中央改札 交響曲 感想 説明

平和でもない日常久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第17幕


「本日の業務はこれでお終い、っと・・・・」
面倒な草むしりという労働を終え、ヒビキは珍しく飲めもしないコーヒーの香りを楽しんでいた。
彼曰く、「苦すぎ」らしいが実際は飲み付けていないからだ。普段は紅茶を飲んでいる。
「平和だねぇ・・・」
嫌に爺臭い。カップの中身がコーヒーではなく緑茶なら今の彼には良く似合っていただろうが仮定は厭くまで仮定である。おまけにここ、エンフィールドでは平和が一瞬にして乱雑な騒動に変わる事も多々あるので油断は禁物であるのだが・・・・・。
この日も例に漏れず騒動の種が舞い込んできた。

ダダダダダダッ!!!!!

ガチャ!チリリーバタン!!−ン・・・・。

カウベルの音が鳴りきるまでに物凄い勢いで扉を閉めると、アレフはそのまま床にへたり込んだ。
「どうした、なんか厄介事か?」
肩で息をしているアレフにいかにも迷惑そうにヒビキは尋ねた。視線は関るな!、と雄弁に告げている。気分的に分からんでもないが・・・・・。
「はぁ、はぁ、はぁ・・。おまえ、親友が、来たのに、それはないだろ・・?」
「アレフ・・・。おまえがここにそんなに息を切らせてくる大抵碌な事が無かった・・・。しがない一庶民に金はたかるは、喧嘩の仲裁を頼みに来た事もあった。しかも浮気が原因で。あの時ほど自分が情けなく思えた事は無かったな。まあそうゆうことで出来れば他を当たってくれ」
「ヒビキ!おまえだけが頼りなんだ!俺を助けてくれ!」
「俺には無理さ・・・。もう疲れたよ、今日は。」
「いいか?聞いたら共犯だ!俺は実はダブル・ブッキングをした!これでおまえも共犯だ!」
「開き直って言う事か!しかもなんで俺が共犯だ!」
「しかも嫉妬深いエリザベスに執念深いキャッシーの深いペアだ。もう逃げるしかないなぁ?」
悲壮感が漂っていた登場時と比べかなり狂気じみた言動だ。恐らくここに来るまでに随分追いかけられてきたのだろう・・・・。
「まあ頑張れ。部外者にはそれしか言えないな」
部外者を強調して言うがアレフは無視を決め込んだようだ。
「共犯て言っただろ?もう遅いのさ・・・」
「素直にごめんなさいって謝って張り手の一発で済む問題だろ?」
「事態は既に俺の手を離れてる」
情けない事この上ないが自業自得である。
「結局は相手次第か・・・。それでアレフは俺にどうしろと?」
「匿ってくれ。今日一日、いや、2時間で良い!」
「好きなところに隠れろよ。店の備品壊したら弁償はしてもらうからな」
しっかり釘を差しておく。
「助かる!」
キッチンに足を踏み入れた瞬間・・・。

ガチャ、バタン!

「アレフ様ここですわね!?」
「観念してください!」
「もう逃げられませんよ!」
「隠すとために成らないわよ?」
物凄い勢いで数人入って来る。息は荒いし、顔は怖いし千年の恋も冷めようというものだ。
「・・・・二人じゃなかったのか?」
まずかった。とても、まずかった・・・・。そのセリフはアレフの居所を知っていることを現している。
「ヒビキ様・・・・?」
一人がとてつもないプレッシャーで近寄ってくる。
逃げたかった・・・・。でも身体が動かなかった。まるで蛇に睨まれたカエルのように・・・・。
「な、何でしょう・・・・?」
懸命な努力の末、どもりながらもなんとか喉から音を出す事に成功する。それが良策かは関係無かったが。
(アレフ〜!!!テメーのせーだぞ!!)
心の内で絶叫を上げるが現実において何の作用もしなかった。むしろ頬が引き攣った御かげでより前の少女の追及が厳しくなったのでやらなかった方が良かったのかもしれない・・・。
「・・・・アレフ様はどこです・・・?」
一瞬アレフを差し出して窮地を脱する事を考えるが、
(殺されるだろうな・・・・・・・、たぶん)
その予測が限りなく訪れる未来に近いことを確信する。
(流石に渡すわけにはいかないよな?)
視線を気付かれないようにキッチンに向けると半泣きのアレフと目が合う。
(アレフ・・・・。もう無理だ。投降してくれ・・・)
(まだいける!頑張れヒビキ!さくら亭でなんか奢ってやるから耐えてくれ!)
(もう無理さ・・。ああ、宇宙が見える・・・)
(おい!大丈夫か!ヒビキ!)
アイコンタクト。彼らが行っている技術をそう言う。目と目で会話する、が一番簡単な説明である。
精神が遠いところに行ってしまい脱力するヒビキとそれを見て焦るアレフ。
(このままでは俺が見つかる。かといって今のあいつを放って行けない・・・。どうする?どうする!?)
苦悩の末、逃げる事を選ぶアレフ。無論ヒビキも一緒に、である。
彼の持つ限界の速度でヒビキの服の襟を引っ掴むと裏口から逃走する。
「アレフ!見つけたわよ〜!!!」
「待ちなさ〜い!!!!」
こうなったら逃げの一手。それこそが重要である。


「・・・・ん・・?ここは・・・?」
さくら亭のカウンターの中である。
「あら起きた?」
「パティ?なんで俺がここにいるんだ?」
「坊やはアレフが引きずってきたんだよ」
見ると服のあちらこちらが汚れている。
「アレフは?」
リサが顎を最寄の樽に向けてしゃくった。
「ふうっ・・・。あの中か・・・」
「困ったもんよね?」
パティの表情がどこか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか?
「パティ。この店で高いものから順に三品。アレフのツケで」
樽の中で物音が聞こえたがもちろん無視だ。
「アレフのヤツ何したの?」
「ダブルブッキング。お陰で豪い目にあった。たぶんこれからここにもな・・・」
「「ダブルブッキング!?」」
「そ。ここにもその内手が回る。今のうちに覚悟しといた方が良い・・・」
ヒビキは既に呆れて、どうでもよさそうな眼をしている。悲壮感がそれにエッセンスを加えている事は確かである。
パティはきっ!と樽・・・・、もといアレフを睨む。
リサはアレフを引きずり出しに掛かっている。
そんな時・・・。

ちりりーん・・・。

びくっ!!!

ヒビキの肩と樽が不自然に震える。
「こんにちわ、パティちゃん」
「いらっしゃい、シーラ。」
パティに変わってヒビキが答える。
「ヒビキ君?どうしたの、こんな時間に?」
珍しい時間帯に思わぬ人物と会えてシーラは嬉しそうで、反対にヒビキはこれからの騒動にシーラを巻き込む知れないという懸念に顔を僅かに歪める。
「バカの御守り・・・」
チラッと樽に一瞥をくれながらそう言い放つ。
「そう・・。パティちゃん私は・・」
「いつものヤツね」
この辺は息の合ったところである。
「はい、お待ちどう様」
順に三品。だが量は多かった。
「こ、こんなに食べるの?」
「リサ。一品やる」
そう言うと皿をカウンターの上で滑らせてリサの席の前で止まる。
「悪いね。奢ってもらっちゃって」
「アレフのオゴリ。俺じゃないよ」
そのアレフは樽から引きずり出され冷凍マグロの如く床で濁った目をして天井を見つめている。

ちりりりーん。

がたん!!

鈴の音がした瞬間、意識を覚醒レベルまで持っていくアレフと椅子を蹴倒しながら立ち上がるヒビキ。供に戦闘体制である。
「アレフ様!!」
「来たか!」
「何なの?」
一人だけ状況を把握していないシーラだがヒビキが逃げようとするのに習い、自身も逃げようとする。無論注文したホットミルクには手をつけていないどころか、出てきてすらいない。ヒビキは一皿征服完了済みである。
「リサ!後を頼む!」
「任せときな!」
リサが呆れる理由にも関らず引き受けたのはまだひとさら残っている料理のためと、先ほど与えられた恩=一皿分の料理のためだったりする。
ともかく逃げ終わったヒビキ達(ついでにシーラも)はお代は払っておらずパティは全てアレフのツケにしておいた。
「それにしても・・・」
「なんだい?」
リサの質問。
「なんでヒビキまで一緒に行ったのかしら?あ、そう言えばシーラも・・・」
ノリと言うヤツである・・・。


「何で、走ってるの?」
多少息切れしかかっているシーラが問う。
ヒビキは「アレフが予定重ねてその報復に追いかけられている」などと馬鹿げた答えを返すわけにもいかず、ただ走る。ふと、
(何で俺まで走ってるんだ?)
と漸く気付く。止まろうとしたが・・・・、止めた。止まる事を、である。

ズドドドドドドドッ!!!!!!!

後ろには牛、いや牛のように止まる事を忘れた生き物達が大勢いたからである。
「何人いるんだアホー!!!!!」
叫んで人数が減るわけでもなかったが・・・・。
「っく!このままじゃ・・・」
横のシーラは既に限界は近いし、少し先を走るアレフはもう逃げる事に全神経を集中していて言葉が届くか少々疑問である。
彼は決めた。例え噂が広まろうとも・・・・・。
「よっと!」
「きゃあ!」
片手を脇のあたりに入れ、もう片方の手は膝の裏側を持ち、抱き上げる。俗に言う‘お姫様抱っこ’と呼ばれるポーズである。
「シーラ、ちょっと我慢して・・・」
「は、はい・・・」
思わず敬語になっていたシーラ。顔は赤い・・・・。
「アレフ・・・・。」
「なんだヒビキ?っておまえはドサクサ紛れに何をやってるか〜!」
「緊急避難だ。さすがにアレの中にシーラを残したら怪我じゃ済まないかもしれない」
「そりゃそうだが・・・。羨ましいヤツ・・」
「ア、アレフ君!」
赤かったシーラの顔が更に赤くなる。
「現状を打破する策は一つしかない・・」
「してそれは?」
もうこれしか思い付かなかった、といっても魔法ナシの話である。
「アレフ・・・。」
「な、なんだよ?」
「スマン!」
とりあえず謝った。謝らずにはいられなかった。
言った瞬間、走っていた足を急停止させ、身体を沈み込ませる。アレフも俺と同じように・・・。アレフの進路。この場合右側だが足を引っ掛ける。

ビタンっ!

「アレフ・・・。本当にスマン。俺とシーラが無傷で助かるにはこれしかないんだ!」
アレフは地面と深いキスの真っ最中であった。
「後は任せたぞ!」
足速く危険区域から戦略的一時撤退を始めた。
「覚えてろ、ヒビキ〜〜!!」
聞こえても助ける気は起こらず、シーラはその事についてどうしてとは聞かなかった。


暫くアレフの悲鳴が聞こえていたがこれ以上はという所で止めに入る。
「それぐらいにしといたら?」
「でも!」
「直ったらまたやれば良い」
彼は今やるのを止めただけである。
「それともまだ殴り足りない?」
「これだけやればすっきりしましたけど・・・・・」
見ればアレフはぼこぼこであった。
「良かった。アレフは自称俺の親友だから死なれると気分が悪いし、君達もまだ捕まりたくないだろ?」
対人最強兵器である笑顔を炸裂させる。
「「「はうっ!」」」
「まあいいや。本人もこれで懲りたろう。たぶんこれからはそういうことがないと思うけど・・・・」
「そ、そうですか・・・」
妙に恐縮している女性達。ヒビキの目にはそう映った。
「誰が一番かはその内こいつがはっきり言ってくれると思うよ?」
「「「「わ、わかりました!」」」」
「それじゃ気を付けて帰るんだぞ」
こうして騒ぎが収まったのだが・・・・。
「あ・・・・。もう、下ろしてくれない、かしら?」
先ほどの説得の時もシーラを抱き上げながらのものだったのだった。
「あー、ごめん忘れてた」
そう言って下に下ろす。
「抱き心地が良かったんで気付かなかった」
余分な一言でシーラが火をつけたように上気していく。
「な、なな何を言うの!」
「なに慌ててんのシーラ?」
そう言いながらアレフを引きずりながら北に向かう。
「どこ行くの?」
「医者のところ」
それだけである。



後日、この時騒ぎを起した女性が全てトウドウ・ヒビキファンクラブに入ることと成る。







〜あとがき〜

17弾〜!書こうと思えば書けるもんですね?

アレフはボコにされ医者へ、というか次回までには直ってるんだろうけど(笑)

まあお約束でしょう。

それでは次回のあとがきで。
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