中央改札 交響曲 感想 説明

血戦[中編]久遠の月


   悠久幻想曲   龍の戦史   第23幕


(違う・・・・・・・)

彼の捉えた感覚は確かにその一言に集約されていた。声とも思念とも違う意思その物が、だ。

(・・・・・ここは何処だ?)

彼自身自分のいる場所が何処か把握しているわけではなかった。周囲は闇そのものと言って良いほど暗かった。その中で自分だけぼんやりと光っている。普通の人間なら慌てふためき、恐怖に怯え慄くのだろうが彼は慣れてはいなかったが取りたてて騒ぐほどではなかった。

(感覚を断たれている訳じゃないし、精神攻撃なら何かそれらしいのが出てくるはずなんだけど・・・・)

掌を開いてみたり、氣を集めてみたりと戦える条件を確認しながらそう結論を出す。

(・・・・・・・・・・夢か?)

その思考と共に世界が変わった。


そこには見慣れた光景が広がっていた。食べた時のまま洗われていない食器がテーブルの上に鎮座し、リビングには霞が乾パンにジャムを塗りながら鼻歌を歌っている。彼の記憶にある通り、彼女の髪はまだ短いままだ。外には幼い進が訓練用のプラズマ・ソードを振って、額に大粒の汗をかいている。やはり彼も当時の様に闇を思わせる黒髪のままだ。

(何だってまたこんな昔のことが・・・・・・・?)

目の前の彼らはここにいる自分に気付いた様子もない。幾ら結界の中だからと言って決して気を抜かない彼らの傍に、気配を隠そうともしていない自分がいるのに、である。

(認知されていないってことか・・・・・・・・・)

何処か皮肉気に口元を歪めながらそれを認めた。それも認めても何ら事態が変わらないことを見越した上でだ。

(まあ良い。ここの俺は何処だ?)

ゆっくりと意識を外に飛ばす。崩れたビル。壁にこびり付いた生々しい血痕。頭部のない、人間だった者の痕跡。地面の剥き出しになった道路。どんな生物とも違う、異形の姿をした魔物。瓦礫に突き刺さった朽ち果てた剣。彼の意識にそれらの情報が流れこんできて思わず嘔吐しそうになるがゆっくりと落ち付かせる。

(何時見ても地獄だな、ここは・・・・・・・・)

彼は知っている。この惨状の直接的な原因を。だが、この時に知っていた人物は一人しかいなかった。また、今の自分がその彼のところにいることも・・・・・。

藤堂・響・・・・・・。

彼と同じく神殺しの血を引きながら、神を狩ることを拒否した人間。自分の師であり、兄であり、また父でもあった。この時まだ彼は生きている。まだ、彼が殺していないから・・・・・・・・・。


剣と剣が交錯する。剣閃が風を巻き起こし、肌を浅く切るが相対する二人は気にもせずに次々に技を繰り出す。

(この時はまだ知らなかった。自分に対するどうしようもない殺意も、身を裂くような悲しみも、大切な人を護れなかった後悔も・・・・・・・・)

ぼんやりと二人を見ていた。時間を忘れて・・・・・・。自分を忘れて・・・・・。
在りし日の、黄昏を・・・・・。

青年の首には5色の宝玉がそれぞれの輝きを世界に広げていた。青年は宝玉を指で弄りながら、疲れて寝てしまった少年の髪を節くれだった無骨な手でゆっくりと撫でていく。

「すまないな・・・・・・。もしかしたら、全部お前に押し付けてしまうかもしれない。でも、まだ俺は知りもしない他人の為に戦う事は出来ないんだ・・・・。許してくれるか?いや、許してなんかくれないよな・・・・・。本来護ってやるはずの俺達大人が、子供に全部押し付けようとしてるんだもんな・・・・・・・」

途切れる事のない懺悔がその場を支配する。どうしようもない悲しさと、溢れるばかりの怒りが彼の顔に陰りを作り出す。彼の中に未だ燻り続ける狂気を無理やりに押し込めた、そんな感じの表情だ。

「皮肉だよな。護ろうとしたはずの人に裏切られて、何より大切だったアイツもその人によって殺されてる。皆殺しにしてやりたい位に憎い。でも、好きなんだ。アイツも人だった。そして、俺自身も・・・・・・・・」

それを見ている彼はゆっくりと、意識を闇に沈めて行った・・・・・・・。




「・・・・きろ!起きろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
「・・・・ほえ?」
目を開けると、何故か肩を上下させているトリーシャが目の前にいた。
「・・・・・・何事だ?」
「何事じゃないよ!何で寝てるのっ!?」
「・・・・・寝てたのか、俺・・・・」
「はぁ〜〜〜〜〜・・・・寝てたかどうかも分からないなんて・・・・・」
思いっきり脱力しているトリーシャにヒビキは今まで自分が包まっていた毛布を掛けてやる。
「少し休んだ方が良いぞ。疲れてるみたいだからな」
「誰の所為だよ、まったく・・・・・(あ、温か〜い)」
ブツクサ言いながら口元はにやけていた。まあ、冬場だからしょうがないような気もしないではないが・・・・・。

彼らがいるのは大会出場選手に割り当てられた控え室である。ヒビキは試合の時に着ていた藍のコートをハンガーのような物に引っ掛け、部屋の隅に置いてある長椅子に寝転んでいたのだ。ちなみに剣はその長椅子の下である。

「それで、何かあったのか?試合か?」
「忘れるところだった。えっとね、ヒビキさんは後、2試合しかないんだ」
「2試合って・・・・・・そんなに人数少なかったのか?」
「違うよ。ヒビキさん寝てる間にちょっと事件があって・・・・出場選手がほとんど試合続行不能になっちゃったんだ」
「後、残ってるのは?」
「お父さんと、シャドウっていうのと、マスクマン様と、ヒビキさん。」
「原因は何なんだ?優勝候補しか残ってないっていうのも何か関係あるんだろ?」
「うん。良くわかんないんだけど、一定の力量以下の人は痺れて動けなくなるような魔法薬が主催者側が配った飲み物に入ってたって、ギルドの人が言ってたよ」
「まあ、試合の数が少なくなっただけ儲けものか・・・・・・・。で、次の俺の相手は?」
「・・・・・・お父さん」
「・・・・・リカルドか。個人的にマスクマンがやり易かったんだけど、そう上手くはいかないか・・・・」
冷静に自分と能力の差異を確認してからこその言葉である。ヒビキは速さを、マスクマン(正体不明)はパワーを。まあ、ヒビキの本気の一撃はそれこそ人間レベルではないのだが・・・・・・。

「娘としては、どっちを応援して良いか迷うんだけど・・・・・・・」
「じゃあ、リカルドを応援しな。俺の応援は要らないよ・・・・・」
「そう言われるのも寂しいんだけど・・・・・・」
「しょうがない。じゃあ、これやるよ。だから、もういいだろ?」
そう言うと、彼のしているネックレスを外し、トリーシャに投げ渡す。
「綺麗・・・・・。本当に良いの?こんなの貰っちゃって・・・・・?(そう言う意味じゃなかったんだけどな)」
「気にすんな。それは金銭的価値はそんなにないから」
「金銭的価値はって、何か他の価値があるの?」
「魔力補助。いや、増幅器って所だ。普通の人間でも、かなり効果がある」
「へ〜〜〜」
「間違ってもマリアに渡すなよ?」
「うん。大事にするよ!」



「さ〜〜〜〜て、色々ハプニングは在りましたが、何はともかく準決勝!さあ、優勝は目前だ!頑張れ諸君〜〜〜〜っ!」

そんなシンの言葉にふつふつと怒気を貯めているほのかがゆっくりと拳を握る。
「ムカツク。あの言い回しがムカツクのよ〜〜〜〜!!!!!!!」
「ちょ、ちょっとほのか!あなたが暴れ出したらこの街ごと吹き飛ぶんだから抑えて〜〜〜〜〜!!!!」
そんなほのかを羽交い締めにしているカスミ。その努力には頭が下がるばかりである。彼女等の周りの人々は自分に被害がくる事を恐れて、大混雑であるにも関らず、3メートルほど人気がなかった。

そもそも何故エンフィールドの機構に組み込まれていないシンがこの街の最大の行事とも言える大武闘会の司会などと言う重要な役ができたかというと、オレルス公国諜報部の長としての権力を使ったのと、偽造書類の賜物であったりするのだが本人以外知る者はいなかった。


「始めっ!」

「ヒビキ君・・・・手加減はしないぞっ!」
言い終わると同時にリカルドがヒビキに斬りかかる。
だが、リカルドは途中でぴたりと止まった。
(なんだ、この異常なプレッシャーは・・・・。)
リカルドはかなり離れた場所にも関らず、後一歩を踏み出す事すら躊躇った。そして、後一歩踏みこめば既にヒビキに間合いの内であった。
「行くぜ・・・・」
ヒビキが飛び出す。リカルドが防ぐ。
(流石だな・・・・・7回斬ったが全部防ぐとはな)
(思っていたより数段速い・・・・)
ギャラリーはその一瞬で繰り広げられた高度な闘いを固唾を飲んで見守っていた。

リカルドは相手の間合いで戦う愚を良く知っていた。闘いの基本はどうやって自分の得意な間合いに相手を引き込むかに終始しているからだ。それは戦略、戦術問わずに。だが、分かった上でもそれが実践できずにいた。
(隙がない・・・・・。まさに結界か・・・・・・ここまで強いとは・・・・一撃にかけるか?)
(流石に踏みこんでくるような愚かな真似はしないか・・・・・。だが、それじゃ、何時までたっても試合は終わらない。かといって、試合を捨てるような人には見えない・・・・・・。後の先を取る気か・・・・・・・)
冷静にお互いを読んでいた。
ヒビキは速さ、リカルドは力でそれぞれ拮抗し、互角に持ちこんでいた。
ゆらりと、ヒビキの姿が歪む。それは攻撃に出る事を意味していた。
「はっ!」
がっ!
「くっ!」
今度のヒビキの斬撃をリカルドは防ぎきれなかった。
(何故だ!斬撃自体は全て防ぎきったはずだ)
困惑の様子を隠しきれないリカルドにヒビキがぽつりと言う。
「九龍戦技弐の太刀、影武」
「影武?(影に斬られたとでも言うのか!?)」

「長いな・・・・・・」
「もう、30分ぐらいやってるぜ?」
「なんて奴等だ・・・・・」

「そろそろ終わりにしよう。行くぞ、ヒビキ君!」
「はあっ!」
二つの間合いが重なると同時に・・・・・
「ファイナル・ストライク!」
「くっ!?(武器破壊か!?)」
最後の最後にリカルドが賭けに出た。使用する武器の強度が同じである以上、どちらが耐久度の限界に近づいているかの勝負であった。
リカルドの狙いは武器破壊をして、その勢いでカウンターの様に一撃で勝負を決めることであった。リカルドはこの賭けに勝つのは自分だと冷静に分析していた。斬撃の数は明らかにヒビキの方が上であるし、あの異常な速度で移動している時にも刀身に無駄な負荷が掛かっている事を見越してだ。達人の域ならリカルドの勝ちであったろう。
だが、ヒビキは達人の域を越えていた。
剣を途中で相手に向けて放したのだ。そして、氣で覆った拳で剣を押す。

「なっ!」
結果、ヒビキの持っていた剣は折れるが、ヒビキの拳はリカルドの剣をへし折り、そのままリカルドの腹部を強く打ち抜いていた。
ぐったりとなるリカルドをヒビキは支え、救護班に渡した。

「勝者、ヒビキ!決勝進出です!」


「ギリギリだったな、ホント・・・・」
拳に残った剣の痕を包帯で隠しながら、呟く。
「次は・・・・・・誰だ?」
また、ヒビキは夢の世界に引き摺りこまれて行ったのだった。






〜あとがき〜

どうも、お久しぶりッス。久遠の月です。ううっ・・・・・・戦闘シーンがへっぽこだ(泣)誰かコツ知りません?

なんか、3篇構成になってしまいました。まあ、後編は短くなるんだろうけどさ?なんか原作からどんどん遠のいているような気がしないでもない今日この頃です。

それではまた〜、次回のあとがきでお会いしましょう。
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