中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第2話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第二話



カランカラン♪
ドアに付けられたベルが客の来店を告げる。店の中はそれなりの実入りだった。
「おう、らっしゃい。雅信か。」
「やっ、紅蓮。とりあえずこの定食頼む。」
「おうよ。パティ、高菜定食一つ!」
そう言って、紅蓮は皿を別のテーブルに届に行った。
ここは宿屋兼大衆食堂のさくら亭。紅蓮はここに宿をとり、食堂でウエーターとして働いている。
黒髪黒目の青年で、地球という異世界から来たらしい。
俺の昼は結構ここの世話になることが多い。
とりあえず、全て薬は届け終えたので、あとは買い物をして帰るだけだ。
買い物のリストを頭で整理しながらカウンターで料理を待っていた。
今は昼前で食事にはやや早く、客はまだまだピークに達していないようだ。
カランカラン♪
と、新たに一人の客が来た。黒髪とやや茶色がかかった黒い瞳の青年、天羽志狼だ。
こいつもジョートショップ住み込み四人組の一人だ。
俺は手を上げ、志狼を手招きする。向こうもこちらに気付いたようで、こちらに向かってくる。
「やあ、雅信。隣空いてる?」
志狼がはたから見ても上機嫌で聞いてくる。
「いや、残念だが空いてないんだ。」
「え?」
俺の言葉に志狼が不思議そうに聞き返してくる。当然だ。誰も座っている形跡などないのだから。
「実は・・・この席は先程までにシーラが座っていて、その温もりが残っているのだ。よって使用不可ね。」
真面目な顔で真っ赤な嘘を創る。と、横から殺意を感じた。
「テメエは俺の親父以上の変態かぁ!!」
どごーん!
「!?」
声の元の紅蓮のハリセンは俺のこめかみにヒットし、同時に小規模の爆発が起きた。
紅蓮お得意の具現化魔法だ。どうやら”カーマインスプレッド”をハリセンにしたらしい。
爆発の後には頭を抱えてうずくまる俺と、おたまを持ったパティが横たわる紅蓮の側にたたずんでいた。
(いつの間に・・・!?)
俺は気配を感じずに紅蓮をおたまで撃沈したパティに戦慄した。紅蓮がハリセンを振り抜いた後、パティが紅蓮をしばいたのだ。
あの一瞬で。誰にも気付かれること無く。手練の戦士である紅蓮を、だ。
「店で騒ぎを起こすんじゃないの!」
そう言い残して、さくら亭の支配者、パティは威風堂々と厨房へ去っていった。
歴戦の猛者ならば分かる、その事実に恐怖した空気を俺を含めた三人の間に残して・・・。
(パティってさくら亭の事になると無敵だなぁ。それにしてもあのおたまって頑丈なんだな。)
俺は思考がマヒした頭でそんなことを思っていた。
ほどなくして紅蓮も立ち直り、ふらつく足で仕事に戻っていった。志狼も注文を済ませ、隣の席に着く。
「それにしても、雅信もそんな顔で嘘言わないでくれ。」
「・・・何故嘘だと判断した?」
「だって俺さっきまでシーラと話してたし。」
その言葉に俺はピンときた。
「なるほどな〜。さっき機嫌が良かったのはシーラと会ってたからか。」
「な・・・!」
途端、口の端をつり上げる俺に、志狼は慌てふためいた。
「そうかそうか・・・パティ!志狼に赤飯をやってくれ。俺のおごりだ。」
大声で注文する。紅蓮も面白いを聞いたとばかりに近寄ってくる。
「ちょっとちょっと!なんでそうなる!?」
「だってなぁ、紅蓮。」
「そうそう、何かあったんだろ。そんな顔して。」
実は俺達二人共志狼とシーラに何かあったなんてこれっぽっちも思っちゃいない。ただ、志狼の反応を面白がっているだけだ。
「別に何もない!そんなことを大声でいうな。」
やはり周りの視線が気になるのだろう。
「じゃあ、シーラと何があったか話してくれるかい?」
「・・・別にさっきまで橋のところでピアノや最近の話をしただけだ。」
俺の予想範囲内の返事だった。
「ふぅ、情けないなぁ。もっと総司や十六夜を見習ったらどうだ?」
「いや雅信、これ以上異次元を増やすのはどうかと思うぞ。」
紅蓮が俺の助言に異議を申し立てる。十六夜はクレアとの熱愛ぶりが凄まじく、総司はキザな仕草でそれが似合うから始末に負えない。
「お前も小さいながらも『ラヴラヴ小宇宙』を創ってるっていう自覚あるか?」
すでに彼女持ちの紅蓮に俺はそうつっこんだ。紅蓮にはティナという数年来の彼女がいる。
「まったく、こういうことは若者の特権だなぁ。見ててこっちが恥ずかしくなる。」
『お前は俺らと同世代っていう自覚はあるのか?』
しみじみとした俺に紅蓮と志狼のつっこみが唱和した。
「ふ・・・何を言う。俺の朝露のような心は永遠の13歳なのさ。
 ・・・さて、食事も済んだし俺はこれから買い物があるんでな。ここらで失礼させてもらうぜ。代金はここに置いとくから。
 ごちそうさん。」
俺はパティが志狼の注文した料理を持ってきたのを認め、急に立ち上がりさっさと店を出た。

追記。
志狼の昼食には赤飯が出たらしい。代金は雅信が置いていってたのだ。
「・・・雅信〜。」
その赤飯を赤い顔をした志狼がどう処理したのかは定かではない。



何軒か店を回ったころ、俺は摩訶不思議な光景に出くわした。
頭がそれを認めるのを拒絶するが記憶にはしっかりと留めておき、踵を返しそっとその場を離れようとする。
しかし、3歩と進まないうちにがっしりと頭を後ろから鷲掴みにされた。
(チッ)
「いきなり方向転換してどこにいくつもりだったんだ?」
俺の頭を掴んでるであろう人物が気軽に、友人に挨拶をかわすように話し掛けてきた。
この声はルシア・ブレイブ。ジョートショップ住み込み四大怪獣の一人だ。
彼女は一時期男性になっていたという貴重な人生経験をしている。
「・・・・・・・・・」
「ちなみに俺は昔ソフトボール大のオリハルコンを片手で握り潰したことがある、と言ったら信じるかなぁ?」
返答に窮している俺にルシアが冗談めかして、関係のないような話をしてきた。
なんかこころなしか手に力がこもってきているように感じる。
ここはリヴェティス劇場前だ。俺は劇場の入り口からちょうど出てきたルシアが目に入ったのだ。
まるで貴族のような華やかなドレスを着ていたルシアに。
「いきなり来た道を戻るのは失敗だったか。」
「ああ、不自然だったな。おかげでこうやって事前に捕まえられたがな。」
「・・・ワケを話すならば他言はしない。お互いのためにもそれがいいと思わないか?」
ルシアは俺の提案を吟味している。俺は好奇心が湧いたのだ。
「まぁいいだろう。ただし、如何なる状況だろうと漏らしたらお前の人生に終止符をうってやる。」
交渉成立。そこでやっと手が離された。
聞いたところルシアは仕事の関係でこのような格好をしていたらしい。
なんでも劇の一時的な女性の代役として店の住み込み従業員の紅一点のルシアに白羽の矢がたったらしい。
もちろん嫌がったのだがどうしても断りきれなかったらしい。
(なおこの時、志狼かメルクが女装しろ、という話も出たとか出なかったとか。)
ただし、条件として一切名を明かさない、自分と分からないようなメイクをする等といった自分だと分からないよう工作をしていたが。
(このことは依頼人も了承してくれた。)
着替えるとまた着る時面倒だ、という理由でメイクを落とした状態の格好で休憩に出てきたところ偶然俺に見つかったとのことだった。
「ふむ、事情はわかった。代役とはいえ仕事に励めよ、新人さん。そろそろ仕事に戻ったらどうだい?」
「ああ、そうする。決して言いふらすなよ。」
「へいへい。じゃあな。」
しっかり釘をさし、ルシアは劇場に戻っていった。
(あのルシアが・・・ねぇ。興味あるなぁ。)
そんなことを思いながらその地を後にした。
なお、ルシアのドレス姿は素材(ルシア)、職人の加工技術(ドレスや装飾品の見立て)共に素晴らしく、男女共にしばし見惚れる
程の佳人となっていたことを記しておく。



のどかな昼下がり。ここ、陽の当たる丘公園のベンチで俺は地平の彼方に向かう雲海をぼんやりと眺めていた。
「ああ、退屈って素晴らしい・・・。」
「そーだなー・・・。」
感慨を込めて呟いた俺の隣で相槌をうったのはジョートショップ有能従業員4人の内の一人、レニス・エルフェイムである。
彼は甘栗色の髪をした陽気な青年だ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
鳥が木の枝でさえずり、親に連れられた子供達が遊びまわる。太陽の日差しは和らぎ、日向ぼっこをする分には支障はない。
「・・・春の日差しとかけて子供のじゃれ合いの殴り合いととく。」
「・・・そのこころは?」
「ぽかぽか。」
俺はなんとなくこんな駄洒落が浮かんだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
俺は買い物を済ませ、荷物は家に置いてきてある。レニスは予定より早く仕事が終わったとのことだ。
男二人がベンチに座り、黙したまま空を見上げる。これで膝にネコ、横にはお茶と和菓子があったら・・・。
「・・・なー雅信。」
「・・・なんだー?」
「俺達ってさー。」
「ああ・・・。」
「浮いてねーかー?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
沈黙。そよぐ風が心地よく、木陰で昼寝している子供達もいる。俺も先程から睡魔に襲われていた。
「あ、めずらしくアレフが女に追っかけられてる・・・。」
「また、ブッキングしたんじゃねーかー?」
視線を下にやると、アレフが公園前の通りを全力疾走しその後を何名かの女性が追いかけていた。さながらハンターとその獲物だ。
しかも、ハンターの何名かが先回りしていたらしく、獲物の行く手を狭めている。獲物は脇の路地に入っていった。
(なーんか学習能力を発揮してるな。)
「・・・レニス、さっきのことだけど別にいいんじゃねーかー。浮いてても。」
「・・・そうだな。」
     ・
     ・
     ・
「お前ら何やってんだ?」
誰かの声。
「わ〜れ〜ら〜の〜ね〜む〜り〜―――」
俺。
「その言葉そのままお前に返そう。」
レニス。
「俺はこいつらに外で遊ぼうって連れられて・・・。」
「―――を〜さ〜ま〜た〜げ〜る〜も〜の〜―――」
半ば夢の住人と化していた俺とレニスに声をかけたのは・・・
「ねーねー。お兄ちゃん達も一緒にあそぼー」
「陣取り、やろーよ。」
大勢の子供を引き連れた煌久だった。おそらく孤児院の子供だろう。
彼は家族ととある料理屋を経営して暮らしている青年で、けっこう子供に好かれている。
「―――は〜だ〜れ〜だ〜。」
「さっきからうっせぇ!」
俺を無視していたレニスと久だったが、久が先に耐えられなかったようだ。
「く〜ん。」
子犬のような声を出し、久を上目遣いで見上げる。そう、久はこういう仕草に弱かったハズ!
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり・・・
「おおおおおおおおおーーー!?痛いイタイいたい!」
「て・め・え・が・んなことをするからだ。」
作戦失敗。俺はうめぼしの刑に処せられた。
(むぅ、もう少し潤んだ瞳をすればよかったのか?)
「お前がんなことやっても気味悪ぃだけだ。」
(さいでっか。)
俺の心の声を聞いたわけではないが、いいタイミングで久が補足してくれた。
「女尊男卑はいかんな、久。とにかくお前はこの子達をなんとかしてくれ。」
その言葉に目をやると、既にレニスは妙技を披露させられているらしい。だが、どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「なんかやってくれ、とせがまれてな。」
そう言うレニスはお手玉をしていた。その数ゆうに30前後はある。観客に男の子の姿はない。
「ところで久・・・子供の数が減ってないか?」
気付けば公園の数箇所に子供の姿が見え隠れする。男の子が待ちきれるはずもなかったのだ。
「まぁいいんじゃねえの。とりあえず俺も行くか。」
久が子供達の所へ向かった。子供達は障害物を盾にし、幾人かがこちらの様子を伺っている。
俺は他の子供の姿が見えないのが気に掛かった。さらに子供達はなにやら目配せをしているようだ。
久はそのまま近づき・・・
「今だー!一斉集中攻撃開始!」
一番高い所に登っていた子供が指示を飛ばした。それと同時に3方向から久に泥球の集中砲火が浴びせられた。
「だわぁぁーー!?」
哀れ、泥まみれになる久だが、やがて弾切れしたようだ。そこに久がおどろおどろしいオーラを漂わせ走っていった。
「よーし、第二射発射!」
またもやあの子供がやけに冷静に指揮をしている。
「ぐぼっ!?」
後列にいた子供が入れ替わり攻撃を開始した。その中の一つが久の口に当たったようだ。
しかも走っていたのでさっきより勢いがあるはずだ。
「誰だ!中に石を詰め込んでいたやつぁ!」
ぼん!
「くぉらぁ、ルーンバレットを使ったのはお前かぁ!?」
まっすぐ久に着弾したルーンバレット。しかし、十歳にも満たない子供がルーンバレットを使うとは・・・。
「よーし、散開!各自の判断で行動せよ!」
わーーー、といいながら一斉に蜘蛛の子を散らすように散らばった。

「うーん、楽しそうだねぇ。」
俺は眺めながら感想を言った。
わーわーきゃーきゃー騒ぎながら久が子供を追っかけている。すでに先程ののんびりとした雰囲気はない。
今は明るい声があり、それを昔から変わらない陽の光が照らし、変わり続ける大地の芽を育んでいた。
「そうだな。」
レニスはお手玉をここにいる子供達に教授している。まずは二個からだ。
「それにしてもゲリラ戦法とは。あの指揮してる子供、おもしろいな。」
俺は素直に感嘆した。火力の集中といい、戦列の組み方といい、統制がとれている。
「んーー、と。さすがに久一人じゃ辛いだろうから俺も仲間に入れてもらいにいくぜ。」
「ああ、気をつけろよ。」
そう言い俺は一つ伸びをして戦場へ向かった。・・・加わってすぐ泥の洗礼を浴びてしまったが。
     ・
     ・
     ・
あれからどれくらいたったのか、ようやく全ての子供を捕まえ、今は孤児院に送っていっているところだ。
久は孤児院の人にこの時間まで外で遊んでやって欲しい、と頼まれたとのことだ。
太陽は西に傾いているとはいえまだまだ明るく、子供達はわいわい騒ぎながら明るい顔で帰路についていた。
やがて孤児院でもある教会に着くと、門の前でシスターが待っていた。
シスターは子供達の相手をしてくれたことによるお礼を言い、この後ちょっとした劇があるのでもし良かったら見ていきませんか?と
いう申し出をした。
その時何故かレニスの目が楽しそうに見えた。
俺とレニスはその申し出を受けたが、久はそろそろ家に戻らないといけないらしいので断った。
その久に反応したのは子供達だ。
「えー、行っちゃうの?」
「ひさにぃ、もうちょっといようよ。」
そんな久を子供が引きとめようとした。
が、結局は久の「また今度近いうち来てやっから」という言葉にしぶしぶ子供達は引き下がった。

部屋着に着替えた子供達と俺達はホールに集まっていた。
なにやら聞いたところ、地域との交流を深める、という目的で劇を行っているらしい。
シスター達の何の劇をするのかは聞いてないとのことだった。
パンフレットにも出演者の名はあったが、どんな劇をするかは載ってなかった。
ローラは・・・「やっぱり恋愛劇よ!熱く燃える恋。でも、それには障害が・・・(以下略)」とのたまっていたが。

そして”自警団第三部隊”による劇が始まった。

劇はかなりの出来だった。要所要所で裏方のメルクが魔法で盛り上げてくれた。
やがて劇は佳境へと入って逝く。

「「そこまでよ(だ)!」」
高らかと謎の声が響く。
「何者だ!」
誰何する悪役――ヒロ・トルース。
自警団第三部隊隊長で赤い目と髪をした彼は、今はどこぞの悪役が着る黒い衣装を着ていた。
その声に応えるようにして、暗がりの中、スポット(おそらく裏方のメルクが魔法を使っているのだろう。)が一人ずつ当てられる。
「いつの世も悪が栄えた時代なし!」
いわゆる赤の戦隊スーツで登場した天羽志狼。
ノリノリだ。しかし、彼は自警団員ではないはずだが。
「悪がある所には正義在り!」
赤の隣に立っているピンクこと星守輝羅。普段は大人しく、物静かな女性・・・のはずだったのだが。自警団第三部隊の女性である。
こちらも開き直っているのかノリノリだ。
「日々の笑顔のために東西奔走。」
ピンクの隣にいるオレンジの十六夜・ランカート。第三部隊に所属する真面目な青年だったが、すでに周りの空気に感化されている。
こちらは照れの裏返しか淡々とこなしている。
「僕達を今日もどこかで呼ぶ声が。」
赤の隣にいる青のセリン・ピースフィールド。彼は孤児院の出身でもあり、自然な笑顔が似合う第三部隊の青年だ。
こういうことは好きなのか、けっこう楽しんでるようだ。
「え、エンフィールドの平和は我らが守る。」
青の隣に位置付けられている黄の幻・シュトラース。裏表のない青年で、第三部隊所属だ。
彼は抵抗があるのかやや照れが残っている。
『我ら、エンフィールドレンジャーここに推参!』
左から十六夜(オレンジ)、輝羅(ピンク)、志狼(赤)、セリン(青)、幻(黄)の背景に本物の爆発が起り、五人を照らした。
俺の魔力探知アイテムが反応していることから、メルクが二重三重の結界をあちこちに張っているのだろう。
ちなみに如月・ゼロフィールドという第三部隊の青年は舞台進行係だ。
「さあ、ヒロあんたの悪行もこれまでよ!」
「俺が引導を渡してやろう!」
一番乗り気な輝羅と志狼がヒロを指し、宣告する。何か後ろの内二人はやや引いてる感がするのは気のせいだろうか。



「ふはははは。弱い!弱いぞ!」
「ぐわっ!く・・・卑怯な。(ヒロ、ちょっと痛い、痛いってば。もう少し手加減しろ。)」
「ん〜、卑怯?お褒めに預かり光栄だね。最高の誉め言葉だよ。」
ここから見てもヒロは明らかに悪ノリしていることが分かる。
「(ヒ〜ロ〜。あんたわざとやってるわねぇ。)」
一方的に痛めつけられていた四人だったが、
「輝羅さん。子供は助け出しました!」
その時、青(セリン)が劇に協力してくれた子供(小さな女の子)を捕らえていた奴を後ろから(不意打ちで)倒し、解放した。
「おおっと、ここで青がやってくれました。」
これは如月。
そしてその言葉をまってましたとばかり、二人が笑いだした。
「さあ、よくもやってくれたな。」
「覚悟はい〜い?ヒロ。」
赤とピンクがじりじりと間合いを詰める。
「(お〜い、セリフが違うぞ。)」
オレンジ(十六夜)の言葉も二人の怒りの空間には届かなかった。

そっからは・・・もう滅茶苦茶だった。

技の掛け合い。
アドリブに次ぐアドリブ。(すでに二人程は対応しきれてない。)
暴走。そして爆走。

「ふはははは、甘い。甘いわぁ!」
「なんの、喰らえぇっ!」
―――ファイナルストライク!―――
「おっと。」
志狼の得意技が飛ぶがヒロはあっさりかわす。
「隙ありぃぃっ!」
―――星守流五の法八岐大蛇!―――
輝羅の八つの手刀が的確にヒロの急所を狙う。
「ひょい。」
その言葉どおり、ひょい、と避ける。
「ちょっとまて!なんで”ひょい”で避けられる!?」
黄(幻)がそれにつっこむ。
「これならどうだ!」
―――天羽流無手版風神剣―――
腕に込めた気を横薙ぎに払い、そこから衝撃波が生まれる。
「わああぁぁーー」
ヒロはその衝撃波を黄(幻)を盾にすることで防いだ。
「くっ、なんて非道な!幻待ってろよ、さみしくないようヒロをお前の元、ヴァルハラに送ってやるからな。」
「ひ・・・ひどひ。」
そんな調子で続けられていた。
「だぁぁっ!おまえら、やめんかぁ!」
「皆さん、止めてくださ〜い。」
誰かの制止の声も届かない。
「あああ〜〜。こいつらに頼むんじゃなかったのか?いや、ヒロが出るという時点で・・・。」

ドガン!!ズガガガガガガ!ギンッ!ボカン!!
ここが崩壊しないのはひとえにメルクのおかげだろう。

「おおぉーーー。」
「すげぇっ!」
しかし子供達には上々だった。なにしろ迫力だけはあるのだ。
ハリウッドもびっくりだろう。(謎)

やがて、ヒロは赤とピンクによって捕えられた。
舞台の上ではまな板の上の鯉よろしくヒロがロープで全身ぐるぐる巻きにされ、ぴちぴち跳ねていた。
「ふう、てこずらせやがって。」
「さあて、どう始末しようかしら。」
雰囲気はすでに悪役である。
なんとかフォローしようとした如月の姿は憐れを誘うものだった。

そんなこんなで劇はいつの間にか終わっていた。
最後は巻き込まれ、心身ともにぼろっちくなった十六夜と幻と如月がなんとかまとめ、自警団の説明・アピールなどをしていた。

なお後日談になるが、このことが団長の耳に入り、第三部隊の費用削減になりかけたとか。

俺とレニスはその後別れ、帰宅した。
帰る途中、透き通るの夕暮れの中アインと立ち話をした。釣りの帰りで、どうやら戦果は良好だったそうだ。
あまり立ち話もなんだしと思い、2、3言葉を交わして別れた。
ローズレイクの湖面は黄金色に輝き、やがて今日も絶えず流れる水の音と森を揺らす風の音が闇と静寂の中を支配するのだろう。

俺はじいさんの家に帰り簡単な夕食を作り、お互い今日あったこと等を話して夜を過ごした。
夜も更け、床につき森の動物の声や森の囁き、窓から射しこむ月明かりの中、いつものように夢へと旅立った。

エンフィールドは今日も平穏な一日を過ごしていた。

続く


次回予告!!
羊の群れに襲い掛かる狼の群れのごとく小国がエンフィールドへ迫る!
そして、(何故かチャック入りの)羊こと、エンフィールドの住民はそれにどう対応するのか?
さあ、どうなる!?
なんか次回誰か一人でも出てくれば一発で終わるかもしんないけど、それは作者にもわかりません。
どうなるかははっきり言って気分次第です。なんも考えてません。
頭の片隅に追いやって待て!(ス○イヤーズ風)
って、これじゃあ予告じゃねぇよ!
中央改札 交響曲 感想 説明