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エンフィールド幻想譚 恋人たちのひととき
正行


エンフィールド幻想譚
恋人達のひととき



カランカラン♪
休日の昼下がり、俺は荷物を持ってさくら亭に入っていった。
今の季節は冬で、今日は曇っていることもあり、かなり寒い。
店の中は暖炉に火があり、外よりは暖かかった。
そして客がまばらな中、一つのテーブルに志狼、ヒロ、シェリル、久、紅蓮がいた。
「ん?何だ雅信か」
「何だはないだろ、紅蓮。とりあえずホットミルクを頼む」
「あいよ。パティ!雅信にホットミルク!」
そして俺は一旦厨房のパティに近づいていった。
「(ほら、パティ。ご注文の品だ。確かに渡したぞ)」
「(あ、ありがとう・・・)」
「(気にするな。あいつが心配だったんだろう?)」
「だっ、誰がよ!」
俺の言葉に過剰に反応するパティ。
「(はいはい、俺が悪かったよ。だからそんな大声だすなって。でもなパティ・・・)」
「(う・・・何よ)」
急に子供に優しく諭すような声色になった俺にパティは面食らい、気勢を殺がれたようだ。
「(素直になれとは言わない。ただ自分の心を偽る事だけはしないでくれ)」
俺はそれだけを伝えた。
そんなやり取りをこっそりと交わし、俺はパティから離れ、皆のテーブルに向かった。
そして俺は茶色の防寒具を脱ぎ、皆と同じテーブルに着き軽く挨拶を交わす。
「みんなは何してるんだ?」
「志狼とシェリルと久は待ち合わせだとよ」
俺の問いに答えたのは職務を放棄しているとしか見えない紅蓮だった。
「いいんだよ。どうせ今の時間はたいして仕事があるわけじゃねえんだから」
俺の視線を読み取ったのか、そう説明する。
「ふむ、やはり休日ということは・・・、
 志狼はシーラ、シェリルは総司、久はエルか?」
「おっ、さすが雅信。ドンピシャだ。」
何がさすがなのかはあえて聞き流すとして、
「ヒロ、お前も休日なのか?」
ここ最近忙しそうなヒロがいたので少し疑問に思っていたのだ。
「・・・俺には休日すら与えられないのか?」
なんかかなり感慨のこもったセリフだな・・・。隊長も大変らしい。
まぁ最近は雪とかもあって色々忙しそうだからな。きっと疲れてるんだろう。うん。
その後も少し皆と雑談した後、
「紅蓮」
と、パティの呼ぶ声がした。振り向くとどうやら俺の注文が出来たらしく、カップを持っ
たパティがいて、それを近くに置いて奥に引っ込んだ。
それに素直に従った(めんどくせぇな、とか言っていたが)紅蓮はカップをとって
戻ってきた。
「ところで久は何を持ってるんだ?」
「ん?何って・・」
「言っておくがお前が忍び持っている暗器の事じゃないぞ」
「んなこたぁわかってら」
久はいつも大量の暗器を隠し持っているが、重くないのだろうか?
ま、こいつらならあの程度の重りなんて大したことはないのだろう。
「お前が言ってるのはこの事か?」
そう言って持っていた何かの包みを俺に見えるように出した。
「ああ」
「これは今日エルに渡すやつだ。前に頼まれてやっと出来上がったんでな」
「また武器か?」
エルは自分で武器を作っていて、最近久と合作で色々試して作っているらしい。
「まあな」
どうも久とエルの関係は掴みづらい所がある。
恋人のようにも見えるし、友人にも見える。
まあ俺があれこれ考えてもしょうがない事ではあるが。
(二人共まだ・・・時間はあるからな)
そんな事を考えていると・・・
カララン♪
「睦月はいるかっ!!」
その吼え声を引き連れて、初めて見るマフラーを着けた如月がさくら亭に『そっと』乗り
込んできた。
もちろん騒々しくしたら調理器具が飛んでくるのを知っているからだ。
「あら、如月。どうしたの?」
「パティ、それより睦月はっ!?」
「ここにはいないわよ」
「そうか、邪魔したな!」
と、すぐさまどこかへ走り去って行った。
「・・・慌しいやつだな」
紅蓮がそんな如月を見て一言。
「どうせトリーシャ絡みだろう、あの様子じゃ」
俺は一陣の風となった如月にそう見当をつけた。





突如さくら亭に現れた如月だが、実は少し前にこんな事があったのだ。

―――今日の昼前の出来事。
「はい、如月さん。ボクからの贈り物だよ」
そういって何かの包みをトリーシャが如月に差し出した。
「ん?開けていいのか?」
「うん。いいよ」
ガサガサ・・
「・・・マフラーか。色も鮮やかだな。ん、これは手編みか?」
「うん。実はボクが作ったんだ」
「へえ!凄いじゃないか。でもいいのか?俺がもらっても」
「うん。如月さん寒そうにしてたからね」
「ありがとう、トリーシャ」
「えへへ・・・ねえ、着けてみてよ」
そういって早速如月がマフラーを着けようとすると、マフラーが妙な雰囲気を醸し出し
ている事に気付いた。
「なあ・・・トリーシャ。もしかしてこのマフラー・・・睦月に預けなかったか?」
「え?うん。何かちょっとしたおまじないをかけてあげるって言ってくれたから」
「・・・・・・・・・・・そうか・・・」
如月は深ぁぁぁい苦悩の滲んだ顔を一瞬だけ見せた。
ちなみにマフラーには睦月の『月』聖霊魔法の一つである『魅了』系の魔法が掛かって
いた。しかも、かなり分かりにくく毎日にでも着けていたら一週間程でじわじわと効力
を発揮するやや遅効性のものだ。
これなら初め気付きさえしなければ確実に引っかかってただろう。そのため巧妙に魔力
が隠してあった。
しかし睦月の唯一の誤算は渡す日の今日が満月だったことか。おかげで一際強く魔力を
放っていたのだ。もし新月に近かったら絶対に気付かなかっただろう。





「はい、みんな。これはあたしからのサービスよ」
お盆に六つのカップをのせたパティそう言ってみんなに配っていった。
「これは・・・ハーブティーですね。ありがとう、パティちゃん」
「お、あんがと。パティ」
「ありがたく頂戴するぜ」
「ありがとう、パティ」
「俺にもか。ありがとう」
上からシェリル、久、紅蓮、志狼、雅信である。
「なあ、パティ・・・俺のは?」
一人、カップをもらってないヒロがそう訴えた。
「なんであたしがあんたにあげなきゃなんないのよ」
「またまた〜、パティさん。そんな事言って〜。ホントはあるんでしょ、ねえ?」
「さっきから何言ってんの?これはあたしの分よ」
そう言って残りの一つに口をつける。そこでヒロの視線に根負けしたのか、
「はいはい、分かってるわよ。あんたの分もちゃんとあるから」
それからあらかじめ厨房に置いてあったカップを取って戻ってきた。
「はい、これがあんたの分」
ヒロが受け取ったカップには心なしか少し俺達よりも量が多めに見えた。
「サンキュ」
ヒロがそうお礼を言うと、パティは黙って同じテーブルに着いた。
照れ隠しとも言う。
そんなパティの様子が可笑しくて、つい笑いがこみ上げてくる。
そして俺もまた一口飲んだ。
「”仕事の疲れがとれそうだな”、ヒロ」
「・・・ああ」
ヒロを見ると、くつろいだ様子で味わっていた。
「お前・・分かってないだろ」
「何をだ?」
「やっぱりか・・・」
「だから何をだ?」
「俺は何も言わん。自分で気づけ」
まったく、なんでパティがわざわざ俺にこれを取り寄せてもらったのか分かってないな。
パティが「何か疲労がとれる効用のあるやつ・・・ない?」なんて言ってきたので、俺
はこれに入っている薬草を持ってきたのだが・・・。
最近のヒロは随分と休む暇もなく働いていたからな。パティも心配していたんだろう。
いや、もしかしたらヒロ、案外この事を分かっててそう言ってるのかもしれないな。



それからも俺達は休憩に入ったパティを加えて取り留めの無い話をした。
マリアが魔法を使って何故か暴走した動物たちにもみくちゃにされた話。
リサが公園内で昼寝をしていたら、いつのまにかアインの絵の題材にされていた話。
最近ピートがレニスにお手玉を習っていたと思ったら、玉乗りという足場の不安定な状態
でお手玉5個を成し遂げたという話。更に10個を目標としているらしい。
メルクが受け持った仕事の酔っ払い退治でなにやらガラの悪い酔っ払った連中に絡まれ、
更に女と間違えて体を撫でようとしたヤツをにっこりと冷たく微笑み、強制転移させた話。
余談だが、「どこに飛ばしたのか?」と問うた人に「なあにちょっと頭を冷やせる所です
よ。いろんな意味でね」と底冷えする目で答えたそうな。
俺がローズレイクで弓の鍛錬をしていたらいきなり4方向から小さな何かが飛んできて、
それを咄嗟に全て打ち落としたら、今度はいきなり破裂して視界が真っ赤に染まったかと
思いきや、目や口、鼻にヒリヒリした痛みが襲いぼろぼろと涙が出てきて七転八倒した話。
なお、これは総司がやった事で「まだまだですね。これぐらいなんとかしないと」や、
「こういった緊張感がないとダメなんでしょう?」等とにっこりとほざきやがった。
確かに「不意打ちで構わないから何か頼む」と頼んだのは俺だが・・・
補足するなら総司が投げたのは赤唐辛子と白胡椒が詰まった袋で、何かの衝撃で破裂・散
布するよう仕掛けてあった。


「志狼はシーラとどこか行くのか?」
「ん、ああ」
「そうか・・・楽しい一日になるといいな」
「おう!」
俺の言葉に気合が入っている答えを返す志狼。
「そういえばシーラちゃん、前に志狼さんとどこか行った後、楽しそうにしてたんですよ」
シェリルがこっそりと教えてくれた。
「え、そうなの!?」
ぱあああ・・・と顔が輝く志狼くん。若いなぁ・・・
「でもよ、それって実は『お友達』としてじゃぁねえか?」
ニヤニヤとしながら紅蓮が。
「そうそう。結構いるんだよなぁ、『いい人』で終わるやつって・・・」
ヒロが表向きは深刻そうに、しかし裏では実に楽しそうにしていることだろう。
「・・・・・・・・・・・それでもっ!俺はシーラが喜んでさえくれるならっ!」
決意を新たに力強くそう宣言した。しかし最初の沈黙はなんだ?志狼よ。
「おひ、二人とも。あんまり志狼で遊んでやるんぢゃねえって」
「そういう久もエルが気になってんじゃねえのか?」
と、ヒロは矛先を久に変えた。
「なっ、テメエ!いきなり何言い出しやがんだ」
「おーおー、狼狽して。分かりやすいやつだな」
「そんな赤い顔してたら一発だぞ」
ケラケラと笑う紅蓮とヒロ。
そして四人(何故か志狼も巻き込まれている)でギャアギャアとお互いに言い争っていく。
「みんな活気があっていいな。どこぞの枯れた御仁とは違って」
まあ、あいつの場合は自分から遠ざけているようにも見えるがな。
「あいつにもエンフィールド最強熱烈カップルの100分の1でも熱意があればなぁ」





「ハ・・・クシュン」
「風邪ですか?十六夜様」
「ははは、心配ないさ。ただのクシャミだよ、クレア」
「それならばよろしいのですが。お体にはお気をつけくださいね。もし十六夜様が病気
 にかかったら・・・」
「クレア・・・気遣ってくれてありがとう」
「十六夜様・・・」
(以下略)





「ねえ・・・前から思ってたけど、なんであんたはそう他人の恋愛に興味を示すのよ」
先程からあの四人を呆れ顔で見ていたパティが俺に話し掛けてきた。
「ふ・・見てて面白いからだ。『他人の恋愛こそ最上の道楽』という言葉を知らんのか」
だが俺のその言葉にいつの間にか争いを止めていた久は、こちらを探るような真剣な面持
ちを向けて、
「それも本当だが・・・まだ何か言ってない事があるんじゃねえのか?」
さすが久。まあ、話してもいいかな。別段隠すような事でもないし。
ただ・・・うまく言葉にできるかは分からないが。
「ふう、そうだな・・・・」
俺は一つ重い息を吐いて言葉をつなげた。
「人は・・・恋をする。まあ、例え愛し合っていなくても子供はできるよな。
 そして、その子供もまた誰かと恋をする。
 そう繰り返して『人』はずっと続いてきたんだ。
 その無限のつながり・・次の世代へと移り変わっていくその一端が今ここにあるんだ。
 そう考えると・・・面白いと思わないか?
 人が生まれ、成長し、子供から大人へ。その間に様々な出会いがあり、別れがある。
 そして、その中で恋をする人もいる。
 やがて、子供が生まれ、その人の血が交じり合い、脈々と受け継がれていく。」
ここで俺は一度皆の顔を見渡して、

 (・・・俺には・・・もう出来ない事だからな・・・)

「皆を見ていると・・・な。楽しくもあり、嬉しくもあるんだ。
 その恋が成就するにしても、失恋になるにしても。
 あ、もちろん恋は綺麗事だけじゃないがな。
 憎悪、嫉妬、悲哀、狂気、執念、絶望等もはらんでいる。
 それでも・・・
 (今は、俺は人間を、もう少しだけ見ていこうと思う。そう・・・思えるんだ)」

―――――カランカララン♪
そこで、俺は話を終えた。
「なあ、雅信。最後何て言ったんだ?それでも、の後」
志狼が気になった事を聞いてきた。少し小さめの声だったのでちょうど鳴ったベルの音で
かき消され、皆の耳に届くことはなかった。
「ん〜、気にする程の事でもないさ。それより、ほらシーラが来たぞ。」
入口には先程のベルを鳴らした張本人達がいた。シーラだけではなく、総司やエルも一緒
である。
そしてそれぞれの待ち人をさがしているのか辺りを見回して、やがてこちらを見つけた。
「ほら、何やってんだ。早くシーラのとこへ行ってこい」
そう言って俺はポンポンと志狼の肩を叩いて、背中を軽く押してやった。
「あっ、と。押すなよ」
そして何やら面白くない表情をして俺を振り返った。
「雅信。お前、俺だけやけにせっついてないか?」
「気のせい気のせい」
そんな志狼を軽く笑い飛ばし、志狼はまだ不満気だったが気を取り直してシーラに歩み
寄っていった。
俺は簡単に今来た三人と2、3言葉を交わし、
「じゃあ、俺達は行くから。パティ、これお勘定」
そう言って志狼が代金をパティに手渡して二人で店を出ようとした。
「じゃあ俺も帰るか。ほい、お金」
俺もお金を払って志狼達の後に続いた。
「あ、あの、雅信さん!」
俺を咄嗟に呼び止めたシェリルに俺は「?」を浮かべ、振り向いた。
「あ・・・・・・その、私雅信さんの気持ち、少し・・・分かります」
シェリルは小説も書いている。
そしてその中で恋愛物には並々ならぬ想いが込められている。
だからなのだろうか。
「何を話していたんですか?」
「総司。シェリルを大事にしろよ」
俺はその問いの返事の代わりにそう言ってやった。
何をそんなこと。当然の事でしょう、といった顔で呆れたような目を向ける。
その顔を見て、俺は満足し憮然とした総司を残し外に出た。
外に出ると白と灰色の厚い雲が空を斑に覆い、ちらほらと雪を降らしていた。
そして昼間だというのに真円を描いた白い月がぽっかりと空いた雲の絶え間から顔を覗か
せていた。
「雪・・・か」
空を見上げ、そっと口から漏れたその言葉とともに昔の記憶が蘇った。

『いつか、俺(僕)の後を継ぐものと遊んでくれ』

もう・・・昔の、あいつの言葉。
あの時もこんな風に雪が降り、月が空に佇んでいたな。もっともあの時は夜だったが。
そして今俺の目の前には・・・
「シーラ、寒くないか?」
「うん、平気。それよりほら見て志狼くん。通りで子供達があんなにはしゃいで・・・」
そんな会話を交わす微笑ましい二人がいた。
俺から見るとお互いがお互いを想い合っているように思える。
しかしそうだといって結ばれるとは限らない。
「志狼」
俺はちょっと来い、ちょっと来いと志狼を手招きした。
「どうしたんだ?」
一人やって来た志狼を俺はしばしじっと眺めた。
(もし俺にも子供ができるならこんな風に育って欲しいものだな。
 それが叶わぬ望みとはいえ・・・)
(翔雷・・今、俺の前にいるんだ。お前・・・いや、お前達の思いを引き継ぐ者が)
「どうしたんだ?雅信」
呼んだきり何も言わずにずっと顔を眺めていた俺に訝しげな顔をつくる。
あんな話をしたからだろうか。この言葉を思い出したのは。
決して忘れていたわけではない。
忘れようもないあの一連の出来事、あの炎の日。
「志狼・・」
俺は優しく、そっと呟き、
「?」
いつもと違う俺に違和感を感じているのか、志狼は少しうろたえた。
「がっちりシーラのハートをキャッチしろよ!」
シーラには聞こえないように、親指を立てて軽い調子で激励した。
ズルリ
お、なんか志狼が足を滑らしたな。雪が少し積もっているせいか?
「・・・・・それだけか?」
「それと、自分の気持ちをハッキリさせておけ。そしていつかはその気持ちを言わなけれ
 ばならない時が来るはずだ。その時は決して迷ったり躊躇ったり嘘をついたりするなよ」
真っ向から志狼の目とぶつかりながらそう言った。
「ああ、もちろんだ」
力強く、頼もしく頷いた志狼に俺は満足した。
「よし。じゃあ行ってこい」
「ああ、それじゃ」
志狼はシーラの元に行き、二人は一度俺に別れを告げ、何やら話しながら二人は雪が振る
中、肩を寄せ合って歩き去っていった。
俺はそんな二人の後姿を見送った後、背を向けてカッセルじいさんの家への帰路についた。





     了

>あとがき
あ〜、これって失敗じゃなかろうか?大丈夫なのかなぁ。
書きたかったのはただ一つ。
「人は・・・恋をする
以下の文です。ただこれは雅信がこんな事を考えているってことを表したかっただけです。
それで、好きな人がいるキャラを少しとりだしてそのある一日を抜き出してみたんです。
展開があっちこっちに飛んで分かりにくいなぁ。
ま、まあ雅信がこんな事を考えてるって分かっていただければそれで目的は達成される
んですが・・・次回からはなるべく気をつけます。
では。
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