中央改札 交響曲 感想 説明

かってに悠久幻想曲 第三話
こおろぎコタロウ


コウは町中を歩いていた。なんでもない晴れた日の午後。適度に雲が
空を覆い、日差しは 暖かく、文句の付けようのない天気だった。
 ふと空を眺め、青いことを確認したのか再び視線を下ろした。
「天気はいい、暑くもなく寒くもない。」
 深呼吸を一度、二度繰り返す。新鮮な空気が肺に満たされるのを感じ
る。
「空気もうまい。じつにいい日だ。」
 そこでコウは自分の隣に顔を向ける。表情にはどこか陰りが見て取れ
た。
「おまえが隣にいなければな、アレフ。」
「つれないこと言うなよ、コウ。」



かってに悠久幻想曲
  第三話「昔の友人、新しい出会い」



 コウの隣を一人の青年が歩いていた。頭にバンダナを巻き、どこか軽い
感じのする服を身に纏っている。だが服のセンスは悪くなかった。
背丈や年の頃はコウとあまり変わらず、違いといえばコウが無愛想な顔を
しているのに対し、このアレフという青年は笑顔をたずさえていた。
「なぁ、今更聞くのもなんなんだが。」
 コウがアレフに質問をする。
「どうした?」
「なんでおまえが俺の隣を歩いてるんだ?」
「んー、何となくじゃだめか?」
 コウは押し黙った。そもそもなんでこんなことになっているのか?そのこと
を考え始めた。


 朝起きた。
 店を出た。
 久しぶりの町を散策。
 久しぶりの知り合いに会った。
 久しぶりの知り合いは俺の横に並んで歩いている。


 考えは終わった。なんの解決にもならなかった。
「俺が横にいると迷惑か?」
 アレフがいたずらっぽい顔をしてコウの顔を覗く。
「ナンパにつき合わせようって魂胆じゃないならな。」
 実はこのアレフ、エンフィールド1のナンパ師であった。過去にコウはアレ
フのナンパに巻き込まれ、数々の被害を被っている。
「今日はナンパは休業だ。まぁ、久しぶりの親友のために一日費やしてあ
げようって言う、俺の優しーい気持ちがわからんのか?」
 ”優しい”に妙なアクセントを付け答えてくる。
「正直言うと、ただ話しがしたかったんだよ。」
「ナンパを優先させてか?」
「まぁいいじゃないか。それより聞いたぜ。アルベルトの奴と決闘するそう
じゃないか。」
「もう、知ってるのか?昨日の今日だってのに。」
 コウは意外そうな顔をしたが、アレフは実に得意そうな顔をしている。
「自警団関係の噂ならトリーシャが一時間もあれば町中に広めてくれるから
な。」
 瞬時にコウに頭の中に町一番の噂好きの顔が浮かんだ。
「ったく、あのお喋り娘が。」
「しっかし、帰った早々こんなイベントをやってくれるなんて、おまえらしいとい
うか、なんというか・・・」
 アレフはヤレヤレといった手つきで顔を横に振る。
「言っておくがアルベルトの方から挑んできたんだからな。」
「あいつ、お前の事に随分ご執着だったからな。」
「そもそもなんで俺があいつの目の敵にされなきゃいけないんだ?」
「やっぱりアリサさん関係だろ。」
「なんでだ。アルベルトが思いを寄せてた人の前にいきなり現れて、いきなり
その人の家に居候したが・・・」
 そこまで言って、コウは考え込んだ。
「訂正。少しだけあいつの気持ちがわかったような気がする。」 
「だな。それにアルベルトの奴なら居候というより、同棲と考えてるから余計
に始末が悪い。」
「どっちも同じじゃないのか?」
「まぁ、感じ方は人それぞれだし。」
 話に一段落つけ、アレフが”ところで”と言って話を切りだした。
「お前の旅先ってやつでやっぱり美人のお姉さん方達とお知り合いになった
りした訳か?」
「あるか、そんなもん。」
「じゃ、何しに言ったんだよ。」
「お前の頭にはそれしかないのか!?」
 アレフはフッと鼻先で笑い、遠くを見つめる。
「愚問だな。」
「・・・ああ、そうだったな。」
「そういえば、旅先での土産とかないのか?」
「ない。」
 即答だった。
「おいおい、気の利かない奴だな。お前って奴は。」
「俺は旅行に行ってたわけじゃないんだぞ。それを美人に会ったかだの、
土産はなんだかだのって。」
「あーやだやだ。人生に余裕のない奴ってのは。」
「ほっとけ。それに俺は旅先でいろいろ大変な目に遭ってるんだぞ。」
「その辺には興味ない。他人の苦労話なんざ聞いたっておもしろくもなん
ともない。」
「おまえらしいな、本当相変わらずってところだな。」
「お互い様だ。」
 そして二人で顔を合わせ、軽く笑った。
  
 

「むむ、前方にランク6の美人発見!!」
 アレフが遠く離れた人影に急に反応を示す。
「そうなのか?この距離だと俺には男か女のかさえ判断できんが・・・」
「間違いない、俺がいってんだから!」
 妙な説得力があった。確かにアレフがこれほど力説するのなら間違えて
いるというようなことはないのだろうが。
「で、どうする気だ?今日はナンパは休業じゃなかったのか。」
「ああ、あれな。やっぱなしなし。」
「お前、少しは申し訳なさそうに前言撤回とかしたらどうだ。」
「馬鹿者!!美人を放っておくなどそれこそ申し訳ない。」
「・・・あっそう・・・・・・」
 コウの返事を聞く前に”そこのお嬢さーん”と叫びながら、信じられないス
ピードで駆けていった。
「まっ、いっか。」
 結局コウは再び一人で散策を始めた。




 アレフと別れ、公園の中を歩いていた。
 幾ばくかの木が植えられ、数個のベンチが設置されているだけの簡易的
な公園だった。子供たちがなにかボールを使って遊んでいるようだが、なん
の遊びかまではコウには判別できなかった。
 コウはベンチに座ろうと足を運ぶ途中、小さな何かを足の裏に感じた。
足を上げ、踏みつけてしまったものに目をやる。
 それは黒革の袋をひもできびったもので、手に取ると袋の中からそれなり
の重みを感じた。ようするに財布である。
「さて、どうしたものか。」
 財布を手にしばし考え込んだ。見なかったことにして再び地面に置く、これ
は却下した。
 このままラッキー、と思ってネコババ。これも人並みの良心をもったおかげ
で却下。
 やはり妥当なところで届けるべきところに届け出ることにした。
「こういう拾得物ってのは自警団にでももっていけばいいんだったっけ?」
 過去にも財布を拾った経験があり、そのときは自警団まで届け出た。
しかし、自警団に足を運ぶのはあまり気が進まない。数年前、自警団とは
ゴタゴタをおこした事件があり、いまだにコウは気まずかった。
 なによりアルベルトに会うかもしれない、という不安もあるのだが・・・
 自警団以外にも公安維持局という施設が存在するのだが、コウが旅に
出た後設立されたため、まだその存在をしらなかった。
 結局コウは自警団事務所に足を向けた。


 事務所についても早速中に入ろうとはしなかった。どうにも消えない不
安が尾を引き、コウを止まらせた。
 だがそのまま帰るわけにもいかず意を決して事務所に入ろうとしたとき、
後ろから思いがけない衝撃を受けた。
 衝撃は以外に強く、そのおかげでコウは顔面から勢いよく地面にキス
を迫られることとなった。その拍子に声にならない声が漏れた。
 立ち上がりすぐに後ろを見て、コウは怒鳴った。
「なにしやがる!一体全体どういう了見だ!!」
 するとそこには肩で息を切らした少女が一人立っていた。とくに逃げよ
うとする意志も見られず、顔を上げてきた。
「も、申し訳ございません!」
 コウと顔を見合わせると、勢いよく頭を下げた。
「なに考えてんだよ、あんたは!」
「気が動転して、急いでいたもので・・・・わたくしが・・・・不注意でした・・・」
 その少女は未だ肩で息を切り、それどもなんとかして言葉を紡いだ。
 コウは改めてその少女を見た。青みがかったショートカットの髪型をし
ており、余程走ったのか多量の汗をかいており、随分息も荒い。芯の強
そうな瞳をしているが、顔色は蒼白に近かった。背の方は女性にしては
標準的といったところだろうか。
「あー、とにかく息を整えろよ。でないと話にならん。」
 少女は言われるまま息を整えようと、何度も呼吸を繰り返す。
「で、なにをそんなに慌ててんだ?」
 しばらく間をおいてからコウは尋ねた。
「大事なものを落としてしまい、先程それに気づきこちらに届け出がない
か参ろうと思いまして。」
「大事なもの?」
「はい、お恥ずかしながら財布を落としてしまったみたいで・・・」
「・・・・ん?」
 コウはポケットにしまい込んでいた拾った財布を目の前の少女に出した。
「ひょっとしてこれか?」
 差し出された財布を手に取り、少女の顔に安堵の色が広がっていくの
が見えた。
「こ、これです。どこでこれを?」
「さっき”日の当たる公園”で拾ったんだが。」
「ああ、ありがとうございます。」
 深々と少女は頭を下げた。
「まぁいいや、持ち主が見つかったおかげで俺も事務所に足を運ぶ手間が
省けたわけだし。」
 ”じゃっ”と言って立ち去ろうとしたが、少女がそれを許さなかった。
「お待ちください。是非ともお礼を受け取ってください。」
 財布の紐をとき、お金をだそうとしているようだが、コウは手でそれを制
した。
「別に大したことはしてないから礼なんて気持ちだけで十分。それよりもう
落とさないように気をつけてくれよ。」
「ただでさえ、怪我をさせてしまっているんですから。」
「先刻ぶつかったかとか?ならもういいよ。」
「お願いします。是非ともなにかさせて下さい。」
 少女があまりに真剣なのでコウも対には妥協した。
「わかった。じゃ、腹が少し減ってるからそれにつき合ってくれるか?」
 少女の返事は決まり切っていた。



「申し遅れましたが、わたくし”クレア”と申します。」
「俺のことは”コウ”でいい。」
 歩きながら互いに簡単な自己紹介を始めた。
「わかりました、コウ様ですね。」
「コウでいいよ、クレアさん。」
「わたくしのこともクレアで結構です。それとやはりわたくしはコウ様を
呼ばせて頂きます。」
「よしてくれよ、様なんて付けられるような身分じゃないんだから。」
「ですが殿方を名指しで呼ぶようなことはできません!」
 クレアは力強く力説した。
「・・・じゃそうしてきれ」
 そういうと”はい”っと再び力強く答えた。
「ところでコウ様はどちらに向かわれているんですか?こちらの方に
お食事ができるような場所、わたくしは存じませんが。」
「別に食堂やレストランに向かっているわけじゃないからな。」
「えっ?ですが先程は・・・」
「いいから、いいから。ほら、そろそろ見えてきた。」



 そこは「夜鳴雑貨店」と呼ばれる小さな店だった。店にはアクセサリー
や日用品、マジックアイテムまでもがところ狭しと並べられていた。
「いらっしゃい、なんか用かい?」
 店の主人らしき髭を携えた男が声をかけてきた。 
「よう、おやじさん。元気そうだな。」
「おっ、コウじゃねぇーか。そういえばトリーシャがなんか言ってたな。」
「あの、オウムも元気にしてるか?」
 すると店の奥から声が聞こえてきた。
「ゲンキソウダナ、ゲンキソウダンナ。」
 バタバタと羽をバタつかせ、籠らしきものがカタカタと音を立てる。
「ははっ、おやじさんと同じで相変わらずだな。」
「で、今日はなんの用だい?後ろのデートの相手ににプレゼントか?」
 店の主人を声にクレアは過敏に反応した。
「ち、ち、ち、違います!わたくしとコウ様はべ、別に・・・」
「からかうなよ、おやじさん。」
 クレアと違いコウは軽く受け流す。
「それにプレゼントする側じゃなく、むしろされに来たぐらいだからな。」
「まぁ、いいや。それで、なにを買ってってくれるんだい?」
「それとこれと・・・・あと、あっちのやつも貰おうか。」
「はいよ。しめて15G(ゴールド)。っと言いたいところだが今日のとこ
だけは10Gにまで負けといてやるよ。”今日のとこだけ”だからな。」
「十分、十分。ありがとな。」
 コウは品物を受け取り、その代金をクレアが支払った後、その場を
後にした。

 夜鳴雑貨店を離れコウは公園に戻ってきた。両腕で抱きかかえるよ
うに持った袋から先ほど買ったばかりの果物が見て取れた。少し距離
を置いたところからクレアが不思議そうにコウを見ていた。
 コウは空いているベンチを見つけるとそこに腰を下ろし、袋から取り
出したものを食べ始めた。
「いやはや、本当に久ぶりだ。」
「?、なにがですか。」
「実は最近まで旅をしててね、缶詰とかカンパンとかそういったものしか
口にしてなくて。
すぐに腐る果物なんてたまに街によったときぐらいだったから。」
「旅をなさってるんですか?」
「いや、旅が終わって帰ってんだ。しばらくはこの街でのんびりするさ。」
「そうでしたか。わたくしは一年半ほど前からこの街に来たのですが、
コウ様はそれより前から旅に?」
 コウはしばし考え込み答えを出した。
「俺がこの街をでたのも、たしかちょうど一年半ぐらい前だったかな?
クレアとは入れ違いだったみたいだな。」
「そうですね。入れ違いに街に出て、帰ってくると入れ違いに入った
わたくしの財布を拾って、人の縁とはつくづく不思議なものですね。」
「ああ、まったくだ。しかし財布を自警団事務所に届ける前にクレアに
会えてよかった。縁のあるなしに関わらずリカルドのおっさんには会い
たくないからな。」
「あら、リカルド様が苦手なんですか?」
 クレアはこの青年にしては以外だと思った。この青年ならだれでも分け
隔てなく接していそうなものなのだが。
「苦手というか、しつこいんだよ。」
「・・・しつこい、ですか?」
「そう、自警団に俺を引き入れようとしてるみたいなんだが、何度となく
断ってるのにそれでも勧誘してたからなぁ。」
「リカルド様が?珍しいですね。」
「まったく、なんで俺なんかに執着してんだか。」
「いっそ、入団なさってはいかがですか?」
「冗談だろ、あの時の事件を解決したのはおっさんの力で俺は何にもし
てないってのに・・・・」
「事件?」
「ん、あー、その、一昔前ちょっとゴタゴタがあってねぇ。」
「よろしければ、お話して頂けませんか?」
「べつに構わないけど、長い上に面白くもない話になるけどそれでもい
いか?」
「それこそ構いません。お願い致します。」
 他人のことはあまり詮索しないクレアだったが、珍しく興味を示した。
そうしてコウはゆっくりと口を開いた。

                              つづく




あとがきもどき
 随分かかちゃいましたね。実は一度データが消えて一からやり直した
のですが、内容がえらく変わってしまいました。
 さて、クレアを登場させてしまったわけなんですがほかにも2のキャラ
を出すかどうかは未定です。とりあえず1から出ていたキャラは出すつも
りではいるのですが、これもあくまで未定です。
 ともかく次は昔の思い出話をすこし最初にやって、あとはなにかを継ぎ
足すつもりでいます。今度はつづきをできる限りはやく書き上げたいと思っ
てますので、いましばらくお待ちください。ではでは・・・・
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