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彼と彼女の結婚式久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第22幕


「うけけけけけけけけけ・・・・・」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・」
「知らないからね!私は知らないからね!?」

そこには一種、異様な世界が展開していた。

傍目には・・・・・。

妖しげな奇声を上げながら、黙々と魔法陣を描いていく者・・・・。

海よりも深い溜息を遠い目で眺めている者・・・・。

あからさまな責任逃れをしようとしている者・・・・。

実際は・・・・。

とある少女の壮絶なお仕置きによって精神汚染を引き起こし、心がアッチの世界に
行っているままで惰性により今迄やっていた作業を続ける憐れな男いる。

目の前で怪しい行動をしている仲間を止めてやる勇気も、放って置くだけの無責任さも持ち合わせない己に深く、虚しい溜息をつきながらこの出来事が後に及ぼす結果に頭を抱えている女性が一人。

男を止めようとした己の行動がより笑いごとにならない事への移行となってしまったことに罪悪感を感じる一方で、彼ら共通の知り合いである青年と少女にささやかな再会劇をプレゼントできた自分に密かな満足をしている少女。もっともその後に起こる青年の行動に予想がつき、責任転嫁をしていたが。

エンフィールドの・・・・。とある午後の妖しいまでの出来事。幸いな事に他に目撃者はいなかった。

風は想いを乗せ損ねて、ただ呆れていた。





「納得いきませんっっっ!!!!」

ジョートショップの朝の定例ミーティングで珍しくヒビキが仕事拒否をしていた。アリサを含めたほぼ全員は彼が仕事を拒否するのを始めて見たのだった。これまでは屋根の修理であろうがゴミ拾いだろうが文句の一つも言わず、鼻歌交じりにこなして来た彼が、今、始めて抗議をしていた。
「あら、向こうは貴方を指定してきたのよ?」
やんわりとアリサが言ってもヒビキには効果が無かった。いつもなら大概それで事は沈静化するのだが今日ばかりはそうも行かなかった。ちなみに女性陣(一部)は密かにそんな彼にいらただしさを感じていたのだが。
「俺は、い、や、で、す!」
「本当は俺がやっても良いんだけど、それをやっちまうと泣く子がいるからな。まあ、お前が妥当だよ」
茶化したアレフを鋭い視線で睨むヒビキ。その視線には・・・・恨みでこいつをキルユーできたら、ってな意味が多分に含まれている。
「そうか、お前がやるんだな?泣く子じゃなくて、お前の命を狙う子が沢山出るんだろうなぁ〜?鍵の数だけな・・・」
ぼそぼそした声から徐々に声を大きくしていく。はっきり言って恐い。怪談をする時に使う口調で、臨場感はばっちりである。
「・・・・・・あ」
「まあまあ。で、如何して嫌なんだ?」
呆れ気味のエルがアレフの胸倉を引っ掴んで吊り上げているヒビキにそう尋ねる。ちなみにアレフはさりげなく呼吸しやすいようにポイントをずらしている。

「何で俺が結婚式なんぞせにゃいかんのだ!」

彼が拒否していたのはセント・ウィンザー教会での結婚式の宣伝の依頼である。ただ単純にイメージアップの物なのだができれば外見上の魅力を重視したいのは当然であった。その結果どちらかというと硬い感じのする自警団第3部隊に依頼するよりも近寄りやすいジョートショップに依頼がきた。しかも、今のジョートショップにはヒビキを始め、エンフィールドでは有名な美男美女が勢揃いしている。
もはや、自明の理、であった・・・・。

「でも、私は少し嬉しいかな?」
「パティ〜?」
これまた恨みがましい視線でパティを見るヒビキ。アレフは持ち上げられたままなので顔色を悪くし始めている。
「予行練習になるしね♪」
「・・・・・嫁の貰い手がいるのか?」
不届きな発言をしたアレフにパティは往復びんたをお見舞いした。
「ア、アレフ君・・・流石にそれは無いんじゃない?」
クリスが怯えながらも一応言うべきところは言っている。もっともアレフはとっくに意識を手放していたが。
「進歩のない奴」
リサの呆れた声も頷ける。
「・・・・・ヒビキさん、嫌なんですか?」
シェリルがやや俯き加減にそう聞く。ここで瞳が潤んでいるのがポイントだ。
余談ではあるがこの街でヒビキが逆らえない人物は4人いた。カスミ、シーラ、シェリル、そしてトリーシャである。トリーシャの場合のみ何か言う前に引っ張って行かれると言う実に情けない認識があるのだが、他の場合は泣かれそうで断われないのだ。
「い、いや・・嫌って訳じゃ・・」
案の定あっさり屈するヒビキ。まあこの程度可愛いものだろう。
「じゃあ、いい?」
止めを差したのはシーラだった。
「・・・はい」
ヒビキは心の内で不甲斐ない自分に涙を流していた事を記しておこう。


「で、この3人な訳ですね?」
「はい・・・」
神父の声に心底疲れたヒビキの声が答える。
「お兄ちゃんモテモテだね〜?」
ローラがからかうもそれに冗談で答えるだけの心のゆとりは彼には無かった。
「頼むから言わないでくれ・・・・情けなくなるから」
視線は何処か遠くを見ていた。
「身長160前後ってだけで何で3人も来るんだろ?」
結局ウエディングドレスの問題で似たような身長のパティ、シーラ、シェリルがこのイベントに参加することになった。当然ヒビキはその相方。新郎役として横に立つ事になる。・・・・・・3人分。鈍感な彼は少女達の微妙な思いにまるで気付いていなかった。
彼の心にはまだ、自分が護れなかった少女への罪悪感がいまだ残っていたのだから。

「結婚式は何時になっても変わらないものだな・・・」
一度だけ、彼は結婚式に出席した事があった。無論、祝われる方でなく、祝う方ではあったが・・・。
バージンロードを歩く義姉・・・。
幸せを一身に受け止めて、こちらが嬉しくなるような笑顔で・・・・。
泣きながらありがとう、と言っていたあの顔・・・・。
カスミは横で膨れていた。相談も無しに、と。
シンは珍しく真面目な表情を作って、おめでとうございます、と言っていた。
ほのかはブーケをゲットするべくベストポジションをキープし続け。
海は彼の肩に頭を預けて、眠そうにしていた。
空に舞うブーケ。
何故か自分の手元に落ちてくる、それ。
女性陣が一斉に自分へと視線を向け、そこに混じる強固な意志に思わず逃げ出していた彼。
企みの主はころころと笑っていた。
横では新郎が呆れていた。

「本当に、変わらないよな・・・」
(もしかしたら、俺は思い出したくなかったのかもしれないな・・・)
「ヒビキ君、君も早く着替えてきなさい」
「あ、はい」
我に返ると、礼拝堂から出て行った。

ステンドグラスから差しこむ光が彼を無数の色に染め上げていた。彼の着ている服は純白。何色にも染まる・・・。
まるで、一幅の名画の様だ。いや、瞳の色が見る角度と、光によって色彩を変えるので劇のワンシーンの方が似合っているのかもしれない。
「綺麗・・・・」
シェリルは思わず呟いていた。
「・・ん?着替え終わったの?」
作品が人に変わる瞬間をシェリルは見た気がした。
「あ・・・はい。」
「そっか・・・さっさと終わらせよう。長時間この格好はきつい。」
「・・・・・そうですね」
「それとシェリル。」
「なんですか?」
「髪、下ろした方が似合ってるぞ」
「え!?」
ヒビキは気にした風もなく、見世物になりに行った。

「お、終わった・・・・。」
「お疲れ様。まあ、お弁当でも食べて元気出しなさい」
「こんなに疲れるものだとは思わんかった・・・・」
「大丈夫、ヒビキ君?」
「もうダメ・・・」
ネクタイを緩めると椅子に突っ伏す。最初の見世物になりに行っていたシェリルも今は着替えている。
「それでどうだったの?」
「野次馬が次から次と・・・終いにゃフォートに撮って、絵にするとかそんな話まで出てた・・・・」
実際もう数枚撮られて処理されていた。
「冠婚葬祭、男はネクタイ変えるだけ〜」
「だ、大丈夫かしら?」
「平気なんじゃないの?」

「似合わないな、お前」
「うるさいわね!」
「ま、でもそう言う格好も悪くはないだろ?」
「まあね」
「でも、本当に似てるよな・・・・」
「誰に、よ」
「秘密♪」
とことんパティをからかうヒビキだった。
(本当に似てる。外見上は似てないけど、内面は本当に・・・。幸せになる権利、か。同じセリフを違う人から聞いたのって始めてだったんだよな)


「時間余りますよね?」
「ふむ・・・・。少し、日程より早いな・・・・」
「どうします?」
「実際に結婚式を再現してみようか?代役立てて」
「!良いですね、それ。話題性ばっちりです!」
「直ぐに、連絡しよう!控え室にいるんだろ、彼ら?」
業者さんのこの思い付きは彼らを更に面倒くさい事態に巻き込むこととなる。

「はぁ〜〜〜〜?」
「・・・・・・俺に死ねって言うのか、あんたら?」
「そ、そんな・・・」
「・・・・・」
反応はそれぞれだった。批判的な3人と、賛成的な一人。一人だけ、本気で事態について悩んでいたが。
「是非、お願いします!」
「やです」
「そこをなんとか!」
「俺はまだ死にたくありません」
「後、2次間ほどですから・・」
「無理です」
だが、結局ヒビキは押し切られた。このままでは、これがずっと続くように思われたからだ。

「・・・・・だから嫌だったんだ。こう言うのはアレフの得意分野だろうに・・・」
「まあまあ。アリサおばさまだって悪気があったわけじゃないんだから」
拗ねているヒビキを必死に宥めているシーラ。いつもと立場が逆である。
「・・・ずるいわよね」
「・・・・そうですね」
残る二人の少女もヒビキ同様拗ねていた。

神父は祭壇の前に。ヒビキはその前に。なぜか、来賓席には野次馬の人々が座っていた。その中には仕事を終わらせたジョートショップのメンバーや、トリーシャ等の仲の良い面子が優先的に良い場所を取っていた。まあ、協力者だから、であるが・・・。
新婦の父役は何故かアリサがやる事になっていた。まあ、こちらはいつもの格好ではあったが。
シーラの着ている純白のウエディングドレスはつい先日あった演奏会で着ていたドレスにも増してよく似合っていた。アレフなどはこの光景を見れた事に感謝するか、横に立つ資格を持っているヒビキを羨ましがるか迷ったほどだと言っておこう。

一歩、一歩。ゆっくりと祭壇に近づく。

青年の表情は色々な想いが混ざり合い、複雑なものにしていた。

青年に並ぶ。

横に立つ少女に何故か罪悪感を感じた。

(こんな感じで良いのかしら?)

(なんだ・・・・この気持ち?苦しい?)

「新婦、シーラ・シェフィールドは健やかな時も病める時も、新郎、トウドウ・ヒビキに永遠に愛することを誓いますか?」

「新郎、トウドウ・ヒビキは健やかな時も病める時も、新婦、シーラ・シェフィールドを永遠に愛することを誓いますか?」


ただ、お芝居の通りに・・・。


「・・・誓います」

「・・・・・・・」

「ヒビキ君?」

神父が問いかけるもヒビキは沈黙を保ちつづけた。

「(幸せになる権利。良いのか、俺は。誰かを幸せにする事は俺には出来ない。不幸にするのが関の山だ。海の様に・・・・・。そんな俺に資格があるのか?)」

観客がざわざわと騒ぎ出した。

「・・・・俺は・・」

ゆっくりと想いを言葉に換えてゆく。既に彼の頭の中には仕事とか、お芝居とかそんな物は抜け落ちていた。

「私は、神に許されざる罪人です。」

その一言は会場を凍らせた。彼を罪人にしたのはこの街である。その認識故に。

「でも・・・・神ではなく、自身に誓いましょう。永久ではなく、永遠でもありませんが・・・・・死が、二人を別つまで・・・・・」

シン、カスミ、ほのかの3人は辛そうに表情を歪めた。真実を・・・彼の過去を知っているが故に・・・。



「辛そうだったわね」
「・・・・そうですね」
「何があるんだろう・・・・。どんな事があったんだろう?」
少女達も、悩む。
「まだ・・・・私達は隣には並べない・・・」
シーラの認識は正しい。まだ・・・・彼の過去に触れてはいないのだから・・・。


「あいつも苦しんでる様だな・・・。ここまで負の感情を貯めこんでいながら、それでも・・・・。」
影の男もその場面を見ていた。
可笑しそうに、哀しそうに・・・・。
ヒビキそっくりな苦笑を浮かべながら・・・・・。


「俺は・・・・・・これで良かったのか?」
ヒビキの前には、蜘蛛の巣状にひび割れた鏡の向こうで無表情な自分の姿が映っていた・・・・。




〜あとがき〜

はい、久遠の月です。約束通り、ちゃんと一週間以内です。なんか・・・・ダーク系な雰囲気になってしまいましたが・・・・。
まあ、後の為の伏線とでも思っておいてください。一応、必要だったんですよね、これ。
タイトルは特に思い付かなかったんでこれになりました。

それじゃあ、これで〜!
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