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エンフィールド幻想譚 時を越えて:前編
正行


エンフィールド幻想譚
時を越えて:前編





ワイワイガヤガヤ・・・・
今日もエンフィールドの門では様々な人が行き来している。
旅行者もそんな人達に含まれている。
ザッザッザ・・・ザ。
「ここがエンフィールド・・・」
一人の人間の女性が立ち止まり、門を見上げた。
歳の頃は20を過ぎた辺りだろうか。金色の眼をしており、長い金髪をゆるくウェーブし
ている。充分美人の部類に入るが、エンフィールドの中では上の下辺りだろう。
顔立ちは可愛いというより美人といった方が似合う。
「ほんとうに・・・あったのね」
そうポツリと呟いた女性は複雑な表情を浮かべている。
そこでしばらく立ち止まり、彼女は昔の記憶を辿っていった。





ここ・・・どこだろ?
ママ、どこ?どこに行ったの?
あたし一人ぼっちなの?
何もない・・・・だれもいない・・・・
こわい・・・う・・・・ひっく・・・ひっく・・・・
ねえ、だれかいないの?
グス・・・グス・・・
ううん、泣いちゃだめっ!いつもママが言ってるもん。泣いたら妖精さんに笑われて、い
じわるされるって。
だからあたし泣かない!
でも・・・・どうやったらお家に帰れるんだろう・・・・
「うう・・・・・・・」
ごしごし、目をこすってもこすってもなみだが出てきちゃう。
あれ?
いつの間にかご本がいっぱいある・・・・・・
なんだろう。絵本なのかな?
うんしょうんしょ。
えーと・・・パラリ・・だめ、分かんないや。見たこともない文字ばっかり。
絵本じゃないみたい。なんだかこわい絵もあるし・・・・
でも、あんな手の届かない高いところにご本があって、誰がとれるんだろう。
ママでもきっとむりなんじゃないかな。
なんだか上からご本が落ちてきそうでこわいなぁ。
「おやおや。これはまた可愛いらしいお客さんだ」
えっ?
「おじいちゃん・・・・だれ?」
後ろを見ると知らない白髪のおじいちゃんみたいな人がいた。
こわい。もしかしたらわるい人かもしれない。どこかに連れて行かれるかも・・・・
「ん?どうした?・・・・・ほう、珍しいな。ここに来るとは」
うわあ!!へびさんがしゃべってる。それにこのへびさん、おめめが一つしかない!
「こらこら、お嬢ちゃんがおびえておるじゃないか」
このおじいちゃん、きっとわるいまほうつかいなんだ。だからこんなところに一人で
住んでいるんだ。このへびさんもきっと・・えーっと・・そう、ツカイマ?、なんだ。
「ああ、心配しなくてもいいよ。こっちのおいぼれはともかく、俺は女性全般に優しい
 から」
「逆に言えば女性しかやさしくないがのう。ほっほっほ」
「お嬢ちゃん。やっぱりキミにはそんな顔より笑顔が似合うと思うよ。だからそんな
 顔しないで」
「お前・・・いくらなんでもその歳の幼女に手を出すのは控えたほうがいいぞ」
「ん?手は出してないぞ」
「そりゃ、今は蛇だから手は出しようがないわな」
「そーいうこと。ってわけでお嬢さん。ここで立ち話もなんですし、あちらへ行きませ
 んか?」
あうう・・・へびさんのおかおが目の前に・・・・こわくてうごけないよぅ・・・・
「う・・・・・・」
「う?」
「うえーーーーん!!えーーーーん!!」
「おやおやおや・・・・困ったな」
「大丈夫、大丈夫。ほらほら泣かない泣かない」
「お前が首に巻きつくと余計怖がるんじゃないのか?」
「ええーーーーーん、えーーーーーん」
「ふぅ・・・よしよし。泣きたいだけ泣くといい。こんなところに一人ぼっちで見知らぬ
 人に囲まれてるんだ。不安だったろう」
     ・
     ・
     ・
ん・・・・・?あ・・・・・・
「〜〜♪〜〜〜♪〜」
えっと・・・ねむってたのかな・・・
「ん?起きたかい」
「おお、お目覚めか?」
あ・・・へびさんにおじいちゃん・・・・
あれ、さっきと場所が変わってる。お部屋の中に庭がある。
あたしは庭のおっきな木の下でねむってたんだ。
「気分はどうだい?」
あれ?もうぜんぜんこわくない。どうしてだろう。
なんだかスッキリしてる
それに、なんだかおじいちゃんたちはあたたかい匂いがする。
「うん、だいじょうぶ・・・・あの、ママ、どこにいるか知らない?」
「ほっほっほ。心配はいらんて。ここは『夢』の世界じゃよ」
「ユメ?」
「そう、『夢』の世界。心配しなくてもちゃんと帰してあげるよ」
「ほんと?」
「そう。ほんと」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんと」
「ほんとにほんとにほんと?」
「ほんとにほんとにほんと」
よかった。ちゃんと帰れるんだ。そうだ!ママに帰ったらお話しよう。
あれ?でもそういえばユメの中のユメってどうなるんだろう。
うーーんと、うーーんと・・・・わかんないや。
「じゃあ、もう少しここにいてもいいかな」
「おお、かまわんよ」
「もちろん俺も大歓迎さ」





それからいろんなことをおじいちゃんとお話した。
おじいちゃんは500歳以上なんだって。すごいねぇ。
それと、おじいちゃんとへびさんにあたしのお名前を言ったら、おじいちゃんがちょっ
とむずかしいおかおをしてた。
なんだかおじいちゃんがあたしのお名前をどこかできいたことがあるらしいんだけど、
思い出せないんだって。でもあたしははじめておじいちゃん達に会ったんだけどなぁ。
べつの人なのかな。
あ、そういえば、おじいちゃんがあたしのおたんじょう日とねんれいを聞いたらなんだ
かすごく・・・うーん、不思議なおかおをしてた。
どうしたの?って聞いたら、こう答えてくれた。
「おじいちゃん達はね、夢の住人だからお嬢ちゃん達とは別の時間の流れにいるんだ
 よ」
?わからない。
「ここは夢の世界。時や次元の狭間にたゆたう空間。だから異なる時代の人間がお嬢
 ちゃんみたいに迷い込んでくることだってあるんだよ」
??やっぱりわからない。
「おい、それは答えで、答えになってないぞ」
そういうへびさんも、なんだかおじいちゃんと同じ目をしてる。


最後におじいちゃんに一つだけこの前の悲しいことを話したらこう言ってくれた。
「悩むといい。思いっきり悩んで、そして自分で答を出すことじゃ。
 だがその出した答がいかなるものでも変わらぬ事が一つある。
 それは自分が自分であることじゃ」
「元々『人間』という定義はどこにも存在しないのさ。どんなものでも『人間』になれる
 し、逆に『人間』であってもそうではないものもいる。そもそも人間は非常に多彩だか
 らな」
「せっかくこの世に生を受けたんじゃ。一生かかって『自分』という唯一無二の定義を捜
 すといい」
「自分の定義・・・?」
ていぎってなんだろ。
「そう。例え人であっても人間と『自分』の定義は似て同一のものに非ず。
 これに捕らわれすぎないようにのう」
「人は無限ともいえる可能性をもっている。そしてそれは時として絶望になり、また、
 希望にもなり得る」
「お嬢ちゃんもそんな可能性をもっているんじゃよ」
・・・わかんない。
「だから、ね。自分を嫌わないでほしいな。
 まだ会って間もないけど、俺はお嬢ちゃんが好きだよ」
「儂もな。どうか忘れないでおくれ。少なくともここにお嬢ちゃんを好いている人がいる
 という事を」
そう言ってへびさんがかおをなめてくれて、おじいちゃんが頭をなでてくれた。
「一番弱く、脆く、危うく、恐ろしく、醜く、美しく、悲しく、そして強いのは人の心
 だ。そして弱いからこそ強くもなれる。人間とはそういうものだ」
「まずお嬢ちゃんが身に付けるべきことは、人や物事を見抜き見定める目を磨くこと。
 これは生きていく上でなにより大切じゃから。
 願わくば、お嬢ちゃんに良い出会いのあらんことを・・・」
おじいちゃんはなんだか悲しそうでした。
「そうだ。もし、お嬢ちゃんがこの先、機会があったらここに行ってごらん」
そう言っておじいちゃんは地図を持ってきて一つの地名を指して読み上げてくれた。
「お嬢ちゃんの時代ならきっと何か得るものがあるじゃろう。まあどこか記憶の片隅に
 でも憶えておいておくれ」
「・・・・まあ、お嬢ちゃんの時代は『アレ』な最盛期だったからな」
「今となってはもう、儂らにとって遠い遠い日々じゃからのう」
なんだかおじいちゃん、ちょっと笑ってる?
「ん・・・・?まてよ、たしか・・・・あれは・・・・・・」
?おじいちゃん考えこんでどうしたんだろう。
「あ・・・そうか、そういうことか。・・・ハハ、アハハハハハハハハハ」
「おい、どうした?」
「いや、なに。思い出したんだよ。昔をな」
あれ?おじいちゃんのしゃべり方がちょっと変わってる。
「口調が若い頃用に戻ってるぞ」
「おっと。つい、な」

「さて、そろそろ帰る時間だのう。こちらにおいで」
おじいちゃんが立ち上がって、てまねきをする。
「久々のお客さまだったから楽しかったよ」
「ねえ、おじいちゃん。また会えるかな?」
「ん・・・そうだなぁ・・・もうちょっと大きくなったらまた会えるよ」
「ほんと?」
「ああ、ほんとさ」
「じゃあ、今度会うときはもっとお話しようね」
「ああ、楽しみにしてるよ」
おじいちゃんは本当に楽しそうに、うれしそうにわらってた。
おじいちゃんとつないだ手はとってもあたたかく感じた。





それは遠い幼い日の記憶

だけど、この『夢』はずっと忘れられなかった

当然『夢』で出会った二人とはもうこれ以後夢で見ることはなかったけど

時々、あれは本当に夢だったのかと思ってしまうこともある

そしてその度にあの時の手の温もりを思い出す

やがて月日が流れ、私は成長していった

そしてある日

色々な街を巡って、旅行していた途中に偶々一つの街の名前を耳にする

それは『夢』でおじいちゃんが言っていた街

その街の名前は・・・・・



     続く
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