中央改札 交響曲 感想 説明

Eternal White 1-2
春河一穂


マリエーナ王国の高原都市エンフィールド。
エンフィールドの北、ウィナ山地の中腹、標高1600メートルの地点に
王国第三の魔法学園を擁する、高原の街がある。

エンフィールドとよく似ていてエンフィールドと異なるこの街。
ここもまた別荘地・リゾートとして名高い街であった。

そんな高原の街、ウィナリートが今回のお話の舞台。

オリジナルアンソロジー

『悠久幻想曲4 Eternal White』

Eternal 01 高原の街と共同授業・2

春河一穂

 ウィナリートの魔法学園、ヘイゼル学園では、エンフィールド、王都マリエーナの魔法学校と
衛星回線で結んだ相互共同カリキュラム授業を行うことになり、この日、ファーストインプレッション
が行われていた。

先ほどまでエンフィールド側の模範詠唱が続き、トイレ休憩が終わったところである。

ミーファス、サフィー、マリー、リュノ、ジュリオの5名は、その後学部主任の先生に呼び出され、カメラが据え付けられた
別の実習教室に呼ばれていた。

ちなみに、ジュリオは進行役として呼ばれたのだが。

「ということで、想像していたとおり、代表になっちゃったわけだね。」
「そういうことね。」

「こうなったらやるっきゃないよね。」
「ま、今日は体調も良いからしっかりと出来るって、ねぇ。」

サフィが人差し指をたて、指揮棒のように振ると、教室の隅の掃除道具入れからほうきが躍り出てくる。

「うん、調子も上々。これならいい模範行使できるね。」

少女達はわいわいと話しながらも準備をしていた。

「まずは、召還魔法と浄化魔法だな。ミーファスさん、準備を。」

教科担任の先生の指示に従って準備にかかる。召喚魔法でわざとアンデッドモンスターを召喚し、
それをミーファスが浄化するというストーリー仕立てになっているのだ。

「んじゃ、始めるわ。ミーファ、準備はいいわね?」
「OK、リュノ!先生、障壁の方をお願いします!!モンスターを使いますんで外部に危険がないように、ね」

純白の光が二人のいる空間を円柱状に隔離する。

「サモンッ!!」

タンタンと、リズムをつま先で取りながらも目を閉じていたリュノの瞳が開かれ、ぱちんと指が鳴らされる。
何もない空間に突如黒い霧が渦を巻く。

「来たれ、冥府の導き手よ!!」

黒い霧が次第に濃くなり実体化する。次第にはっきりと具象化してくるその姿に、別室のヘイゼルの生徒達、
そして、エンフィールドの少女達、全ての人の心の中に言いしれぬ不安と恐怖がわき上がってくる。

現れたのは、漆黒の外套を纏い、そして4メートルはあるかと思われる、鈍く黒い大鎌を構えた・・・・

「し・・・・死神だ・・・・しかも・・・・アンデッドでも最高位の存在とされる『冥府の導き手』・・・・」

それは大鎌を振り上げると、その刃をリュノの首筋へと振り下ろそうとする。

☆       ☆        ☆

エンフィールド学園の教室でこの状況をじっと見守る少女達。

「冥府の導き手の召喚レベルは黒召喚の15レベル『禁呪』のはずですわ。相当に凄いレベルの
能力をお持ちですね、あの召喚学科のリュノさんは。」
「ゆんお姉ちゃん・・・・ボク、怖いよぉ・・・・。」

リオがぎゅっとゆんの身体に抱きついた。

「大丈夫。魔法キャパシティと物理魔法の威力では、あたしが王国一なんだから、ね。」
「そう言えば、ウィナリートには教会の司教様の娘ということもあり、浄化能力に優れた少女がいるって聞いたけど・・・」

「多分、それはミーファスちゃんじゃない?ほら、あれは凄いと思うよ、あたし。」

モニターにはある意味、凄い光景が映し出されていた。

☆       ☆        ☆

「全能なる我が父、万物の父、精霊の父の御名において我、ここに汚れし御魂を清め去らん、
主の肉、主の血、主の涙をもって祝福せんと欲する!!」

キュロットのポケットから、小瓶を数本取り出す。
ぱぁっとその中身を振りまくと空間自体が輝き始めた。

左手には瑠璃で作られ、純金の枠があしらわれた十字架が握られていた。

「主の涙によって影は光に、邪は善へと浄化せり!!」

ばち・・・ばちばち!!
冥府の導き手が押されていた・・・・。
十字架から発せられる聖なる波動が、ミーファスの唱える聖句が進むに連れ、さらに強くなっている。

波動はやがて、ミーファスの背後を後光のようにぐるぐると渦巻き始める。
ミーファスの髪も逆立ち始める。

「主の名の下に命ず。汝のあるべき世界へと還れ!!」

後光として輝いていたリングに聖句やタリスマンが浮かびあがったかと思うと、一気にそれが消滅する。
そしてすぐに大鎌を構えた死神を捕らえる。一気に光の柱が宙へと伸び、激しい閃光の渦となって
高速で回り出す。

「死霊浄化(リ・インカーネイト)っ!!」

激しい気流が一気に閉鎖された領域内を吹き荒れる。
思わず腕を顔の前に掲げて風を防ごうとするリュノ。

「ミーファスちゃん・・・・凄い・・・・」

「浄化完了!!」

十字架を握ったままの左腕をぶんと振り下ろすと、ぱぁんと光の柱がはじけ、小さな光の粉となって
消えていった。冥府の誘い手と呼ばれた死に神の存在は完全に消滅していたのである。

「・・・・ほら、ジュリくん、ナレーション!!」

サフィに言われ、慌ててナレーションに入るジュリオ。

「・・・・と・・・ヘイゼルで履修される神聖魔法は、他の地域が主に癒しを重視するのに対し、見ていただいたように、
浄化中心の、あるいみ攻撃魔法となりうるものを学んでいます。召喚魔法は、火・土・風・水・聖・魔の六門界思想に
則って体系化され、魔召喚はそのほとんどが禁呪とされています。今回は特別に、教授の許可を受けた上で、
魔召喚で死神を召喚しました。皆さんは危険ですから、くれぐれも真似をなさらないようにお願いします。

では引き続き、繰魔法の紹介をします。繰魔法は、ウィナリートに古くから伝わるもので、王国の辺境地である
この場所で、日常作業を魔法によって簡便化するため、およそ600年前に編み出されたものと伝えられています。
主に宿とか食堂などのサービス業の人が多用する職業魔法という感じになっています・・・・・・・・・・・・。」

サフィが代わって画面に登場する。小洒落たティーセットの置かれたテーブルがあるだけの空間。
そっとスカートの裾を摘んで恭しくお辞儀をする。

静かに音楽が流れてくる。その音楽にあわせるかのように、左手の人差し指をたてる。

ふわっ。

ティーセットがふわりと宙に浮かび上がる。
カップ、ソーサー、ティーポットと次々に浮かび上がっていく。

指揮者のように左手をリズムに合わせて振っていく。

画面の外から純白のテーブルクロスが飛んできて、ふわりとテーブルの上へと降り立つ。
しわもなく、いいかげんでもない。とにかく手できっちりと敷いたような仕上がりである。

サフィが右手をあげて指をぐるぐると宙で回すと、ティーカップとポットがふわりとそこへと移動する。
手のひらを掲げると、ソーサーが手のひらへ舞い降り、そしてその上にはティーカップ、
さらにそこへ琥珀色をした紅茶が、宙のティーポットから注がれる。

湯気がゆっくりと舞い上がる。

カップを紅茶で満たすと、ティーポットはすっとテーブルの上へと戻っていく。
お留守にしていた左の人差し指をくるくると宙にまわせば、ケーキがナイフでカットされていく。
ケーキサーバーに乗せられたケーキがお皿に盛りつけられたのを見ると、サフィはティーカップを
テーブルの上に置き、そして再びお辞儀をした。


「あれが操魔法・・・・ウィナリートにてうまれたある意味別次元の魔法系統・・・・・」

ゆんがモニターの前でため息をもらした。

☆       ☆        ☆

そして、鐘楼の鐘が柔らかな旋律で終業を告げる。
ウィナリートのヘイゼル学院は、必修科目の授業は午前中で終わるようにカリキュラムが組まれている。
午後は、課外活動に、補講に、自習に、セミナーに、はたまた、遊びにと活用されている。


『生徒の皆さん、ウィナリートに、現在濃霧が発生しています。学園より遠くに居住している生徒は、
学園に残り、天候回復を待つか、学園側の男女別の寄宿舎で待たせてもらうようにしましょう。
この濃霧の中を帰宅するのは何かと危険です。』

教頭先生の魔法による校内放送が繰り返されている。
霧が出ているのだ。

「霧かぁ・・・・・困ったなぁ。」
「そうか・・・・・街の外れだもんね・・・・・あたし達の家みんな。」
「ジュリくんは近くて良かったね。」

学園のシンボルの門脇にある屋外トイレに付き合っているミーファス達。
初等部と外庭のトイレは男女共用であり、面々が同時に集うことが出来た。

「ねぇ・・・・・うちのお姉さん達誰もいない?」

用を足そうにも足せず、おどおどしているジュリオがミーファスに言う。

「うん、いないよ。なんなら入口封鎖しておいてあげよっか?」

ミーファスが合図すると、サフィとリュノが入口を固めた。もちろん、窓もしっかりと施錠して回っている。

「はい、オッケー。ジュリくん、こころおきなくどうぞ。」

ミーファスの声に、おどおどしながらも、男の子用の鉢がある仕切(ジュリオの肩の高さ)の間に潜り込んだ。

「みちゃいやだよ・・・・・・」

思った以上に、ジュリオは超シャイ・ボーイであった。

☆       ☆        ☆

「にしても・・・・・この霧、ほんとうにおかしいよねぇ?」

何か普通の霧ではないのを感じる。第一今は冬場である。冬なのに霧はおかしい。
粉雪かダイヤモンドダストというのがこの季節の相場である。

「確かに、冬場に霧というのはね・・・・」

窓の外を見つめるサフィとリュノの姉妹の元へ、フィオがやってくる。

「お兄ちゃん・・・・・多分動いているだろうな・・・・」
「そっか、フィオのお兄ちゃん、パールフェザー隊の隊長さんなんだよね?」

そんな三人の背後で、ぱしゅううううっと水が流れる音がする。

「あ、ミーファスちゃん、ジュリくん終わったみたいだよ。」

生き返ったような、ほっとした・・・・恍惚とした表情で、ジュリオが仕切の間から出てくる。

「はぁあああ・・・・すっきりしたよぉ。」
「すっきりしたのはいいけれど、どうするの、これから。」

ついでだからとミーファスとサフィがそれぞれ奥の女の子用個室へと消える。
ジュリオとリュノ、それにフィオの3名が洗面台前にいた。

「どうもこうも、季節外れの霧は何か・・・・・・匂うわね。」
「・・・・・・・・・・・・・・ここ、トイレですし、そりゃ臭う・・・・」

といいかけたフィオはリュノに速攻で沈められた。痛みも感じぬ間に。
まさに秒殺を越えた「瞬殺」であった。

「・・・・・と冗談は置いておいて。」
「・・・・・リュノさん・・・・怖いですぅ・・・・」

瞳をうるませ、か弱い子鹿のように怯えるジュリオ。

「精霊召還魔術を授業でとっていて、かつ、首席の成績だから・・・・解るのよ。」
「しゅ・・・・首席って・・・・・」

と言いかけたジュリオは、すぐ目の前からもの凄い殺気を感じたため、そのあとの言葉を飲み込んだ。
ヘビに睨まれた蛙のように、ジュリオの顔を冷や汗がたらたらと流れていた。


シャアアアアアアアア・・・・・・・

そこに水音が二つ重なる。
ばたばたと扉が開き、これまたほっと・・・・恍惚とした表情でミーファスとサフィが出てくる。

「ミーファスお姉ちゃん・・・・助かったよぉ・・・・・」

脱兎の勢いでミーファスに飛びつくジュリオ。

「リュノ姉さん。またジュリくんをいじめていたの・・・・・・・・・・って、ん?!」

サフィは足元の「物体」に気が付いた。
ふりふりのひらひらを着込んでいるそれは・・・・

「リュノお姉様?!他人を沈めちゃダメだってあれほど言ったのに!!ミーファスちゃん、治癒はOK?」
「あたしの神聖魔法は浄化専門だよぉ。でも、やってみるよ。ジュリくんは治癒方面だから、協力してくれる?」
「うん・・・・・ミーファスお姉ちゃんのためなら。」

慌ててミーファスとジュリオによる気付けが始まる。

「だってサフィ・・・・、私が核心を話そうとしたときにフィオがチャチャ入れて来たのよ。頭来るわよ。」
「だぁかぁらぁ!!」

そうサフィが言いかけたとき・・・・・ジュリオがフィオの回復を告げた。

「フィオお姉ちゃんが意識を取り戻したよ。何とか動けるようになるまではあと5分はかかるね・・・・。」
「5分はダメよ。そういっている間にも霧が深くなるから、どうにもならなくなるわ。最悪、くさい一夜を過ごす羽目に・・・・・」
「それは嫌。」

ジュリオの報告に、さらなる回復を促すサフィの意見にチャチャを入れたのはリュノだった。

「ならお姉様も協力してくださいな。見てないで!!」
「ういうい。でもわたしは高度な回復呪文は使えないわよ。」
「たしか・・・・大精霊ウンディーネには眷属にキュアという生命の妖精がいたんだよね・・・・。」
「成る程。それがあった!!」

水を栓をした洗面器に溜めてリュノは召還を始めた。
タタン、タンとリズムを指でとりながら目を閉じて詠唱を続ける。

「サモンっ!!来たれ、水鏡の癒し手、キュアよ!!」

かっと目を見開いて高らかに叫ぶ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

しかし、しんとしたままである。何も現れる気配がない。

「召還失敗?お姉様、なさけないで」

といいかけたサフィ。姉がそんな妹を沈めようと拳を繰り出そうとしたが、いとも簡単にそれを避けてみせる。

「いや、確かに術は成就した。だけど・・・・」
「だけど?」
「ウンディーネが感じられなかった・・・・。眷属の召還はまず、その主となる4大元素の精霊の力を借りなければ
成功しないのよ。つまり、ウンディーネが応えてくれない限り、キュアは召還できないわ・・・・・。」
「確か・・・ウィナリートにはウンディーネを祭る祠、水盤宮ユミルがヘイゼル湖の中央にあるんだよね。」

ミーファスがリュノに聞く。

「ええ、そうよ。だから、ウンディーネはこのウィナリートの守護精霊になっているのよ。」
「成る程ね・・・・・まずは・・・・この霧だし、プロキオンにてフィオちゃんのお兄ちゃんを待ちましょうよ。」

黄色い濃霧用街路灯の光を頼りに、少女達はアンバー家に一時避難をすることにしたのである。
アンバー家、つまり女子生徒宿舎プロキオンまではこの門からほんの50メートルであったが、
ミーファス達にとってはそれは非常に長く感じたのであった。

ウィナリートは、晴れることのない、深い季節外れの霧に覆われていた。

<第2話に続く>
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