中央改札 交響曲 感想 説明

涙[後編]久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第18幕


俺は、誰だ?

俺は、何だ?

何のために、ここにいる?

誰の為に・・・?

俺の生きる理由は・・・・?

‘笑顔が見たいから・・・’

これは・・・誰だ?

あの女は誰だ?

貴様と会えば・・・俺にも分かるのか・・・?

クロウシード・ユグドラシル・・・・・。



「お兄ちゃん!何したの!?」
ジョートショップに駆込むなりローラの叫んだ言葉がそれだった。
ヒビキはヒビキでパティの作った鮭のムニエルをフォークで口に運んでいる時だった。
「何って・・・・食事だけど?」
他に何をしているように見えるとばかりに口に頬張る。
「違〜う!」
「ローラ?」
「何よ!」
「俺が何かやったらしいっていうのは事実なのか?」
「そうよ!」
実は違うのだがヒートアップしているローラには関係ない話だった。
「今日か?」
「そうっ!」
3秒ほど思案顔になると料理の用意係に徹していたパティに声を掛ける。
「俺が無実なのを証明してやってくれ」
そう言い渡すと黙々とライスをおかずと一緒に食べていく。
「ヒビキは無実よ」
「何でパティちゃんが言いきれるの!」
「だって今日ヒビキを起したのが私で、それがさっきだもの」

「ええ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

ワンテンポ遅れて事態を理解したローラが今度は先程のヒビキの様に思案顔になると、そのまま云云うなり出す。
(あの二人ってそう言う関係だったわけ〜!!?二人とも奥手だからまだアタックしてなかったのに〜!!これでこの街の良い男が一人減ったわけね・・・。諦めるもんですか!まだ勝負はこれからだもんね!)
などと歳の割にませている彼女は自分の思考を現実のものと誤認して更なる炎を背後に燃やしている。
ヒビキとパティは青くなったり赤くなったりと百面相しているローラを不気味そうに見守っている。当然朝の食事(と言っても実際はお昼過ぎ)の和やかな雰囲気を突如乱入してきた珍客に乱されたくないヒビキとパティはテーブルの上に置かれているおかずの類をローラから遠ざけていたりするのだった・・・。

「なあローラ?結局何がどうなってるんだ?」
未だ妄想中のローラに現実復帰の道を作るヒビキ。
「・・・・ああ!そうそう、お兄ちゃんでしょ!?トリーシャちゃん泣かせたの!?」
「泣かせるような事をした覚えがない。って言うかここ3日会ってないな」
彼は昨日まで隣街へのお使いに行っていてエンフィールドを離れていた。
「・・・そうなの?」
二人が黙って頷く。
「あ、あはははは・・・。じゃ、じゃあアレフ君かな〜?」
誤魔化そうとしている事が丸解りのローラのリアクションにヒビキは、
「はぁ〜」
と、いつもの如く溜息をつくのだった。
・・・・ヒビキはアレフが入院している事を知っていたから・・・・・。

「ふむ・・・?」
事の次第をローラから聞いたヒビキは首を傾げた。
「トリーシャが泣くほどの事っていったらリカルドのおっさんの事ぐらいだろ?」
厭くまでヒビキの知る範囲では、であるが・・・・。
「他に何か情報ないか?それだけじゃ原因究明、その対処法まで見当がつかない」
「何かあったっけ?」
「新製品の発売日じゃないし・・・・」
ヒビキは食後の口直しに紅茶を飲んでいかにも余裕そうだ。
「「あっ!!」」
「今日はトリーシャの誕生日じゃない!」
「お兄ちゃん知らなかったの?」
「全然知らなかった、って言うか聞いたこと無かったな」
彼に言わせれば誕生日不明で季節の変わり目で数えている年齢のことで誰か気に病むかもしれないから自然とその手の話題は回避してきた結果だった。
「ちなみに今日のおっさんのスケジュールは?」
「そんなの知るわけないでしょ!?」
「仕事、してるよな・・・?」
ヒビキには娘の誕生日だからといって休んでいるリカルドはいまいち想像できない。しかも彼は諜報部からの報告でリカルドがフェニックス美術館の盗難事件の捜査を個人的にやっている事を知っていたから尚更だった。
「もし仮に・・・。今日はリカルドが仕事だったとしよう。トリーシャはそんな事知らずにお祝いの料理とか用意していると仮定する。そこで父親が自分の誕生祝より仕事を優先したとしたら・・・?」
あまり考えたくない未来予想図が脳裏に映される。
「泣くわよね、トリーシャでも」

がたっ!

「捜しに行こう。ローズレイクに入水とかしてたら洒落にならん。ローラ、お前はさくら亭にいる知り合い全員に街中を捜させてくれ。シンとカスミとほのかには正門に来るように伝える事」
「分かった!」
ローラは壁をすり抜けて行った。
「・・・・・世話焼かせやがって・・」
彼は自室に愛用の二振りの小太刀を取りに行った。


「ヒビキ!大変だよ!」
エルが大慌てでジョートショップに駆込んでくる。
「・・・何だ?」
さも迷惑そうに尋ねるヒビキ。
「トリーシャが家出したんだ!」
悪い方へ悪い方へ動き出す歯車・・・・。
「エル!悪いけど裏門に行ってトリーシャが街の外に出たか確認してくれ」
出てさえなければ危険は少なくなる。
「パティは西門に!終わったら一応正門に」
「あんたは?」
「自警団事務所!」
先程立てた仮説が間違っている事を願いながら全力で走り始めた。

「西の山」
「そこにリカルドがいるんだな?」
「ああ。学生組は街中を。ピートとメロディはローズレイクを探してくれ。他は・・・着いて来たければ着いてきて」
アレフを除くいつものメンバーが集まっていた。分担もちゃんと利に適っている。
感覚の鋭いメロディとピートを湖に。トリーシャの行き場所が予想できそうな人物達を街に残し、探させる。自分達はリカルドのところへ行く途中にトリーシャがいたら保護するために。

得た情報はリカルドの居場所とトリーシャが外に出ようとしてた事のみ。
龍は動き出す・・・。

正門は静かだった。そしてそれは不自然であった。
「何でこんなに静かなのよ?」
パティの疑問の声が上がる。
「・・・う・・・うう・・」
呻き声の聞こえた方に全員で急ぐ。すると案の定門番をしているはずのクラウスが気絶していた。
「大丈夫ですか?」
カスミが駆け寄っていく。
「男・・・黒・・・・」
それだけ言うとまた意識を失う。
「漸く来たか・・・。クロウシード・ユグドラシル。会いたかったぜ・・」
何時の間にかシャドウが祈りと灯火の門の上に座っていた。
「シャドウ。俺は会いたかなかったんだがな・・・。それはそうとトリーシャを知らないか?」
言っておくが彼は特徴を話さなかった。それだけでシャドウには分かると確信していたから・・・。
「さっきここを通りたがっていたから通してやったぜ。今ごろは山の中だ」
「シャドウ・・・あんたがこれをやったの?」
ほのかが腰に着いている鞭に手を掛ける。
「そうだと言ったらどうするかね?」
「許さないわ!」

ビシィッ!

鞭が音速でシャドウのいた場所を薙ぐがシャドウは当たる直前に避けていた。
「おやおや怖いねぇ。流石に守護者3人を相手にするほどオレはバカじゃないんでな。この辺でずらからさせてもらうぜ・・・・」
そう言い残すとシャドウは己が影に呑みこまれ姿を消した。
「何者なの、アイツ?」
ほのかの表情は硬かった。
「シャドウ・マスターか、厄介な相手だな」
シンはエンフィールドの住民には見せていない鬼気を纏っている。
「カスミ、そいつお願いな・・」
「気を付けて・・・」
ヒビキとカスミはあっさりとしたものだった。
カスミを残し、彼らは出発した。

「森の事は森の住人に聞けってね?」
ヒビキのトリーシャ探索案は明朗そのものだった。
「本当にフサの集落に入るの?」
呆れ返ったパティがヒビキに意見するも、ヒビキのにっこりと表現したくなる笑みを向けられて轟沈している。
「教えてくれれば事が早くて済むんだけどな」
苦笑するシンのセリフは暗に教えてくれなければ脅迫すると告げていた。
「性質が悪いね・・」
とはリサの弁だ。
エルは親友の残した置手紙を思い返して小さな汗を一粒流していた。
彼女が見たのは玄関口に

「お父さんのバカァァァーーーーー!!!」

と殴り書きされていた下に小さく、「家出します」と書かれた書斎の本の1ページだったからだ。

「あん?」
「ここから先は我々の集落だ。用無き人間は立ち去るがいい」
「お前、何様?」
「シン。ガン飛ばしても変わんないって。所詮下っ端なんだから」
睨み付けているシンとさりげなく皮肉を言っているほのか。どちらもお世辞にも一国の最高責任者の一人とは思えない言動だ。
「とりあえず中に入れてもらう。長と話し合いがしたくてここに来たんだから」
ヒビキは堂々と言ってのけた。
「お、お入り下さい・・」
フサの門番は思わず敬語を使いヒビキを招き入れていた。

「さて長よ。我々のここに来た理由は一つ。人間の少女がここに迷い込んでこなかったか?それだけが聞きたい」
「お主は・・王か。なるほど精霊達が騒ぐわけじゃ」
「答えは?」
「ここには居らん。今ごろは山の頂じゃろう」
「・・・何故?」
「あの者は龍の怒りに触れたのじゃ。あの者がそれを鎮めるのは当然じゃろう?」
「・・・生贄、ということか?」
「そうじゃ。龍の使いと名乗るものがここに来て、あの少女を捧げれば龍の怒りは静まり、我等を護ると約束した」
「酷い・・・。なんて事を!」
パティが叫ぶ。
「何が酷いのじゃ、人間の少女よ?我等は厭くまで自分達の暮らしを護るためにやった事じゃ。おぬし等が自衛のためと称して魔物を狩るのと何が違うのじゃ?」
「そ、それは・・・」

「・・・・貴方達は、辛さを知っているのに。誰かを犠牲にして得た幸せで、それで満足なのか!?」

彼の叫びにフサの長老は答える事が出来ずただ沈黙するのみ・・・・。
「行くぞ・・・。もう、ここに用はない」
その時ヒビキのズボンを引く者がいた。
「お前は・・?」
「・・ありがとう」
「・・・どういたしまして」
それは昨日水を調達しに森の中に入った時に助けたフサの子供だった。
ヒビキには充分だった。お礼だけで、敬意を払われるよりもずっと嬉しかった。

シンを残してヒビキ達は山の頂に向かった。
「お主は行かんのか?」
「一つ、言っておく事がある。」
「な、なんじゃ?」
「もしトリーシャが無事でなかったら。龍の代わりにオレがお前等を皆殺しにしてやる。」
「なんじゃと!?」
「お前等はあいつの心に傷をつけるかもしれない。あんたらが今の暮らしを護る事に誰かの命を掛けるように、オレはアイツの心を傷付ける奴を生かして置けないんだよ」
あまりに重く、強い、シンの決意・・・。
その時突風が彼ら二人を襲った。
「たあすけて〜〜〜〜!!」
「ちいっ!まずった!」
シンは思わず舌打ちしていた。彼の目には彼の知る龍とは似ても似付かない大型爬虫類が先程のフサの子供をカギヅメで鷲掴みにしてどこかに連れ去ろうとしているところだった。
「こりゃあ、定食じゃ済まないかもな」
シンは本気で自らの財布の中身を心配した。

「っ!邪魔だっ!」
アルベルトの長槍を片方の小太刀で受け止める。
「俺達が争っている時じゃないだろうが!」
もう片方の小太刀の柄で人体急所の一つである水月を突き上げる。
「がはっ!」
「そこで寝てろ!エル!リサ!ここは頼む!」
「あいよ!」
「トリーシャを頼む!」
エルとリサに残り二人の自警団員を任せると猛然と走り出す。


山の頂に辿り着いた時に彼らが見たのはズタズタに切り裂かれたリボンの切れ端だった。そしてその奥にいる巨大な蜥蜴もどき・・・・。
シーラとパティはそれを見て顔を真っ青にしていた。
そんな二人にほのかが囁く。
「あなた達、今の内に逃げなさい」
「どうしてですか?」
「彼が、キレルかもしれないわ」
ほのかの視線の先には未だ動かないヒビキがいた・・・・。



赤いカーテン
赤い床
物言わぬ少女

ヒビキの脳裏にフラッシュバックする過去の悪夢・・・・。
過去の自分が今の自分に。
海の姿がトリーシャに重なる。

ドクン!ドクン!!ドクン!!!

鼓動が・・・少しずつ大きくなっていく。

(ユルサナイ・・・・)

世界を通して己の内に力が流れ込むのを感じる。

(ナニガタチフサガッテモ・・・)

精霊達が声高らかに彼に力を貸し与える。

(コノケリハツケル・・・・)

彼の封印はこの時解けた。彼の理性が消えうせるのと同時に・・・。

「うおおおおおおおおお!!」
超音速でドラゴンの腹部まで駆け寄ると詠唱無しの魔法弾を数百創り出す。その魔法球は翼を蒸発させ、臓腑を焼き、鱗を焦がした。

「あいつが怖い?」
ヒビキの圧倒的な強さを目のあたりにして小さく震えているシーラとパティにそう聞くほのか。
「もし怖いなら・・・これ以上彼の心に近づかないで。なまじあの街の人に心を許しているだけに彼はとても傷付くから・・・・・」
とても哀しそうにほのかは告げた。
鬼神の如き強さを表すヒビキに恐れを抱く少女達に・・・・・。

30秒もすると龍は跡形も無く消えうせていた。
「はあ・・・はあ・・はあ・・・・」
「またやっちまったなぁ?」
「・・・・・・シャドウ」
「お前はいつも大切なものを護れない・・・」
「そうだな・・・」
「何時だって傷付けてばかりだ・・・」
「ああ・・・」
「そんな奴が何だって誰かに何かを与えつづけたトウドウ・ヒビキを名乗るんだ?いいかげん元に戻ったらどうだ、神殺し」
「・・・・・」
「お前が殺したんだろ、本物を?じゃあお前は誰だよ?」
「俺は・・・クロウシード・ユグドラシル。世界樹の破片だよ」
「後ろの二人を見てみろよ?お前に恐怖を感じてるんだぜ?滑稽じゃないか!笑わせてくれるぜ、本当に」
彼は二人を正視できなかった。
「あの女は誰なんだ?」
シャドウは真顔になって彼に聞く。
「あの女だ。笑顔が見たいから、とか言っていた女だ」
「・・・・雫さん、か?なんでお前が・・・」
「気にするな。お前の捜している女はそこの岩陰にいるぞ。放っといたら死ぬがな」
そう言い残すとシャドウは消えた。
「何なのアイツ・・・・」
呟いたほのかだがふと気付いて辛そうにしている彼に駆け寄る。
「大丈夫。大丈夫だよ・・・・・」
そう言ってほのかは彼の頭を胸に抱いた。

「トリーシャは?」
エル、リサ、リカルドが駆け付けてきた。
「今、治療受けています」
リカルドにシーラが答える。
「そうか・・・」
「所でアルベルト達は?」
パティである。
「ああ、アルはまだ気絶していたので他のものに任せてきた。ヒビキ君は?」
「・・・あそこです・・・」
ほのかの膝枕で深い眠りについているヒビキがそこにはいた。
「お父さん!」
「おお、トリーシャ。無事で良かった」
「その・・・ごめんなさい」
リカルドは娘の頭をポンと軽く撫でる。
「無事ならそれでいい」
親子は分かり合ったのだ。この時この場は。

「ヒビキ君。ありがとう」
「ヒビキさん。ありがとう」
「・・・・俺は」
目を閉じる。
「俺は助けたわけじゃありません。ただそうしなければいけなかっただけです」
それは今までの彼とは決定的に違った。
彼の心の内がヒビキからクロウシードに変わったが故に。
「ヒビキさん?どうしたの?」
儚げな笑みを見せているヒビキにトリーシャは困惑を隠しきれ無かった。彼女の中では確かに彼はヒビキだったから・・・・。
「・・・・風は止まる事がない、か」

彼の封印は解かれた。
自身の意思と魔力で封じていた一つ目の扉。
守護者の力四人分で封じていた二つ目の扉。
四つのエレメントで封じられていた三つ目の扉。
そして・・・・。
全ての扉が開く時、世界は天国となるか地獄となるかそれとも・・・・。
思いが複雑に絡み合い、歯車は歪んで行く。
果たして出来あがる物語は・・・・・。
それはこの時誰もわからなかった・・・・・。







〜あとがき〜

うっしゃ〜!!

パート2出来あがり。久遠の月です、こんにちわ。とりあえず語る気力がないとだけ言っておきましょう。

詳しくはメールでも何でもオッケーです。ともかく感想が欲しい。

それじゃあこれで〜!また次回のあとがきでお会いしましょう〜!
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