中央改札 交響曲 感想 説明

悠久行進曲第5話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第五話



―――雅信が仮釈放の身になってから二日後の事である。
「どういう事ですかっ!!」
バンッ!!
ライフが上司であるリカルドの執務机を激しく叩く。どうもかなり激昂しているらしい。
「何がだね?落ち着いて言いたまえ」
対するリカルドは堂々としている。
「一昨日の『フェニックス美術館盗難事件』の容疑者の逮捕と昨日のこの事件の方針に
 ついてです!!」
「それについてまだ何かあるのかね?」
リカルドが詰め寄ってくる少年に問う。
「ええ、この事件は雅信さんを犯人と見なし、その方向で捜査を進める事にすると言いま
 したね。これはどういう事ですか!!」
「それは当然の事だろう。あいつがやったって誰が見ても明らかだろうが」
ライフの言葉に答えたのはアルベルトだった。
ここは自警団の第一部隊隊長の執務室である。今この部屋には部屋の主のリカルドと第
一部隊隊員であり、リカルドの右腕ともいえる(それにしてはまだまだ未熟だが)アル
ベルト、そしてたった今乗り込んできたライフ、他団員数名がいた。
「納得がいきません!雅信さんはそんな事をする人じゃありません!!」
「ライフ、自警団員たる者、個人の感情で動いてはならんのだぞ」
ライフの激情もどこ吹く風と、リカルドが穏やかに、厳しくたしなめた。
「だからといって、明らかに犯人とは思えない人を犯人扱いにするのは許される事なんで
 すか!!」
依然としてライフはリカルドに食って掛かる。リカルドは団員達の前でそんなやりとりを
続けていた。普通ならば他の団員達には退室してもらうはずなのだが・・・・何を考えて
いるのか、団員達の前でそんなぶつかり合いをしていた。これは自警団が雅信を犯人だと
する態度をハッキリと示すためなのか。それともこの諍いを団員達に見せた方が都合のい
い理由でもあるのか・・・
しばらくリカルドとライフは似たような事を繰り返し言い合っていたが、やがてライフが
先に見切りをつけた。
「どうしても・・・・変えないつもりなんですね」
「うむ。ここまでハッキリと怪しい人物がいるとなればそれを調査するのは当然の事だ」
「あなたは既に犯人と決めてかかっているじゃないですか!それは正当な調査とは言え
 ません!!」
ゼイゼイと少し息を吐く。ライフは良くも悪くも単純なのだ。
「どうしても・・・方針は変えないとおっしゃるんですね」
最後の通牒と言わんばかりの雰囲気だ。
「一番の犯人の有力者はどう見ても彼以外にはおるまい」
リカルドはそれにも動じずに同じ答えを返した。
「〜〜!!ならば私は今日この場を持って自警団を辞めさせてもらいます!!」
ライフはそう宣言した。それを聞いたリカルドは表情を変えずに、だが目の奥に思い通り
に事態が進んでいる事を確信した光を秘めていた事に気付いた人物はいなかった。
「おい、ライフ。お前興奮しすぎだぞ。少し頭を冷やしてこい」
アルベルトがさすがにマズイと思ったのか、ライフを諌める。
いつも雅信の事になると暴走するアルベルトが今は同じく暴走しているライフを宥めてい
るという珍しい光景があった。
「アルベルト。そろそろ仕事に戻りたまえ」
「あ、はい」
リカルドの唐突な言葉に何の躊躇いも無く頷いた。明らかにこの部屋から追い出そうと
している事にリカルドを崇拝しているアルベルトが気付けるはずも無く。
「それではこれで失礼いたします」
バタン。
あっさり従い、アルベルトは仕事の同僚を引き連れて部屋を出て行った。
今この部屋にはリカルドとライフしか残っていない。
「さて、ライフくん。君に話がある」
二人っきりになったリカルドはまずそう切り出した。
「何の話ですか?私は自警団を辞めるというのに」
その言葉にリカルドは苦笑する。ここまで真っ直ぐな少年を羨ましくも思い、この少年の
友人である雅信を思い浮かべた。
「まあ、そう言ってくれるな。辞めるのは構わんさ。ただこちらの話を聞いてからにして
 くれ」
一度そう言うと、何やら印を組み、短い呪を唱える。ライフはそれが幻惑結界系統の魔法
という事に思い当たった。
「さて、こちらの話を始める前に、話に加わるお一方がいらっしゃるのでね」
ガチャ。
その言葉と同時にドアが開いた。ライフが自然にそちらに顔を向けるとそこには第三部隊
隊長であるカール・ノイマンがいた。



―――それから更に二日後の夜。



              『俺』は森を駆けていた。
        雪化粧をした森に西に傾いた太陽が陽を射しこんでいる。
      森の中を流れるように淀みなく、ずっと止まらずに走っていた。
    やがて森の隙間からいくつもの細い黒い線が立ち昇っているのが見える。
          それを見た一瞬、息がつまり、胸が重くなる。
        不安、焦燥、それらが際限なく膨らみ、表情を奪っていく。

                   そして

              『俺』が見たものは―――

『だめだっ!!!!』
ビクンッ!
俺は体を大きく痙攣させ、そんな自分の叫び声で目が覚めた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ゆっくりと上体を起こすと、頭痛と動悸が襲ってきた。
「・・・・なんだったんだ、今の夢は」
まだ夜明けには早い、暗闇の中で俺は先ほどの夢を思い返してみる。
が、しかし今ではどんな夢を見ていたのかおぼろげにしか憶えてなかった。
ただ夢の中で自分の知らない風景の中、誰かの『中』から視ていたような気がする。
(妙な夢だったが、所詮夢ってのはそんなものだよな。気にする程の事でもないか)
夢は夢だ。それ以上でも以下でもない。
そう無理矢理納得し、再び床につく。


この日が悪夢の始まりだった。



今は昼。
ここは陽の当たる丘公園。雅信はリサと向かい合っていた。
「それで、用事っていうのはなんだい?雅信」
まだ、昨日の事を引きずっているのだろう、リサの声は硬い。
「・・・まずは昨日の件だ。昨日はすまなかった。あんな事を言って」
「・・・・・それで?」
「それで、アリサさんのためにも俺のためにもできるだけの事をやってやるつもりだ。
 少なくともジョートショップの安全だけは確保したい。俺を信じてくれたアリサさん
 に応えるため、この仮釈放の一年間に俺は俺にできる事をする」
リサは雅信の真摯な眼差しを受け止め、量るようにじっと聞いている。
「俺はジョートショップの仕事をしながら街のみんなに少しずつ理解を求めていくつ
 もりだ。だが、これは俺一人ではかなり難しい。そこで、リサ。俺と一緒に店で働い
 てくれないか?」
雅信のその申し出にリサは僅かに片眉を動かしただけだった。
「ボウヤ・・・昨日の事を忘れたとは言わさないよ。それになんで私なんだい?」
「俺がリサを誘ったのは、まず時間がありそうだからだ。次に経験豊富な点。そして、
 リサにこの後の俺の行動を見て欲しいからだ。昨日の事に関して俺は今後の行動で
 リサに謝りたい。だから・・・頼む。俺に力を貸してくれ」
そう言って雅信はリサに頭を下げた。
「・・・・ふぅ、頭を上げな、ボウヤ」
その声からは先程の刺すような棘はなかった。
「ボウヤは他の知り合いにも手助けを頼むつもりなのかい?」
「ああ。といっても後はアレフだけに頼むつもりだが。他のやつらは自分の仕事がある
 からな」
「・・・・もし、ボウヤに誰も手を貸してくれなかったら・・・どうするつもりだい?」
「簡単だ。その時は俺一人でやるさ。限られた時間内で絶対に最後まで足掻いてみせる。
 俺がアリサさんにできる事、返せる事はこれくらいしかないからな」
リサのその問いにも雅信は真っ直ぐにあっさりと答えた。どうやら決心は固いようだ。
だが、その目や雰囲気の奥には未だ冷たく、皆と距離をとっている姿が薄っすらと見え隠
れしていた。
「(どうやらまだアリサさん以外にはあまり・・・か)いいね。ボウヤがどこまでやれる
 か、特等席で見てみるとするよ」
ニヤリと面白そうにリサが協力する事を約束してくれた。
「リサ・・・ありがとう」
「まだ礼を言うのは早いよ。これからのボウヤの頑張り次第だね」
「ああ、そうだな」
二人してニヤリと笑みを浮かべている。それはこれから共に働き、困難に立ち向かう仲
間同士のものだった。
そして、後でリサにアリサさんがいない時間にジョートショップに来るよう、時間を決
めて再び会う事にして一旦別れた。



「さて・・・次はアレフだが・・・・・・あいつ今、どこにいるんだ?」
なにしろ街一番のナンパ師である。まぁ、それだけヒマがあるという事でアレフに目を
つけたのだが・・・不安がないわけではなかったりする。
(あいつの唯一の欠点があの女癖の悪さだからなぁ。それ以外だとかなり・・・・いい
 奴なんだが・・・)
アレフを捜しながらそんな事を考え、少し不安になりつつも街を歩いていた。
すると、前方にシーラとローラがなにやら話しているのが見えた。
(シーラか・・・そういえばあの後、何故かシーラが気まずそうにして、結局そのまま
 一言も話さずに別れたんだよなぁ。一体どうしたんだ?)
シーラはあの時、自分が友達に何もできなかったのが相当の自己嫌悪を抱く原因となって
いた。それで、事件の関係者なので一旦騒ぎの現場に戻ってきた雅信に、その時は自分の
この思いを処理するのに精一杯で、何も言えずにそのまま別れてしまったのだ。
決して雅信を鈍いと言う無かれ。これはいくら鋭い人でも中々分からないはずだ。
何しろ人垣の中少しシーラが見えて戻ってきたらシーラは何も言わずにただ黙りながら俯
いている。それで何やら話し掛けづらい雰囲気のため、結局何も話せなかったのだから。
これでは雅信が分からなくても当然だろう。・・・ねぇ、そうでしょ?(切)
なお、シーラは現段階で雅信に恋愛感情は抱いてませんので、ご注意ください。
あくまで友達に対するものです。
あと、エルとは戻ってきた時に和解している。
「あ、あれお兄ちゃんだよ。ちょうどよかったね、すぐ見つかって」
「え?あ・・・・・」
近づくにつれ、まずはローラがこちらに気付き、はっきりとは聞こえなかったが、少し
だけその会話が耳に届いた。
「なんだ、俺を捜してたのか?」
軽く挨拶を交わし、そう尋ねてみる。
「うん。シーラちゃんがお兄ちゃんを捜してたんだって」
やけにローラの顔や目が不自然なまでに輝いて見えるのは絶対!絶対に!!気のせいで
はないだろう。
「ローラ・・・先に言っておくが、俺とシーラの恋人説なんて噂を流したりするなよ」
とりあえず先に釘をさしておく。
ローラは明らかに狼狽し、一目瞭然の乾笑いを顔にはり付けていた。
「や、やだなぁ、何言ってるの?お兄ちゃん。アタシガソンナコトスルワケナイデショ」
「ほう、今までの前科がないとは言わせんぞ(俺は別に構わないが、根も葉もないデマ
 に困るのはシーラだからな)」
後半は雅信の心に止めておく。こんな事を言った日には一時間後にはもう街中にこの恋
人説が流れかねない。
注意!
雅信もシーラに恋愛感情は抱いておりませんので。これは単純に雅信がシーラが困るだろ
うと思ったからであり、且つ、別に雅信はこの手の自分の噂には無頓着なので。
なにしろシーラは男性恐怖症で、男に関係するものにはあまり免疫がないのだ。
「まったくいつもいつも俺の恋の噂話をばら撒いて・・・・あ、シーラは俺に何の用事
 なんだ?」
「だって、お兄ちゃんの周りって結構女の人が多いじゃない〜。それで誰にも好きって
 感情を持たないのは絶対ヘンだって〜」
だが、そんなローラの抗弁は黙殺し、シーラに向き直る。
「うん・・・あ、でもここじゃちょっと・・・」
いつもとは違った雰囲気のシーラに気付く。どうやら真剣な話らしい。
「そうか・・・なら川辺に行かないか?あ、ローラは悪いが席を外してくれ」
「えー、二人してなんか怪しいなぁ〜」
「ほら、あんまりプライベートな事に突っ込むんじゃないぞ」
やんわりとそう言う。
「はいはい、わかったわよ。それじゃあね、お二人さん」
「すまないな、ローラ」
まだたっぷりと未練があるのだろう、う゛ー、といった風に去っていった。
「・・・・さて、行こうか」
「あ・・・うん」
     ・
     ・
     ・
「ここならいいだろう。で、話とは?」
周りに人がいない事を確認し、シーラを促す。
「・・・・・・・・・・」
不自然に、おそらく無意識だろう、雅信と距離をとっているシーラからは何も返ってこな
かった。
(なんか・・・・重いな)
俯いたままのシーラにそう感じながらも、ただひたすらシーラが動くのを待った。
やがてふんぎりがついたのか、シーラは真剣な目を雅信に合わせ、
「・・・あのっ、ごめんなさい!」
いきなり謝ってきた。
「・・・・・?」
雅信はシーラがなにを謝っているのかが分からない。シーラが謝る事など当然のように
思い浮かばずに、とりあえず本人に聞く事にした。
「何の事を謝っているんだ?俺にはシーラが謝る事に心当たりはないんだが」
その言葉にシーラは辛そうに話し始めた。
「昨日のこと・・・・昨日私は雅信君があんな目にあっているのに何もできなかった」
シーラの話は懺悔だった。己の不甲斐なさを責めるという、それが雅信にはなんとなし
に分かった。
「・・・・・・・・・・」
雅信はただそれをじっと最後まで聞く事にした。
「あの時、私は雅信君はそんな事をするはずないって信じてた。・・・雅信君はこんな
 ことは信じないかもしれないけど、そう思っても無理ないわよね。だって私は信じる
 だけで何もできなかったんだから。
 あの時・・・雅信君が私を見た時・・・・すごく寂しそうだった。でも雅信君は何も
 できない私を見て、そんな私を憎むわけでもなく、責めるわけでもなく、嘲るわけで
 もなく、ただ諦めて許してくれた・・・周りが怖くて、臆病なそんな私を
 ・・・・そう思えたの」
シーラは両腕で自分の震える体を抱きしめるようにして、泣きそうになっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
雅信は無言。それをシーラは肯定と受け取った。
目の前のそんなシーラに何をするでもなく、雅信はじっと聞いていた。
にしてもシーラはやはり勘が鋭い。
「だから・・・ごめんなさい。友達が助けを求めている時に何もできなくて・・・・」
シーラとしては友達の苦境に、自分に勇気が無かったために手を差し伸べることができ
なかった事を悔やんでいるのだろう。
だが雅信は雅信でやるせなかった。元々シーラがこうなった原因は自分にあるのだから。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
不意に沈黙の帳が下りた。シーラは少し落ち着くのを待って、
「だから私は強くなりたいの。もう、こんな思いをするのは嫌だから。こんな臆病な自分
 が許せないから。だからもっと私は強くなるね」
そう最後にはっきりと告げた。その顔は今までの表情を吹き飛ばす程のものだ。
雅信はそんなシーラを眩しいものを見るように目を細めた。
その強い意志を秘めた目とその決意の言葉で雅信はもう満足した。
あのシーラがここまで輝いているように思える程になったのを見れただけで。
「それで、あの時のお詫びとして私に何かできる事はないかしら」
だからこう言われた時は困った。
下手に何も無いと言えば、シーラの事だ、今回の件の事を負い目に持つかもしれない。
それでは友達として困る。また、自分で自分を責めるかもしれない。
ならば・・・
「そうだな、それじゃあ三つお願いがある」
「それって?」
「まず一つが、いつか皆と一緒にシーラのピアノを聴かせてくれ。俺とアレフ、クリス、
 ピート、エル、シェリル、パティ、マリア、メロディ、リサ、トリーシャ、ローラ、
 トリーシャ、テディ、由羅、そしてアリサさん。この皆に」
「え・・・うん」
明らかに戸惑っている事が分かる表情で約束した。
「次に暇があったらでいい。ジョートショップの仕事を手伝ってくれ。何としてでもア
 リサさんの信頼に応えたい。だから仕事をしながら街の住人に理解を求めていくよう
 に決めた。そこでシーラに仕事を手伝って欲しい。あぁ、絶対無理して来るんじゃな
 いぞ。あくまで自分の仕事を優先してくれ。そうでないと今度は俺が申し訳ないから
 な。それと一応は主力メンバーを決めて誘ってみるつもりだから。シーラは臨時の
 助っ人として・・・・な」
「うん。分かった」
自分がお詫びとしてできる事に頷く。
「そして最後にシーラ、必ず強くなる事。いいな」
「ええ!」
元気よく頷いたシーラに雅信は嬉しそうにする。友人の成長が嬉しいのだろう。
その姿はどこか娘の成長を見守る父親を彷彿とさせた。
「うーん、三つは多いか?どれか一つでもいいからな。それが俺のお願いだ」
「ううん、そんな事ないわ」
「まあ、急でなくてもいい。ゆっくり、あせらずに強くなるといい。まだ時間はあるん
 だからな」
最後にそう付け加えた。
「さて・・それじゃあ俺はアレフを捜しにいくから」
「うん。雅信君も頑張って」
「ああ。応援ありがとな」
雅信は上機嫌で川原を後にし、再びアレフを捜しに街へとくりだした。



「というわけで、二人とも俺に協力してくることに感謝する」
リサとアレフは協力することを約束してくれて、今このジョートショップに集まってい
る。その二人に改めてそう切り出した。
家の主であるアリサは不在だ。
「な〜に今更水臭いこと言ってんだよ」
アレフが軽〜く言ってくる。
「二人に頼んだのは、まず第一に比較的決まった仕事がなく、時間が空いているからだ。
 あー、この条件に当てはまるのはメロディもなんだが・・彼女に頼むのはなんだか児
 童労働のような気がするので見送らせてもらった」
二人共この決定には大いに納得してくれたようだ。
「もちろん、ここの従業員として働く以上は給料も支払う。そこらへんはキチンとしな
 いとな」
「でもよ、ここって今、経営状態が更に逼迫してるんだろう。なんだったらしばらくは
 俺は給料なしでも・・・」
意見をはさんだのはアレフだ。
「まあな。ここ最近ではかなり依頼の数が激減している。だからといって善意に甘える
 わけにはいかない。それにアレフ・・・お前、その言葉をアリサさんの前で言ってみ
 るか?」
「う・・・・分かったよ」
たしかにアリサの性格からして絶対に無理だろう。
「だが、その気持ちは嬉しいがな」
「男に感謝されてもなー、今度俺に付き合えよ」
嫌な予感がするが、借りができたので断るわけにはいかない。
「ああ、いいだろう。それで―――」
バタン!
いきなり店の扉が開いた。そして店に現れたのは―――
「ライフじゃないか」
自警団第一部隊隊員であるライフだったが、今は私服で仕事中でないようだ。
「雅信さんっ!私も店の手伝いをさせてください!」
ライフは開口一番そう言い放った。
「おいおい、申し出はありがたいがお前は仕事があるだろう」
「いいえ、もう自警団は辞めました!」
『え?』
ライフのあっさりとした発言に見事三人が唱和する。
「だから、第一部隊で雅信さんは犯人じゃないって言っても全然聞く耳もたなかったの
 で、勢い余って辞表を叩きつけちゃいました!というわけで今はまったくの自由の身
 です!まぁ、そんなわけで問題はないですよね」
「ボウヤも思い切った事するねぇ・・・」
リサはそんなライフの行動に感嘆しているようだ。
「ああ、確かに問題はないな。こちらとしても助かるが・・・本当にそれでいいのか?」
「なに言ってるんですか。雅信さんは犯人じゃないんですから、友達の苦難を見過ごす
 わけにはいきませんでしょう」
少なくともそれは本心だろう。その笑顔はそう信じるのに充分な価値があった。
「でも、直談判して辞めたのは構わなかったんですけど、どうしようって困ってたんで
 すよね〜」
「ようするに何も考えずに勢いで辞めたのか」
アレフがライフにそう突っ込む。
「ボウヤの人生って波乱万丈になりそうだねぇ・・・」
続いてリサも。
「あはは・・、まぁ人生なるようになるもんですよ」
ヒラヒラと手を振りながら至ってお気楽に。
「そこで偶々トリーシャさんに会って雅信さんが店の手伝いを捜してるって聞いてここ
 に来たんです」
「は?」
何故トリーシャがその事を知っているのか分からない。彼女には何も言ってないはずだ
が。
「あ、ボウヤ。たぶんそれ私が原因だ。ここに来る前にちょっとトリーシャに・・・」
「・・・・・という事はもう他の連中も知ってると考えていいな」
いきなりの話の展開についマヌケな声をあげた雅信に一筋の汗を浮かべたリサが説明を
して、アレフが冷静にそう分析した。
バタン!
アレフのその言葉が終わるやいなや、扉が開いて次々と知り合い達が入ってきた。
ま、手っ取り早くいえば悠久1のキャラ、残り全員+トリーシャといえばいいだろう。
なんかメロディあたりはただ引っ付いてきた感が否めないが。あとシーラも来ている。
そして皆が皆、言葉や態度は違えど雅信に協力の意を示してきた。
「雅信さんにはよくお世話になってるから・・・」
クリスが頼りなげに言うが、いつものクリスを考えるととても嬉しかった。
「おー!オレにまかせとけって。それに面白そーだからな」
ピートが笑いながら。なんか後半が本音っぽい。
「ふん・・・」
エルが無愛想に。だがエルは無愛想なだけで本当は優しいのだ。
「その・・・迷惑にならないよう頑張ります」
シェリルがやや小さめの声で。内向的な彼女が自分から手伝いを申し出てくれている。
「しょうがないわね。ま、これもアリサさんのためなんだし、付き合ってあげるわよ」
パティがやれやれといった風に。こちらは相変わらずというか。
「ふん、マリアに任せればす〜ぐに解決よ☆」
マリアが明るく。その根拠のない自信が今はありがたい。
「ふみゃ〜、頑張るの・だーー!」
メロディが元気一杯に。しかし本当に分かってるのかがちょっと不安に。
「雅信さん、ひどいじゃないか。ボク達に声をかけないなんて」
トリーシャが口を尖らせて。その言葉につい苦笑いをしてしまう。
「みんなありがとう。もちろんみんなが協力してくれる事は嬉しいが、みんなは自分の
 仕事を優先してくれ。一応店を手伝ってくれる主要なメンバーは決めて、他のみんな
 は暇ができたらでいい。それにこれは俺の問題でもあるから」
「はーい。分かったよ」
トリーシャが皆の代弁をしてくれた。
「それと、注意しておく事がある。とりあえずみんなは事情を知っていると思うが、俺
 は再審に向けての住民の理解を得る事と10万ゴールドを集める事をこの一年の目標
 にする。この二つをできるだけ両立していきたいが、もしどちらかを取るとなった場
 合の優先順位は10万ゴールドだ。これだけはハッキリさせておいた方がいいから先
 に言っておく」
もし、アリサがこの場にいたらもちろん何か言ってくるだろう。そのために雅信はアリ
サがいない時を見計らって二人を呼んだのだ。
「えっ?どうして?」
「再審にはあまり期待していないって事だ。第一、審議のやり直しってだけで俺が少な
 くとも無罪になる事すら望み薄だ。なにしろそっち方面は自警団に任せるしかないか
 らな。到底あてにならん。俺も捜査に関しては全く素人だしな、どうしようもない。
 だからせめてアリサさんのために10万ゴールドだけは稼いでおきたい」
そこで一息ついて、
「とりあえず、主要店員はリサ、アレフ、ライフの三人でいきたいが、いいか?」
三人とも肯定の意思を伝える。
「じゃあ、学生組のクリス、シェリル、マリア、トリーシャは主に休日の暇な時に頼む。
 ピート、エル、シーラ、パティは時間が空いたらでいい。それで・・・・メロディだ
 が、メロディはいつでもいいぞ。好きな時に来てくれ」
少し投げやりな気持ちで雅信が。それでも手伝ってくれるのは嬉しいのだが、不安がな
いといてば嘘になる、といった所だ。
「じゃあ・・・・・みんな一年間よろしく頼む」
その言葉で締めくくった。
     ・
     ・
     ・
みんなが帰り始めた頃、雅信はライフに一つ尋ねた。
「そういえば、お前は寮住まいだったよな。これからどうするんだ?」
もちろん自警団を辞めたからにはそこには居られない。
「うーん、そうですね。考えてませんでした」
あっさりとした答えが返ってきた。
「大丈夫ですって。なんとかなりますよ。なんだったらひとまずさくら亭に泊まれば
 いいんですし」
バタン。
「ただいま」「ただいまっス」
そこで、アリサとテディが帰ってきた。
「どうしたっスか?みんなここに集まって」
「ん、みんな時間が空いた時に店を手伝ってくれるんだってさ。そうそうアリサさん、
 この三人に一時的にこの店の正従業員になってもらってもいいですか?再審までの一
 年間ということで」
そしてリサ、アレフ、ライフを改めて紹介する。もちろん返事はOKだった。
「でもライフくんは確か自警団員だったわよね」
「あ、私はもう辞めましたので」
「え?じゃあ寮を出るの」
「はい」
(何か・・どこかで見たパターンだな・・・・)
ライフとアリサのやり取りを見て、雅信はそう思った。
既視感ともいう。
「それでしたら、まだ泊まる所も決まってないのでしょう。だったらうちにいらっしゃ
 い。私達は歓迎するわよ」
「え?いいんですか?」
(やっぱりこうなるか・・・・・)
99.99…∞%の確率でこうなる事を予測していた雅信に、そう抵抗はなかった。
もはや諦めに近いだろう。もしくは悟りの境地とも言える。
「ああ、俺も構わんぞ」
「ボクもいいっスよ」
この家全員が了解を出した。
「じゃあ、お言葉に甘えますね。これからよろしくおねがいしますっ!」
「ええ、よろしくね。ライフくん」
アリサがやはり笑顔で新たな家族を迎え入れる。
「よーし、これでライフ、お前もアルベルトの怒りの的になったな。頑張れよ」
「ええっ!!・・・はっ!そういえば」
「ふふふ・・・今更断ろうったって断れまい」
「雅信さ〜ん、ひどいですよ〜」
「何を言う。俺は一人で今までの一年間、あいつの執拗なちょっかいを受けてきたんだ
 ぞ。いや〜これで少しは楽になるだろう。ま、お互い頑張ろうや。兄弟よ」
「そんな〜。・・・あ、でもこれで毎日アリサさんの美味しい料理が食べられるとなる
 と、それはそれで嬉しいですね」
「まあ、嬉しい事を言ってくれるわね」
「ちっ、すぐプラスの方向に考えを持っていきやがって。つまらんな」
「雅信さん、子供みたいっス」
アルベルトの猛襲とアリサの毎日の手料理を天秤にかけたらライフはあっさり料理に傾
いたらしい。
そんなライフの誉め言葉を聞いて嬉しそうにするアリサ。
何故かくやしがる雅信。
そんな雅信に呆れたようにテディが突っ込む。
ライフは早くも家族の一員として受け入れられたようだ。



     了


>あとがき
おおっ!なんか雅信とシーラがいい雰囲気ですね。
まあそれは置いといて、やっと・・・やっと次から仕事が始まる〜〜〜!
ああ、長かった。気付けばここまで来るのに五話もかかってしまった。
これでようやくキャラ別のイベントに・・・・・まだ入れない〜〜〜。
次のイベントはもう決まってますので。
いきなり私なりに手を加えました『Good News』です。
ゲームのカレンダーは無視してますのでご了承ください。
では、今回はこれで。次回で会える事を祈りまして。
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