中央改札 交響曲 感想 説明

果て無き道を歩む者:悠久行進曲 第一話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第一話


「はぁ・・・はぁ・・・っく。」
俺は荒い息をつきながらエンフィールドという街へ続く街道を進んでいた。今は明け方近く、周りには俺以外誰もいない。
「くそ・・・っはぁ、また・・・『発作』か。」
もうだいぶ前から周期的にこの様に不快で目眩、動悸、息切れの症状が出ていた。
最初は病気かと思ったが違うらしく、体は健康とのことだった。
発作の初期は数ヶ月に一回の数秒程度だったが、ここ最近は毎日十数分くらいになっている。
「おい、雅信。無理すんな!」
俺の右腕から声がかかる。長年聞きなれた声の相棒だ。
「・・・もう収まった。だが、そうだな。そこに川があるから少し休もう。それにさすがに三日半何も食わないのはこたえるな。」
俺は川に向かって歩き始める。


・・・ドクン!!!


心臓が跳ねた。そして俺の体は硬直し、そのまま深い草むらに倒れていった。

・・・ドクン!

もう一度さっきより弱く脈打った。
「まさ・ぶ!!」
そして俺は意識が沈みゆく中で、逆に何かが抜け出ていくのを感じ、そこで途切れた。



「・・・何も食わないのはこたえるな。」
そう言って相棒は川に向かって行った。
(しかし一体何なんだ、お前の発作は。最近間隔が短くなってきている。このままじゃマズイぞ。)
すると突然相棒の体が止まった。そしてそのまま前に倒れていく。
「雅信!!」
俺は叫んで、そして見た。相棒の隣に立つ青年を。
「お前は・・・!?」
咄嗟に俺は力を解放しようとするが、それより早くその男は俺を掴み、その後俺は体中から力が抜けていった。
(これは・・・力が吸収されている!?)
だんだんと意識を失っていく。
(この力・・・負の力か?となると・・・あれは・・・そういう・・・こと・・・・・・か。)
薄れゆく中で声が聞こえてきた。
「ヒャーハッハッハッハ。一番の厄介者はお前だからな。しばら・、封・・せても・うぜ。
 あと・、あ・つ・記・・下手・消・・・合成・・・・良・・。」
そして何も聞こえなくなった。

夜明け前の最も暗い中、狂喜の笑い声だけが闇に溶けていった。



―――――同刻、エンフィールド、何でも屋ジョートショップ内
ジョートショップの女主人であるアリサ・アスティアは盲目の未亡人でテディという亡き夫が拾ってきた魔法生物との二人(?)暮らしだった。
この日の明け方前、彼女の家に珍客が訪れた。
コンコン
部屋のドアをノックする音がした。アリサの朝は早く明け方なので、彼女はすぐに目を覚ました。
「はい、どなたでしょうか。」
普通、玄関のノックを飛ばし、いきなりドアをノックされれば泥棒と思ってもよさそうなものだが、アリサはそんな事を疑いもせずに尋ねた。
「夜分遅く失礼します。今日はお願いがあり参りました。・・・部屋へ入ってもよろしいでしょうか?」
ドアの向こうから女性の声が返事して、アリサは上着を羽織ってドアを開けた。
そこには優しさと悲しさとまるでここには存在しないかのような雰囲気の女性が立っていた。
暗闇と弱視のためよく見えないが、その女性はフード付きのローブを纏い、フードの奥には仮面らしき物を付けていた。
「なにか困り事でも?」
初対面の相手に夜明けに訪問する非常識な女性なのにも関わらず、アリサは全く気にせずに尋ねた。
「・・・川沿いに行くと雅信という黒髪の一人の青年がいます。その人は今、とても傷つき、苦しみ、迷い、悲しんでいます。
 貴方にその人の事を頼みたいのです。」
その仮面の女性はややあって話し始めた。
「今の私ではその人を救う手助けにはなりません。私・・・では意味が無いのです。
 本来ならば私はここにいて良い人間ではないのですから。私はただあの人を見守ることしか・・・できないんです。」
辛そうに話を続ける。アリサは黙って聞いていた。
「もちろん貴方には断る事も忘れる事もできます。見ず知らずの私に突然こんな事を言われて困惑するでしょう。
 ・・・それでも貴方にあの人の事をお願いしたいのです。」
何も見えないが、その人の苦悩は痛いほど伝わってきた。そして、その女性の想いも・・・。
「どうか・・・あの人を・・・・。」
女性は深く頭を下げ、アリサは急に意識を失った。
     ・
     ・
     ・
次に目が覚めた時、日はとうの昔に昇っていた。
「今のは・・・夢だったのかしら。」
だが、すぐに否定した。
(上着が昨夜とは別の場所にたたんで置いてある。やっぱり夢じゃなかったんだわ。どちらにしても行ってみましょう。)
そしてすぐに身支度を整え、寝ているテディを起こしに行った。
     ・
     ・
     ・
「ご主人様ぁ、ボクお腹減ったッス。」
「ごめんなさいね、テディ。でも、もう少し先に行ってみましょう。帰ったらすぐにご飯にしましょうね。」
二人は朝食抜きで街道沿いの川にいた。時刻は10時程だろうか。
あの後すぐ、テディにお願いしてここまで来たのだ。
「うーん、でもそれらしい人はいないッス。もうどこか別の場所に行ったんじゃないッスか?」
そんな事を言いながらテディは先程から川沿いに進んでいた。
「!御主人様、人が倒れてるッス!」
テディが草の中から右腕が出ているのを見つけた。その手はまったく動かない。
「テディ、その人の様子はどうなの!?」
アリサがそう尋ねると、
「・・・外傷はないッス!」
「そう、でも私一人じゃ運べないわね。テディ、街へ行って誰か呼んできてちょうだい。それとトーヤ先生にも連絡をお願い。」
「ういッス。了解ッス!」
そう言い残して街へ走っていった。
アリサはテディを見送って、その後とりあえず青年に呼びかけてみることにした。
「もしもし、しっかりして。」
何度か呼びかける内、青年が初めて反応を返した。
「・・・・・・う・・・イリ・・・ア・・?」
そう呟くやいなや青年はいきなり上体を起こした。
「大丈夫?」
アリサはそんな青年の行動に少々驚きながらもそう尋ねた。すると、その青年は傍にアリサが居るのを認め、
「やあ、おはようございます。それともこんにちは、ですかな?まあ、ともあれここで出会ったのも何かの縁。
 よければ何か食べ物を用意してくれませんか?もう空腹で空腹で。というわけでお願いします。」
一気にそう言い残し、青年はまた気を失った。

その光景を遠くから一人の男が見ていた。
「ヒャヒャヒャ。せいぜい今のうちに大切なものを作るんだな。その方がこちらとしても好都合だ。」
そして、忽然と姿を消した。



少し時を巻き返し、アリサが川沿いに青年を探していたころ・・・
―――さくら亭―――
大衆食堂兼宿屋のさくら亭には九人の少年少女と一人の女性だけがいた。
その内の一人、ここさくら亭の主人の娘であるパティが店の手伝いを一人している時、一人の客が入ってきた。
カランカラン
「あ、いらっしゃー・・・い。」
最初は良かったが、振り向いて客の姿を見ると不覚にもとまどってしまった。。
なぜならその客はフード付きのローブを着て、フードから覗く顔の上半分を仮面で覆っていたからだ。
かなり・・・いや、果てしなく怪しい格好だ。そのまま自警団に通報されても文句はいえない。
「ミルクを一杯お願いします。」
その客はそんなパティを気にする風でもなく、外見とは裏腹に澄んだ女性の声でパティに注文し、カウンターに座った。
その声に一番反応したのは・・・やはりというか、この街一番のナンパ師を自負するアレフであった。
どうやら声だけで彼女を美女の部類に入ると判断したようだ。
アレフは今まで(一方的に)話をしていたシーラに断りをいれて、さっそく先程の女性の元へ歩み寄っていった。
軽度の男性恐怖症のシーラはアレフの注意が逸れ、こっそり安堵の息をついていたりする。
「ア、アレフ君、止めようよ〜。」
アレフに引っ付いて、おどおどとナンパを止めようとしたのはクリスだった。
こちらは女性アレルギーで、アレフの後ろに隠れようとしている。
しかし、それで考え直すアレフではない。
「やあ、はじめましてお美しい方。私はアレフ・コールソンといいます。隣に御一緒してもよろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ。」
その女性はあっさり承諾し、素早くアレフは席に座った。こういう事に関しては絶大な行動力を発揮する。
「はい、ミルクおまちどおさま。」
パティがコップ一杯のミルクを持ってきた。
「あ、ありがとうございます。」
コップを受け取り、そこでフードを脱いだ。
長い水色の髪がサラサラと流れるように零れ落ちていった。おそらく20代〜30前半だろう。
近くに居たアレフはおろか、クリスやパティ、他の全員もその髪や仕草に見とれていた。
だが、そんな事に気付きもしないのか、女性は竪琴を荷物入れから取り出し、
「ここで一曲歌ってもよろしいですか?」
パティに許可を求める。
「・・・えっ!?あっ、はい!どうぞ!」
パティは我に返り、慌てて返事をする。
「では・・・。」
その女性は店の中に向き直り、竪琴を鳴らしながら十人の聴衆に向けて歌い始めた。



青年は迷い人

放浪の果てに一つの街に辿り着く

そこはうららかな街

やがて渡り鳥は羽を休める


「すごい・・・。」
音楽家の卵であるシーラも心を揺さ振られる。


さあ、今日も青年の一日がはじまる

朝日と共に鳥が甘くさえずり、花が目覚める

家のカマドに火がくべられ、家族があいさつをする

街に生命が吹き込まれる

ある人は畑へ

ある人は海へ

ある人は山へ

青年は今日も働く

それぞれの一日がはじまる

市場が賑わい、公園には明るい声がこだまする

通りで子供が駆け回り、人は今を紡ぐ

いつもと同じ、でも少し違う今日。

日常と非日常の狭間でまどろむ

やがて陽は月に追われ、燃え尽きていく

山はもう一つの顔を見せ、森は闇の腕に抱かれる

みんなはねぐらを求め、温もりに触れる

月は空にあまたの記憶の欠片を残し

海はさざなみの歌を奏で

世界は今日という日を想い、沈黙する

今、一日が終わる

そして明日へ・・・


「へぇ・・・聴いた事無い歌だね・・・。」
元傭兵で、各地を旅したリサがそう呟く。


青年は迷い人

放浪の果てに一つの街に辿り着く

そこはうららかな街

子守り歌が聞こえる

やがて渡り鳥は旅立つ日が来るだろう

だけど、その日までこの木の枝に泊まっていよう

そう思いながら眠りにつく


「なんだか・・・心地よい歌だな。」
いつもは無愛想なエルも穏やかな顔をしている。


青年は迷い人

放浪の果てに一つの街に辿り着く

そこはうららかな街

青年はこの街で出会う

記憶に埋もれた遥かな時

静かで賑やかな時

今、仲間と過ごしているこの時


「ふみぃ・・・。」
メロディも聴き入っている


いつからか青年は迷い人でなくなった

そうここはみんなの故郷の街



ポロン〜♪

たっぷりと時間をかけ、余韻を味わう。さくら亭に静寂がもたらされた。

「いかがでしたか?」
やがてその言葉に真っ先に反応したのは、
「すっげぇ〜。なぁなぁもう一回歌ってくれよ!」
はしゃぐピート。
「ふみゃあ!キレイな声なの〜。」
笑顔のメロディ。
「ああ、あなたの歌声はまさに天女のささやき、蜜のような響きだ。」
アレフはさっそくナンパしようとする。いや、もしかするとただ素晴らしい歌を褒めるだけだったかもしれない。
もはや仮面の事は忘却の彼方らしい。
この三人だった。
やがて興奮とざわめきが店を包む。
「ありがとうございます。」
その女性は目に優しさと強さを湛えながら言った。並々ならぬ想いがこの詩に込められているようだった。
「・・・ん?」
そこでアレフは何かに気付き、恐る恐る尋ねてみた。
「あの〜、失礼ですが結婚していらっしゃるのですか?」
女性の薬指には指輪があった。
「ええ、そうですよ。」
「ええーー!そんなぁ〜〜!?」
あっさり肯定する女性の言葉に、アレフの頭に無数の重低音が響いた。
「あの・・・すいません。」
そんなアレフに構わず、おずおずとシェリルが女性に話し掛けてきた。
「はい。」
「ええっと・・・い、今の曲は何ていうんですか?」
「・・・・・・・・・・(悠久幻想曲)。」
かすかに唇を動かす。誰にも聞き取れない程の声だった。
「え?」
思わずシェリルが聞き返した。
「・・・ゆ―――」「大変ッス大変ッス!!!」
改めて女性が答えようとすると、テディが飛び込んできた。
「ご主人様が行き倒れの人に倒されて助けを呼んでるッス!!」
・・・かなり誤解を招く発言だ。
かなり慌てているようだ。でなければ、ここに来る途中にある自警団をすっ飛ばし、橋を渡ってさくら亭には来ないだろう。
・・・だが、自警団第一部隊隊員のアルベルトはアリサに惚れていて、テディはあんまりいい印象をアルベルトにもってない。
だから自警団に行くのは嫌だった、という理由からかもしれないが。
そして、この言葉で誤解して飛び出す人間と言えば・・・
「なんだって!アリサさんが!?どこのどいつだい、そんな事をするのは!テディ、その場所を今すぐ教えな!」
「お、おばちゃんが!?」
「なにぃ!?あのアリサさんに手を出すだとぉ!」
上からリサ、ピート、アレフであった。
「わ、わ、わ、か、川沿いッス。門から街道の川沿いッス。」
テディはリサに揺さぶられ何とか答えると、3人はすぐに飛び出して行った。
ついでに、なんだか分かんないけど面白そう、というメロディとアレフにくっ付いているクリスもその後を追った。
「テディ、その話本当!?」
次にテディに詰め寄ったのはパティだった。その周りにはエル、シェリル、シーラ、マリアもいる。
「え、え?どうしたッス?皆なんだか恐いッス。」
「いいから!アリサさんが押し倒されたってどういう事!?」
ものすごい形相で、それこそアルベルトですら裸足で逃げ出す程の顔で迫る。
「え、え、え、ボクそんな事言ってないッス〜〜〜。」
目に涙を浮かべながら必死でそれだけを訴える。
「え・・・じゃあどういう事なの?」
やや落ち着いている風のシーラが慈愛に満ちた天使さながらの優しい声で聞いてくる。
というか、あのパティの後だったのでこんな風に思えるのだろう。
「落ち着いて最初から説明しな。」
エルが促す。
「分かったッス。実は今朝ご主人様がある女性に頼まれ事をされたらしくて・・・」
     ・
     ・
     ・
「・・・というわけッス。」
今までの事を素早く説明する。
「分かったわ。とりあえず私も行くわ。」
「そうだな。どんな奴か見ておきたいし。アタシも行こう。」
「私もアリサさんが気になりますし。」
「あ、もちろんマリアも行く〜。」
「もし、ろくでもない奴だったら追い返さないとね。」
上からシーラ、エル、シェリル、マリア、パティの順だ。
「ボクはこれからクラウド医院に行ってくるッス。」
テディはそう言ってまた走り去っていった。
「じゃあ、アタシも行くか。」
「あ〜、それより魔法でチャッチャと行こうよ。」
先頭で行こうとしたエルにマリアが恐ろしいことを提案する。マリアはたびたび魔法に失敗し、自爆するのだ。
「マリア、アンタは反省の言葉を知らないのかい?」
「ぶ〜☆なによそれ〜。」
「言葉通りだ。じゃあな。」
「あー、待ちなさいよ〜!」
エルとマリアがそんなやり取りをしながら店を出た。
「あ、二人とも待って。」
「もう、二人とも。」
シーラとシェリルもその後に続く。
「あーっと、店一応閉めとかなきゃね。」
店に振り向くと、いつのまにかパティ一人になっていた。
準備をして店を出ようとした所で、あの女性が店からいなくなっていた事に気付いた。
(あれ?いつ出ていったんだろう。)
そこで、まだ名前を聞いてなかった事に思い当たる。
カウンターにはミルク代と・・・
(あ、それより急がないと見失っちゃう。)
そしてパティも店を出た。
カランカラン
店は静けさを取り戻した。
そしてカウンターには、白い、純白の鳥の羽根らしきものが、あたかもあの女性が今まで存在していた代わりのようにそっと置き去りにされていた。
やがて、その羽根すら雪のように消えていき、後には何も残らなかった。



――――――ポロン♪

その日、エンフィールドでは奇妙な事が起こった。

「おや?どこからだろ。」
「綺麗な声〜。」
「何て曲なのかなぁ。」


青年は迷い人


「門の方からかな。」
「ローズレイクの方から聞こえるぞ。」
「陽の当たる丘公園かららしいぜ。」


放浪の果てに一つの街に辿り着く


「さて、と。今日も頑張るか!」
「ねぇねぇ、今日は何して遊ぶ?」
「ふぅ、いい天気だな。」


そこはうららかな街


「あー、やっべぇ。宿題忘れてたー。」
「何か気分がいいな。この歌のおかげかな。」
「・・・・・・zzz・・・。」

その日、街中に歌が微かに流れた。
だが、その歌はどこから聞こえるのか、誰が歌っていたのかは結局わからなかった。


やがて渡り鳥は羽を休める


今日のエンフィールドはそんな春の一日だった。



―――――パタパタパタパタ!

陽の当たる丘公園にいた鳥が一斉に飛び立った。
空から羽ばたいた鳥の羽根が公園に降り注ぐ。
その中に、真っ白な羽根があり太陽の光に照らされ、その刹那、白い羽根は虹色に輝いた―――ように見えた。
鳥は空高く舞い上がり、いずこへと去っていった。



―――――さあ、始まりの詩(うた)を―――――



アリサと倒れている青年の元にフワリと一枚の羽根が空から舞い降りた。








あとがき>
ど〜も、正行です。
ここにゲーム本編第一話、雅信がエンフィールドに辿り着くところを送ります。
さて、ここにある詩は私の創作ですが・・・うまく『悠久幻想曲』の雰囲気がでていたでしょうか?
なにしろ詩を創ったのは今回が生まれて初めてなのでかなりドキドキしてます。
しかし、改めて見直すとかなり恥ずかしい事を書いてるなぁ。とても私の周りの人には見せられそうにない。
本編はここから始まります。
では、今回はこれで。
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