中央改札 交響曲 感想 説明

かってに悠久幻想曲 第四話「交錯」
こおろぎコタロー


 
 思えばこの町に来たのは偶然だった。勝手気ままな人生をそれまで
送ってきた。
 そう、エンフィールドにたどり着くまでは・・・

「ことの始まりは三年前のことだ。このエンフィールドには行き倒れ同然
に流れ着いてね、そもそも俺程度の計画性で今までの旅が無事だった
こと自体が奇跡だったんだが。」
 苦笑しながら青年、コウは語りはじめた。
「その時倒れていた俺を介抱してくれた人がいてね。俺はその人に恩を
返そうと思い、幸いその人は店を経営してたんで、こちらは幸いというか、
あまりよくない経営状態だったんで従業員として店の手伝いをすることに
したんだ。ここまではいいかな?」
 コウは横を向き、クレアに顔を向ける。クレアがコクッと頷くと再び話を続
けた。



         勝手に悠久幻想曲    第四話「 交錯 」

 店の手伝いを始めしばらく、仕事にも慣れ始めたときのことだった。
 いつものように仕事を終え、店に帰り玄関から入るため戸を開ける。ここま
ではなにごともなかた。
 戸を開けると決して広くはない部屋に鎧や武器により武装された数人が目
に入った。
 そのうちの一人がなにか命令を下すとその武装された連中がコウに襲い
掛かった。
 コウは成すすべもなくそのまま取り押さえられる。あっという間のことで現
状を全く理解できなかった。よく見るとコウに襲い掛かったのはこの町の自
警団員であった。
 部屋には店の女主人と団員のリーダー格らしく男が言い争っていた。
「いくらなんでも横暴すぎます!」
「勘弁してくださいよ。俺だって隊長からコイツを連れて来いって言われてる
んですから。」
 男は困ったような顔をしており、なにやら女主人を説得しているようだった。
「おい、どういうことだ!これが自警団の善良な市民に対する仕打ちか?」
 既にコウは手を後ろに回され拘束されていたが、それでもくってかかった。
「善良な市民だぁ、けっ!盗人猛々しいとはこのことだな。」
 女主人との態度は打って変わり吐き捨てるように答えた。
「なんだと!?どういうことだ。」
「この期に及んでしらばっくれるとはたいした度胸だな。」
 コウにはさっぱり理解できなかった。少なくとも自警団にはそれなりの
理由があるようだったが。
「あのね、コウ君。落ち着いていいてね。」
 女主人がいきさつを説明した。なんでも昨夜に”フェニックス美術館”が
絵画が数点盗まれ、その犯人が自警団はコウ・レイナードであると判断
したらしいとのことだった。
「ちょっとまってくださいよ、そんなの誤解です。証拠もなしにこんな・・・」
「バーカ、証拠ならあるんだよ。」
 男の言葉の後を女主人が歯切れ悪そうに続けた。
「実は先刻自警団の方達があなたの部屋を捜索したの。そしたら・・・・」
「まさか、盗まれた美術品が出た?」
「ええ、そうなの。わたしはなにかの間違いだと思うのだけど。」
 コウには身に覚えがまったくなかった。それに少なくとも店を出て行くま
ではそんなものどこにもなかったはずだ。
「事件があった昨夜の美術館付近での目撃証言、そして部屋から出てき
た盗品の数々。これでもまだ言い逃れするきか?」
「目撃証言?おかしいぞ、俺はそんなとこには・・・」
「いいから、黙ってついて来い。いいわけなら事務所で聞いてやる。」
 男は他の団員達に命令を下し、コウを連れて店を出ようとした。だが女
主人はまた食い下がってきた。
「待ってください、これはきっとなにかの間違いです。お願いです、もう一度
捜査をやり直してもらえませんか。」
「もう、いいんです。」
 コウは不思議と穏やかな顔をして言い放った。
「取調べを受けたってなにも出てくるものはありませんよ。なーに、直ぐに
無実がわかって釈放されることになるんですから。」 
「さぁてね、それはどうかな?」
 男は意地が悪そうに冷ややかに言い捨てる。
「どういうことです。」
 女主人がキッと男を睨み付けた。男は慌てた様子で”何でもありません”
といい、コウと部下達を引き連れ店を後にした。



「いま思えばあの時はさすがに心底驚いたな。」
 コウは当時の状況下を思い出し、苦笑し始めた。
「それで、どうなったのです?」
 どうやらクレアは話に聞き入ったのか、続きをねだってくる。
「とりあえず、おとなしくついて行ったがいきなり牢にぶち込まれた。」
「その前に事情聴取があるのではないのですか?」
「なかったよ。本当に着くといきなり牢だったからね。」



「おい、話を聞くんじゃなかったのか?約束が違うじゃねぇーか!!」
「馬鹿野郎、そんな約束いつしたんだよ。」
 先ほどのリーダー格らしき男が牢屋越しに答える。
「第一話しなんざ聞く必要ねぇんだよ。証拠は十分あるからな。」
「違う、俺は無実だ!!」
「犯罪者はみんなそういう。お前も例外じゃなかったんだな。まぁ、せいぜ
いここで頭でも冷やすんだな、犯罪者。」
「騒がしいな、なにをしている。」
 コツコツと足音を立て一人の男が近づいてきた。年の頃は50ほどだろう
か、体つきのしっかりした厳格そうな男である。
「た、隊長!」
 男は隊長と呼んでいた男を見ると先ほどまでの態度とは打って変わり、
背を伸ばし恐縮しているのがコウにもわかった。
だがコウはその隊長と呼ばれた男を睨み付けた。
「リカルドのオッサン、これが自警団のやり方なのか?随分なもてなしを受
けさせてもらったぜ。」
「思ってたより元気そうだね。少しは落ち込んでるかと思ってたが。」
 隊長、リカルドは世間話でもするようにコウに話しかけた。
「先ほど、裁判が始まった。」
 リカルドは短くそれを告げた。
「ちょっと待て、ひょっとして俺の裁判か?」
「うむ。」
「”うむ”じゃねぇーだろ!当事者の俺がここにいるのになんで裁判が行われ
てるんだよ。」
「君に答える必要はない。おそらく数時間後に審議で君の処分が降りること
になるだろう、それを伝えにきただけだ。」
「・・・俺はどうなるんだ?」
「せいぜいよくて町を永久追放、最悪余生を独房ぐらしするぐらいじゃねーか?」
 答えたのはリカルドではなく、コウを牢屋に入れた男であった。   
「余計なことは言わんでよろしい、お前はさっさと持ち場に戻れ。」
 リカルドの窘められ、男はハッと返事をしてその場を後にした。
「頼む、オッサン。もう一度捜査をやり直してくれよ。」
「残念だが捜査は打ち切られた。それに我々もそう暇な身分ではないのでな。」
 コウの懇願があっさりかき消されてしまった。そしてリカルドもその場か
ら離れ、牢の中にコウがただ一人残されるだけとなった。
「なんなんだ、これは?悪い夢にしたってひどすぎやしないか?こうなった
らヤケだ。とりあえず寝てやる、起きたら悪夢覚めるだろう。」
 本当にヤケなったのか、コウはそのまま眠り込んでしまった。


「おい、とっとと起きろ!」
 つい牢の中で中で寝てしまっていたコウを起こす声が響いた。
「なんだ、死刑の宣告でも出たから遺言でも書けって言うんじゃないだろ
うな。」
 目を擦りながらついつい皮肉を言う。見るとコウを起こしたのは自警団
員だった。
「釈放だ、さっさと出やがれ。」
 それを聞いて眠気が吹き飛んだ。
「釈放?俺の無実が証明されたか。」
「そんなわけねぇーだろ、保釈金が支払われたんだよ。」
 



「そんで牢から出たら俺の身元引受人として店の主人が待っててけれた
たんだ。」
 それを聞きクレアはコウに尋ねた。
「保釈金というのもその方が?」
「ご名答。なんとその額100000G。」
 その額に驚くクレア。
「失礼ですがその方の店はコウ様が来るまで営業不振だったのでしょう、
よくそのような大金が・・・」
「お金は借りたんだよ、自分の店を担保のしてまでな。借金の返済期限
は一年という条件つきで。」
 とてもではないがどんなに切り詰めて貯蓄したところで一年ではどうに
もならない額である。
「無茶な条件だが、まぁ手がないこともないんだ。再審請求制度って知っ
てる?」
 クレアは首を振って答えた。
「なら間単に説明しよう、まぁ聞いての通り審議をもう一度やってくれってこ
と。条件として前回の審議から一年以上たっていること。再審の住民投票
を行い住民の8割以上の支持を得ること。審議を行って俺の無実が証明で
きれば払った保釈金も帰ってくる。」
「真犯人を捕まれば一番丸く収まるのでは。」
 クレアは疑問を口にしたが、コウはそれを聞くと目を丸くし、その後苦笑し
始めた。
「ど、どうしたのですか?」
「いや、悪い悪い。確かにそうなんだがな。言っておくが俺はなにか特別な
組織に入ってるわけでもない、真犯人を探す捜査をやろうとしても動かせる
人だってたかがしれてる。それに犯人がとっくに町を離れてたら手の施しよ
うがない。」
「ですが真犯人を捕まえなくても真犯人がいたという証拠さえ掴むことがで
きれば・・・」
「それじゃ、あまり意味がない。自警団が住民から支持を得ているのは犯人
逮捕ってのが一役かってる。俺を逮捕したってのが誤認だとしたら自警団
の面目は丸つぶれ、それに証拠集めしたのが犯人と思われてる俺じゃそう
そうの証拠じゃ状況は覆らない。」
 最後に”困った状況だ”と他人事のようにいい笑った。
「ですが再審議の方も同様なのではありませんか?審議をやり直したとこ
ろで証拠がなければ同じ判決が下されるのではないでしょうか。」
「そうなんだ、住民から支持を得たところで審議の結果が変わらないんじゃ
意味がない。クレアならどうする?」
 クレアはわからないと答えた。
「その両方を同時にやる。といっても住民の支持集めがメインだけどね。」
 理想としては真犯人の特定と証拠。次に無実の証明、住民の支持と繋
がる。
「ともかく俺ひとりじゃどうにもならないから友人たちに協力してもらった。
店の仕事ってのが住民と接するものが多いんで支持集めには都合がよ
かったんだ。人手があれば仕事のほかにも証拠集めに費やせる余裕も
持てるしな。」
「それでもやっぱり無茶な状況ではないでしょうか?」
「そうなんだけど他に手がない。それに昔話に議論してても仕方ないから
少し話を飛ばそう。」
 そう言って肩をおろし一息ついた。
「結論からいうと再審議は行われなかった。」





「言っておくが投票をやって支持は十分に得ることができた。」
「でも審議は行われなかった?」
「ああ。さて、ここからがリカルドのオッサンの話だ。」
 ゴクッと息を呑むクレア。
「投票の結果がすぐ出た後に言いがかりを付けてきたやつがいてこう
言うんだ”犯罪者は犯罪者、審議をやり直したところで無駄。なら審議
をやり直す必要なんてない”ってな。」
「まさかそれがリカルド様?」
 コウは”違う違う”といって顔の前で手を振る。
「リカルドのオッサンはそこで自警団引き連れてやってくるんだ。オッサ
ンが言うには事件の真犯人はその言いがかりを付けてきた奴だと。」
「それで真犯人は捕まり、審議をやり直す必要もなくなり事件は解決、で
すか。」
「そう、めでたしめでたし。」
 だがクレアはまだ納得がいってないようだった。
「コウ様に罪を着せた動機というのはなんだったのでしょうか?」
「動機は土地のほしさだそうだ。なんでも店のあった土地がほしいとか
で・・・」
「どうして土地のほしさがこのような事件に繋がるのですか?」
「順を追って話そう。まず美術品を盗み出しその罪をよそ者だった俺に
着せる。かばうものは当然いない、店の主人は別として。そして真犯人
は審議の結果が降りた後では覆しようがなくなると店の主人に吹聴す
る。そしてその保釈金を店を担保にするなら貸してもよいと持ちかける。」
「ちょっと待ってください。それじゃお金を貸してくださった方と真犯人と
いうのは、」
「そう、同一人物。だから返済期限も無茶な期限しか与えなかった。間
違ってでもお金が返されると計画が全部水の泡になるんだからな。」
 それでも疑問はまだ消えない。
「そんなお金があるなら土地なんてほかにもアテもあるのではないでしょ
うか?」
「俺も詳しくは知らないんだが、なんでもある実験を行うのに適した所じゃ
いけなかったらしい。偶然俺が厄介になってたとこが条件を満たしていた
らしくて、だから俺が犯人代理に選ばれたのはたまたまだったわけ。」
 このときコウはまだ気づいていなかった。後ろから忍び寄る影に・・・


「なーにしてんだ、ごくつぶし。」
 コウの首に後ろから手が回され軽く締め上げる。
「お前こそいきなり何しやがる、アレフ。」
 声を聞いたコウは首を絞めている相手を振り向くことなく言い当てた。
「実は今日デートの相手に振られな、機嫌のよさそうなお前がひどく気に
入らない。」
 そう言って首に回していた腕に力を少し込める。
「全然理由になっとらんぞ。それにデートの相手に振られた?お前にはそ
れぐらいがいい薬だ。」
「言ったな、コイツ。」
「お、おい・・・それ以上締めたら・・・・・・・・・・・・・」
「くそ、”他に好きな人ができましただ”だ?そんなに簡単に心変わりする
ぐらいなら最初からナンパになんか食いつくなよ!」
 どうにも言っていることが支離滅裂だがそんな中コウの顔色はドンドン
血の気が失せていく。コウは残った力を振り絞り首に回された腕を何度か
叩く。だが残念なことにアレフはそれに気づかずよくわからない罵声だか
なんだかを口にしていた。
「アレフ様、そのぐらいになされた方が・・・」
「やぁ、クレアじゃないか。奇遇だね、こんなところで。」
 アレフはコウからすばやく腕を放し、髪をかきあげた。クレアは”はぁ”と
気のない返事で返す。一方コウの方はというと、一度振り絞ってしまった
空気を肺が再び求め、必死に呼吸を繰り返す。
「お前は・・・・・俺を・・・・殺すきか・・・・」
「仕方ないんだ。ブルーになった俺の気も知らずに帰ったそうそうナンパ
なんてしてるコウが悪いんだ。」
「それのどこが仕方ないんだ!?第一クレアとはナンパして知り合ったわ
けじゃねぇ!!」
「お、もう普通に喋れるのか。すごいなお前って。」
 よくわからない(?)関心をしてアレフはコウと向き合った。
「ところでなに話してたんだ?なんかコウが一方的に話してたみたいだけど。」
「おい、話を切り替えようとするな。女に振られたからってなんで俺が首を
絞められんといかんのだ?」
「やだなぁ、コウったらそんな昔のことにこだわったりして。」
「たった今の話だ。」
「先ほどはコウ様が前にこの町で関与した事件のお話をお聞かせ頂いてい
たところです。」
 コウとアレフの口論を止めようとクレアが半ば無理やり二人の間に割って
入る。
「事件?ひょっとして美術品盗難事件のことか?」
「アレフ様もご存知なんですか?」
「アレフは店を手伝ってくれたうちの一人だからな。」
「なんだ、そんな昔の事話してたのか。 まぁ、あの事件は俺の活躍で解決
したと言っても過言じゃないからな。あの頃の事話してたら俺の活躍話でも
ちきりだろ?」
「お前の活躍話?ナンパをするために仕事はサボるるし、女の子と二重約
束して追い掛け回されるのに俺を巻き込んだこともあったな。そんな男の
活躍話をどう話せって言うんだ?」
「な、何を言うんだい、僕が、そんなこと、スルワケナイジャナイカ。」 
 どうみても動揺がわかるほどの狼狽ぶりである。
「ところでなんでコウはクレアと一緒なんだ?」
 コウは”コイツ逃げたな”と思いながらも答えてやることにした。
「俺が財布拾ってその財布の落とし主がクレアだったの。」
「ええ。それで自警団の事務所に届けにきて下さったコウ様とちょうどお会
いできたのです。」
「じゃあ知り合ったのは偶然ってわけか。ってことはまだ知らないわけだ。」
「ん?なにがだ。」
「なにがってお前がクレアに手を出したら今度の決闘とやらの・・・・」
 そこまでいってアレフは少し考え込んだ。
「いや、なんでもない(知らないほうがおもしろそうだしな)」
「なんだ、そりゃ?」
 どうせろくでもないことでも考えているのだろうと察しはつくが、コウは敢え
て尋ねようともしなかった。
「まぁ、いいや。なんか邪魔も入ったしそろそろオイトマさせて頂きますか。」
 そう言ってベンチから腰を上げ、パンパンっと尻をはたく。
「コウ様、一つよろしいでしょうか?」
 その場を後にしようとしたところでクレアが話しかけてきた。
「なんだ?」
「そのうち先ほどのお話をまた聞かせて頂けませんか。」
「同じ話聞いても内容は変わらんぞ。」
「ですからその事件での一年間をお聞かせ頂けないでしょうか。わたくしがお
聞きしたのは最初と最後だけでしたのでできればその中身も・・・、あっ、もち
ろん差し支えなければですけど。」
 コウは顎に手をあて数秒考えた。その結果、
「だめ。」
とのことだった。
「おいおい、秘密にするほどのことでもないだろ?」
 アレフがクレアの助け舟を出すがそれでも結果は変わらなかった。
「あの一年は俺のかっこ悪いところや恥ずかしいところの”人生総集編”みた
いなところだからな。悪いけど知り合ったばかりのクレアには話してあげない。」
 敢えて自分の恥を暴露する気はない、とのことだった。クレアは少し落胆し
たのか肩を落としているのがアレフにもコウにもわかった。
「だから・・・」
 再びコウがクレアに向かい口を開く。
「もっと仲良くなったら教えてあげる。それに俺に聞かなくても他に事件の事
を知ってる人なんていくらでもいるから・・・・例えばそこの色情魔人こと、アレ
フとか。」
「最後のは余計だろ。」
 アレフが半眼になって突っ込む。
「さっき首を絞められたお返しだ。」
「なんだと。それに”もっと仲良くなったら”だぁ、思いっきり口説き文句じゃ
ねーか。」
「お前と一緒にするな。別に付き合えとか恋人になれとか言ってるわけじゃ
ない。」
「いいや、あわよくば”これで付き合えたらラッキー”とか思ってんだろ!」
「だからお前と一緒にすんなっていってるだろ!!」
 だんだん言い争いがエスカレートしているように見えるが、クレアはその
様子を見てクスクスと笑い始めた。
「分かりました、いつかコウ様の口からお聞かせ頂きます。それでよろしい
ですか。」
 それはクレアにしてはめずらしい発言であった。身内以外の異性とは会話
することすらめずらしいクレアがである。
「クレア、駄目だっって。こいつのあくどい手にかかって泣いた女の子が何
人いるか・・・」
「一人もおらんはそんな者!」
「わたくしも別にコウ様と恋仲になろうとは考えておりません。ご心配なく。」
「やーい、ザマァミロ。振られてやんの。」
「ガキか、お前は。」 
 

 

 そんなやり取りがあった後、ようやくそれぞれは帰路についた。
 クレアは買い物をすませ、家に帰り食事の準備を始めた。そんな中、
扉をコンコンっとノックする音が聞こえる。
「ただいま、今帰ったぞ。」
「あら、おかえりなさいまし。今日は早かったんですね、兄様。」
 扉を開け部屋に入り、クレアに兄様と呼ばれた男は背は高く、鎧のような
もので身を包んでいた。そしてガチャガチャと音を立て鎧を外していく。この
男こそ自称”コウの永遠のライバル”でありクレア・コーレインの実兄である
アルベルト・コーレインである。
「悪いがすぐに飯にしてくれ、腹がへっちまった。」
「わかしました。少々お待ちください。」
 こころなしかアルベルトにはクレアが上機嫌に見えた。
「なぁクレア、ひょっとして今日なにかいいことでもあったのか?」
「そう見えますか?」
「なんとなくだから、確信は持てないが。」
 口ではそうは言ってもアルベルトには確信に近いものがあった。
「実は今日面白い方とお会いしました。」
「そっか、まぁこの町は変わり者には事かかないからな。で、どんな人だ?」
「気になりますか?」
 今日はやけにもったいぶるなと感じた。気にならないといっても話しそうだっ
たので素直に気になると答える事にした。
「兄様の言う通り変わった方でした。なんでもその殿方は・・・・」
「殿方だ!」
「ど、どうしました?」
 兄の突然の声に身が思わず身が縮まる。
「いかんぞ。そもそも淑女のたしなみというのはだな、アリサさんのように・・・」
「ちょっとお待ちください。」
 今度はクレアに方が声を遮った。
「兄様は誤解してらしゃるかもしれませんが、わたくしとその方はなんでもあ
りません。」
「う、うむ。それならいいんだが。いや、別に俺はお前が付き合いたいと思う
ような奴がいれば反対するつもりもないし。それに・・・」
「わたくしはこう見えても理想が高いから心配なさらずとも結構ですよ。」
「だから、別に、お、俺は心配など・・・」
 だんだん声が小さくなって最後の方など聞き取ることはできなかった。
「わたくしの理想は兄様です。ですから兄様より素敵な方でないとお付き合い
する気はありません。」
「は、恥ずかしいことを真顔でいうな。こっちのほうが恥ずかしい。」
 そうはいってもまんざらでもないようだった。
「で、結局今日あった奴はどんな名だ?」
「ええ、その方の名前は・・・・」


                   つづく、と思います。





           あとがき

すぐになんて無理でした。いやはやうまくいかないものですな。
だが次こそは!
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