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エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第4話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第四話



「さて、これからの事だがお前らには二つ、仕事を分担してもらおうと思う」
雅信一人が部屋から去り、残った者にヒロが告げる。
「まず・・・久と総司、幻、如月、セリンは敵の陣を探ってくれ。アインさん、志狼、
 リサ、十六夜、紅蓮、メルク、レニスは街の防衛にあたってくれ。輝羅は俺の補佐
 を」
「ちょっといいですか、ヒロ」
総司が一人挙手をする。それにヒロが。
「ん?なんだ総司」
「私は私でやりたい事がありまして」
「やりたい事とは?」
「なに・・・補給物資に細工をしてダメにしてやろうかと思いましてね。その他にも
 色々とやりたい事があって、そのため一人で色々動きたいんですよ」
「確かに補給物資を潰せればどんな軍隊も大打撃を被るけど・・・」
総司のその案に返したのは何やら思案顔の輝羅だ。
「できるの?総司」
「ええ。やり方は内緒ですが」
何が面白いのか、やけにニコニコしている。
「どうする、輝羅」
「はぁ、まあそれができれば向こうが潰れるのは時間の問題になるわね」
ただ、その時とる行動は二つだ。死に物狂いで攻め込んでくるか、退却するか。
攻めてくる場合はできれば避けたい所だ。しかし、かといって退却した場合は禍根を残し
かねない。また、退却する選択を与えるために逃げ道を空けなければならない。それと
果たして何もせずに退却するだろうか。軍隊を動かすには莫大な時間と労力、お金と食料
を消費するのだから。その上で何もしなかったらただの無駄遣いに終わる。
「わかった。総司はそちらを頼む。第三部隊としてはできる限り協力するつもりだが」
「ええ。協力感謝しますよ。利用できるものは何でも使わないとね。それが敵の力であろ
 うと」
こういった時の総司はかなり恐ろしい。まあ、第三計『借刀殺人』にもあるとおり、こち
らは一切消費せずに敵の力、敵の経済力、敵の智謀を巧みに利用し、離間策等を講じ、崩
壊に導くことで敵を滅ぼすというのが理想ではあるのだが。
「まず、お前達の立場についてだが、一応は民間人からの協力者で俺の指揮権に入る。
 一応ただの自警団団員の立場に近いな」
「それで一時的にとはいえ自警団に所属する事になるの。できるだけ現場責任者の指示を
 仰いでね」
ヒロの説明を輝羅が引き継ぐ。
「・・・・というのは建前で」
ニヤリとヒロが笑う。
「あなた達には特別に団長の名の下の責任で『緊急時において現場の責任者が不在時の
 場合、隊長級の指揮権を任ずる。また、同様に各自の判断で行動する事を認める』って
 いう権限があるの。つまり、団員級なら指示も出せるという事ね。まあ、自警団内で
 あなた達の事を知らなくて、不満を持ってる人もいるけどそこらへんは行動で納得さ
 せてね。あとは、いざとなったら自警団の所属を離れ、自由に動いていいってことよ」
「おいおい、かなりの特別扱いだな」
久が呆れたように。
「あなた達にはそれに見合った実力があると思うけど?」
「わざわざ埋もれさせておく必要はないからな。総司のセリフじゃないが利用できるのは
 利用しないとな」
「そういう事ね」
「実はお前らが配置される所にはあまり人員を割かないつもりだ。かといって防衛上重
 要な場所に配置しないわけじゃないぞ」
「あなた達と一緒に10人程の一般の団員を防衛拠点に付けるつもりよ。もっともそれ
 だけで『現場の責任者は不在』という事になるけど」
そこでようやく輝羅の考えが分かった。ようするに実質、彼らより上の人物は現場に配置
しないつもりなのだ。
「あなた達の場合、下手に人が大勢いると足手まといになるからね。自由に動き回れる方
 がいいでしょ」
「じゃあそれぞれの配置場所だが、自警団の本隊は二つの橋の後方に布陣しているか
 ら・・・まずアインさんとメルクを街の正門前に配置して・・・」
いきなりヒロがとんでもない事を言い出す。
「でもいいんですか、私達が本隊の前に陣取って?」
メルクが当然の疑問を口にする。正門といえば真っ先に攻めてこられる場所と予測できる
のだから。下手すると捨て駒ともとられる。いや、普通ならはっきり言って無駄死にだ
ろう。あくまで普通ならばだが・・・
「ああ、構わん。そこらへんの了解は得てある」
さらりと答える。
「アインは壁役として適任だからな。それとメルクの魔法で色々バックアップできるし。
 お前らなら守る分として適任だ」
ヒロがヌケヌケと言い放つ。というか大国の騎士団はともかく、一般の一軍が相手でも
アインは抜けないかもしれない。それほど防御の面ではずば抜けているのだ。
それに魔法全般が得意で、戦士としても技量を積んでいるメルクの補佐が加わればまさ
に二人で鉄壁どころか難攻不落の要塞だ。
「あ、そうそう皆一応向こうが手出しして来ない限り自重して頂戴。一人で軍を壊滅さ
 せないようにね。せめて向こうの情報が分かるまでだけど。一応こうなった原因を究
 明しておかないとまた同じ事が起こるかもしれないから」
さらりと真面目な顔して輝羅が。常識では考えられない注意だ。まあ、こいつらにその
気さえあれば軽く国の2,3は落とせるのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。
つくづく困った超人どもである。よく周りが放っているなぁ。
「特にアイン。あなた、時々一人で突っ走るものね。まあ、向こうがちょっかい出して
 きたら『それなり』の対応は構わないわ。くれぐれもやり過ぎないように。
 皆もいいわね」
まあ、こんな軽い雰囲気だが決して彼らは自分達が最強と自惚れているわけではない。
世界は広く、まだまだ自分達の知らない強いやつらはたくさんいる事を知っている。
もしかしたらその名も無き猛者が小国にいるかもしれないのだ。大体にしてエンフィー
ルド自体がその見本みたいなものなのだから。異常さと知名度が反比例しているのだ。
いや、ある意味有名ではあるのだが・・・
だから別に彼らは小国をなめているわけではないのであしからず。
「壊滅させない程度だったら遊んでもいいわよ」
しかし・・・下手に聞き逃せない会話をしてないか?自警団員の輝羅さん。
「あ、そうそう。ベルファールの援助については期待しないでね。ファーナはこの程度
 じゃ動かないだろうから。それに色々外交上のメリットよりデメリットの方が大きい
 だろうし。ベルファールにとってもエンフィールドにとっても。あと時間の問題だね。
 それに今回、僕はエンフィールドの一市民として動くつもりだから」
と、ベルファールの公爵殿が一応注意しておく。
「で、次に紅蓮が東門、レニスが西門、リサがローズレイク周辺を。そして志狼と十六夜
 が住民の側にいて護衛を頼む」
「ん?なんで住民に護衛が必要なんだ?」
「ちょっと思う所があってね。まだ確証はないんだけど・・・お願いね」
輝羅がそんな十六夜の疑問に答えた。
そしてその後、具体的な指示を出していく。
「それで次は久、幻、如月、セリンだが・・・お前達に敵を探って来いといったが、それ
 は、この急な戦争には何か裏があるんじゃないかと思う。そこでそれが何かを潜入して
 調べて欲しい。方法は任せる。時間の都合上、少々荒っぽくても構わんぞ」
その言葉に頷く。
「ああ、それとみんなに配るものがある。もう自警団員には配布したが。あと注意もな。
 それは・・・・・・」
これ以後も色々と話し合っていく。
     ・
     ・
     ・
「それじゃあ皆、頼む」
ヒロのその言葉で一度解散となった。



―――そしてその日の夜。

《東門サイド》

・・・・ォォ・・・オオオォォーー・・・
風が木々を揺らし、不気味な音を立てる。
「・・・・!」
仮眠をとっていた紅蓮が目を覚ました。そして神経を張り詰める。
「あれ?紅蓮さん、もう起きたんですか。まだ交代の時間には早いですよ」
見張りの自警団員が起きた紅蓮に気が付き、声をかけた。
三人一組で三グループに分けて交互に見張りをしていた紅蓮は仮眠をとっていたのだが、
突然嫌な感じが背筋を上っていったのだ。
「嫌な風だな・・・」
紅蓮は起き上がりながら軽く体をほぐす。
先程から粘り気のある夜風が紅蓮の体を撫でるように吹いている。そしてその音はどこ
か死を誘うように聞こえる。
紅蓮はピクリともせずに街の外を睨みつけていた。しかし、その瞳に映るのはひっそり
とした夜の闇だけである。
「紅蓮さん?」
紅蓮の様子がおかしいと思った団員はその雰囲気にやや不安を抱きつつも尋ねた。
「・・・・・・何かが・・来るな」
「え?」
紅蓮の誰に呟いたわけでもないその言葉に団員がキョトンとする。
「全員叩き起こせ。な〜んか来るぞこりゃぁ」
「え?何かって・・・何ですか?」
「いいからとっとと起こせっつってんだよ!俺にんなのわかるわきゃねぇだろうが。
 だから警戒すんだよ」
「はっ、はい」
そして眠っている団員を起こし始める。
「さあ、いよいよパーティの始まりか?」
いつもと変わらず楽天的な紅蓮。状況とは裏腹に明るく感じる。
そして―――

ドオオォォォ・・・・ンン・・・・

突然の大音声がエンフィールドの夜を切り裂く。
音のした方を見ると、天を焦がさんばかりの炎の柱がいまだ燃え盛っていた。
その炎の光がこちらまで届いている事からもその凄まじさがわかる。
「あれは・・・西門・・となるとレニスの奴か。音がここに届いた時間を考えると結
 構長く続いていやがんな。あれでもまだ生きてるってことなのか?」
だがやがて炎が消え、再び静寂が戻った。
・・・・リリリリリ・・・
先程の大きな音の後のせいか、やけに虫の音が大きく聞こえる。
「止んだか・・・仕留めたのか?」
その紅蓮の疑問に答えられる者はいない。

・・・・・ヴォン・・・・・

                  天
                 /*\      
             ▲  / ∞ \  ▽  
               /生   老\    
              /   Γ   \   
            光☆陽 γ(◇)ω 陰★闇 
              \   Ω   /   
               \病   死/    
             △  \ ∀ /  ▼  
                 \※/      
                  地  


辺りに魔力の力場が展開されるのを紅蓮は感じ取る。それと同時に街のあちこちで
無数の気配が生まれた。

―――凍りついた時が急速に解凍される。

先程の音を合図にしたように次々と異変が起きていった。
「へっ、さっきのが始まりの鐘か。上等だぜ」
紅蓮は戦闘態勢をとり、刀と手甲を生み出す。


宴が始まる

夜は陽が衰え、陰に傾く

そう―――夜は不死者達の時間

目覚めよ

我は我と契約を結びし魔王ディグラードの名の下に彼の力を行使する者なり

汝らは魔王の眷属たる者

汝らは闇に巣くいし者

我は魔王より借り受しその力をもって汝らに仮初めの器と力を与えよう

汝らは不死者

生への渇望と世界の全ての怨嗟を糧に永久にさ迷い続けよ

その糧を際限なく取り込み汝らはより膨れ上がる

主たる魔王の魔力が続く限り汝らは幾度となく這い上がる

己の怨念をも糧にして

さあ・・・死を撒くがいい


「―――来たな」
紅蓮が獰猛な笑みを顔に張り付かせる。


その夜、エンフィールドの街は突如現れた死霊やゾンビなどの不死者で溢れ返った。


   続く


>仮・あとがき
あう、名前だけで出番がなかったキャラがいるなぁ・・・
あははははは・・・これだけたくさんいると一人一人に出番を作るのって難しいんで
すよ〜(泣)ごめんなさい。キャラを貸してくださった皆さん
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