中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚 ある日:後編
正行


エンフィールド幻想譚
ある日:後編



ある日 partョ


ぱち・・・ぱち・・ぱち・・・・
由羅の家に乾いた音が響く。その音は縁側から聞こえてくるようだ。
雅信はソロバンができるが、その音ではない。
「・・・・・・・」
ぱちん。
メロディが雅信を相手に戦っているようだ。
「ふみゃ〜。これならどう〜?」
ぱちん。
メロディが雅信を引っぱたいた・・・・・わけでなく、将棋の駒を動かした音だ。
昼の縁側で二人は盤をはさんで向き合い、将棋をしていた。
「なるほど・・・じゃあこうしたら?」
スッと王を引く。
「ふみゃあ!そしたら詰みなの・だーー!」
ネコ手で器用に駒を掴みながら王手を連続でかけてくる。詰め将棋に入ったらしい。
雅信は金と銀と桂と角と歩で受けていた。
「王手なの・だー!」
パシイ・・・・・・
「正解だ、メロディ。」
どこか楽しそうに雅信が投了した。

「ん〜〜〜、気持ちいいな」
その後もしばらくメロディの相手をしていたら疲れたのだろうか、メロディが眠たそうに
したので今は部屋で寝かせている。雅信は縁側で日向ぼっこだ。
チリーンチリリーン
風鈴が鳴っている。今日は少し雲っており太陽がときどき隠れたりしている。
風は程ほどに強く、昼間でも涼しいくらいだ。夏が終わり秋に移ろうとしている。
なんとなしにぼ〜っとしてしまう。
「あら、雅信?」
「輝羅か」
風で涼んでいた所に輝羅がやって来た。私服姿から非番のようだ。
「由羅は?」
少し中を覗くようにしながら尋ねる。今のところこの家には輝羅を除いて雅信のメロディ
の気配しかしない。
「街へ行ったよ。俺は薬草摘みの帰りになんとなく寄ってみたら、由羅が街に行くって
 いうんで、良かったら留守番するメロディの相手をして欲しいって言われたのさ」
「そう」
部屋で眠るメロディを見つけたのか、クスリと微笑む。
「ここは誰かに助けを呼ぼうにも誰もいないからな。由羅もメロディを一人にするのは
 心配だったんだろう。まして今、メロディは足に怪我をしてるからな」
だから由羅はメロディと一緒に街に行けなかったのだ。
「輝羅も突っ立ってないで座ったらどうだ?」
「ええ、そうね」
そう言って隣に座った。
「麦茶でもいるか?」
「・・・いえ、結構よ」
本当は雅信は人様の家であまり勝手な事はしないのだが、由羅の家は別だ。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
言葉を交わすわけでもなく、ただ二人して森や庭を眺めている。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
上空を鳥がさえずりながら飛び去っている。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
少し風も収まってきたのか、風鈴の音も思い出したように途切れ途切れになっている。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
アルベルトが今のこの二人を見たら勘違いすること間違いなしだ。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
実際二人の雰囲気はそういった類のものではない。その主な原因は雅信にあるだろう。
雅信の醸し出す空気は恋愛とはかけはなれている。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あらあら」
輝羅がメロディの側に寄って、外れた毛布を掛け直してあげる。
「・・・・・・・・・・」
雅信の表情は変わらなかったが、分かる人が見ればわずかに微笑んでいることが分かっ
ただろう。
時刻は夕刻に差し掛かっている。
「ねえ、ずっとだんまりで退屈じゃないかしら?」
やや軽い調子で話し掛けてきた。もちろんその言葉は本気ではない。
「俺はそうでもないさ。ここにいて耳を澄ますと色んな声や音が聞こえてくるんだ。
 森からは鳥や虫、木々の声。下からは街の声がな」
周りは日暮の鳴き声が響き渡っている。
街の方向からは一本だけ細くたなびく煙が見えた。
「他にも風を感じたり、空を流れる雲を眺めて、その数を数えたり、鳥が羽ばたいていく
 のを眺めたり、空の色が変わっていくのを眺めたりとか・・・な」
「そう」
空には夕月が浮かんでいる。雅信は、明るい中月が一人で夕空に浮かんでいるのはなん
とも寂しい感じがした。

「さびしさに  宿をたちいでて  ながむれば  いづこもおなじ  秋の夕ぐれ」

ふと、無意識に詩が口からでていた。
「それは?」
「ニホンって国の本にある詩さ。小倉百人一首ってな」
「へえ・・・私の祖国にも似たような文化があるわ。面白いものね」
「輝羅は東国の出身だったか?」
「ええ」
「そうか・・・・俺も東の国だ。生まれもおそらく東の国だろう。なにせ捨て子だった
 らしいからな。よくは知らないが。ただ育ったのは東方でだ」
黒髪黒目はその証だ。ただ紫の左目だけは別の理由があるのだが。
「そして・・・もう俺の故郷、故郷と呼べる場所は無い。
 最後に帰る場所すら俺はもう無い」
最もあったとしても捨てただろうがな、と雅信は付け加えた。
「いかんな。どうも今日の俺はいつもより饒舌になってるようだ」
赤く染まりゆく太陽を眺めながらそう呟いた。

『耐えかねる寂しさに、住まいを出て、あたりをながめて見ると、
  なぐさめるものもなく、どこもかしこもやはり同じようにわびしい秋の夕暮れよ』

秋の夕暮れには人の寂寥感を駆り立てる魔法でもかかっているのだろうか。
「帰るところがないなんだったらここに帰ってきたらどう?」
「・・・・・・・・・・」
しかし、雅信はただ哀愁を帯びた表情をするだけで何も応えなかった。



ある日 partッ



―――ああ・・・またか


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雅信の気合リミット満タンのかけ声とともに体中から気が立ち昇る。
「よしっ・・・・いただきーーーー!!」
「そうはさせんっ」
雅信の行く手を阻む人物はCランチの鬼、ことレニス・エルフェイムその人であった。
最速の一撃はレニスによって撃墜された。
「すまんがこれは渡せん」


―――また・・・この感覚か


「ふ・・ならば奪い取るまでっ!」
慎重に間合いを計り、そして相手の隙を窺うそれはまさしくハゲタカ。
誰のテリトリーにも属していないその物体をめぐり、二人の間に緊張が高まる。
お互いがお互いを牽制し合いながら他への注意も忘れずに、己のテリトリーを死守して
いる。
じりじりと時間が過ぎていく。
(くう・・・マズイ。消耗戦になったら後々に響く。まだ後に戦いが控えているという
 のに。仕方ない、諦めるか)
ふと、そんな考えが頭の片隅をよぎる。


―――たまに・・・・ごくたまに・・・・こんな感じになる


(いや・・・何を考えているんだ、俺は)
「そう!これは奪ってこそ意義があるのだ!!そして相手の悔しがるその顔を最高の調
 味料としていただく事が至上の快感なのではないかっ!!」
「よし、いただき」
ひょい。ささっ。
「あ・・・・・・・」
雅信が外道な決意を新たに握りこぶしをぐぐっ、としたのが敗因だろう。その大きすぎ
る隙を突いてレニスが目標を奪取した。


―――まるであそこの現実の俺をガラスごしで見ているようなもう一人の俺を意識する。


そして心なしか勝ち誇った笑みを浮かべながら(雅信にはそう見えた)ゆっくりと
目標―――すなわち『さくら亭の唐揚げ』をほおばる。
なんの事はない。今日は来れたみんなで雷鳴山までピクニックに来たのだ。
そしてただいま昼食タイム。
みんなが持ってきた料理は全員で食べることとなっている。
ちなみに一番競争率が激しいのは当然というかアリサさんの料理である。
そこの周りだけ激戦区となっている。アレフやリサ、ライフといったメンバーが牽制し
合い、壮絶な死闘を演じている。
雅信はシーラ・さくら亭の付近に陣取ることになった。
大体カップルの組み合わせは決まっている。


―――みんなと騒いでる自分を遠くからここで俺が見ているのを意識する。


志狼とシーラ。志狼は現在タコさんウィンナーを幸せそうに頂いている。
十六夜とクレア。この二人に近づく愚者はだれもいない。
如月とトリーシャ。ただ、睦月とかのちょっかいもうけているようだ。
久とエル。久はここまで調理器具を持ってきて、この場で中華料理をこしらえていた。
紅蓮とティナ。紅蓮はやはりティナの料理を頂いている。
ヒロとパティ。だが、ヒロはパティの料理だけでなくアリサさんのテリトリーを始め、
あちこちに手を出している。恐るべきテリトリーの広さだ。


―――あそこにいるのは仮面をつけた俺?そしてここの俺が素顔の俺なのか?


アルベルトと輝羅。どうやら輝羅も作ってきたらしい。
総司とシェリル。ときどきヒロが手を伸ばすものの、ことごとくダミーを掴まされて撃
退されている。なお料理は総司とシェリルの合作らしい。
一応俺も作ってきてはいるが、お世辞にも上手とはいい難い。ここまで来る途中で見
繕った食材も加え、結構サバイバル風に仕上がっている。
とりあえず、食えれば十分。栄養の次に味といった感じだ。
周りを見てみると、ヒロは喉につまったのかパティから飲み物をもらっていた。
紅蓮はレニスと交戦中。


―――もう・・・それすらも分からなくなってきた。


メルクは自分の守備範囲を守って食事をしている。
何故かアインは邪魔されることなく一人マイペースに食事をしている。
久は様子を窺っている。
総司は漁夫の利というか、ちゃっかりいいところをとっている。
ルシアはもう食事を済ませたのかのんびりとしている。
「そこぉ!!」
俺は隙を見て素早くアリサさんエリアの卵焼きに手を伸ばす。


―――いつから仮面の俺と素顔の俺の境界があやふやになっていったんだろうか。


「おっしゃあ!卵焼き入手!!」
サッ
「ああ〜〜〜〜!?」
箸でつかんだ卵焼きを横から掻っ攫っていったのはニヤリとしたヒロであった。
「くう〜〜。返せ!もう残り少ないんだぞ!」
ヒロはそれを聞いて更にニヤリと笑い、嘲るかのごとくゆっくりと口に運ぶ。
「ん〜。やっぱりアリサさんの卵焼きは絶品だな」
恍惚とした表情でいかにも、いや実際美味いのだが、美味しそうに粗食する。
「があ〜〜〜!!わ、わざとだな。お前わざとやってるだろう!!」


―――時々俺の奥に、みんなと一緒にいる俺をとても静かに眺める俺が生まれる。


「ん〜、何の事かな?俺何かしたっけ」
「よくもヌケヌケと。くそ、ならば今度はそれを頂くぞ!」
ヒロの側ある料理の内、トンカツに狙いを定めて箸を伸ばす。
明らかなヒロに対する挑戦である。
「甘い」
ヒロがガッチリ箸を押さえこむ。
バチバチバチ
一瞬両者の間に火花が散る。
そしてヒロと雅信の間で目にも止まらぬ攻防が始まった。


―――それが俺。


というか、残像を使ったフェイントだとか話術での心理戦だとか第三者を仲間に引き込む
駆け引きだとかに力を入れて、どうでもいい事に燃えている。
「いい加減にしなさい!行儀が悪いわよ」
ごんごん!
パティがどこから出してきたのか、でっかいオタマで二人の頭をどついた。
結局勝者はその隙を突いた総司であった。


―――最近、仮面を着けることが少なくなってきた。


―――しかし時々無意識に仮面を着けている時がある。


―――怠け者の仮面。元気な仮面。陽気な若者の仮面。老人の仮面。子供の仮面。


―――もしかしたら俺は邪でもなく闇でもなく、自分の影なのかもしれない。


―――影とは光ある所に必ず存在するものだから。


―――そうだとしたら、向こうの俺とここの俺とで一つの雅信・ノウスとなる。


―――みんなと過ごしている俺。そんな俺の奥にいて距離を置いて眺めている俺。


―――大きく二つに分かれた俺こそが雅信なのかもしれない。



ある日 last part


「どうした?」
アメが尋ねてくる。
「考え事さ」
雅信は揺れる水面に月の光が注いで、揺れるたびに暗闇の中輝くのを眺めていた。
もう夜中。部屋の明かりは消してあり、雅信とアメの二人っきりだ。
「寝る前に話に付き合ってもいいぞ」
「・・・・ありがとな、アメ」
アメは雅信の側に上り、同じく外を眺めた。
夜独特の音が聞こえてくる中、うまく考えがまとまらないが、と前置きをして雅信は話
し始めた。
「俺が半不老不死になって約200年か・・・色々あったよな。
 俺はこの世界の行方を見てみたかった、元々そのためにこの体になった。
 不老不死は大半の人にとっては魅力的だろう。世の中には天寿をまっとう出来ない
 人が大勢いる。不治の病の人、体が不自由な人が世の中には大勢いる。そしてその人
 達が俺の事を知ったら・・・・・シヴァンみたいに俺を憎むだろうな。
 最もこの考え自体が不遜なのかもしれないが。
 しかし、その人々の謗りを受けるのもこの体の代償なんだろうな」
「それは違う。何故お前がそんな嫉妬の謗りを受けねばならんのだ?
 お前はもう十分に代価を払っているさ」
雅信はそんなアメに苦笑しただけだった。
アメもこれは雅信の問題だというのが分かっているためそれ以上は言わない。
「俺は世界の行方を見てみたい、という目的のためにできる事なら俺は歴史に不干渉に
 なる事を望み、自ら進んで歴史の影になることを選んだ。
 だから、俺はできるだけ直接には関与しないよう心がけ、この世界の住民に舵を取って
 もらいたかった。しかし、俺は完全に傍観者に徹する事はできなかった。
 だから俺は裏から間接的に働きかける事で譲歩したんだ。途中までは干渉しても最後、
 結果をどう出すかはみんなに任せることにして。
 どうしても俺は完全に見て見ぬふりはできなかった。
 どうしても人の中に入り、試してみたかった。
 結局は自己満足なんだよな。異界からの侵略や悪意ある干渉を許さず、移民は認める。
 これなんかは俺のわがままだ。ただ俺が勝手に決めてる事なんだよな。
 もし、本当にこの世界を見守りたいのならば、俺は何もするべきではないし、異界から
 の干渉を認めないなら移民も追い返せば良かったんだ。中途半端な決定。
 だからこれは俺の自己満足だ。その事は分かってる」
「いいんじゃないか?別にお前のわがままでも」
「俺は本来なら存在しないはずの人間。だから歴史の影になることを課した。
 俺のことがバレてはいけない。俺は歴史の流れに多大な影響を及ぼすわけにはいかな
 い。そう思い、生まれ変わる度に名前を変え、俺と出会った人は死んで再生後の俺と
 昔の俺とが同一人物と悟られないように性格を変え、別の人物を演じ、仮面を着けた。
 決して俺の跡を残さないように。だが何度も子供や若者、大人や老人といった、周り
 に怪しまれないように歳相応の行動をするよう心がけて、その外見年齢にあった仮面
 を着け続けていたせいだろうか。最近色んな仮面がごっちゃになりつつある。時々無
 意識に他の仮面が出たりする。おかげで少し人格が分裂気味かもしれないな。それに、
 もしかするとこの仮面の状態が俺の素顔になりつつあるのかもしれない」
「お前は真面目だからな。だから真面目に不真面目になろうとするのか。
 もう少し力を抜け。別にいいじゃないか、お前の好きにしたって。お前は今ここに
 生きているんだから。あまり捕らわれすぎるのは良くないぞ」
「俺はあいつにこう言ってこの体にしてもらったんだぞ。それを途中で変えるわけには
 いかないだろう」
「俺はあいつの分身だ。その俺が、自分の言葉に捕らわれるなと言ってるんだが?」
「それでも・・・・俺はまだ割り切れそうにない」
「まったく。200年以上もその言葉で自分を縛るとはな。お前もつくづく生真面目
 なことだ」
「そう言ってくれるな。それに、俺はまだあいつのあの問いかけの答えを見つけてない
 のでな。だから俺はまだこのまま見つづけていくさ。いつか答えを出す時のために」
「あまり思いつめるなよ」
「ああ。・・・お前にはホント感謝してるよ。それじゃあそろそろ寝るか」
「そうだな」





     了


>あとがき
・・・・・何を言えばいいのやら。
とりあえず、hiroさんに頼まれまして雅信の事を書いてみましたが、
果たしてこれで雅信の事が分かるのだろうか。
というか作者も雅信の事を十分に把握しきれてない部分もありますしね。
これを書きながら一緒に考えたりもしてました。
下手すると余計に混乱させるだけかも。
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