中央改札 交響曲 感想 説明

優しい時間久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第16幕


むかし、むかし。でもそんなに昔ではないちょっとだけ‘今’に近い物語・・・。

あるところに一人の男の人がいた。大切な人を失って生きる希望を捨ててしまった人。

彼は生きていなかったんだ。大切な人が死んでしまった時、彼の心も死んでしまったんだろうね?

そんな彼が惨めに生にしがみつく悲しい少年に出会った。

そこから、全てが始まったのかもしれないね・・・・?

怒りも、悲しみも、希望も、絶望も・・・・・。

あの時全てが・・・・・・。





「もうこんなになるんですね?」

呟くように、問いかけるように・・・・。一陣の風が吹き渡り、彼の金色の髪と、彼の足元の草原を柔らかく撫でた。

「何年経っても、忘れられないもんだな」

遥か昔を懐古するような眼差しで彼は世界を見ている。

「俺はやはり運命の輪から逃れられないみたいです。皮肉ですね?運命の存在を何よりも信じていなかった俺が今や冷静に受け止めているなんて・・・」

ゆっくりと目を閉じる。胸いっぱいに空気を吸い込み、その感覚に心を震わせる。

「やっぱり、俺は貴方のようには成れませんでした。」

一瞬だけ、ほんの一瞬だけかつて彼と過ごした日々を思い出す。

「今度は何時これるかわかりませんけど。でもまた来ますよ、ここに」

丘の上に立つ少し大きめの岩に瞳を向けて。

「始まりと終わりの地、か。もう行きますね?本物のトウドウ・ヒビキさん・・・」

踵を返し、世界に忘れ去られた墓に別れを告げた青年の首には、土色をした宝玉が陽の光を浴びて溢れんばかりの力を湛えていた・・・・・。


「お墓参りか?」
「ああ。まさかあるとは思ってなかったけど」
「覚悟は出来たか?」
「・・・・・ああ。喜劇の幕を引く。俺自身の手で・・・・」
「例え消えてしまっても、か?」
「そうだ。俺がここにいることは本来ありえない事だったんだ。例え歴史を繰り返すとしても・・・・・」
「そして再びクロウシード・ユグドラシルを名乗るのか?」
「いや。その名は俺には少し重いよ。あの人の偽者で充分さ」
「もう少し割り切れば良いんだよ、俺達みたいにさ」
「割り切れない。割り切れなんか出来ない。俺は一体何人殺した?そんな資格は無いんだよ・・・・」
「バカだよ、おまえ・・・・」



「それでね〜。メロディは白いお服の人に追いかけられたの〜」
(白い服?科学者?マッド?)
一瞬怪しい連想に取り憑かれるが危うく現世に意識を繋ぎとめる事に成功する。
「それでどうなったの?」
「アルベルトちゃんとおいかけっこして〜、アレフちゃんと遊んで〜。それから由羅お姉ちゃんに会ったの〜」
(それから以前の記憶はナシ・・・・・。やっぱりメロディが研究所から逃げ出したのか・・・?)
「由羅は優しい?」
「うん!すっごく優しいよ〜」
(もうメロディは一己の生命として存在してる。心配は要らないな)
「そう。由羅はお酒ばっかり飲んでるのかと思ってたからな。少し意外だ。」
「家じゃお酒もたくさん飲むけど〜、いっぱいいっぱい優しいよ〜」
彼は木にもたれかかり、メロディは彼にもたれかかって、彼の胸にまるで猫のようにじゃれる様にはほのぼのとした日の光が差している。
「そうだね。由羅は俺みたいに酷いヤツじゃないからなー」
「ヒビキちゃん?」
「ん?何、メロディ?」
振りかえり、彼の目を真っ直ぐ見詰める瞳・・。汚れを知らない、赤ん坊のような純真な眼差し・・・・。心の奥まで見透かされそうで彼は思わず目を逸らした。
「何か辛い事があったの?」
心臓が大きく鼓動したような気がした。
(知識はかなり乏しいのに見抜いて来るのか。よっぽど情けない面してるんだな)
苦笑をもらすとメロディが更に不思議そうな瞳でこちらを見ている。
「どうしてそう思ったの?」
質問に質問で返す。彼はしっかり意識していた。その行為が逃げだと。
「いつもと違ったの。シャボン玉みたいだったの。」
「シャボン玉?」
「うん。それよりもヒビキちゃんも何か御話してください」
「そうだね。ちょっと難しいお話だ。昔、昔。でもそんなに遠くないほんのちょっとだけ今に近いお話・・・・」
彼はこの話を人にするのは始めてだった。
「あるところに一人の男の人が住んでいた。そうだね、仮にこの男の人をヒビキとしようか。そのヒビキさんはとっても傷付いていたんだ・・・」
「どおしてですか?」
「心の傷ってヤツだよ。その人は大切な人を失ってしまったんだ。もう会えない。その事が彼を絶望させた。生きていたく無くなったんだ。でも大切な人との約束で、彼は死ねなかった。ただ、何もせず、生きているだけ。いや、死んでないだけって言ってもいいと思う。無気力なまま1日1日を過ごしていた。それから何日経ったかは分からない。とっても永い時間の後、彼は一人の少年に出会ったんだ。少年はトオヤといった。生まれた時から重い、辛い運命を背負った少年。トオヤは心も、身体もぼろぼろになっていた。それでもトオヤは生きようとしていた。ヒビキにはトオヤが分からなかった。トオヤを助けてしまった自分自身も。でも必死に生きようとしているトオヤに触発されるようにヒビキも生きる気力を取り戻していったんだ。」
「それからどおしたんですか?」
「トオヤはヒビキと一緒に暮らして色んな事を覚えていく。ヒビキはトオヤを弟のように、トオヤはヒビキを兄のように。今の由羅とメロディみたいに・・・・」
そこで一区切りする。ふと気配を感じる。
「でもその生活はいつまでも続かなかった。トオヤがぼろぼろになった原因。神様がトオヤを殺しに来たんだ。トオヤは神様とは敵だった。しかも神様よりも強かったんだ。神様とトオヤは戦った。何日も何日も・・・。神様は逃げ出した。でもトオヤは溢れ出る神様に向けていた力を抑えられなかった。その力はヒビキを殺してしまったんだ。トオヤは旅に出た。ヒビキと暮らしていた家は楽しい思い出ばかりで辛かったから。トオヤはいまでもこの世界のどこかを旅してるんだ・・・。自分の運命を知るために。生きる理由を捜して・・・・ん?」
メロディは何時の間にやら寝ていた。眼の端に涙を溜めて・・・・。
「寝ちゃった、か。ごめんな。悲しい話をして・・・」
髪を優しく撫でる。もういつもの彼であった。
「そこにいるんだろう?出てこいよ、パティ?」
がさっと茂みからパティが出てくる。顔はいかにもバツが悪そうである。
「知ってたの?趣味悪いわね、あんた・・・・」
「おや、立ち聞きしていたパティさん?趣味が悪いのはどっちかね?」
「悪かったわ。」
「それにしても・・・・・如何した、こんなとこに?」
陽のあたる丘公園の奥に当たるその場所。あまり人通りは多い方ではない。
「散歩の途中よ。」
「なあパティ?さっきの話聞いてたんだよな?」
「ええ。途中からだけどね。」
「トオヤは何のために生きてると思う?神様を敵に回して、ヒビキの死を背負ってまで・・・・」
「さあ?私は彼じゃないから分からないけど・・・・」
「・・・・けど?」
「ヒビキは幸せで、トオヤにも幸せに成る権利があるんじゃないかしら?」
「・・・・くくっ・・。あはははははははは・・・・・・」
その答えを聞いた瞬間、抑えていられなかった笑いが止めど無く流れていった。
「な、何よ!笑う事ないでしょ!?」
「ご、ごめん。でも・・・・・・」
まだ笑っている。笑いすぎて涙も出ている。
「ふう。」
漸く人心地ついたようだ。
「パティ・・・」
「何よ・・・」
ヒビキはおいでおいでしている。
「?何?」
とりあえず彼の前で両膝を突いて、目線を合わせる。ヒビキはパティを抱き寄せる。
彼に凭れ掛かっているメロディも一緒に。
「きゃあ!ちょっと、なにすんのよ!」
「なんですか〜」
寝ていたメロディは起きだし、パティは赤くなりながら抵抗する。
でも彼は二人を抱きしめた手を離さなかった。
「・・・・ありがとう・・・・・」
彼は溢れ出る思いをただその一言にこめて、二人に伝えた・・・・。







〜あとがき〜

第16弾完成!思えばこれは書き難い。設定の練り直しもあったし・・・。

龍の戦史シリーズも後半戦に入ります。後半こそ見所多いのでどこまで表現できるか

不安ですが頑張りたいと思います。

それじゃあこれにて。またお会いしましょう!
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