中央改札 交響曲 感想 説明

行進曲12話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第十二話





―――それは新月に近い日の事だった―――





ガサガサ・・・・
「ね〜、お姉ちゃん止めようよ〜」
ギロリ!
「何言ってるの!!あんたあれだけバカにされて引き下がるっていうの!?」
「ぼ、僕は全然構わないから帰ろうよ」
「あんたがよくても私がよくないの!」
「でもこれ以上奥に行ったら・・・・・・」
「いいから!じゃ、早く帰りたかったらさっさと見つければいいだけの事でしょ」
などと、乗り気でない少年を叱咤しながら少女がズンズンと森の奥に突き進んでいる。
少女は14,5歳頃でショートの金髪と切れ長の青い目をしており、活動的な雰囲気があ
り、表情も実に若々しい。格好もこんな森の中でも動き回れるような服装で、全く飾りっ
気がない。
少年は12歳前後だろうか。やはり短く刈った金の髪と青い目。姉と違う点は丸い目に
ちょっとぬけてそうな感じを受け、大人しい雰囲気を受ける。だが今その目はビクビクと
周りを窺い、今にも飛び上がりそうだ。
「あっ、お姉ちゃん。あれじゃない!?」
弟が指差した先を見ると、ぽっかりと空いた森の広場のような所の湖のほとりに大きな
樹が青々と茂っていた。
「えー・・・と。・・・・あっ、ホントだ!やったじゃない。でかしたわよ!」
「えへへ・・・」
弟の頭を腕の中に引き寄せてちょっと乱暴に撫でる姉は喜色で一杯だ。
弟も少し困ったようにしているが顔は綻んでいる。
「じゃあ、ちょっとお邪魔して・・・・・」
と言うやいなやスルスルと姉が樹を上っていく。そして樹の中ほどにある鳥の巣から
一枚の羽根を取って下りてきた。
「はい。これはあんたが持ってなさい」
「う、うん」
姉から受け取った羽根はとても綺麗な青と緑の融和を体現していた。
「でも綺麗よねー」
うっとりとその鮮やかさに見惚れる姿には、弟を叱咤したり木に登ったりしてもやはり
女という一面がのぞける。
「じゃあ早く帰ろう」
長居は無用と袖を引っ張る弟にちょっと唇を尖らす。よく表情が回る少女だ。
「そんな急かさないでも大丈夫よ。いくら魔物がこの森に出るったってちゃんと魔物にも
 縄張りはあるんだから。そのサインを見逃さない限りそう滅多な事じゃ遭遇しないもん
 よ。大体この辺はまだ人が入ってこれるくらいで魔物も少ない方だしね」
「んー・・・・」
「もう。そんなんだから弱虫とか臆病者とかもやしっ子とかネクラとか言われて皆から
 いじめられるのよ」
「確かネクラはお姉ちゃんが発端だったハズだけど・・・・・・・」
「・・・・・・・・そだっけ?」
「うん。僕しっかり憶えてるよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だ、だからあんたはネクラだって言うのよ!!」
「・・・・・・・・お姉ちゃん」
「う・・・ああもう、あたしが悪かったわよ。ほら先行くわよ」
「あー、待ってよ」
プイと来た道を引き返す姉に駆け足で追いつこうとして、
「ん?どうしたの?」
急に弟の足音が止んだので振り返ってみた。
「そこ・・・・」
「?」
弟の視線の先を見ても、特に何も分からなかった。
「なに?」
もっと良く見てみるが、別段湖もその周りも何ら違和感はないように思える。
「草・・・・・」
「草?」
言われた通りに、生い茂った雑草を観察するがやはり何もないと思う。
「草の中に折れたか踏みつけられたのがある。あそこなんか不自然に頭を垂れてる。
 ・・・・・・ここ、何かがよく来てるんだよ」
確かに。よく見てみると一部普通の丈より不自然に短く、途中で一度踏みつけられたよ
うな草がそこかしこにある。何か、動物がよくここに来るのかもしれない。
考えてみれば当然だ。ここは湖だから水を飲みにくる動物がいるかもしれない。
或いは―――
「お姉ちゃん!は・・・はは、早く!」
下手すると魔物の縄張り内にいるという事も考えられる。
「うん。急いでここを離れるわよ!」
とりあえず来た道を引き返そうとすると、

ピィィィィーーーーーーーー・・・・・

甲高い鳥の鳴き声が聞こえた。
「「!?」」
その声のした方向を向くと、
「「・・・・・・すごい」」
少し離れた場所から純白で絶対的に荘厳な姿をした巨大な鳥―――森の中からでもほぼ
全身を望めるほどの巨鳥が羽ばたき、地上に舞い降りるような姿を見た二人はあまり
にも神聖で、神の使いと見間違うほど。

そして消えた。

・・・・・ァァ・・・ザアアアァァァーーーーーーー!!!!

鳴き声にやや遅れて森の木々が風に横倒しになっていくのが分かった。
さっきの鳥が出現した余波だと理解するのはそれほど難しくなかった。
ゴォウ!!!
突風。
「うわぁ!!」
為す術もなく一瞬で風に足をとられ吹き飛ばされる。
まるで風が重い壁のように感じられ、木に正面からぶつかってしまった。
「ゲホッゲホッ・・・・」
息が止まり、咳き込む。幸いすぐに回復する。―――と、
ジャァァァーーーー・・・・
雲一つない空から雨が降ってきた。緑の傘のおかげでほとんど水はかからなかったが。
「え・・・・?」
さっき見た時より湖の水かさが大量に減っている。
(風で巻き上げられた・・・?)
あ、それよりも・・・
「ハーズ、大丈夫?」
弟に呼びかけてみる。するとちょっと離れた所から弟――ハーズ――の声がする。
それに安心して―――――

突然何かが降ってきた。





「ククク・・・最初の勢いはどうしたんだ〜?え?」
隔離された結界の中、俺様――シャドウ――の前には懲りないバカどもが無様な姿を晒
している。
「く・・・・!!」
ここには俺様に返り討ちにされている3匹がいる。
1匹は赤い鱗の竜の姿。1匹は四つの腕をもつ人の姿。1匹は普通の人間の姿。
こいつらは外見は異なれど、同じ種の存在だ。
『死神』という。
「おいおい。名前倒れだな〜。なっさけねーの」
ひゃひゃひゃひゃひゃ!
「わっざわっざこーんな結界張って〜俺様を閉じ込めたのになー」
エンフィールド近くの森の中、ご丁寧に俺様を隔離しようとしている。
まあこいつらも俺様がその気になったらこんなチャチな結界ぐらい力まかせで壊せるって
事を分かってはいるんだろうがな。
「3匹でかかれば・・・・とでも思ったのかな〜?」
お、やっと1匹立ち上がったか。
「今のチャンスに殺しておかなかった事を後悔するぞ・・・!」
「ほう?」
「その力の奔流をその身で受けるには余りにも貧弱で脆弱なもの。人間の体や精神
 では分不相応というものだ。故に肉体及び、特に精神が力に耐え切れずに激しい消耗
 をもたらす故に長時間は持たないのであろう」
ほう。中々調べ上げてやがるじゃねえか。
だがなぁ・・・・・
「ひゃっひゃっひゃ。御名答・・・といいたいところだぁ〜が〜」
チッチッチ、と指を振る。
「一つだけ現状は違うんだなー、これがぁ〜」
「何?」
「今の俺様は半人半精。要は精神が実体化したものなんでな。完全な肉体を持たねえん
 でそんなに消耗しねえんだな、これが」
「・・・・・バカな!?」
おーおー、驚いちゃって。
「一個の存在、しかも完全な肉体を持っている時よりはるかに精神状態が肉体の構成に
 影響を与える状態でその能力を行使している・・・・?」
「下手をすれば・・・・いや、どんなヤツだろうと絶対に自我が保てないハズだぞ!?
 例えどれだけ精神が強固であろうとも、その力の前にはチリに等しいのに・・・・!」
・・・・・・くくく。そりゃあそうだ。どんなに力が強くとも、どんなに強固な精神で
あろうとも、この力の前には意味なく全てが無力と化す。
そして、俺様も、例外では、ない。

「―――我はシャドウ。
 ある一人の影に潜む感情により実体化した世界の陰を担う者。
 我は固体なれど、我を構成する一つの思いのみをその力でもって全体から引き寄せた
 集合体也」

一方の意味では俺様は自我を保ってはいるが、もう一方の意味では俺様は既に自我を
失っている。
あともう一つ。この半精の状態と月の満ち欠けは密接な関係があるんだが・・・・・
「・・・・・さて、お喋りはおしまーい。とりあえず一旦消滅してもらおうかな〜」
『―――――!!!』
3匹に緊張が走り―――同時に襲い掛かってきた。
まずは包囲しての同時攻撃か。
だが生ぬるい。
「あ〜あ〜懲りないな」
こいつら死神は大体にして個人で動くことが多い。だから集団戦ができるのは少ねえ。
それに加え、こいつらは他の死神と比べるとどうもまだ若く経験が浅いみてえだな。
一歩も動かずに全ていなしてやった。
「これなら・・・・どうだっ!!」
5mと離れていない四本腕から横目で衝撃が発せられるのが見えた。
まさに瞬間、迫り来るそれに対し、


「―――――喝っ!!!!」


「な・・・・・」
呆気にとられた理由は三つ。
一つは瞬間の判断と対応に。
二つは気合でかき消された事に。
三つはその余波で自分が吹き飛ばされた事に。
「どくがよい」
マヌケ面をした四本腕の次に控えていたのは竜。
ちっ。すでに力を限界までチャージ済みか!
後ろ!人型が背後に回り込もうとしてやがった。
一瞬で数十合コイツの剣をさばくが離れる気配がねえ。
コイツ、俺様もろともくらうつもりもありうるな。
竜の方は今日でもおそらく耐えられるが、念のため・・・・・
「ごおおおおおおおおおおお!!!!!」
ビリビリと空間に振動が走る。これは―――魔力!
咆哮とともに竜から巨大なレーザー、人すら簡単に飲み込む光の帯が俺様を撃つ。
それが放たれた一瞬、それに気をとられた人間型に渾身の一撃を叩き込んでやり、引き
剥がしてすかさず反転。大砲に向き合う。
そして光の奔流に呑まれ―――
「やったぜ!!」
「確かによけるヒマなぞなかった・・・・例え耐えきれたとしても相当のダメージは
 免れまい」
そんなバカどもの会話が聞こえる。
この程度、絶好調の日なら例えまともにくらってもハッキリ言ってノーダメージだな。
やがて光はバターのように縦に真っ二つに裂けた。
「はぁっはぁっはぁーーー!」
光から現れた俺様は当然無傷。
「なっ!?」
右手には今までなかった一振りの剣を握っている。
だが、それを見た十人中十人ともそれは剣として役に立たないと言うだろうな。
なにせ柄はともかく、刀身は丈夫ではあるんだが赤茶けてボーロボロ。
見た目は切れ味0。実際何も物は斬れないんだがなぁ。
これが唯一斬れるモノ、それは―――――魔力。

『布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)』

全ての魔力を断ち、切り裂く事を可能とする剣。しかしそれ以外はなまくらと化す。
まだ俺様を主と認めてはいるようだ。
剣を『書庫』に転送する。
「こうなったら総攻撃だ!全員攻撃だけを考えろ!」
人型が性懲りもなく攻撃を指示する。
・・・・もうそろそろ終わりにするか。
しばらく防御に徹っしてあまり連携がとれていない3匹の猛攻をしのぐ。
「はぁっはぁっはぁっ・・・・・」
最初に息が切れてきたのは四本腕。なっさけねー。コイツよりでかい図体の竜ですらま
だスタミナはあるってーのに。
戦闘中は常にやつらに重力をかけている。最初は動きに支障はないが時間が経つにつれ、
余分な動きをするにつれコレは効果を徐々に現してくる。
他の2匹もすでにかなりのスタミナを消耗しているみてぇだな。
対する俺様はほぼノーダメージ。元々のスタミナの高さもあり、まだまだ戦える。

さて、

―――――フワ
数十、数百の土弾が宙に舞う。球体とチャクラムの二種類。
キ・・・イイイイィィィィィーーーーー・・・・・
それに自転による高速回転を加える。
土弾は向きを整える必要もなくただあらゆる角度での攻撃が可能。
チャクラムは向きを整える必要があるが、その切れ味は凄まじい。
用途の異なる二種類の弾で舞台を囲むラインをつくり、ただ浮かばせておく。
準備はOK.さあて、攻撃に移るか。

閉幕の時間だ。

結果的にほぼ不動だった立ち位置で全てを防御に回し、確実に打ち込める隙ができた時
だけ最高の一撃を着実に一発ずつ見舞うというスタイルからの変更。
まずは絶好の場所にいる竜から!
タンッ!
足は速くないので慎重に近づく。
迎え撃つ竜の腹が0コンマの間わずかに膨らんだ。
ブレスか!
今までコイツが使ってきたのは催眠と炎。
まずきたのは炎の洗礼。
先手を取り、腕を払う動作で風を起こしてそれは口から出した直後に巻き返してやった。
自身の炎を浴びる竜。
「させるか!」
割り込んだのは人型の剣。だが攻撃の軌道がまる見えだっつーの。
ちょっと大地操作で足場に干渉し、重力をいじって態勢を崩す事で攻撃を少しズラす。
後は回避・受け流すのは簡単。
それで人型に隙ができたものの、今度は横から四本腕が迫ってきてやがる。
人型に1発かましてそれから四本腕に対応する事も可能だが・・・・・
「おっと」
迷わず引いて一旦安全な距離と場所をとった。
そして仕切りなおす。
この場で最も足の速い四本腕が3匹の中で先行してくる。
その動きの流れに沿って軽く後方へ投げ飛ばしてやった。
次は3匹の中で最も総合的に強い人型。
一撃、いなして『ミラー』。俺様が二人になり、2倍の瞬間集中攻撃を浴びせる。
人型はすぐに耐え切れず後退。追撃はせずに態勢を整える。
次にそこを埋めるように竜が来た。
爪をかいくぐり、片方の俺様が後ろで真空衝撃波を放つ。竜の体はその大きな全身の表面
をズタズタに切り刻まれ、もう片方が懐に入る。
そして踏み潰そうとする足をかわし、放たれた全力の気の放出はでかい図体の竜を軽々
と宙に舞わせ、気に触れたその体の3分の1を削り取った。
さらにその竜は先程から浮遊させておいた土弾のラインへと吹っ飛びながら突っ込み、
ヒュ―――――
浮遊していた無数の土弾は速度0から瞬間に音速となって接近者を撃つ。
零距離からの音速土弾。
当然到底回避できるものではなく、高速回転している球とチャクラムの二種類によって
その鱗は鋼鉄並と言われる竜の全身を紙のように切り裂き、各所で小爆発が起きたよう
な音と共に穴だらけになった。
結果、竜の死神は細切れのようにバラバラとなって死んだ。
「止めだ」
さらにその肉片は気砲によって飲まれ、消えた。
「まあどうせ死神なんだから、死んでも星に還元されるだけで直にまた星が新たに生み
 出すだろうがな。ククククク」
まず1匹。残るは2匹。
1匹減ってどうしたものか考えてもいるのか、2匹はただこちらの様子を見ている。
「どうした?こないなら―――」
一歩、進める。
「ひぃ・・・・!」
一歩後ずさった四本腕の方に怯えが見える。
人型はいまだ戦意を喪失していない。
「うわぁーーーー!!」
一気に四本腕が上空へ逃げ出す。俺様が見逃すとでも思ってるのかねぇ。
「へ?」
四本腕が空中でマヌケな声を上げる。
そんなに俺様が先回りしたことが意外だったのかねぇ。
「な、な、なん・・・・」
「そうだな。確かにスピードは俺様よりはるかにお前が速いよ。うん」
ドカ!
空中で呆気にとられたままの四本腕を地面に叩きつける。
「なら何故俺様がお前より速く動き、追いつけたかって?
 ん〜、分っかんないかなー」
地面に埋もれていた四本腕をゆっくり頭を鷲掴みにして引き剥がす。
「くっ!」
人型が助けようというのか、ダッシュをかける。
「お前はまだ後だ。いい子だからそこで大人しくしてなさい、っと」
今まで周囲にただ浮遊していだだけの二種類の土弾を一斉に人型へ撃つ。
「ククク。さすがにその数だと叩き落すので手一杯だよな〜」
多少生成速度を上げるため質を落としているのだが、それでも次々と生み出す無数の音速
弾をさばいているのはさすがだねぇ。
「影縫いかっ!」
忌々しそうに人型がうめく。これでヤツの動きは封じた。事実一歩も動いていない。
しっかし自分を見捨てようとしたコイツを助けようとするかねぇ、バカだな。
「さて、答えは分かったかな?」
さっきから目の前にぶら下がっているコイツは半狂乱で俺様に魔力弾をぶつけている。
「しょうがないな。先生が答えを教えてやる」
だがこの程度なら傷一つ負わない。
「答え。お前行動が読みやすすぎ。あんだけ恐怖を表して逃げ腰となるとなぁ。
 いくらお前より遅くても簡単に先回り出来ちまうよ」
「ひ、ひ、ひひひひひひひひひ」
少し力を篭めてやると奇声を上げて抵抗が増す。んー、いい声。足掻き具合もいい感じ。
「ひひぃぃぃーーーーーーっ!?」
「じゃあな」
コイツの体を掴んだ手から赤い光が漏れる。
瞬間、手から白い竜巻が―――膨大な、俺様以外には決して持ち得ない絶対量の気の奔
流の一部が俺様とコイツを飲み込み、地から天へと昇るように噴出した。
この気の流れと同化できる俺様は当然無傷だが、手の中にいたヤツは跡形もない。
竜巻が消える。あたりにキラキラと光る雪のようなものが降ってくる。
「さて・・・・残るはお前1匹」
さっき気を放出するのに集中したために、既に土弾の嵐は止んでいる。
「どうやらこの強力な結界を張っているのはお前のようだな」
3匹の中で一番手応えのあったヤツだ。
「・・・・・・・・」
ひゃひゃ、いいねえ。まーだ目に光があるよ。
「今日、俺様を楽しませてくれた褒美だ。最後に残ったお前には特別にいいものを見せ
 てやる」

――――――――――――――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

「!! 地脈が・・・・大地の気の流れが変わった!?」
そう。
「一点に集中して・・・・・させるかっ!!」
一瞬で間合いを詰めるのが見える。
だが、間に合わねえよ。

―――最高技・星魂―――

地面に集った星の力が俺様の体中を駆け巡り、全身からある形をとってそれは生まれた。

バサァッ・・・・

大きな翼を羽ばたかせ、産声をあげた。

ピィィィィーーーーーーーーーーーー・・・・・!!

甲高く、濡れたような鳴き声が尾を引くそれは純白の鳥。
その鳥は余りにも巨大で、余りにも荘厳で、
そして余りにも美しかった。
パリン、と何かが砕ける澄んだ音が聞こえた。おそらく結界が飽和量に達したのだろう。
その巨鳥は中空で羽ばたきながら、立ち竦むヤツに狙いをつけて舞い降りた。
雷光のように速く、
春風のように穏やかに、
そして実体をもたない幻のようにそれは通り抜けた。
ドンッ!!
その時の余波で何か壁にぶつかったような音と衝撃が周囲に走る。
近くの木々は幹からポッキリと折れ、木の葉はことごとく粉微塵に引き千切られる。
そしてそれは消えた。





一方その頃―――――
「はぁ・・・・はぁ・・・こ、ここまで来れば。もう完全に撒いたか・・・・」
路地裏で物陰に身を隠すようにして息を整えている人物が一人。主人公の雅信だ。
”無駄よ、雅信くん。あなたは完全に包囲されているわ
 ・・・・されているわ・・・・いるわ”
入り組んだ路地裏に何故かスピーカーの音声がエコーする。
「シーラ!・・・どこだ!?」
声はすれど姿は見えず。
「ふふふ・・・・ここよ」
後ろから聞こえたその声に顔を向ける。やがて闇の中から、斜に射しこんでいる光の
下へその姿を現した。
「シーラ・・・・」
「雅信くん・・・・やっと二人っきりで会えたわね」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
しばし無言で見詰め合う。
「なあ、包囲云々はどうしたんだ?」
「やぁね、その場のノリよ♪」
「あと、そっちはゴミの山で通路がふさがってたハズだが?」
「雅信くん。ゴミの山っていうのはね、よく出会いや隠れる時に用いられるのが常套手段
 なのよ」
「つまりゴミの山に隠れていたと?」
「ええ」
あっさり肯定。
「・・・・・・・・・・シーラ、一体いつからそこに?」
「そうね、30分程前からかしら」
ゴミの山に埋もれてじっと待つシーラ。ちょっと想像。
うあ。背筋に霜がおりそうだ。
このモードに一旦スイッチが入るとえらくキャラが変わるな。
「さぁ、雅信くん。これで私の雅信くんに対する情熱、分かってくれたかしら」
いや、確かにその情熱は認めるが・・・つーかホントは認めたくないけど、その情熱を
別の所で発揮してほしいと切に望むぞ。
「さあ、いいかげん大人しく観念しなさい!」
「してたまるかーーっ!」
この後も二人はしばらく街中を駆けずり回っていた。
後に他数名も加わるのだが、まだまだ太陽は空高く、それがこっそり笑っているように
思えた。





     了


>あとがき

今回はシャドウ視点でのお話。
これをシャドウイベントと名付けよう。
でも今回の死神との戦いは無駄に長かったなぁ。
今回シャドウは攻撃的でしたが、『あの能力』の使用中は膨大な力を得る代わりに消耗も
激しくなるのと、最近はある理由により力が減少しているせいです。
例えシャドウが防御型というのを差し引いても攻撃型の方が確実だと判断した故です。
中央改札 交響曲 感想 説明