中央改札 交響曲 感想 説明

悠久行進曲第二話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第二話



 私がこれを身に着ける理由は二つ

   一つはこれを外せば私は消える・・・そんな気がする

     そしてもう一つは・・・ここに私が存在しない証とするため


 私は何故今自分がここにいるのか分からない

   もしかしたら今すぐに消えてしまうかもしれない

     できるならばまだ私はここにいたい

       消えるのは怖くない。むしろそれが自然なのだから

         ただ・・・一つの心残りがある

           それが無くなるまで・・・それまでは・・・



今日もいつもの朝。俺はアリサさんと朝食を摂った後、やはりいつものように何でも屋の従業員とし
て働く。
「さて・・・と。今日はどんな仕事があるのかな、っと。」

俺は姓をノウス、名を雅信という。
何でも屋『ジョートショップ』で唯一の正従業員だ。住み込みで働いている。
俺は約一年前、一人気ままに各地を旅していてうっかり食料を切らし空腹で倒れている所をアリサさ
んに助けられたのだ。
なにやらその時俺は空腹とは別に命の危機に瀕したらしいが覚えていない。その時俺は気絶していた
のだから。
どうも情報の伝達過程で誤解があったようだ。
アリサさんとの出会いで唯一の汚点を残してしまったが、世話になったのでとりあえず助けられた恩
を返すため何かしようと申し出たのだが・・・いつの間にか住み込み従業員となってしまっていた。
助けられ、落ち着いた頃にジョートショップでお互いの自己紹介をし、そこでこのジョートショップ
の経営が芳しくない事を聞き、なにか手助けになる事はないかと考え、それをアリサさんに伝えたら
トントンと話しが進み、アリサさんが一人でもうまくやっていけるようになるまで住み込みで働く事
になった。
俺は見ず知らずの男をこうも簡単に受け入れる事に戸惑い、尋ねてみたところ、
「実はね、雅信くんの事をある女性の方から頼まれたの。」
まずアリサさんはこう答えた。そして、俺を助ける前にあったことを話してくれた。
しかし、俺はその女性に全く心当たりが無かった。
「それに人が人を助けるのは当たり前じゃないかしら。」
アリサさんの微笑みとその言葉は不思議と俺の心に二つの感情のさざ波をもたらした。

「家族が増えて嬉しいわ。やっぱりテディとこの家で二人だけというのはちょっと寂しかったから。
 これからよろしくね、雅信くん。」
そして最後にそう言った。本当に嬉しそうな笑顔で・・・。
アリサさんはもう俺を家族扱いにしてくれる。
だが俺は家族という言葉に何故か反発する感情を覚えた。

そして、現在に至る。
一年経ったが、いまだに経営は良くならず、かといって悪化するでもない。そんなわけで俺はまだ
ジョートショップで働いている。
この一年でいろんな知り合いができた。

悪友、アレフ・コールソン
いつもどこかおどおどしてる、クリストファー・クリス
元気爆発、ピート・ロス
面白いエルフ、エル・ルイス
本好きのおとなしい子、シェリル・クリスティア
せめてもう少し男に慣れてくれ、シーラ・シェフィールド
なんか俺に恨みでもあるのか、パティ・ソール
二つの意味でお子様、マリア・ショート
良くも悪くも純真、メロディ・シンクレア
いつも俺をボウヤ扱いする、リサ・メッカーノ
歩く瓦版、トリーシャ・フォスター
トリーシャの父親、リカルド・フォスター
すごいじいさん、カッセル・ジークフリード
かしまし娘(?)、ローラ・ニューフィールド
どうしてそんなに陽気なんだ?、橘由良
お前いい加減にしろ、アルベルト・コーレイン
凄腕の医者、トーヤ・クラウド
図書館の女王、イヴ・ギャラガー
う〜ん、なんと言えばいいのやら、マーシャル
マリアが魔法を成功させる程胡散臭さい、水晶の館の女占い師(・・・名前知らず)
ピート+メロディ・・・?、ライフ

これまでみんなとはそれなりに楽しくやってきた。そしてこれからもそうだと思っていた。

闇が動き始めるまで・・・。



今日は休日で仕事は休みである。
うららかな昼下がり雅信が通りを歩いていた時、ちょうどアレフと出会った。
「お、よう雅信。今日は休みなんだろ?ちょっと俺に付き合わないか?」
「ああ、いいぞ。」
「よーし、それじゃあナンパに行こうぜ!」
「応!」
・・・・・・早っ!
この間わずか数秒の早技。
たったこれだけのやりとりで二人はナンパ目的でいずこへと去っていった。



「う〜ん、なかなかいないなぁ。」
「そうだな。」
二人は今リバティー通りからさくら通りに出ていた。
辺りにはちらほらと人は見かけるが、皆忙しそうでなかなか声をかけ辛かった。
そのまま歩いていると雅信は路地に目をやって、おっという顔をした。そしてそのまま何か思いつい
た表情を浮かべ近くに生えていたネコジャラシに似た草を摘んで路地へ向かっていった。
「どうしたんだ?雅信。」
アレフも何事かと付いて来て、路地に目をやると呆れたような表情になった。
「くぁ〜〜〜」
と、そんな声が聞こえてきそうな欠伸をして、猫が路地に僅かに射しこむ陽の光をミカン箱の上での
んびりと浴びていた。
その猫はよほど人に馴れているのか、雅信が近づいても逃げようとせずに大儀そうに体を起こし、大
きく一つ伸びをした。
「な〜〜〜〜」
雅信はそう一声鳴いた猫にいたずらっ子の笑みを浮かべ、上からネコジャラシもどきを猫の前でフリ
フリ動かした。
シャッッ!パスッ。
「ほ〜れほれ。ど〜したど〜した。」
猫はそのネコジャラシもどきに今までの挙動からは考えられない電光石火の動きで手を伸ばしたが、
あえなくその手は空を叩いた。
楽しそうな笑みのまま再び猫に挑戦状をぶら下げる。
チョイチョイ、シュッ!スカッ。
二度程様子を見るように少し手を伸ばしてきた猫、仮にミケとしよう。ミケは三度目で狙ってきた
が、これも外れる。
やがて夢中になってきたのか、箱から飛び掛るがそれもかわされる。
そして、地面からピョンピョン跳びながらじゃれ付いてくる。
「・・・お前って時々本っ当に子供っぽいよなぁ。」
アレフがそんな雅信とミケを見ながら嘆息した。



いつの間にかその闘いは緊張状態に陥っていた。
ピンと張り詰める空気。
隙を窺うその眼光。
恐ろしいまでの集中力で二人(?)は対峙していた。
そう、ここは戦場だ。一対一において先に気を散らしたらそれが隙となる。
相手のわずかな変化も見逃さず、じっと硬直する。
じりじりと気が磨り減っていく。
一体どれくらいの時が経過したのだろう。それさえも分からない。
触るれば切れる。闘気がせめぎ合う中、そんな錯覚を起こすような空間。
そこだけが周りと隔絶していた。
やがて極限まで絞りきられていく。
―――――汗が顔を伝って顎から滴る。

一つの影が動いた!

そして―――――
ヒュン!!
風を切り裂くその音。
だが、その手は何も掴み取ることはなかった。
そしてここにはっきりと勝者と敗者に分かれた。
「ふぅ・・・危なかったな。お前はまだまだ修行不足だな。」
「ナ〜〜ゴ」
「ふっ・・・しかし、お前なかなかやるな。」
そして雅信は空いた利き手を先程まで争っていた相手に差し出した。
握手とはお互いが武器をもっていないという戦意のない証だ。
それが相手にも伝わったのか、彼女(メスだったのだ)もその上にポス、と右前足を乗せた。
「にゃ〜〜〜」
「ああ、俺もそう思う。」
さわやかな微笑みでそれに答える。
もちろん雅信は猫語など話せるはずもない。だが『あれ?猫語って喋れなかったっけか?』などと、
常識では有り得ない事すらついナチュラルに思ってしまう、そんな雰囲気だった。
「・・・・・・・・・」
頭にでっかい汗のマークを浮かべているアレフはその光景をやや離れた所で他人のフリをしながら見
ていた。
ああ、今ここに種族を超(越)えた友情が―――――
シャッ、ペシ!
「おっと、甘い。」
―――――芽生えなかった。
雅信の左手にあったネコジャラシもどきにミケが左前足を伸ばすが、すんでのところで引っ込めて、
その足は虚しく地面を叩いた。
「ほれほれ。」
また同じことを繰り返す雅信とミケ。
「おい、雅信。いい加減行こうぜ。」
と、アレフが止めにはいろうとした時、
「あ〜〜可愛い。ねえねえ私にもやらせて。」
一人の少女が雅信にやってきて、お願いをした。
年の頃は14,5位だろうか。金髪に青い瞳。髪はショートで元気そうな少女だ。
「ああ、ほら。」
少女はネコジャラシもどきを受け取り、さっそくミケと(で)遊んでいた。
「うりうり。」
後ろでアレフが複雑な顔をしている。
「なんでこれで女の子と知り合いになれるんだ?」
その視線の先にはなにやら意気投合している二人の姿があった。その姿でアレフのナンパ論が崩れか
ける。
しかし、ここで挫けないのがアレフである。なんとか気を取り直し、改めて二人に加わっていった。
     ・
     ・
     ・
「おお、ここにおったか。」
一人の老人がやってきて、ミケがその老人の元に走り寄り、抱き上げられた。どうやら飼主らしい。
「あなたの猫ですか?」
「ああ、そうじゃよ。」
「綺麗な子ですね。毛並みもちゃんとしてありますし。」
「おお、分かりますか。」
「うん。この猫可愛いよ〜。」
等と、今度は三人でわいわい話し込んでいく。
アレフも話には加わるのだが、少し疎外感を味わっていた。
(違う・・・これはナンパじゃない。断じて違う)
その三人の雰囲気はすでに友人同士と化していた。
     ・
     ・
     ・
「ばいば〜い。」
「それでは。」
三人――雅信と少女とアレフ――は老人やその猫と別れた。
「あっと、私ももう行かなきゃ。それじゃあ・・・えーっと、あなた達の名前はなんていうの?」
「雅信、姓がノウスで名が雅信だ。」
「私の名前はアレフ・コールソンといいます。綺麗なお嬢さん。」
なんとか気を取り直し、自分を思い出した風でアレフが自己紹介をする。
「雅信さんとアレフさんね。私はグレースっていうの。また機会があったらお話ししましょう。そ
 れじゃあ。」
そう言って、少女―――グレースは笑顔を残し、出会ったときと同じく唐突に去っていった。
「ああ・・・いっちゃった。」
「そんなに残念がるなよ、アレフ。あの子も言ってただろ。縁があればまた会えるって。」

二人は再び歩き始め、彼らはほどなくして陽の当たる丘公園に入っていった。
「あ、雅信さんだ。お〜〜い。」
駆け寄ってきたのはトリーシャだ。
彼女は挨拶も忘れ、何やら輝いた顔で喋り始めた。
「ねね、雅信さん。昨日の事件知ってるよね。」
「ああもちろん。フェニックス美術館盗難事件だろ。」
「俺も知ってるぜ。なんでも忍び込んで、貴重な展示品を数多く盗まれたんだろう?」
「そう!その事件なんだけど・・・実は自警団がもう犯人を特定したんだって。」
「!?えらい早く片付きそうだな。たった一日で特定するなんて。
 まぁ解決するならそれに越した事はないがな。」
「ま、雅信の言う通りだな。しっかし、早すぎないか?そいつよほどの大ポカをやらかしたのか?」
「う〜ん、ボクもまだ詳しいことは知らないんだ。ただお父さんの部屋を朝、掃除してたらそういう
 書類らしき物があって。」
と、そこでちょっと溜息を吐く。
この顔は「まったく家じゃ、ぐ〜たらなんだから」とでも思っているのだろう。
トリーシャは流行にうるさいが、父子家庭で家の家事をこなすしっかり者という面もある。
「あ、ちらっと見ただけで、さすがにそれ以上は見なかったよ。どうも間違えて持って帰ったみたい
 なんで自警団に届けに行ったんだ。」
それはそうだろう。自警団第一部隊隊長たる者が、いつもそんなんでは情報の垂れ流しも同然だ。
「で、自警団でお父さんに持っていったら、すごく怖い顔でこう訊かれたんだ。
 『トリーシャ!この書類の中を見たのか!?』って。
 それで正直にほんの最初の数行だけ目に入ったって言ったら何か複雑そうな顔してたんだ。」
う〜む、と難しい顔をしてトリーシャは考え込んだ。
「まあ、リカルドのおっさんが怖い顔をするのはいつもの事だろ。俺なんかおっさんと会う度に理由
 も分からず険しい顔で睨まれてるぞ。俺が何をしたってんだ?」
「それは雅信さんぐらいだよ。でも・・・う〜ん、本当だよね。なんでお父さんは雅信さんだとあん
 な風な顔するんだろうね。」
「やっぱ、嫌われてる・・・からじゃないか?理由までは分からないが。」
アレフが推測を述べる。
「そういえば、いつだったかそのことついて訊いてみたら、
 『トリーシャは彼の眼を見てもなんともないのか?』
 って言ってたけど・・・」
アレフとトリーシャが二人して雅信の目をじっと覗き込む。
「別に何ともないよな。」
「ないよねぇ。」
二人して更なる疑問だけが残っただけだった。
(そういえばお父さん正確には『彼の左の紫の眼』って言ってたような・・・でも、雅信さんって両
 目とも黒だし。聞き間違いだよね。)
トリーシャはそう結論付け、この事に触れることはなかった。
「あ、皆さん!」
明るく元気な声がする。そちらを振り向くとそこには見知った少年がいた。
年は16で、瞳、髪ともに茶。髪は短く切りそろえてある。やや幼い顔立ちをしており、雰囲気的に
活発な印象を受ける。彼はこれでも自警団第一部隊隊員だ。一人暮らしをしており、自警団寮に住ん
でいる。
彼は初めは自警団第三部隊に所属していたのだが、少し前にリカルドに見出され第一部隊に異動した
のだ。
なお、彼にはこんな話がある。

「何故自警団員を目指したか。」
第三部隊隊長であるノイマンが厳格な口調でまずライフに尋ねたことだ。
彼はいつもこうやって入団者に色々な質問をするのだ。
そしてライフはその質問に開口一番、
「はい!成り行きです!!」
と、キッパリハッキリ答えたのはその筋では有名な話である。
しかも、その眼には一点の曇りもなく、真剣かつ堂々としていたという。
(中には後光があったという者も)
そして彼はこうやって見事入団した。

・・・おい!それでいいのか自警団!?



彼もまた旅人で、偶々エンフィールドに立ち寄り、そのまま居着くことにしたらしい。
時期的には雅信の少し後である。
まあ、そんな彼が私服でやってきた。休日を謳歌しているらしい。
「皆さんは何をしてるんですか?」
「あ、ボク達ちょうど昨日の盗難事件のことについて話してたんだ。何かもう犯人の目星がついたっ
 て本当?」
「いえ、私は知りませんが。」
「そっか〜。ちょっと残念。」
「あ、でもアルベルトさんが何か、なんというかかなり張り切ってたような・・・。」
「あいつが、事件解決で、張り切る?」
理解不能といった顔つきで雅信が考え込んだ。
「というか、あいつももう少し落ち着いてくれればなぁ。俺の苦労も減るんだが。」
度々彼が慕っているアリサの所にいきなりよそ者が住み込みで働き始めたとあって、彼はよく雅信
に突っかかっている。
「あ、それとね。図書館で変な事があったんだって。」
「変なこと?」
アレフがオウム返しに尋ねる。
「!?まさかイヴがとうとうストレスに耐え切れず図書館を滅茶苦茶にしたとか?」
「雅信さん・・・違うって」
「むう・・・ならば実はイヴが図書館の隠し部屋で夜な夜な得体の知れない実験をしていたことが
 ばれ、自棄になった彼女は巨大化の薬を飲み・・・」
「それも違うって。・・・というか雅信さんってイブさんをそんな風に見てたの?」
かなりジト目のトリーシャにいい加減冗談は止すかと考え、雅信は改めて問い直した。
「まぁ冗談はさておきだ。何があったんだ?」
「うん。実は今日の朝イヴさんが図書館を点検していたら、奇妙な事があったんだって」
「?」
「なんでも、本の整理中に地下から「ククククク」っていう笑い声や『化石』とかいう言葉の切
 れ端が聞こえてきたから、それを不審に思って確かめようとして・・・」
イヴが働いている図書館には地下があり、そこには一般の人が読めない禁じられた書物等がある
『禁断の地』となっている。そこから声がしたとあっては確かめに行かなくてはないだろう。も
し無断侵入者だったら自警団に突き出さなくてはならない。
「地下への唯一の入り口の前でずっと見張ってたイヴさんと呼んだ自警団の人が入っていったけど
 そこには誰もいなかったんだって。」
「・・・イヴさんは確かに笑い声を聞いたって言ったんですよね?」
「うん。間違いないって。だから変なんだよね」
イヴはふざけたりはしない方だ。彼女が断言するならばそれは本当にあったことなのだろう。
「あそこの本の中には本自体に魔力が込められているのもあるらしく魔力探知も効きにくいら
 しいからな」
と、立ち話をしていたらリサが来た。
「おや、四人揃って何をしてるんだい?」
「ああ、リサ。ちょっとした世間話だよ。」
と、雅信が軽く答え、リサも話しの輪に加わった。
少しの間、皆で話し込んだ。あっちこっちに話が飛び、のんびりと時を過ごした。
「ホント、ここは平和だねぇ。おっと、忘れてた。私は訓練しに来たんだった。」
突然目的を思い出したリサがそんなことを言い出した。
「どうだい?またボウヤ達も付き合わないかい?」
「リサ・・・そう言ってくれるのは有り難いが、俺はそんな気はないんだ。」
明るく言ってくるリサに雅信はひどく沈痛な面持ちで告げた。
「私も今日はせっかくの休日なので遠慮しまーす。」
「?そうかい。」
ライフはともかく雅信の態度はどこか腑に落ちない。そんな疑問を抱えながらもリサは返事をした。
「ああ。すまないな。リサ、今までお前の気持ちに気付いてやれないなんて・・・。」
「・・・ボウヤ、さっきから何を言ってるんだい?」
「ふ・・・笑ってくれ。この愚鈍な俺を。どう謝罪しようと俺がお前の心を傷つけたことには変わり
 はない。」
雅信は大げさに頭を振る。
「・・・・・・・・・」
リサと雅信。何かが噛み合ってない。決定的な何かがずれている。
「リサ・・・やはり俺はお前を一人の女性としては見れそうにない。」
ようやくその違いが分かった。
ようするに雅信は『付き合ってくれ』という単語のみを拾い、このように展開していったのだろう。
「え・・・リサさんって雅信さんの事を・・・?そうだったんですか。」
ライフが驚愕の眼差しで見ている。
「って違うだろ〜〜〜!!」
アレフがすかさず突っ込み、その次の瞬間一つの影が躍った。
「還魂爽砕!トリーシャチョップ!!」
ぽく
可愛らしい擬音とは裏腹にその一撃で地をなめ、昏倒する。
『雅信は149のダメージをうけた』
「・・・アレフさん。何を言ってるんですか?」
「ライフ、世の中君の知らない方がいい事や知ってはいけない事がたくさんあるんだ」
「?そうなんですか」
倒れている雅信をわき目にそんなやりとりをする二人。
ライフはなんの疑いも持たず、素直にアレフの言う事に納得している。
「お前ら・・・人がピンチだってのに・・・」
『自業自得』
ライフを除いた三人が唱和する。
しかし、『還魂爽砕』への突っ込みはナシか?
雅信は土をはたきながら立ち上がり、
「まったく。この分じゃいざって時に助けに来てくれそうもないな」
「はっはっは。何を言う、友よ。心配せずとも例え雷鳴山の奥底でも助けに行ってやるぞ」
「私もです!」
その言葉に一瞬だけ雅信は何かの表情を見せたが、
「ライフ・・・ありがとな」
「おい・・・俺は無視か?」
アレフが恨みがましそうに言ってくる。
「・・・で、あんた達はそれをいつまで続ける気だい?」
もはやリサは怒るより呆れたようだ。
「それにしてもさすがは噂に名高い『トリーシャチョップ』。その一撃は回避を許さないというが。
 一度トリーシャの能力値を見てみたいな」
と、そこで何かを思い出したように雅信は続けた。
「そういえば、前にパティのステータスが何故かちらっと見えたんだが・・・

 パティ:最大HP160、最大MP140、戦M、護6、料6、商5
 
 ってなってたぞ・・・」
ステータス表示とはそのまんま、その人の能力を表すものである。
「ちょっとまて。『護』がリサと同レベルだぞ!それになんだその『M』は!!」
アレフが激しく狼狽している。
説明すると、表示LVは−、0〜10、☆という順に上がっていく。普通LVは3あたりだ。
そして、『M』という表示は無いハズなのだ。
あるとすればそれは特別なことで、そしてこれが意味するものとは・・・

「MAXIMUM(マキシマム)・・・・・・」
誰かがボソっと呟いた。
世界でただ一人に与えられるもの。その意味は・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


「ま、まさかな〜〜〜。ハ、ハハハハ・・・まったく、なに、言ってんだ、よ」
アレフは永久氷土にまでなりかけた雰囲気を笑い飛ばそうとする。が、どう見てもその試みは失敗し
ている。
ブッポーソー、ブッポーソー
チチチチ
鳥がさえずっている公園内で柔らかな陽光の中、言葉は儚くも無常に溶けていった。
どんな言葉もただ散り散りになる、そんな空間があることを思い知らされた。
そして謎の会話はそこでぷっつりと途切れた。
ちなみに、他の皆の上に浮かんでいる(!?)ステータス表示は・・・

雅信:最大HP150、最大MP−、
   戦4、護4、物−、神−、精−(F)、練−、盗3(0)、医1、舞2、ク0

アレフ:最大HP140、最大MP160、戦4、護3、舞4、礼5

リサ:最大HP180、最大MP120、戦6、護5

ライフ:最大HP160、最大MP130、戦5、護4、物δ、神∂、精凵A練♪、盗5、ク5

となっている。もちろん見えちゃいないが。
余談だが現在の雅信のHPは残り1。スライムどころか転んだだけでも教会や王様の所へ直行しかね
ない。
「あ〜、さて、そろそろ俺は帰るとするか。」
気まずい沈黙の中、精神的にも肉体的にもダメージを受けたのでそろそろジョートショップに戻ろう
と考え、そう切りだした。
「あっ、ああ。そうか」
「そ、それじゃあね。ボウヤ」
「またね、雅信さん」
「はい。それでは」



「ん?あれは・・・?」
ジョートショップの姿が見える辺りまで来たとき、店の扉の前に自警団員らしき服に身を包んだ人が
いた。
そして俺はそのまま近づいていくと俺の姿を認めたその男が急に中に入り万年暴走男を引き連れて出
てきた。
そして・・・



カシャン。
軽い音をたてて、重い鉄格子の鍵が掛かった。
ここは地下牢で、俺は牢に入れられたところだ。
「・・・・・・・・・」
アルベルトによって乱暴に牢に入れられた雅信はそのまま鉄格子の向かいにある壁に背を預け、足を
なげだして座り込んだ。
「ふん。ようやく正体を現しやがって」
「・・・・・・・・・」
「おい、なんとか言ったらどうだ!」
鉄格子越しに万年暴走街道爆進男、ことアルベルト・コーレインが叫んでくる。
「・・・反響してうるさいぞ。もう少し静かにできないのか?」
雅信は自警団員に連行された時の表情のまま答えた。
それは怒りとは違い、どちらかというと無関心や諦めに近い感情だった。
「なにぃ、貴っ様ぁ。今の状況が分かってんのか!?」
「この際俺の有罪無罪を抜きにしてだ、俺に嫌疑がかかってるんだろう」
「お前がやったんだろう!まんまとアリサさんの所に転がり込んでその好意に甘え、果ては犯罪に手
 を染めるとはな」
「俺が住み込みで働くことに関してはあの人が勝手に提案したことだ」
「き・・貴様・・・」
アルベルトの沸点が越える所で地下牢の入り口が開き、そこから一人の人物がやってきた。
「た、隊長」
「リカルドのおっさんか・・・」
そこに現れたのは自警団第一部隊隊長のリカルド・フォスターだった。
「アル、ご苦労だったな」
「はいっ」
リカルドは雅信の顔を見ると、やはり昼に話していたように一瞬顔を強張らせ話しかけてきた。
「さて、雅信くん。ここに来る前に聞いただろうと思うが君に『フェニックス美術館盗難事件』の犯
 人という疑いがもたれている」
そう、雅信はこの事件の犯人扱いされているのだ。もちろん雅信にそんな事をした覚えはない。
昼にトリーシャから聞いた犯人とは雅信の事だったのだ。
そして、店に帰った雅信に待っていたものは、
雅信を自警団へと引っ立てようするアルベルトと、
「何かの間違いです」というアリサとテディと、
そしてアリサさんの立会いのもと雅信の部屋を調べたら見つかったという盗難品の数々だった。
「君は有罪の場合、この町の永久追放か終身刑になるだろう」
「そうか・・・」
「ずいぶんと大人しいな」
意外といった風にリカルドが聞いてきた。
「・・・なんかもう全てが面倒になっただけだ」
そして人生に疲れた者特有の表情を浮かべ、溜息をついた。まるでそれは老人のようだった。
「一応聞いておくが、俺を犯人だと疑った要因は?」
「複数の目撃証言だ。犯行の時間と推測される時間帯に丁度犯人らしき人物を目撃し、それが君に似
 ているそうだ」
そして家宅捜査の結果、その人物の部屋から当の美術品が出てきてはこの処置も仕方ないだろう。
「次に、俺が犯行におよぶ動機はどうなるんだ?
 まぁ、店はそれほど裕福じゃないがその日を暮らすにも困る程貧しいってわけじゃない」
「その点はまだだ。これから本格的に洗っていく予定だ」
「これが最後だ。おっさんは俺がやったと考えているのか?」
「・・・・・・」
リカルドはその質問にしばし瞑目していたが、そこへ入り口から一人の団員がリカルドを呼んだ。
「どうした」
「はい。実はノイマン隊長が用があるとかで探しておられました」
「そうか、わかった。雅信くん、すまんがこれで失礼させてもらうよ」
そして三人は地下牢を出、重い扉が閉まる音が響いた。
果たして彼らは気づいていただろうか。
雅信は一度も無罪を主張しなかったことに。
全てを放棄したことに。
そしてその目が死んでいることに。



(・・・何もする事がないな)
今、この街に犯罪者は少ないらしく他の牢屋には誰もいなかった。
(有罪か・・・まぁ、それでもいい。やっぱり・・・こんなもんだよな)

ズキ
微かに頭の奥で何かが痛んだ。

何も無い。ここに来るまでの街の人の好奇や蔑み、不信、嫌悪等の視線の渦を思い出す。
ただヒンヤリとした空気と静寂、いや自分の耳鳴りに似た音、僅かなランタンの光がだけがこの場を
造っていた。
(・・・寝るか)
もう考えるのも億劫だった。



「それで話とは?」
「実は・・・」
「なんですと?・・・妙に事が早いですね」
「あなたもそう思いますか。実際今回のをどう思いますか?」
「まず、違うでしょうな」
「ふむ。それともう一つ・・・」
「何!?それは本当ですか?」
「ええ」
「彼女も思い切った真似を。そこまでして・・・。本来ならば何の関係もないはずが・・・」
「いえ、関係ならありますよ。彼女にとってはもう一員なのでしょう」
「まあ、そこが彼女たる所以なのでしょうな」
「そこで相談があります。あなたの所の・・・」
「・・・なるほど。しかし少し荷が重いのでは?ああいった性質では」
「それは大丈夫です。まあ、こちらが動かなくとも向こうからやって来るでしょうな」
「でしょうね。ではその時に話しますか」
「よろしくお願いします。あと場合によっては『0』も動かします」
「!?そこまでするのですか」
「ええ。少々面白い情報がありまして。内容はまだ言えませんが」
「わかりました。今は踊っているフリをしておきますか」
「お願いします。ではこれで」
「ええ」

「(さて、今回の事を利用し、少々あちらに警告をせねばなるまい)」



               俺は・・・


夢・・・?
真っ暗だな                    ・・・・・・・・・
全てが闇に閉ざされるとこうなるのかな?      ・・・疲れたな
なんだこの『声』は。誰かの意識なのか?      どのみちもう限界だったんだ
思考が掻き乱される・・・             もう・・・いいだろう
あいつには悪いが、                あいつって誰だ?
所詮こんなもんだろう・・・            一体なんなんだ・・・
もう俺が生きる意味もないな・・・


               俺は・・・



カシャン!ギィィィーーー・・・
「おい!出ろ!」
「・・・・・・(?何か夢を見ていたような・・・)」
そこで雅信の意識がはっきりと覚醒した。
「なんだアルベルトか。どうしたんだ?」
「聞こえねえってのか!?出ろっていってんだよ!」
牢の入り口で立っているアルベルトはイライラしたように急かした。
「何故だ?もう判決が下ったのか?」
「違う、お前に10万の保釈金が払われたんだ」
「何を言っている?そんな馬鹿な事をする奴がいるわけないだろう。10万ゴールドなんて大金を俺
 のために支払ってくれるような奴はいない」
「・・・アリサさんが払ったんだ」
「何・・・」
初めて雅信の目に感情の色が戻った。
「これでお前は一旦釈放の身だ・・・だがな!俺はお前を一切信用してねえ。それを忘れるな」
だがそんなアルベルトに雅信は一顧だにせず、普段見たこともない厳しい顔つきで従い、牢を出た。



「あ、ご主人様。雅信さんが出てきたッスよ」
自警団の建物から出ると、多額の保釈金を払ったというアリサと彼女の腕の中に納まっているテディ
が陽の下に出てきた雅信を迎えた。
「雅信くん・・・良かった。」
本当に心配していたのだろう。雅信の姿がある方を向くと安堵の息をついた。
「どうして・・・どうして俺なんかにあんな大金を払うんですか!!」
だが、雅信はそんなアリサにも構わずに大声をぶつけた。
「あなたは俺が犯人だとは思わなかったんですか!」
「どうしてそんなことを言うの?雅信君は犯人じゃないわ」
激しく食ってかかる雅信にやんわりと、しかしはっきりとアリサは断言した。
「アリサさん・・・あなたはどうして・・そんなに・・・」
その言葉に毒気を抜かれたのか、今度ははっきりと困惑した表情を浮かべた。
「雅信君、聞いてちょうだい。このままだとあなたは有罪の判決を受けそうだったの。
 もしこのまま何もしなかったらもう手遅れになるって・・・」
「それで・・どうやって10万支払ったんですか?」
「それは・・・」
めずらしくアリサが言葉に詰まると、テディが、
「ご主人さまはジョートショップの土地を担保にしてお金を借りたッス・・・」
言いよどんだ後をつないでくれた。
「・・・・・・・・・」
「雅信君、このことは気にしないでね。それに全く手がないっていうわけでもないの。
 借金は1年待っててくれるって。そして話を聞いた所、1年以内に住民の大多数の支持を得ると
 審議のやり直しを請求できるの。しかもこれで無罪になれば保釈金も還ってくるの」
「あなたはそれがどれだけ無謀なことか分かってるんですか?再審といってもこのまま真犯人が見
 つからない限り無罪になる可能性はかなり低いですよ。それに住人から見れば俺は『犯罪者』な
 んです。支持を集めるのも困難でしょう。もちろん俺は捜査のいろはも知りませんから犯人捜し
 なんて無理ですし」
次々と問題点を厳しく指摘する。
「雅信君、やる前から諦めちゃだめよ。みんなあなたの事を知らないだけだから・・・」
「ならあなたは俺の何を知っているっていうんですか!!」
雅信は危うくその言葉を出しそうになり、辛うじて呑みこむ。
アリサは雅信のその心の波を知ってか知らずか、そのまま続ける。
「みんなの支持を集める事に関しては今までの仕事を続ければいいわ。何でも屋として働いていけ
 ば住民の皆さんに接する機会もあるし、きっと分かってもらえるでしょうから」
その道がどれだけ険しいか知っているのだろうか・・・いや、知ってて言っているのだろう。
それにアリサは決して雅信を見捨てたりはしないだろう。それは雅信を信じているから。
だからこそそれは雅信には苦痛になることだった。
雅信はその提案に頷いたものの、俯いてその表情を伺うことはできなかった。
だが鳥達はそんな雅信に何を感じ取ったのか店への帰り道、どんな人になついている鳥でも彼に近
づくのは一羽たりとていなかった。
そして、空にはいつもと変わらぬ晴れた空に太陽にめずらしく輪っかがかかって見え、その下にあ
る雷鳴山に一人の男性らしき人影がいたが、それは幻だったのかいつの間にか消えていた。
まるで山の中に溶け込んだように。

「ヒャヒャヒャ、ようやく見つけたぜ。『化石』をなぁ・・・」



     了



次回予告!(あくまでも予定です)
次回はシリアス一直線になるだろうと思います。それも少し暗めの・・・
目玉はアリサさんと雅信の一騎討ちです。
第四話から本格的にジョートショップの仕事が始まります。

>あとがき
ふぃ〜。ようやく仕上げられました。前回と比べて長いこと長いこと。
こんなペースで行進曲は終わるんだろうか・・・
あ、ちなみにこの話の中に最終話付近の伏線を張ってます。分かるかな〜。
では、次回で会える事を祈りまして・・・
ここまで読んでくれた方、まだまだ経験不足の物書きですがありがとうございました。
中央改札 交響曲 感想 説明