中央改札 交響曲 感想 説明

EternalWhite1話@春河一穂


マリエーナ王国の高原都市エンフィールド。
エンフィールドの北、ウィナ山地の中腹、標高1600メートルの地点に
王国第三の魔法学園を擁する、高原の街がある。

エンフィールドとよく似ていてエンフィールドと異なるこの街。
ここもまた別荘地・リゾートとして名高い街であった。

そんな高原の街、ウィナリートが今回のお話の舞台。

オリジナルアンソロジー

『悠久幻想曲4 Eternal White』

Eternal 01 高原の街と共同授業・1

春河一穂


ウィナリートは冬になると、雪がかなり積もり、王国でも有数のスノーリゾートへ変わる。
夏は夏で、ウィナ山地への登山拠点、バカンスなどで人が訪れる。
そのため、この街は宿屋が多い。

最高級のリゾートホテル「リリス・イン」、ちょっと小洒落た「ホーマルハウト」、そして大衆酒場を
併設した宿屋の「フロマージュ」である。あとは小さな宿が数件あるという。

「おっはよ〜、サフィーちゃん、リュノちゃん!!」

宿の前から女の子の声がする。すぐそばにあるこの街の教会、ウィナリート教会の司祭の娘であるミーファスの声だ。
ミーファスはこの街の魔法学園の生徒であり、同じく生徒であるリュノとサフィーの双子のオライオ姉妹とともに学校へ
向かうのが日課となっていた。
フロマージュはリュノとサフィーの家なのでである。

「ミーファスちゃん、おはよ。」
「おはよう、ミーちゃん。」

「じゃ、おばさま、行って来ます!!」

                    ☆    ☆    ☆

石畳を街の中央にある、魔法学園の森に向かって駆けていくミーファス達。

「よっ、朝っぱらからおまえ達、元気いいじゃん。何かいいことあったんか?」

そこへかえで通りからやってきたのは、この街の自警団の若手隊長、クレスト・リーフである。
パールフェザー隊と呼ばれるクレストが率いる第3部隊は、この街の自警団の花形部隊である。
山岳遭難者の救助、そしてウィナリートの治安維持と多岐方面に渡って活躍している。
そんなクレストは、街の南東部に位置する宿屋「ホーマルハウト」の主人の息子であった。

「何もいいことなんて無いわ。これが普通だって。」
「なんだ・・・・そうか・・・?ま、それはともかく、気を付けろよ。これから霧が出るかもしれないからな。」
「霧だって?!」
「・・・・ああ、臭うからな、風が。」

標高が高いことから、霧が発生しやすいのもこの街の特色であった。
一度霧が発生すると、ほとんど視界が効かなくなるのである。

「霧が出たら、慌てずにアンバーさんとこの学生宿舎に行くんだ!!霧の中を歩くのは無謀すぎるからな!!」
「うん。プロキオンに行けばいいんだよね?」
「ああ、霧が晴れるまでは外に出るなよ。」

クレストと別れ、さらに先に進むと、薄桃色の建物が左手に見えてくる。目の前にはうっそうとした森が見える。
薄桃色の建物、これが女の子専用の学生宿舎『プロキオン』である。学院を挟んで反対側には、純白の建物、
男の子専用学生宿舎『アルビオレ』がある。共に、学生達から「お母さん」と慕われているメアリーおばさんが
経営している。ちなみに、メアリーおばさんは、ミーファスの親友の一人、初等部のジュリオを息子に持つ。

「確か、アルビオレって、ハルト団長がメアリーおばさんに頼まれて、子供達の面倒を見ているんだよね?」
「うん・・・・メアリーおばさまも300メートル離れているふたつの宿舎を頻繁に往復するのじゃね・・・・。」
「だから、有能な隊長さんに恵まれて良かったね、本当に。」

アルビオレの管理をメアリーから任されたハルトは、その建物に併設する形で、自警団事務所を移設している。
ただ、パールフェザー事務所だけは山への登山道に近い別の場所に位置しているのだ。
これも山岳救助を主な任務にしているためである。
自警団事務所の移転は、子供達の面倒を見るのと、自警団業務を同時にこなすためらしいと、ジュリオに
聞いたことがある。

「いつものことだから、ジュリくんがおもちゃにされていたり・・・・・」

プロキオンに寄って、メアリーおばさんに挨拶して、ジュリオを連れていくのがミーファスの日課になっていた。
可愛らしいリーフが飾られたドアに手をやると・・・・

「ふ・・・・ふええええええええええええっ!!!」

か細いソプラノ音域の叫び声が中から聞こえてきた。

「んもう。うちのジュリオをあんましいじめるんじゃないよ。見た目も性格もこうだから、ついついそうしたい気分は
解るけど・・・・・あの子にトラウマとなっては遅すぎるから、気をつけてね!!」
「だって・・・・・可愛いんだもん・・・・お母さん。」
「だからといって、あそこまでさせなくてもいいじゃないかい?」

メアリーおばさんと、数人の女の子ならびにお姉さん達の声だ。

                    ☆    ☆    ☆

「おはようございます、メアリーおばさ・・・・・・ん・・・・・・・・・」

からんからん・・・・・

ベルの音と共に扉を開けたミーファスたちの視界にはいったそれは・・・・・・・
ドふりふりの超少女趣味コーディネイトの洗礼を余すところ無く受けさせられ、ホール中央でちょこんと座り込んで
うるうると瞳を潤ませる、か弱い女の子・・・・・・でなく、ジュリオ・・・・の姿であった。

「や〜ん、ジュリくんかわう〜いっ!!」

リュノが猛ダッシュでジュリオの元に走り寄り、直ちにしゅりしゅりと頬ずりかいぐりラッシュに入る。
それをジト目で見つめるサフィー。

「ホントホント。ねぇ、お化粧したら、もっと可愛くなるかもね。」

クレストの妹で、ホーマルハウトの看板娘、フィオが言う。

「それよ、それ。ジュリくんをもっともっとかわうくするには化粧よ!!さぁ、お手洗いの鏡の前へ!!」
「私ね、『コーレイン・A』の新作コスメ買ったんだ!!早速使って見ようっと。」
「ということで、メアリーおばさん、ジュリくん借りていくね〜。」

嗚呼、女装させられたジュリオ少年はずりずりと、通常なら絶対に足を踏み込まない禁断の地、女の子お手洗い
へとリュノとフィオによって引きずられていく。

言葉にならない悲痛な叫びがホールにこだまし、そしてそれは、トイレ入口のドアが閉まる音でかき消された。

「おばさん・・・・・・いいんですか?」

呆然と、どうコメントしたらいいのか解らないといった表情で、ミーファスが言う。

「言ったって聞かないからね。ここの寮生達は・・・・・」

メアリーはそう言ったきり、黙ってしまった。

数分後、しっかりとお化粧が施され、完全に女の子らしくなったジュリオが引き出されてきたのだった。

                    ☆    ☆    ☆

 お化粧を落とし、服を着替えたジュリオが一行に加わる。
 ジュリオは10歳の男の子だが、内気でひ弱なため、どこをどうみても女の子にしか見えなかった。
そのためか、寮生達のお下がりをもらって着ているという。スカートは、男の子向けに、スカートパンツに
アレンジしてはいるが、どうみてもジュリオは女の子にしか見えない。
そういうわけから学院でも異色の存在であり、唯一女生徒専用区画に公式に立ち入れる男の子という、
ありがたくない・・・・・・だけど一般的には羨ましい称号が付加されてしまっている。

「ま・・・・ボクにしてはいつものことだし、気にしてないから・・・・。」

ボーイソプラノの透き通った小声で言う。

「でも・・・・こればっかりはジュリくん災難だったね、としか言えないね。」
「うん・・・・この間なんか、トイレに行きたくなったって言ったら、女子トイレに連れて行かれて、女の子でしょって言われて
しゃがんで用を足させられたの・・・・ちゃんとボク専用に用意されたトイレがあるのに・・・・。」
「なるほど・・・・ここまで来れば、ショタ、極まれりね。本当に寮生のおねーさまが怖いのね・・・・。」

 ある意味ここまで来れば、お姉様方は立派な変態だと思うミーファスだった。

「ま、とにかく学園に着いたから、休憩時間にいつもの屋内庭園で落ち合いましょ!!」

うっそうとした森の中を石畳が続く。その森を抜けると、大きな樹をくり抜いて作られた、正門がある。
ウィナリート魔法教育アカデミー、通称ヘイゼル魔法学院である。
何故ヘイゼルと呼ばれるか、それは正門が、魔力を持つ植物とされるヘイゼルの巨木をくり抜いたものだからなのだ。

ヘイゼル魔法学院は4つの魔法学科が初等部から専門院・・・いわゆる大学・・・まであり、一貫した魔法教育を
目指している。そのレベルは王国第二の魔法学校として知られていた。もちろん、王国一の魔法学校は、
ウィナリートから南へ40キロほど行った、ウィナリートの3割ほどしかない標高にある街エンフィールドの魔法学院である。

ヘイゼル魔法学院の学科は、神聖魔法学科、錬金魔法学科、精霊召喚魔法学科、そして繰魔法学科の4つ。
エンフィールドの魔法学院にあるような、物理魔法、精霊魔法はカリキュラムになく、反対に、魔力を具現化し、
日常生活に役立てる、物の移動などを実践する繰魔法というものが学科として存在している。
繰魔法は、使いこなせば、掃除、洗濯、炊事などを楽にこなすことが出来る、まさに日常魔法である。

繰魔法は宿屋の経営には欠かせないアビリティである。従って、「フロマージュ」のリュノ、「ホーマルハウト」の
フィオは繰魔法科に在籍していた。覚えた魔法で家の手伝いもでき、まさに一石二鳥である。

ミーファスは、家が教会ということもあり、主に神聖魔法を中心に学んでいるが、召喚術の腕前は学園でも
トップレベルと言われている。得意なのは、光の妖精であるティンクルベルを使役する「イリュージョン」である。
光のいたずらにより、鮮明な立体虚像を浮かび上がらせ、それを任意に動かす術だ。

サフィは精霊召喚魔法を学んでいる。主にシルフィード、ウンディーヌ系の風水属性を得意とする。
ミーファスと組むことが多いのは、その能力から紡ぎ出される召喚魔法「ミストスクリーン」が、「イリュージョン」には
不可欠だからである。霧のスクリーンがあってはじめて虚像は像を結ぶのである。

「おはよう、ミーファスさん。今日も早いのね。」

中等部への通路の途中でマリーに出会う。
マリーはこのウィナリートでもっとも高級な宿、「リリスイン」のオーナー自慢の娘である。
普通、こういうパターンのキャラはタカビーと決まっているが、マリーは気さくで人付き合いがよく、誰からも慕われていた
のだった。そんなマリーが学んでいるのは錬金魔法である。

「マリーさん、おはようございます。いつもと対して変わりませんから、早いってわけじゃ。」
「そう?」

ミーファスの言葉に、マリーは首をかしげた。

「私にしてみれば、けっこう早い登校と思いますわ。今日は1時限目の授業は合同魔法演習と言うことですから、
遅れないように。」
「ありがとう。授業の予定が変更になったんだ・・・・・」

ミーファスたちは実習棟へと向かっていった。


「この時間の授業は、先日に完成した衛星経由講義システムの使用による、エンフィールド学園との第一回共同授業
を行います。さらに、基礎魔法能力を楽しみながらトレーニングできるゲーム筐体、「MMR」のインストラクションも
行います。皆さんにとって、エンフィールド学園の授業が価値のあるものになって欲しいと思います。
では・・・・・正面のスクリーンに注目してください。エンフィールド学園のアーネスト先生、お願いします。」

今日の授業はつい数日前に完成した、マリエーナ王国の魔法学園同士を衛星回線で結ぶ、
総合学習ネットワークを利用した初の授業である。魔法履修の種別の枠を越えて、魔法学科の生徒が、
衛星授業実習教室に集まっていた。

『ウィナリートおよび、王都マリエーナの魔法学園生徒の皆さん、はじめまして。エンフィールド学園魔法学科総主任教諭
であり、物理魔法課教諭、アーネスト・クランです。
フィスターグループの協力により、衛星回線による相互共同授業が可能となり、エンフィールド学園が主体となり、
共同授業を行うこととなりました。
まずは、それぞれの学園の誇る主席生徒達の模範詠唱を見ながら、マリエーナ全土の魔法形態について
もう一度おさらいしてみましょう。』

「・・・・・・で、うちらは誰が出てくるんだろうね?」

小声でミーファスが言う。

「神聖魔法課でのミーファスちゃんの力は強大なものがあるからね。その浄化力はウィナリート一だよ!!」

画面には、小柄な女の子、そしてさらさらとしたロングヘアの女の子が映し出されていた。

『まずは物理魔法。模範詠唱を見せてくれるのは、マリエーナ王国物理魔法ランキング第一位の、
中等部物理魔法課4期生、春河ゆんさん。その隣にいる、神聖魔法課のセリーシャ・フィスターさんが
解説をしてくれます。』

ぺこりとお辞儀をする、紫色の髪の小柄な少女。後頭部のリボンで束ねられた小さなポニーテールが揺れる。

「あ・・・・・あの子知ってる。長期休暇になると、街の北の高級別荘地によく来る子だよ。」
「たしか・・・・あそこにあるのは、フィスターグループ会長の・・・・・」
「なるほどね。」

ミーファスとサフィ、リュノの姉妹、フィオらがひそひそと話している、が・・・・・・・
ゆんの瞳が燐と輝くのを感じたとき・・・・・・・
ゆんの胸の宝石がまばゆいばかりに輝き、その輝きがさらに広がる。
鈴のように透き通ったその声が呪文を紡ぎそして呪文は形となる。

『ではまず、物理魔法の基本はルーンバレットです。普通は単発発動ですが、それをアレンジすることによって、
このようなバリエーションとして発動させることが出来ますの。まずは威力は若干落ちますが、同時に数十倍の
火炎弾を撃てるラピード。これはゆんちゃん個人のアレンジ魔法ですわ。』

『ル〜ン・バレット、ラピードぉ!!』

突き出された両手が真紅に輝くと、流星雨の様に光の矢が幾筋も軌跡を残してもの凄い速さで水晶球へと
突き刺さっていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

その威力と精度に、ヘイゼル学園の教室は水を打ったかのように沈黙した。

『お次もルーンバレットのアレンジ技。単発でも、しっかりと魔力を調整すれば、こんな事だって可能となりますわ。』

『ルーン・バレット、コントレイル!!』

ひとすじの光は、その途中でぐいっと一気に方向を変える。ぐるぐると宙を渦巻き、かくかくと方向を変え、
そして水晶球のターゲットへと消えていった。

『物理魔法の基本は、ルーンバレット、アイシクルスピア、ヴォーテックス。火、水、風のマナを組み合わせることで、
多種多様のバリエーションを持たせられることを覚えておいて下さいねっ。』

画面の向こうでゆんが微笑んだ。


「ほんとうに、凄かったねぇ。」
「そうだね、結局エンフィールド学園だけで1時間だもんね・・・・・。」

ヘイゼル学園の魔法学科の女子トイレ。エンフィールド学園のそれとはちがい、木をふんだんに使った内装が
北の山岳地域らしい。

物理魔法、精霊魔法、神聖(治癒)魔法、錬金魔法、言霊魔法、画魔法・・・・・とかなりのバリエーションがエンフィールド
側では展開されたのである。ちなみに、精霊魔法にはリオと更紗、神聖魔法にセリーシャ、錬金魔法にきずな、言霊魔法
には学園でも2人だけの使い手である春河澪乃とゆんの姉妹。画魔法には美術科から抜擢されたウェンディ・ミュアが
それぞれの技を披露したのだ。

「えっと・・・・・」

ぱたんと個室の木製の扉が閉まる。ミーファスが入ったのだ。
その隣に続く個室には続いてサフィ、リュノがそれぞれ入っていく。

「次はいよいよヘイゼルだね。」
「そうだね。ヘイゼル固有の学科と言えば、神聖魔法課(浄化)、操魔法課、召還魔法課だね・・・・・」

個室内からわいわいと会話が飛び交う。専用の指向性マイクとイアフォンの超小型ヘッドセットで会話しているため、
会話以外の音は一切拾わない仕組みなので、トイレでの用足し中でも気にせず会話を楽しむことが可能である。

「やはり、神聖魔法(浄化)は、ミーファスちゃんだよね・・・・。」
「うん・・・・そうだね。だって、ウィナリートの聖堂の司教様の娘だもんね。」

ほとんど音が漏れないように設計されているほとんどのブースで会話は続いている。

「ときに・・・・・操魔法はだれが選ばれるんだろう?」
「操魔法・・・・宿屋の子供達必須と言ってもいいからね。この街には宿が多くあるし・・・。」

ミーファスがフィオの言葉に続く。

「もっぱらの噂じゃ、やはり選ばれるのはサフィちゃんだよね。ルックスといい、腕前といい、もはや男子のアイドル
だもん。」
「わたし・・・・・そんなことないですよぉ・・・・。」

二人の会話に、サフィの言葉が申し訳なさそうに割り込む。

「いやいや、そんなことは無いと思うね、サフィちゃん。」
「そうそう・・・・操魔法課のカイル教授がお呼びでしたよ、ヘイゼル代表として・・・・ってね。」

ペーパーを手繰るミーファスがふと腕の時計に目をやると、休憩時間があと数分で終わることを示していた。

「ま、やるだけやってみようよ。ヘイゼルもやれるってことを、エンフィールドのみんなにも知って貰おうよ!!」
「うん、賛成!!」
「がんばろー、オー!!」

ミーファスは心の中で3つ数えた。

3・・・・・2・・・・・1・・・・・・

レシーバーの電源を切ってから、壁のノブを一押しする。霧状の洗浄水がペーパーを床の陶器の溝の底に開いた
丸穴の中へ落とし去ったのを確認してからノブから手を離し、一気に外へと飛び出す。

「ほらほらみんな、始まっちゃうよっ!!」

ミーファスの後を追うようにサフィ、フィオ、リュノが続く。

そして、予鈴がヘイゼルに鳴り響くのだった。
ウィナリートの街はいつの間にか霧に包まれていた。

<続く>
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