・・・・あー・・・そんな事はないよ」

一瞬我を忘れたハースは、すぐに我を取り戻しそう言った
それを聞いたルーカスは軽く安堵のため息を吐く

「はぁ・・・そっか、なら安心だ・・・・・・じゃあこれは何があったんよ?」

ルーカスは自警団を指差す
その先にアルベルトがいたのは内緒だ(ぉ
ルーカスのその一言に表情が一変し、真剣なモノになる
そして、紡いだ次の一言にルーカスは戦慄した

「率直に言う、今ジョートショップに強盗犯が立て篭もっている・・・人質を取ってね」
「な・・・・・・・・・?!」

戦慄するルーカスを他所に、ハースは言葉を続ける

「ついさっき、隣街で銀行強盗を起こした犯人グループが誕生の森を経由し侵入、すぐに自警団員に見つかったもの逃げ回られ、そして―」
「ジョートショップに入って、立て篭もりを・・・?」
「そう・・・それで、今僕達が彼等を説得しようとしてるんだけど・・・」
「どうなんだ?」

ルーカスの問いに首を横に振る

「残念ながら・・・向こうに応じる気はないみたいだよ」
「そうか・・・」

そう呟くと、ルーカスは足を動かす
その先はジョートショップ
それを見たハースは声を掛けた

「・・・一応聞くけど、何処に行く気だい?」
「ジョートショップの中に殴りこむ」
「・・・・・・やめなよ、危ない―」

ハースがルーカスを止めようと、ルーカスの肩を掴んだその時
無造作にハースの手に伸びたルーカスの手がハースの手を掴み―


  ズダン!


ハースは気が付いた時には天を仰いでいた

「へ・・・・・・?」
「ま、こう言う芸当も出来るようになったし、魔法もあるし、いざとなったらアレもあるし・・・何とかなる、いや―」

ルーカスは足を進める

「何とかするさ」





「おら、そこでジッとしてろ!」

男が銃口をトリーシャに向けて怒鳴る
トリーシャは下唇を噛みながら、ジッとする

「それで良いんだよ・・・」

男は銃口を依然とトリーシャに向けながら、窓際に立っている男に話しかける

「おい、ブルー・・・自警団の様子はどうだ?」
「相変わらず俺達を説得しようと躍起になってるよ・・・」

ブルーと呼ばれたリーダー格の男は顎を撫でながら答える
それを聞いたアリサの隣に立っている男が、怯えた様に震えながらブルーに言う

「なぁ、ブルー、素直に投降した方が良いんじゃ・・・?」
「何言ってやがるレッド?! 気でも迷ったか?!」

先程からトリーシャに銃口を向けている男がレッドと呼んだ男に怒鳴りつく
レッドは男のその態度に怯えながらも、ハッキリとした口調で言い返す

「で、でも、相手にはあのリカルド・フォスターがいるんだよ?! 向こうが本気になったら、こっちだって・・・!」
「だから、何の為の人質だと思ってんだよ?!」

男は銃口をトリーシャから隣に座っているアリサに向ける
アリサはその不自由な目で男を見ながら、話し掛ける

「今の内に投降なされた方がよろしいと思いますよ・・・」
「そうだよ、グレイ! その人の言う通りだよ!」

レッドはアリサの意見に同意する
だが、銃口をアリサに向けている男―グレイは激昂する

「ふざけんな!! こんな女の事を真に受けてんじゃねぇよ!!」
「で、でも、その人の言ってる事は本当だよ!」
「黙れ!」

そう言って今度は銃口をレッドに向け、引き金を引こうとする
それを見ていたブルーがそれを止めようと叫ぶ

「やめろ、グレイ! 銃声は自警団の突入の合図になるだけだ!」


  バンッ!



大きな音が部屋に響いた
しかし
それは明らかに銃声とは違った音
部屋に居た全員は音の方を向く
そこには―

「誰だ―」
「ルーカスさん!!?」
「いよぉ」

グレイの声を遮る様にトリーシャが声を挙げる
その視線の先には、フランクに片手を挙げているルーカスの姿があった

「ルーカス・・・・・・そうか、お前がフェニックス美術館に侵入した窃盗犯か」
「そんな事した覚えはないんだが・・・そう言う事になってるらしいんだよ・・・ちんけな強盗犯共」

ブルーの発言に、ぶっきらぼうに答えるルーカス
そんなルーカスの態度に腹を立てたグレイが銃口をルーカスに向ける

「てめぇ、誰がチンケだ!? あぁ?!」
「反応する奴がチンケだろ、きっと」
「んだとぉ?!」

直後、グレイは指に力を込めた
力を込めた指は当然の如く、引き金を引く事になる
引き金が引かれれば、撃鉄が降り、銃弾が放たれる
銃口がルーカスに向かれている以上、銃弾はルーカスに突き刺さる事になる―


  ズガァンッ!!


銃声が響いた
まるで、一瞬だけの雷鳴の様な音



だが、それは



グレイの手にしているリボルバー拳銃―コルト・トルーパーMkXから放たれた弾丸では無かった

「がぁっ・・・?!」
「ふぅ・・・俺ってこっちの才能あるっぽいね・・・嬉しい限りですが」

ルーカスは硝煙の向こうに見える、手首を押えているグレイを見る
弾丸を放ったのは、その手にあるリボルバー拳銃だった
S&W.19.357
バレルは1.5インチと短めのタイプのものだ
ルーカスの手に握られ、硝煙を吐き出しているリボルバー

それは意思無き暴虐を放つ為の得物

「こ、このぉ、グレイに何しやがる!!」

いきなり入ってきた人物の凶行に、激昂したレッドが襲い掛かった
左足を踏み出し、拳闘で言うジャブを放つ
そのジャブは例えるなら、まるで速射砲の様な速さを誇っていた
普通なら、放たれた拳は相手に当たり、そして右拳の拳撃へと繋がる
だが、普通ではなかった
状況も、そして相手も

  ヒュン―スッ
  ヒュン―スッ
  ヒュンヒュン―スッスッ

レッドが数発放った拳は全て寸前の所で躱された

「な・・・?!」

レッドは唖然としながらも、拳を放ち続ける
だが、それは悉く躱されて行く
そして、十数発目の拳を放った時、ルーカスがその腕を掴んだ
その無造作に掴んだ腕を軽く回す様に動かした
すると、レッドの体は一瞬にして宙に浮き、逆さになり、そして―


  ズダァン!!


地面に倒れた

「ぎゃっ?!」

更にルーカスは倒れたレッドの顔面に蹴りで追い討ちを掛ける
その一撃でレッドは気を失った
そんなレッドには目をくれず、次の相手に視線を移―

「動くな―」

―すより早く、向こうが声を掛けてきた
向くと同時に銃口を相手に向ける
そして、硬直した

「―この娘の命が惜しかったらな・・・」
「・・・随分とせこい真似してくれるじゃねぇか・・・んぁ?」
「使える手を使っているだけさ・・・」

ブルーは口端を持ち上げながら、手に握るデリンジャー銃を抱き抱える様に捕まえているシェリルの米神に突き付ける
シェリルは顔を少し青くしながらルーカスを見ていた

「る、ルーカスさん・・・」
「さて・・・コレを見たからにはどくしかないだろう・・・なぁ?」

ブルーは卑下た笑みを浮かべながらルーカスを見る

「・・・・・・シェリル」

それを無視し、シェリルに声を掛けるルーカス

「は、はい・・・?」

ルーカスは口許に微笑を浮かべながら語り掛ける

「俺はシェリルを絶対に助けるから・・・俺を信じてくれ」
「ふん・・・何をほざくか・・・さぁ、さっさとどけ!」

ブルーはルーカスが何時まで経ってもどかないのに腹を立てた
ルーカスはそんなブルーの態度を他所に、深く息を吸い、そして吐く

そして―


「コール!」

宣言する


「対象は・・・シェリル・クリスティア―」


「・・・?」

ブルーはそれに懐疑的な視線を送る


「―セット」


そして、銃口をシェリルの眉間に合わせた

「な・・・・・・き、貴様! 何を考えている?!」
「る、ルーカスさん?!」

いきなりのルーカスの行動に慌てる2人
そんな2人を他所に、ルーカスは引き金を――――引いた



  ズガァン!!



雷鳴の様な音
それと同時に銃口から放たれた鉛の兇刃
鉛の兇刃は、人の目には見えない程のスピードで銃口の先にあるシェリルの眉間目掛けて空を走る
そして、鉛の兇刃はシェリルの額に―


  ガキン!


「がぁっ?!」
「きゃっ!?」

―吸い込まれる事は無かった

放たれた鉛の兇刃は、シェリルの額に吸い込まれる筈だった鉛の兇刃は、何故かブルーの手にしていたデリンジャーを弾き落としていた

何故、ブルーのデリンジャーを弾き落とせたのか?

その光景を見た者がそれを考える中、大声を発する者

「シェリル、逃げろ!」
「! は、はい!」

ルーカスの声に反応したシェリルは、ブルーの腕の中で足掻き、そして抜け出した
だが、それを黙って見過ごす程、ブルーと言う人間は甘くなかった

「に、逃がすかぁ!」

ブルーは手を伸ばし、シェリルを捕まえようとする



が、しかし―




  ズガァン!!




「ぎゃあっ!!?」
「させるとでも思ったか、クソ野郎・・・?」

ブルーは掌から血を噴出させ、床に蹲る
ルーカスの手に握られているリボルバーは硝煙を吐いていた
その硝煙を吐くリボルバーを強く握り締めながら、ルーカスはシェリルの横を通り、ブルーの前に立つ
そして―

「野郎・・・覚悟は良いな?」
「ひっ・・・!」
「その顔、二度と人様に見せれない位までボコボコにしてやる!!!」

その時のルーカスの咆哮はエンフィールド中に響き渡ったそうな(後日談)





其処は白い何も無い空間

ルーカスは其処に立っている

・・・慣れたな・・・此処にも

「そうかい・・・それは良かった」

ルーカスは声の方を向く

其処には長髪の赤いマントを羽織った男

ルーカスがこの場所で一番最初に会った男の姿があった

よぉ、また会ったな

「あぁ、また会ったね・・・それより・・・どうだった、君の力は?」

ルーカスはニッと笑う

最高さ・・・土壇場でウマくいくか不安だったが・・・

「ウマくいっただろう?」

長髪の男も笑みを浮かべる

「尤も、アレは君の力・・・ウマく行かない筈が無いさ」

俺の力・・・か

「そう、君の力だ・・・君が必死に求め、耐え、そして手に入れた力だ」

・・・・・・それを覚えてないだけに、ありがたみはないがな

ルーカスは苦笑を浮かべながら答える

「違いない」

男も苦笑を浮かべ応えた

それから数分間二人は黙り込む

そして、ルーカスは真剣な眼差しで男を見ながら尋ねた

なぁ・・・あんた、何者なんだ?

男は目を細めながら応える

「ほぅ・・・何故その様な事を私に聞くかな?」

何故って・・・人の夢の中に勝手に出てきて色々と話して消えて行って・・・でも、それ以上に―

ルーカスは一呼吸置いてから言った

俺はあんたを知っている・・・だが、誰だか分からない・・・

「だから教えて欲しい・・・と?」

そうだ

男は微笑を浮かべた

そして、風も無いのに男の髪が揺れた

其の髪の間から見えた瞳は赫

紅玉の様な赫

そして答えた


「俺は・・・・・・―」


だが、再び其処で夢から醒める





「起きるっス、ルーカスさん!」
「・・・・・・起きてるよ」

ルーカスは目線を腹部に乗っているテディに向けながら答える

「やっと、起きたっスか! ご主人様の―」


  ベシッ―ドチャッ


ルーカスはテディが全部言い切る前に腹部の上から叩き落した
叩き落した後、上半身を起こす

「何するっスか!?」
「五月蝿い・・・ったく、タイミングの悪い奴め」

ルーカスはベッドから降りると、箪笥に向かい、箪笥からシャツとズボンを取り出して、着替え始める
着替えが終ると、椅子に掛けてあるジャンパーを取り、羽織る
そのジャンパーの内側に昨日のリボルバー拳銃を収めたホルスターがチラリと見えた

「さて・・・今日も元気に行きますか」

ルーカスはドアを開け、部屋を出て行った

「あ、待って欲しいっス!」

テディもそれに続く







こうして、ジョートショップの朝は始ったのでありました
中央改札 交響曲 感想 説明