中央改札 交響曲 感想 説明

悠久行進曲:第九話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第九話



「いよいよ明日か・・・・」
というより正確には今日だろう。もう日付は変わってしまったのだから。
ああ・・・・不器用な自分が憎い・・・・
なにしろクラフト系や細工物は全て敬遠しているのだ。今はライフがその担当となってい
る。あいつは手先は器用だから本当に助かる。
しかしクラフトLvが0というのは痛い。
「まさかこんなに時間がかかるとはな・・・」
横を見れば失敗作がいくつも置いてあった。
何故だ?何故うまくいかないんだ?
しかしそう己に問うても現実は変わりない。
・・・・もしかすると不器用とは関係ないかもしれないが、今は敢えてそう思っておく
ことにしよう。
「今度こそ・・・・どうだ?」
しかしまたもや失敗。どうしても形が崩れてしまう。
「はぁ・・・・まさか図書館であんなに時間がかかるとは思わなかったなぁ」
さっさと決めればよかったと言ってももう後の祭りだ。
しかし、時間をかけた分、色々と試行錯誤もしたので、出来上がったならそれなり
にいい出来映えのはずだ。
「とにかく、また最初からか・・・・・」
スカスカ。
手を横にやるも空を掴む。
「・・・・・・なに?」
嫌な予感、というよりは確信だが、を抱えつつ目をやると、そこにあった材料はもう
きれていた。
「・・・・仕方ない。もう一度採りにいくか」
夜遅くまでその部屋から灯りが消えることはなかった。



・・・・・・・・眠い。
あやうく今日のさくら亭の仕事中に居眠りするところだった。
それをしなかったのは鉄の自制心・・・・ではなく、パティの鉄拳が飛んできたから
だったりするが。
「しかし・・・・ようやくできたな」
結局夜には完成せずに、ついさっき部屋に戻って、漬物石をどかしてみたら完成だった。
『その事』を知ったのが三日前。
そしてようやく時間が空いたのが昨日。
そこから大慌てで図書館に行って資料で調べ、どんな組み合わせがいいかを考え、
それを採ってくるのにまた時間をかける。
そして一晩かかっても完成せずに、ギリギリまで引っ張ってようやく完成。
それでも少々不恰好なのは諦めよう。
これが初めてとはいえ、ここまで時間がかかるとは完全に予想外だった。
「まあいいさ・・・しかしこれで喜んでくれるかな?」
もうちょっとマシなものにすればよかったかな、と思うが雅信は結構こういうのは好き
だったりする。
ちょっと若い女性に渡すにはズレてるかもしれないが・・・・・
キョロキョロと周りを見渡す。ここは陽の当たる丘公園だ。
「・・・どうやらまだ来てないようだな。少し待つか」
ん、あそこの木陰がいいな。根元に座るか。
こんな天気のいい日は絶好の昼寝日よりだ。好きな事の一つが昼寝の俺にとっては
まさしく甘美な誘惑(といってもすでに陽はずいぶん傾いているが)・・・・昨日は睡
眠も足りないこともあって、まさしくとろけるような気分だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・zz・・・・・
ん・・・・いかん、いかん。少し・・・眠って・・・・・・た・・・・・・な。
だぁっ!!
ふぅ、まだ眠るわけにはいかんからな。羊でも数えてるか・・・ってそれは違う!
いかん。妙な思考回路をしてる。これも睡眠不足のせいか?恐るべし。
まだ待ち人は来ず。まあまだ時間には早いからな、仕方ないか。
・・・はぁ・・・・ほんと、のんびりした日だな・・・・
     ・
     ・
     ・
「あ、雅信さーん!」
ん、ようやく来たか。
「よっ、トリーシャ」
片手を挙げて挨拶をする。
「雅信さん、早いね」
「ああ、予定より早く終わったからな」
「ふーん、そうなんだ。それより雅信さんはちゃんと用意した?」
「ああ。なんとか間に合ったぞ」
「もう、こんな事を忘れてたなんて。大体こういうのは覚えておくべきだよ。以後、
 注意するように」
片手を腰にあてて、もう片方の手で俺を指差す。
「・・・・はい」
なんというか、教師と生徒のような錯覚を覚えるな。
「まあ、何にせよ教えてくれてありがとな、トリーシャ」
おかげで本当に助かった。
「うん。じゃっ、図書館に行こうか。」
「そうだな」
俺達は公園を後にした。



「お、いたな」
「シェリルちゃん」
「あ、雅信さんにトリーシャちゃん。どうしたの?」
シェリルが本から顔を上げて俺達を見る。ほんとによく本を読む娘だな。
「えへへ・・・お誕生日おめでとう!シェリルちゃん」
「おめでとう、シェリル」
俺達の言葉に少しキョトンとしていたが、やがて恥ずかしそうだけど嬉しそうな顔にな
る。
「あ・・・・覚えててくれたんだ」
「もちろん!」
「はいはい。トリーシャ、あまり大声を出さないように。後ろでこわーいお姉さんが
 こっちを見てるからな。あんまり騒ぐとシェリルも一緒に注意されるぞ」
「う・・・・分かったよ」
「クスクス」
「あー、シェリルちゃん笑ったねー」
「あ、ごめんなさい」
「ううん、いいよ。それで、これがボクからのプレゼントだよ」
トリーシャが取り出したのは薄い長方形のラッピングされた箱だ。おそらくローレライ
あたりのだろう。
「あ・・ありがとう、トリーシャちゃん。ねぇ、ここで開けてもいいかな?」
「うん、いいよ」
ガサガサとシェリルが箱を開けると、中からはリボンが出てきた。
「わぁ・・・ありがとう」
本当に嬉しそうだな。
さて、
「次は俺からだ。受け取ってもらえるかな?」
俺はポケットから紙に包まれたプレゼントを取り出して渡す。
「開けて見てもいいぞ」
「これは・・・」
中から出てきたのは栞だ。そしてその栞には押し花がしてある。
昨日はこの押し花が中々うまくいかずに四苦八苦したのだ。
「あー、まあ少々不恰好だが、気が向いたら使ってくれ」
「あ、いいえ。大事に使わせてもらいます」
「雅信さん・・・・」
う、トリーシャが呆れたような目で俺を見る。
「スマン。これぐらいしか思い浮かばなかったんだ。勘弁してくれ」
「はあ、まあいいか。ボクがどうこう言えるわけでもないしね。じゃ、早速さくら亭に
 行こうか」
「え?」
「ほらシェリル、行こうか。今日はシェリルが主役だからな」
シェリルは遠慮していたものの、トリーシャと俺で少し強引に連れて行った。



カララン♪
「はーい、いらっしゃい!」
今はパティが手伝っているらしい。商売用の笑顔で迎える。
「あ、なんだトリーシャに・・・シェリルじゃない。誕生日おめでとう!」
「お〜い、俺もいるんだが・・・・」
う〜ん、困ったなぁ。よし、今日は・・・
「今日はアタシのおごりよ。どんどん食べていってね」
「お、パティ、太っ腹!じゃあ俺はこれとこれと・・・・」
すぐさまそこにあったメニューを手に取って早速注文する。
「アンタは別よ!!なんでアタシがアンタにおごらなくちゃなんないの?」
「ブーブー!いいじゃんか別にぃ。な、パティさ〜ん」
「あのねぇ、アタシはアンタにおごる義理も義務もないの!!」
「そこをなんとか〜。おねげえしますだよ。お代官さまぁ」
「あのね・・・いい加減にしないと承知しないわよ」
やばっ、ここらが引き際か。声が氷点下まで下がったな。
「うう・・・わかったよ。今回は俺の負けだ。潔く切腹しよう」
「さて、こいつはお金を払うって言ってるけど、二人はアタシのおごりでいいわよ」
あう。さすがはパティ。俺の言葉に動じずに、瞬時に俺の思う所を読み取ったようだな。
切腹と自腹を切るをかけてみたのだが・・・もっともこの場合『自腹を切る』とは、少し
本当の意味とは違うのだが。
「ほんと、二人って仲がいいですね」
声の主はシェリルだ。なんだか少し笑っているようだ。
「うんうん。シェリルちゃんもそう思うよね」
トリーシャがそれに同意する。
「ちょっと二人共!誰がこんな奴と・・・」
さて、今日はこれぐらいにするか。
「はいはい。二人共あまりそうやってからかわないの。パティもそんなに反応するなよ」
これ以上事態がややこしくなるような事は言わないでくれ、という意味のウインクを
こっそり二人に送る。
「ごめんごめん、パティちゃん」
「あの、ごめんなさい」
どうやら二人共理解してくれたようだ。
ただ・・・・・トリーシャの目がヤバ気に光ってるのは気のせいだと信じたい。
後で口止めの代償が必要かも。
「ん・・・まあ分かってくれればいいけど」
どうやら一応は収まったようだ。
「じゃあ、俺はこれとこれを頼む。二人はどうする?」
そう言って俺は二人にメニューを渡した後にテーブルに着いた。
二人も注文して、料理が来るまで色々雑談をした。
中でも一つ分かった事は、シェリルは本の話になると性格が一変するということだ。
俺が本の話題を振ろうとすると、トリーシャが止めようとしたが、その行動の意味がよ
うやく分かった。
いつもは内気なシェリルが本の事になると機関銃のように止まらずに口が動くのだ。
しかも積極的になり、本当に色々な事を話してくる。
なんとなく、そんなシェリルを見て、聞いていると嬉しくなった。
一度、トリーシャがかの『トリーシャチョップ』でシェリルを止めようとしたが、俺は
そのままでいいから聞いていたいと言って、そのまま喋らせた。
シェリルは博学で、その知識は凄まじいものがある。それに話題も尽きない。
こんなシェリルの話は俺にとっては聞いているだけでも楽しいが、トリーシャは少々
退屈のようだ。すまないな。
ずっと耳を傾けているうちにだんだんと音が遠くなっていく。
目の前のシェリルが遠く感じ、ぼんやりとしてきた。
もう、シェリルが何を言っているかも分からず、ただ、声の音だけが頭に入ってくる。
急速に薄れゆく世界の中、俺は子守唄を聞きながらゆっくりと瞼を閉じていった・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おまたせ!」
パティが料理をテーブルに運んできた。
「ん?どうしたの、そいつ」
パティがテーブルに突っ伏して安らかな寝息を立てている雅信を指差す。
「何だか眠っちゃったみたい」
トリーシャがそう答える。シェリルは何故か心なしか恥ずかしそうに小さくなっている
ように思える。
「あの・・・私が喋ってる間にいつの間にか・・・」
どうやら『トリーシャチョップ』の洗礼を受けて元に戻ったようだ。
「ふーん」
そういえば、仕事中も何やら眠たそうにしていたっけ、と思い出す。
「そういえば、シェリルはこいつから何かもらったの?」
「え、はい」
「へぇー、どんなの?」
「あ、それね。栞だよ。手作りの押し花の栞」
横からトリーシャが口を出す。
「押し花の栞ぃ?」
はぁ、とパティは呆れたような溜息を一つ。
「なるほど。どうせこいつのことだからこんなになる時は・・・・
 今回はうっかり忘れて、前日に慌ててしようとして夜遅くまでやってたんでしょうね。
 まったく、不器用なくせして手作りなんてするから・・・」
しょうがないわね、とでも言いたげに。
「それに押し花なんて何考えてんのかしら、こいつ。もっと若い女の子に渡すようなマ
 シなものを考えなさいよね。ホントバカなんだから」
ぶつぶつ言いながらも雅信の料理を取って、厨房に戻ろうとする。
おそらくいつでも食べれるように暖めておくつもりなのだろう。
「そんなことないですよ、パティちゃん」
嬉しそうな顔でシェリルがやんわりと言う。
「あ、二人は先に食べてなさいよ。眠ってるこのバカが悪いんだからね。このまま寝か
 したままにして、それで先に始めて悔しがらせればいいんだから。大体シェリルが今日
 の主役なんだからね」
しかし、二人は首を横に振って、結局全ての料理を厨房に運び戻すことになった。
三人して他愛のない話をしながら時間を潰していた。
結果、雅信はゆっくりと誰にも邪魔されずに眠ることができた。
もしかしたら、パティのあの言葉の裏には・・・・・・



その後、やはりというかアレフがシェリルの誕生日を祝うためにやってきて、更に次々
に皆が集まり、俺が起きるまで待ち、その後改めてさくら亭でシェリルの誕生パー
ティを行った。さすがに少し恥ずかしかったな。
そういえばなんだかうやむやの内に俺の分はオゴリになっていたようだ。
ありがとな、パティ。
そして誕生日おめでとう、シェリル。



     了


>あとがき
なんというか・・・・雰囲気がガラっと変わってますね。
前回のとギャップが激しいような。
ま、いいか。
なんとなく勢いで書いていったらこんなんになってしまいました。
最初はシェリルに焦点を当てての誕生日イベントのはずが、なぜか後半はこんな展開に。
でもこれでようやくこういったキャラ別イベントに入れたかと思うと嬉しいなぁ。
ここまで読んでくれた方、どうもありがとうございました。
それでは。
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