中央改札 交響曲 感想 説明

影の存在久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第19幕


ただ、虚ろき闇がそこにはあった。

ただ、眩い光がそこにはあった。

二つは同じモノのはずなのに正反対。

光も、闇も、想いを乗せるという役目は同じなのに・・・・・。

彼の、いや彼等の進む道は一体どちらになるのだろうか?




「があああああっっっっ!!!!!」

獣じみた絶叫が闇の中を木魂する。

「やめろ!やめろ!!やめろぉぉぉぉーーーーー!!!!!!」

狂気と相反する冷静さ。その人物はその二つをその身に宿していた筈だった。
だが今は・・・・・・・その面影は、ない・・・・。
ただ、狂おしいまでの情念に心を焼かれ、止められぬ惨劇に想いを打ち砕かれる、哀しい夢を見て叫び声を上げる男が一人。
その夢は彼のものであって彼のものではない。だが確かに彼のものであろう。その夢を見て、心に傷を負ったのは間違いなく彼なのだから・・・・・。

「何故、何故、何故こんな事が許される!!!」

もはや生まれた頃の彼とは違う、確かな存在。哀しみも、憎しみも、喜びも彼は持っていた。決して彼自身だけの手で掴み取ったものではないにせよ・・・・。

「貴様は!貴様だけはっ!!この俺の手で殺してやるぞっ!!!‘神’よ!!!」

影の男は闇の中、薄明るい光を纏っていた・・・・・。





その頃、トウドウ・ヒビキことクロウシード・ユグドラシルも同じく深い眠りの中にいた。
その眠りは「トリーシャ家出事件」の最中、自身にかけた封印を一部とはいえ解除し、溶岩の中を闊歩するような耐熱力を持つ龍を‘蒸発’するような莫大な魔力の行使による反動によるものであった。そして、一晩たった今、なお彼は夢の世界にいた。
彼は懐かしげに目に映る光景を見ていた。といっても夢の中の世界の光景ではあるが・・・。彼自身も理解していた。これはかつて自分が体験した事だと・・・。

もう戻れない、幸せだった時の欠片・・・・・。


「海?」
「なあに?」

青色の髪の少女は首の辺りで一つに纏めた長い髪を邪魔そうにすらせずに彼を見つめる。彼女に声をかけた少年は黄金色の髪に緑柱石よりも明るい、エメラルドよりも深い翠色の瞳をしていた。

(昔の俺か・・・・)

「海は今、幸せ?」

少年が誰かに幸せかと聞いた最初で最後の時。彼は知っていた。少女が何と答えるのか・・・・。当時はその言葉を嬉しく思った。だが今は、辛いだけだった。この後に起きる惨状を知っていたから・・・・・。

「幸せって言うのがどんなものか知らないけど、たぶん今感じてるのが幸せなんだろうね?」

慈愛に満ちた微笑み。誰もが彼女の笑みを見ていたら「聖女」と呼ぶだろう。少年は向けられた微笑みに微笑みをもって返す。彼らを祝福していたのは彼ら自身。間違っても神などと言う存在ではなかった。

「昔、本当に小さかった頃。俺に優しさを教えてくれた雫さんっていう人がいたんだ。姉みたいな人だった。もう死んじゃったんだけど・・・・。その人が言ってたんだ。」

翠の瞳とこげ茶色の瞳が見詰め合う。

「幸せになる権利があるって。死ぬのは精一杯生きた後で良いじゃない?って。人を好きになって良いんだって・・・・」

「そう・・・・」

「俺は、今、初めて幸せだって思ってる。俺がいて、海がいて、笑い合って、そんな瞬間の連続がとても大切なものに思えるんだ。ありがとう、海」

「それは・・・愛の告白と受け取っても良いの?」

「いいよ。一緒にいよう、ずっと・・・・」

二人の唇が近づくが何を思ったのか海が少年の唇に人差し指を当てて押し留める。

「キスは夜までお預け。ほら行ってらっしゃい。あの二人が待ってるんでしょ?」

他愛無い、少年と少女の交わした口約束。だがそれは守られる事はなかった。少女の死、という最悪の形で・・・・。

(護れなかった。俺はこの瞬間にトウドウ・ヒビキになった。大切な人を護れなかった人。彼と俺は同じになった。ただ一つ違ったのは彼は約束のために生きていて、俺は呪われた運命に終止符を打つために生きていったと言う事。)

彼の前ではかつての自分であった少年が最愛の少女の死を前にしてうろたえ、哀しみ、慟哭の叫びを上げていた。

(現存する未熟な‘神殺し’ということで、クロウシード・ユグドラシルを名乗った。じゃあ今は?彼は自分と大切な人の為に生きた。俺は・・・?偽者を名乗る事すら出来ない、か・・・。俺はやっぱり、ユグドラシルの申し子だな)

そしてゆっくりと彼の意識は目覚めていった・・・・。




どたっ!

音と共に彼は目覚めた。音は彼がベッドから落ちた、いや落された音だった。
「・・・・・・痛い」

寝ている人間は敏感且つ無防備である。鉛筆を握って火傷とはいかないが水脹れが出来ることすらあるのだ。しかも滅多に他人に起される事がなく、自然と起き出す奴にとっては青天の霹靂。思ってもみないことだから尚更である。序に言っておくが普段の彼は極々浅い眠りで何が起きても飛び起きる事が可能だった。

「起きた?」
目の前の少女、トリーシャ・フォスター。彼の珍しく深い眠りの理由とも言える人物だった。
「ああ。実に健やかな目覚めだ。出来れば今度は自然に起きたいものだな」
遠回しながら文句を言うのは忘れない。
「やっぱり秋の朝は寒い・・・」
トリーシャに引き剥がされた毛布を被り思わず丸くなる。彼は寒いのが苦手だったのだ。
「だ・め・だ・よ〜!!起きなさ〜いっ!!」

どたんっ!

布団と一緒に空中に浮かび、床に落下する。
「なあ、何か俺に恨みでもあるのか?って何でこんな朝っぱらからお前がここにいるんだよ?」
「それは昨日ボク達がここに泊まったからだよ」
「どう言う事だ?」
「ボクの誕生日祝いここでやったの。私が家に料理とか用意してたんだけどお父さんの仕事のこと聞いた時に全部台無しにしちゃったから・・・・。由羅さんとかも来てくれてね。済崩し的に宴会になっちゃってパーティーに参加した人は一部を除いてお泊りしちゃったんだ」
「何となく分かるけどお泊りした人は?」
「ボクにお父さんにシェリルにアレフ君にシーラにパティちゃん」
「何処に寝たんだそんなに・・・」

シャッ!

トリーシャが閉まっていたカーテンを開ける。
「ボク達はアリサさんの寝室で寝かせてもらったんだよ。アレフ君とお父さんはソファーで毛布被って寝てたけど」
潰れた二人に毛布を被せた、が一番正確な表現である。
「ほのかさんとかカスミさんは酔ったシンさん引き摺って帰ったし、イヴさんは黙々と大吟醸飲んでたのに平気な顔して帰るし、エルは叫びながら帰っちゃった。リサさんは夜ここで寝てたのに朝になったらいなかったよ」
(たぶん、いや確実にクリスは危機を上手く脱出したんだな)
自制の効くあの‘仕事の鬼’のリカルドが酔いつぶれているらしい。よっぽどテンションの高い宴会だったのだろう。彼は思わず心の内で胸を撫で下ろしていた。
「すぅ〜」
「寝るな〜!!」
3度目の落下は頭からだった・・・・・。


「で、俺を起しに来たからには何か用があるんだろ?」
トリーシャを自室から暫く追い出し着替えた彼はトリーシャの腹の内を探る。
「あ、あはははは・・・。やっぱり分かっちゃった?」
「そりゃあ、な・・・」
「昨日ボクの誕生パーティーに出席しなかった罰!今日一日ボクに付き合う事!」
「罰って言われても今日俺の仕事は?」
「アリサさんにお願いして今日ヒビキさん非番だよ」
「アリサさん・・・なんて事を・・・・」
深深と溜息をつく。
「他の連中は?」
「今ジョートショップにいる中で二日酔いを免れているのはアリサさんだけだよ」
かつてない宴会が行われていたらしい。余り酒に強くないヒビキは戦慄していた。と同時に心の内で
(由羅・・・後で覚えとけよ・・・)
と、顔を見たら報復するぞノート、イン精神にしっかりと極太マジックで書きこむ。
「さあ、今日は楽しもうね!」
引き摺られるように、って言うか本当に引き摺られながら彼らはジョートショップを後にした。







〜あとがき〜

シャドウが変わる。作者の初期設定より更にシャドウは変わりまくってますね(笑)

今回ほど意味のないお話を書いたのは初めてだなって思ってますけど・・・。

皆さんはどう思われましたか?

意識改革を狙ったわけでもなく、イベントネタでもないし。

ま、いいか・・・・。

それじゃあまた次回のあとがきで!そんじゃねー(爆)
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