中央改札 交響曲 感想 説明

果て無き道を歩む者 外伝:回顧録
正行


果て無き道を歩む者
外伝:回顧録










さて・・・・何を話そうか。










どうしたんだ、こんな真夜中に。もう日付は変わってるぞ。

え?俺か。こんな深夜にこんな所で何やってるかって?

はは。この辺りは日が暮れるとすぐ暗くなるだろ?

ここは都会と違って街の明りがまったくないからね。

夕暮れ時ぐらいからかな?

ずっと空を眺めて星の数を数えてたんだよ。

そうだな〜、今524個まで数えてたぞ。

え?嘘だって? ・・・そんな即断しないでちょっとは考えてくれよ。

でもここだけの話、結構いいかげんな数の数え方をしてるから、な。

・・・星の数ほど、とはよく言ったものだな。

んー、ところで帰らなくていいのかい?

あぁ、俺はいいの。どうせ今は熊のプーさんなんだから。

ふーん。

家に帰りたくない・・・・か。

そっか。・・・じゃあちょっと話を聞くかい?

俺が勝手に話すだけで別に相槌を打つ必要もないし、退屈なら好きに行っていい。

まあちょっとしたタチの悪い変人の独り言だと思ってくれ。

ん?ははは。確かに自分から変人っていうのは変わってるよな。

だから、変人なんだよ。

お、真っ暗になったな。

雲が出てきたか。

ここは月が隠れるとホント、真っ暗闇だな。

ほら、顔は見えなくてもちゃんと俺はここにいるよ。

相手の姿も見えない暗闇の中で話すのも一興か。

そうだな・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

これは俺が昔出会った一人の男の話だ。

俺はその人に聞いただけで、本当の事は何も知らない。

その人とはこんな夜に出会った。

そしてこんな風に話してくれたんだ。



昔々。とおーい昔。

まだ世の中には電気どころか蒸気の機械すらなく、

大地が、海が、空が無限に広がっている誰もがと思い、未開の地に夢を求めたような時代、

そんな時代にある村にある一人の男の子が誕生しました。

その子はいつからか不思議な力を身に付けていました。

ある時、その子が楽しそうに笑っていると、

白い蛍火らしきものがその子から生まれ、雪のように辺りに舞い散っています。

村長が言いました。

おお。この子は神の子だ。

すると村人達は口をそろえて言いました。

おお。神の子だ。

ある時、村は凶作に見舞われました。

作物はみな一様に元気がなく、やせて、うなだれていました。

みんなは必死にあの手この手を尽くし、最後には魔法に頼りましたが、

いっこうに効果はありませんでした。

そこに、その子がやって来て地面に手をつくとあら不思議。

みるみる内に作物がたわわに実っていきます。

村長が言いました。

おお。ありがたや。奇蹟の御技を振るってくだすった。

すると村人達は口をそろえて言いました。

奇蹟を振るってくだすった。

ある時、その子が森へ行くと凶暴な魔物に襲われました。

その子は驚いて、死にたくないと強く思いました。

すると、次に目に入れたものは魔物どころか森の3/1を占める荒野でした。

村長は何故か何も言わず口を閉ざしていました。

村人達もみな口を閉ざしていました。

ある時、村人の一人が広い土地でたくさんの雑草を抜いていました。

その子は大変そうだと思い、その力でその土地の雑草を含めた全ての植物を枯らします。

その村人はただ驚いていました。

ある時、同じ村の子供達がその子の所にやってきました。

その中に村の子供達のガキ大将的な存在の子供がいました。

そのガキ大将の子にとって大人達に特別扱いされているその子は強く意識する存在です。

ついに我慢できなくなり、みんなでちょっかいをかけに来ました。

その子は特別な子として、あまり人と普通に接しておらず、

ましてや同じ子供に関しては未知の存在でした。

何故みんなが自分を嫌な気持ちにさせるのか分からず、戸惑います。

やがてその子が泣き出すと、大地も泣き出しました。

幸いその地震は村にさほど被害を及ぼしませんでした。

村人はヒソヒソと囁きあいながら遠巻きに窺っていました。

その子は最近大人達が自分からどんどん離れていくように感じるようになりました。

自分は何も変わっていないのにどうして、と強く思いました。

そしてある時、地主がとても大切に可愛がっていた犬がその子に吠え立てました。

その犬はとても我がままで乱暴で賢い犬でした。

自分がどんな立場にいるか理解し、村人も地主の大切な犬という事で手出しができません。

犬は放任され、好き放題です。

そして当然のようにその子にも噛み付こうとしました。

その子はとっさに逃げ出しました。犬は逃げる獲物を楽しそうに追いかけます。

とうとうその子は人気のない所まで追い詰められ、犬が飛び掛ってきました。

つい恐怖心から無意識に力で犬を殺してしまいます。

その子はまだ幼く、周りに力の抑え方を教えられる者もいないどころか、

逆に周りはその力を喜んで迎え、放っていたのです。

故にその力をどうやって加減すればいいのか分からず、

普段なら多少は思い通りにできるものの、感情が昂ぶれば全くできないのです。

そして神のイタズラか悪魔の所業か、偶然にも村人の一人がその場を目撃していました。

その村人は、その子に対して疑心暗鬼に陥っていました。

いや実際のところ、最近では村の多くがそうなっていたのですが。

その村人もその一人だったのです。

その村人には、

その子が犬を人気のない所まで連れてきて、誰も見ていない所で殺し、楽しんでいる

そう見えたのです。

その村人はすぐさま走って村に見てきた事を、寧ろ誇張して言いふらしました。

その話は様々な尾ひれ背びれがついて、あっという間に広まりました。

村長が言いました。

おお。この子は悪魔の子だ。

すると村人達も口をそろえて言いました。

おお。悪魔の子だ。

両親さえもその子を糾弾しました。

悪魔と入れ替わって人間になりすましていたんだ。

危うく騙されるところだったわ。

なんて恐ろしい。こんなのがずっと村にいたなんて。

家の牛が死んだ。そいつが殺したのか。

ウチの子が死んだ。その子のせいね。

悪魔。

疫病神。

災いを招く。

殺せ。

村を滅ぼそうとする前に殺せ。

殺せ。

殺せ。

殺せ。

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せころせころせころせコロセコロセ―――――

その子は村人達がどう思っていようと、内はただの子供でした。

何故みんなが手の平を返したのか分からず、震えていました。

それは冷たい風でもなく、雪解けの水でもない。

山を震わせるような大音声。それはただ自分一人に向けられたもの。

村の大人達はみな、震えている一人の子供を囲み、手にクワやカマを持って呪詛を紡ぐ。

集団の狂気。人が繰り返してきたある種の儀式。

その子は逃げ出しました。

見ろ、逃げ出したぞ。

やはり悪魔だったのか。

追え。逃がすな。殺せ。

必死で逃げるその子を村人達はかがり火を手に追います。

その子は必死に走り、やがて深い谷に追い詰められ、転落してしまいました。

気づいた時にはもう、辺りはまったく知らない土地でした。

一人、歩きました。

死にたくない。ただその思いだけで。

一人で歩いている間、何もすることがないので取り留めのない事を考えます。

これからどうなるんだろう。

ここで死ぬのかな。

どうしてこんな事になったんだろう。

どうしてみんなは自分を狩りたてたんだろう。

どうして自分にはこんな力があるんだろう。

こんな広い世界にどうして自分みたいのが生まれたんだろう―――――

人間ってなんだろう―――――

自分は、何故、ここに、いる?

その子は自分でも気付かぬうちに倒れていました。

ただ思考だけが堂堂巡りをし、意識だけが足を動かしていました。

前の空の色がいつの間にか変わっていました。

少しずつ少しずつそれは空一面に広がっていき、暗い青から紫へ、紫から黄金色へ。

黒い大地を光が照らしていきます。

そしてすべての力を抜きました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

幸運にもある一家に拾われました。

その一家はその子の手当てと世話をします。

そこでしばらく過ごしました。

過ごしている間、ずっとその力を隠していました。

知られたらきっと追い出される。そう思って。

そう怯えつつもそこでその子は少年へ、少年から青年へ成長します。

その中で様々な事を学びました。

そして一人でもなんとか生きていけるようになった時、ひょんな事から力の事がバレます。

その一家は青年がどう思っていようと、

当時はその子を単なる無償でコキ使える労働力として連れていったのです。

どうせこんな所で倒れている子だ。問題あるまい。

ところが軽い気持ちで拾った子には変わった力がありました。

そしてそれが金になると分かりました。

バレれば追い出されると思っていた彼はまったく逆の事に戸惑います。

彼は一家の思惑がどうであれ、恩に報いようと働いてきました。

ですが、この力だけは見世物には使いたくなかったのです。

そこで彼は出て行く事を決意しました。

ただ、その前に一回だけ。その力を一家の言う通りに振るいました。

思惑通りに一家は見たこともないようなお金を手にして狂喜します。

ですが、それを最後に出て行く事を知った一家は猛反対。

せっかく働かずとも遊んで食べていける金の成る木を逃してたまるか。そんな勢い。

これだけのお金を稼いでいて何故満足できない?

ちょっと前までの一家にとっては雲の上のようなお金を手にして。

出て行く彼に一家は両足を切り落としてでも止めようとします。

しかし結局彼は出て行ってしまいました。

ああ、私達はなんて不幸なんだ。そう一家は嘆きます。

彼はますます不思議に思いました。

同じ力なのに一方では捨てられ、一方では歓迎される。

また、たくさんのお金を手にしてもまだ足りないという人間。

彼はとても、とても知りたくなりました。

人とは何か―――?

どうして自分はこの世界に生まれたんだろう―――?

そして、この世界はどこへ向かうのだろう―――?

しばらく彼は旅をします。

そして本当に色々な人に出会い、色々な事を学びました。

すると更にこの思いは強くなっていきました。

しかし当然の事ですが、彼は人間です。そして人間には寿命があります。

人が己の目で見ていられる人の歴史とは全体から見れば本当に極わずかなものです。

彼もまた、まだまだ満足する事ができませんでした。

そんな時に偶然一人の魔法使いと知り合います。

彼は魔法使いが転生の秘術をかける事ができると知りました。

これは死んでも死ぬ前の記憶を持ったまま生まれ変わってやり直せるという術です。

彼は魔法使いにその術をかけてくれるよう必死に頼み込みました。

魔法使いは彼を見込んでこの事を話したのに、裏切られた事で怒ります。

しかし彼は諦めずに、自分の思いを何度も何度も話しました。

少なくとも邪心や半端な気持ちではないと魔法使いは悟ります。

ですが今はそうであっても時は人を簡単に変える可能性があります。

それに下手をすれば真摯である事の方が性質が悪いのです。

次は彼にその術をかけることがどんな事を意味するか諭します。

もちろん彼もその事は承知済みです。いや、少なくとも覚悟はしていました。

これは選択です。

人として自然に天寿をまっとうするか、

子をなす機能を代償に自然に反する異端となるか。

気が狂いそうになる程の時間を果たして過ごせるか。

ここで彼に一つの問いかけをします。

彼は答えられず、こう言いました。

正直、分からない。ただ、それを知るためにも・・・・・・

そこでついに魔法使いは折れました。

一つの条件、

半不老不死となった後の彼を殺せる見張り役を付けることで。

彼は望みどおりの体を得て、今度は2人で旅をします。

彼には宿題ができました。いつか魔法使いの問いに答えるという。

彼は歩きつづけます。

時に、自分の体を妬まれ、

時に、人を愛し、

時に、人から憎まれ、

時に、裏から国を助ける最小限の手助けをし、

時に、人の底知れない欲を覗き、

時に、人の底知れない慈愛に触れ、

時に、命を狙われ、

時に、人が良くも悪くも変貌していく様を見て、

時に、変なやつらと知り合い、

時に、風変わりな街でしばらく過ごし、

時に、人を憎み、

時に、人から安らぎを与えられ、

時に、人から安らぎを奪われ、

時に、迷い、

時に、笑い、

時に、悲しみ、

時に、絶望し、

時に、救われ、

時に、恐れ、

時に、転びながらも、

ずっと歩きつづけ、やっと問いかけに答えました。

もしかするとまた答えが変わるかもしれませんが、

少なくとも今はハッキリと答えられます。

そして、改めて彼は歩き始めます。

まだ、知りたい事がある。

そのために。



まだ彼は歩いていくのを止める事はないだろう。

もしかすると今もなお、この同じ空の下。同じ大地の上。人の中。

その体をもって、同じ時間を過ごしながらみんなを見ているのかもしれないよ。



これで俺の話はお終い。

今思えば、もしかしたら俺にこの話をしてくれた人。

その人が・・・・・・

彼の名前かい?

うう、実をいうと俺もその人から聞いてないんだ。

でも、そうだな・・・

話にあるように、もしかしたら実在して今もこの世のどこかで観ているかもしれない。

案外どこかで君の事も観ていた・・・

いや、観ているのかもよ。

お、やっと月が顔をだしたな。

やっぱり月があるのとないのとじゃ、明るさに差があるな。

ん?ははは。どうした、そんな変な顔をして。

これはあくまで俺が人から聞いた話さ。作り話だよ、きっと。

彼の帰る場所?

彼にはもうそんな場所はないんだよ。

それもまた彼が選んだ一つの結果。自分から帰る場所を捨てたのさ。

遥か時間の中、もう彼の事を覚えている人も、示す物も、何もなくなってしまった。

また、自分から進んでそうした。

村はすでに廃れ、もしくはもう彼の記憶とは遠くかけ離れている。

そこへ戻っても彼は既に異郷の存在。忘れられた人。誰も待つ人などいない。

彼は歩きつづけた。そういう事なんだよ。

でも・・・もしかしたら彼が一人でそう思っているだけかもしれないがね。

故郷はどんな人でも最後に帰る事ができる唯一の場所だ。だからこそ故郷なのだ。

こういう言葉もあったっけ。

でも、まだ彼は歩きつづける。

当分は帰ろうとはしないだろう。

ん? そうか、帰る気になったか。

随分と長話になってしまったな。

さて・・・・じゃあ俺もそろそろ行くよ。

ああ、もちろん。俺は歩くのが好きなんだよ。

この世界で行こうとする場所へ向かうには二本の足があれば十分さ。

じゃあな。しっかり怒られてこい。





ピウッ!





わっ。

急な風で目に何か入っちゃった。

あ・・・・・

ボクが目をちょっとこすった間に、もうあの人はどこにもいなかった。

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・うん、帰ろう。

名前、

最後までボク達はお互いに名前を聞かなかった。

なんとなく、名前を聞いてはいけない気がしたから。

そして、

それが一番自然で相応しいんだと思う。

これは、今日の事はずっとボクの秘密の箱にしまっておこう。

ポツリポツリ道を照らしている街灯には小さな羽虫がたくさんたかってる。

古い街灯の一つがチカチカと光ってる。

タッタッタ、とボクは一人、小走りですでに人も車も通らない道を駆けてく。

街灯の下をすぎるたびに決まったパターンで影が伸び縮みする。

シンと眠ってるこの一帯。

時々遠くから聞こえてくる鉄の咆哮以外誰もが一口も物言わない。

やっぱり怒られるかな?

たぶん殴られそうだなぁ。

お父さん、こういう時はゲンコツなんだよなぁ。

あー、ちょっと気が重い・・・・

・・・・・・うん。でも早く帰らないと。

あ、玄関に明りがついて、誰かいる。・・・・・待っててくれたんだ。

ボクの家までもう少し。

速く。

早く。

今、ボクが帰るべき場所はここなんだから。















さっきの話の中の人・・・・・・・・その人もいつかきっと帰れるよ。

どれだけ時間が経っても絶対、

絶対に・・・・・・



















あとがき>

さて、いかがでしたでしょうか?
今回の話はあえてここでは何も語りません。
好きに想像してください。
では。
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