中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第3話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第三話



兵法三十六計より抜粋、
第五計 趁火打劫(火に趁んで劫を打く)

さてさてただいまの画面は憐れな名前もない(笑)小国です。
お、どうやらまたもや密談中のようですね。では早速音を拾ってみますか。
「ようやく軍の出撃準備が整いました」
腹黒宰相が愚帝に恭しく頭を下げている。
「そうか。準備に一ヶ月もかかってしまったが、まあしょうがあるまい」
軍を動かすにはそれ相応の時間と金がかかるのだ。特に食料問題は重大である。
腹が減っては戦はできぬってね。
「しかしその一ヶ月は無駄に過ごしていたわけではありません」
「うむ。今ごろはあの街は大騒ぎで疲弊しておろう」
「左様で。そこにつけ込めば赤子の手を捻るがごとく簡単に落ちるでしょう」
もちろん密偵を放てば街の様子も多少は分かるものだが、この二人はその必要もないと
考えているらしい。つくづく阿呆である。情報をそれほど重要だと考えていないらしい。
いや、今この国は(彼らにとって)強大な力を得たことによる慢心からそういった考え
がマヒしているのかもしれない。この力さえあれば他は何も必要ないとでも考えている
のだろう。
「では、我々の輝かしい第一歩を・・・」
「うむ。・・・・出陣!!」
ああ・・・よもやその第一歩でつまづくという事に気付く事があるわけでもなく。
そして世界一非常識、且つ、平凡な街へ進軍していった。


さあ、エンフィールドの街はというと・・・?


ローズレイクから水を引いて畑に撒いている男が一人。雅信だ。
彼はせっせと畑仕事に勤しんでいる。
・・・・・・・・ドォォォォ〜〜〜ン
どこかで爆発音がした。ここまで少し空気がビリビリいっている。
街を向くとなにやら煙があがっている。
「ま、平和なのはいいことだ。うん」
「雅信、ちょっといいか」
「ん?」
雅信に声をかけたのは家の主ことカッセルだ。
「なんだ?」
「うむ。ここ最近の事じゃがどうもおかしいと思わんか」
「・・・確かにそれは俺も思っていたが」
どうも最近エンフィールドでは死霊や不死者といった自然ならざるモンスターが頻繁
に現れるようになっているのだ。もっともその程度のモンスターになんとかなるよう
な可愛げのある街ではない。仕事が少し増えた程度しか感じていないのだ。
まあ、おかげで第三部隊や第一部隊が活発に動いているようだが。
実をいうとこれが先程言っていた小国の一ヶ月の間にやっていた事なのだが・・・
どうやら内部に死霊やらゾンビやらを発生させて街の疲弊を狙っていたらしい。
これもあの中堅魔王とやらの力なのだろう。しかし成果はさっぱりだったり。
「最近どうも大地が泣いてるように感じるんだ。それもたくさんの怨嗟の声が木霊す
 るみたいにな」
「それはやはりこういったものが生まれてくる事と関係があるのかのぅ」
そう言いながらカッセルの杖を持つ手が霞んだ。
それと同時に森の方角から近くにやって来た死霊らしきものが斬り裂かれる。
そしてそれは歓喜の声で震わせながら消えていった。
カッセルは仕込杖を居合で振り抜いた姿勢をゆっくりと元に戻した。
「おみごと。さすがは、というべきか」
「まったく、この齢の老体にはキツイんじゃぞ」
「仕方ないだろう。俺はああいう怨霊の類は苦手な方なんだからな。大地に還す浄化の
 やり方しかできない俺よりじいさんの技の方がいいだろう。第一俺は神聖魔法が使え
 ないからな」
カッセルは不浄なるものを神聖魔法による聖属性を付与した斬撃で浄化したのだ。
雅信は神聖魔法が使えないためにこういった浄化関連はあまり使えないのだ。
というか基本的に魔法自体が使えない。
「まったく老人をこき使いおって」
「まあまあ、それより話を戻すが・・・前に一度死霊の声を聞いたっていうアインの
 話によると、何かに呼ばれて気が付いたらこうなってた、と言っていたらしい」
「・・・・やはり何者かの仕業か」
「それが人間であれ魔物であれ・・・やっかいな事にならなければいいんだが」
空を見上げて切に願う。
その願いは聞き届けられたのだろうか?それは薄く白がかかった青空に虚しく消えた。
「ふむ、周りの情報を集めておくか・・・まずは一応シーヴズギルドに依頼して、それ
 から商人や旅人等が寄る店を回るか」
情報を集めるにはよく酒場だというが、別に酒場でなくともさっき言ったように外から
の人が集まって来る場所が情報を集めやすいので酒場にこだわる必要はない。
雅信が色々聞きまわっていた時、どうやら第二部隊も動いているらしい事が分かった。
エンフィールドは一部でやや緊迫した雰囲気に包まれていた。


この10数日後、隣国がエンフィールドへの宣戦布告と同時に街を半包囲した。


この街自体が非常識なので、アンデット系やゴースト系のモンスターの活発化もこの
街の自警団の優秀さのおかげか大した問題にまでは及ばず、街は至って平和だった。
だが、そのせいで危機感に乏しかった街は隣国の突然の宣戦布告に大いに震撼した。
評議会は早急に会議を開き、使者を送ったがその使者は重傷にされ送り返された。



「どうやらあちらに和平の意思はないらしい。降伏か抗戦を決めるように、とのことだ」
会議室には各部隊長と団長補佐、団長の六名が集まっていた。
あ、元団長ベケットはとうに団長を辞め、どこかに姿を消している。今は新任の団長が
務めているのだ。
「まったく・・・やっかいな事になりましたね」
ヒロが真面目な顔で苦々しく吐き出す。
「あちらの総兵力はこちらの約3倍」
とりあえず集めてきた情報を整理する。
「そしてその内あちらの魔術師はこちらの約2,5倍。この差は大きいですね・・・」
集団戦の最初は決まって遠距離攻撃から始まる。それから接近戦へと持ち込むのだ。
最終的には接近戦で決まるのだが、それをどの程度まで有利に進められるかの鍵が
最初の遠距離戦だ。ここで大抵は銃火器や魔法等が活躍する。
そしてこの内魔法は戦闘全般に渡って多大な影響を及ぼすのだ。魔術師の数と質で戦
闘は大きく変わる。だからといって魔術師ばかりで戦いに勝てるわけではないが。
あ、付け加えるならば普通、集団接近戦においての主力は剣ではない。槍等の長柄物だ。
剣はどちらかというとよほど使い慣れてないと壊れやすいのだ。槍はあまりその心配は
なく、それに一般の兵にとって扱いやすいという利点もある。
ちなみに自警団では主にハルバードを採用している。
「では、まずは住民の避難から・・・」
     ・
     ・
     ・
会議は着々と進んでいった。
「やはり正直いってきついな」
大体の問題を決めたあと、団長補佐がそう漏らした。
「幸いかどうか、あちらもあまり戦争の経験がない事が救いでしょうかね」
この平和な時代、戦争なんてほとんど起きていない。
つまりお互い練度が低いのだ。言い換えれば新兵と同じと考えていい。
「平和な時代は守る力を奪い取る。戦争を知らない事はいい事なのだがな・・・」
リカルドは悲しそうに呟いた。
「それにしても急な宣戦布告・・・これには何らかの勝算がなければできない事では
 ないでしょうか」
ヒロが意見を述べる。これは輝羅とも同意見だったのだ。
「同盟国がいるのか、新兵器の開発に成功したのか、いずれにせよそれが何なのかは分
 かりませんが・・・」
「確かにそうとも考えられるな」
「そこで・・・それが何なのかを探ってみたいのですが」
団長はしばし黙考していたがやがて、
「第二部隊としてはどうですか?」
第二部隊は情報処理を専門とする。本来ならこちらが畑なのだ。
今回第三部隊は主に住民と自警団と評議会との橋渡しとなっている。要するに連絡係だ。
他に悪く言えば雑用、使いっ走り等の裏方を務めている。しかし、こういった情報の伝
達も重要なのだ。もし伝達が円滑でないならば指揮系統に混乱が生じたり、対応が遅れ
たりする。また、住民に不安を与えないようにするのも大切な仕事だ。
「ええ構いません。ただ、情報の交換を必ず定期的にすればいいかと」
「ではトルース隊長はそちらも頼む」
「はい。それとその際に『民間人』にも協力を請おうと思いますので」
「手段については一任する」
「はい」
     ・
     ・
     ・
「ちょっといいかね、トルース隊長」
「はい」
リカルドが会議終了後ヒロに話し掛けてきた。
「どうしても『民間人』に協力を求めるのか?」
「ええ。その方が被害も少なくてすむでしょうし」
「私としては・・・できれば彼ら民間人を巻き込みたくなかったのだがな。自警団が
 無責任に重荷を背負わせるような事は・・・。それにいくら彼らが強いとはいえ、死
 なないわけではない。彼らとて人間なのだから。ただ力があるというだけでこんな役
 回りをさせてしまうのが辛いのだよ」
リカルドの顔に苦渋が滲んでいる。
「自警団のメンツと人民の命・・・どちらが大切かわかっているでしょう」
彼らの力添えがあれば戦争によるこちらの死傷者の数は激減するだろう。それが民間人
の協力によるものだとすると、それは自警団のメンツにも関わるのだ。
「ああ。だが、彼らに頼りすぎるとなるといずれ『彼らが守ってくれる』という意識が
 生まれかねん。それが心配なのだよ。自警団は唯一の街を守る組織だ。その組織が街
 の危機に何もできなくなってしまったら、と思うとな」
こんな街の危機にこそ自警団は働くべきなのに、これに『民間人』が加わればかなり
負担が減る。それほど有能な人材があるのだ。ある意味では今回は貴重な経験を積む機
会なのだ。しかし、『民間人』の協力を得ればその経験を積む機会が激減してしまう。
そして結果的に自警団が弱体化してしまう事も恐れているのだ。
一方でその経験には人の命や生活もかかっている。だからこそヒロは被害を少なくする
選択をしたのだ。
「笑い話だな。自警団に街を守る力も経験も足りずに、民間人の方が経験豊富で守る力
 もあるというのは」
だが、経験豊富な事は良い事ばかりではない。それ相応の犠牲も負っているのだ。
だからこそそんな経験をしていない人達はある意味では幸せだろう。
皮肉にも、その幸せにはいざという時に守る力が無い、という側面も併せ持っているが。
傷つかなくては強くなれない場合もあるのだ。
決して自警団の人材が不足しているわけではない。いや、むしろ他のと比べればはるか
に豊富な方だろう。それでもこの街には更に有能な人材が眠っているのだ。
「もちろん彼らの意思は尊重しますよ。無理にとはいいません。ではここで失礼します、
 フォスター隊長」
「うむ」



ここは自警団の一室。
「というわけだ。本来ならば手を借りたくはなかったんだが・・・」
ヒロがざっと話せる部分を説明する。
ここにいる民間人はアイン、志狼、紅蓮、久、雅信、メルク、総司、レニス、リサ。
彼らは自警団、というよりヒロに召喚されたのだ。
自警団員ではヒロ、十六夜、如月、セリン、輝羅、幻がいる。
あ、ライフは第一部隊なので街の防衛の準備をしている。
ちなみにルシアは話の展開の都合上やむを得ずエンフィールドを不在にしている。(笑)
「できれば協力して欲しい。これは強制じゃない」
そう締めくくったヒロにそれぞれが協力の意を示してくる。
―――――が、
「悪いが俺は遠慮させてもらう」
一人、断った人物がいた。
「雅信?」
志狼が不思議そうにその人物の名を呼ぶ。志狼は当然全員協力するだろうと思っていた
のだろう。
志狼だけではない。皆が雅信を向いていた。
自分に向けられる様々な視線を雅信は受け止める。
「俺は協力しない。すまないが俺は帰らせてもらう。協力しない以上はここにいる必要
 はないだろう」
「ああ」
「そういうことだ。じゃあな」
ギィィ・・・・バタン。
雅信はヒロの許可をもらい、一人部屋を出た。
ガタッ
「あ、おい!志狼!?」
雅信を追って志狼が飛び出していった。

「雅信!」
自警団の建物の廊下。今は出払っているらしく人気がない。
後ろからよく聞き慣れた声がかけられ、雅信は体ごと振り向いた。
「志狼か。何だ?」
「雅信!どうしてお前はその力を使おうとしないんだ!お前も充分人を守るだけの力が
 あるんじゃないか!どうしてこういう時に使おうとしないんだよ!!」
「お前達がいるじゃないか。今更俺一人が減ったところでそう変わりはないだろう」
「そんなのは関係ない!」
「志狼、俺は俺なりの信念がある。そしてそれに準ずる決まり事を自分で課したんだよ」
「決まり事ってなんだよ!例えこの街の人たちを見殺してでも貫き通すものなのか!?」
「ああ」
雅信は迷わずにあっさりと肯定した。
「!!」
雅信のその言葉が意外だったのか、志狼は二の句が継げなくなる。
「とはいえども実際には俺の信念なんて穴や矛盾だらけなんだがな。要は自己満足なの
 さ。だが、それでも俺はその道を歩む。志狼・・・お前はお前の道を行け。それと今
 感じているその思いを忘れるな」
雅信は志狼をじっと見つめた。その目には羨望や哀しみ、そっと見守るようなそんな
穏やかな感情が入り混じっていた。
「・・・少し・・・お前が羨ましいよ・・・・」
志狼にそう言い残して雅信は再び立ち去ろうとする。
「雅信!」
それでもなお志狼が雅信に呼びかけるが、
「志狼。そう雅信を責めるものじゃないですよ」
突然志狼の後ろから声がかけられた。
「総司!?」
「雅信には雅信の考え方があるんでしょう」
総司は志狼を穏やかに諭すように言った。
「・・・・・・」
総司のその言葉に沈黙する。しかし顔はまだ納得しかねているようだ。
「ああ、それとですね雅信」
「・・なんだ」
立ち止まり、体を半分後ろへ向けた。
「なに、一応の宣言ですよ。もし、俺とあなたの道が互いに障害となったら俺は容赦
 なく排除しますよ」
「総司!?」
驚く志狼に構わずに雅信は、
「怖いな・・・そうならない事を祈っておくよ」
そうおどけたように返事をして肩をすくめ、自警団を出ようとする。
今度こそ止める者はいなかった。



「あ〜あ、これは志狼に嫌われたかな?」
雅信はカッセルの家に戻り、なにやら何かの準備をしている。
カッセルはもう避難しているので家にはいない。
「アメ、お前はどうするんだ?」
”俺はこの街に残ろう。住民達と行動を共にするつもりだ”
「・・・ああ、そうしてくれると助かる。いざという時はお前も街の人を守ってくれ」
”うむ”
「さて・・・と、これからは時間との勝負だな」
簡単に準備した荷物を持って、雅信は家のドアを開ける。

その日、雅信は一人街から姿を消した。



   続く
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