中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第一話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第一話



ここ数年で、エンフィールドの近くに帝国制の小国が興った。そこは軍事国家でいろいろなきな臭い噂がのぼっていた。
最近では一部の人間が独走し、政治を動かしているらしい。また、民衆もそんな国家に対し、不満が高まっているようだ。

そこはひたすらに暗い部屋だった。理由は単純。雰囲気の問題である!!と魔術師Aさんは(熱く)語った。
そんな中、典型的な魔術師の黒ローブを着た者達が複雑な紋様を描いた点の上に立っていた。
ちなみに、こんな怪しい格好を魔術師がするので民からのすこぶる評判も悪く、また彼らはポリシーだとかなんとか言って止めよう
とはしないので、国のちょっとした頭痛の種となっていた。
さて、そこには大勢の魔術師達が周りを囲み、その中央で一人の男性が目の前に浮かんでいる明らかに人間でない者と交渉をしていた。
それは山羊の頭で、人間の体をし、下半身は蛇の姿。そして手は骨がむき出しになっていた。
悪魔や死霊を束ねる中堅魔王といったところの力が見受けられる。
やがて、交渉はまとまったようだ。
「・・・よかろう。汝に協力しよう。」
「うむ。では盟約を・・・。」
そして、その部屋からその存在が消えたことで室内の緊張が切れた。
「ふふふふふ。やった。・・・やったぞ!これで我が軍は無尽蔵の兵を得たのだ!」
盟約を結んでいた、ここの魔術師の長らしき人物が歓喜の声を上げた。
「おめでとうございます!」
「これで我が国も安泰ですね!」
周りは称賛の声をかけるが、数名は暗い顔をしていた。そしてその顔には迷いがあった。

「そうか、成功したか。」
ここは謁見の間。玉座の人物、この国の帝王がその報告を聞いていた。
「やりましたな。これで我らがこの大陸を統一するのも夢ではなくなりましょう。」
王の隣りに控えていた人物がニヤニヤしながら言ってきた。おそらくこの国の宰相あたりであろう。
しかし、単純な軍事力のみでは統一など不可能という事に全く気付いてないあたり、単なる腹黒宰相Aといったところか。
「うむ。」
こちらも全く気付いてない。とことん救いがたい程おめでたい連中だ。
「では、こちらへ。」

ここは会議室のようだった。いつもならば大勢の高官が討論をするのだろうが、今この部屋には二人――腹黒宰相と愚帝――が、
卓上に広げた地図を見ながら相談をしていた。軍関係者がいない当り、この国はこの二人の独裁政権らしい。
「では、まずは我が国の近くにあるこの街でも。」
腹黒宰相が地図上の一点を指した。
「そうだな。我が力を示すちょうどいい実験地だ。それにこの街にはあの大財閥もある。」
「そして、ここの自警団にはあの『一撃の王者』も居ります故、ここを抑える事で我らの恐ろしさを広めしめすのには十分でしょう。」
「そうよの、記念すべき我らの大陸統一の一歩だ。ここの民は奴隷としてでも使ってやるか。」
「はい。ではその旨を魔術師の長に伝えましょう。魔物の軍を用いて無闇に殺さぬよう、と。」
「はぁーはっはっは。所詮民など虫けらも同然。それを高貴な我等が使ってやろうというのだ。逆に感謝してもらいたいものだな。」
とことん耳が腐るような発言をする。
着々と具体的な案が決まってくる。
「御意。では、さっそく戦の準備を。これにて失礼いたします。」
そう言って腹黒宰相は部屋を退出した。



その地図にあるその不幸な街の名前は・・・エンフィールド。

ああ、今、まさしく羊が狼に襲われようとしている。

果たしてその運命は!?

エンフィールドに攻め入るその小国の末路は如何に!?

大戦から五十年。無謀(と書いて馬鹿と読む)という名の愚行が今、動き始めようとしていた。

さて、当の街はというと・・・

―――――カッセル・ジークフリードの家
家の中には、一人の若者と一人の老人がいた。
「よーし、これで注文されてた薬は全部できたな。んじゃ、じいさん届けに行ってくる。」
「うむ。」
俺は鞄に薬の入ったビンや袋を入れて、家を出た。

俺は雅信・ノウス。
今は昔の知り合いのカッセルじいさんのところに居候をしている。
職業は薬草師だ。他に、たまに子供に算数も教えている。
俺の仕事は、栽培したり取ってきた薬草を調合し、さまざまな薬を作ることだ。
主に健康の向上・改善や医療薬だ。中には睡眠薬等もある。
仕事の関係上クラウド医院とも付き合いが深い。あと、ジョートショップにもなじみがある。
家の近くで簡単な家庭菜園もあり、庭には梅や柿の木が生えていて、その季節になると実もとれる。
そして家の近くにはローズレイクという湖と森があり、どちらも清浄で薬草を栽培する好条件が揃っている。
おまけにこの家の当りは静かで俺はかなり気に入っている。
家自体はそんなに大きくなく、俺が住むことになった時、少し増設したくらいだ。
この家は街外れにぽつんと建っているという風だ。知り合いが一人ローズレイクの湖畔に家を構えているが。

清々しい朝を満喫しながら街の中心の方へ歩いていると、先程少し言っていた知り合いが家から出てきた。
「総司。」
その姿に声をかけると、向こうも俺に気づき振り返った。
龍牙総司は長い黒髪で細い目をしている。
彼は家で怪しげな研究をしていては、時々人を実験台に使う。他に裏で動くのを得意とし、一筋縄ではいかない人物だ。
「やぁ、雅信。今日も元気そうですね。これから仕事ですか?」
俺の荷物に目をやってにこやかに挨拶する。だが、俺の姿を見て、ほんの極わずかの表情の変化を見逃さなかった。
「ああ、おはよう。俺は薬を届けに行くトコだ。」
こちらも表向きはさわやかに応える。
「あ、そうそう昨日はお茶ごちそうさま。ちょっとした『隠し味』があってよかったよ、総司。」
続けて俺は含みのある笑みを向ける。だが、総司はそれを気にした風でもなく、
「おや、気に入りましたか?ならまたお茶をふるまいましょうか?」
「いや、そう何度も好意に甘えるわけにはいかないさ。今度は俺がごちそうしようか。」
「それはまたの機会にでも・・・」
等とやけに明るく話しをしていると、やがてエンフィールド学園の前に来ていた。
「じゃあ、俺はここで。」
総司は学園の非常勤講師でもある。
「ああ。いつかお茶のお礼をしよう。じゃあな総司。」
門で総司と別れ、俺はまた一人で歩き始めた。
(しかしなんで朝から腹の探り合いをせねばならんのだ・・・)
横手にあるローズレイクは晴れやかに澄み渡っていて、俺の陰鬱とした心を嫌が応にも引き立てていた。
ちなみに今回は運良く総司のお茶の異変に気付くことができ、飲んだ後(総司が目の前にいて飲まざるを得なかった)体内の
異質な魔力を浄化する薬湯をすぐさま飲んだので大事には至らなかった。



また少しすると前方からまたもや知り合いの青年が一人で歩いてきた。
「おはよう雅信。今日もいい天気だね。」
彼はアイン・クリシードという蒼髪の非常識な小市民である。雷鳴山の麓に住居を構え、時々何でも屋ジョートショップの
手伝いをしている。
「ああ、おはよう。今日は絶好の釣り日よりだな。」
総司の時とは違い、悪意は含まずに言った。
「あ〜釣りかぁ。俺も今度やろうかな。」
アインの釣り姿を見て。久しぶりにやりたくなってきた。アインはこれからローズレイクで釣りをするのだろう。
「じゃあなアイン。今度釣りを一緒にやろうぜ。」
「うん。それじゃあ。」
楽しそうなアインと別れ先に進んだ。
パシャン。
ローズレイクに流れ込む川の河口付近で晴天の下、魚が跳ねる音がした。
(今日ものどかな一日になりそうだな。)
朝日が揺れる湖面に反射し、キラキラと銀色に輝いていた。
優しい風に乗って静かな森と湖の匂いがここまで届き、やがてそれは人々の明るい賑わいに変わっていった。



お得意先の何軒かに薬を届け、次の所に回ろうと人通りの中歩いていると、少年のような背格好の知り合いを見つけ声をかけた。
「よぉメルク。仕事中か?」
メルク・フェルトは何でも屋ジョートショップの住み込み従業員四名の内の一人だ。
彼は時々少女に間違えられるような容貌とは裏腹に20歳を過ぎている。
「やぁ、雅信さん。今、一つ終わったところです。雅信さんは?」
「ああ、俺はこれから数軒回って届けなきゃならん物がある。それよりお前、また校長に脅されたんだって?」
俺は後半、愉快そうに顔をゆるめた。
エンフィールド学園の校長はメルクを気に入っているのか、あれやこれやの手でメルクを講師として使おうとする。
しかもかなり巧妙な手口で、だ。
「ええ、まったくどこからネタを仕入れてくるのやら・・・。」
メルクにとって校長は頭を悩ませる種の一つらしい。
「そういえば校長、この間原因不明の休職をしたなぁ、メルク。」
あくまで世間話の延長として言葉をつなげる。
「へぇ、そうなんですか。」
メルクは淡白な返事を返しただけだった。
俺はこの件にメルクが絡んでるとにらんでいる。が、それ以上詮索はしない。こいつの場合、深入りすると危険だからだ。
     ・
     ・
     ・
「あ、俺はこっちだ。」
「私はこちらです。それではここで。」
「ああ。」
雑踏の中、メルクと別れた。



続く
中央改札 交響曲 感想 説明