中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第六話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第六話





―――事後承諾になるがおじさんは君達を形式上引き取った事になった。

―――ただ、おじさんは旅を続けている。

おじさんはいきなり来てボク達の気持ちなんか知りもせずに淡々と言ってくる。

―――着いた街にしばらく留まる事もあればすぐ離れる事もある。

さっきからヴィルは押し黙ってる。よく、注意してみると、ヴィルも震えていた。

―――君達はおじさんについてきてそんな旅をするかい?それともここに残るかい?

―――残るのなら時々様子を見にくるけど、君達が望めば信用できる人を紹介する。

信用のできる人?ボクはおじさんも信用してないのに?

―――どちらにしてもおじさんは必ず君達の生活の援助をする。

いいからボク達の事は放っておいてよ。もう・・・もう何もかも分からないんだから。

だけど、ヴィルだけは・・・・絶対に離さない・・・・・絶対に。
                   ヽヽヽヽヽ
―――もし、君達がお父さんやお母さんが殺された事について知りたいと思うなら・・・



―――おじさんについてくるといい。

どういう・・・・・・こと?

―――どうする?





《引き続き西門》

「完全な無音か。結界に閉じ込められたな、レニス」
周りの風景は変わってはいないが、違う点は風も音も気配も何もない事だ。
生き物もいない、作り物の空間。そこに3人はいた。
・・・・・・ん?
2人の間違いでは・・・・・ない。
そう。3人なのだ。レニスとカイザーと・・・・・・
今まで4つ程ヒントとなる表現があったのだが。ここで改めて紹介しよう。
「いやー、一時はこのままずっと無視されると思ってましたけど一応出番ができましたね」
年の頃は30代〜40代だろうか。メガネをかけた真面目で面白みのなさそうな顔。
ぶっちゃけて言えば、悠久1・リサのトラブルイベント2『犯人は誰だ!?』に出てく
る・・・・ここまで言えばもう鋭い人&記憶のいい人はピピンときただろう。
なお、確か悠久1の最後、再審時に出てくる議長みたいな人と同じ立ち絵だったハズ。
そう!あの時出てきたナイフ投げの達人である猿の通訳係だぁ!!
「あ、皆さん初めまして。私、カイザーさんの通訳係の佐藤一郎と言います。
 個人スキル及び兵種スキルは『観客』と『執事』です」

『観客』:如何なる戦闘の余波を受けても無傷でいる。
『執事』:主人の側に常に控えており、脈絡のない出現もできる。
     時には文字通り影のように付き添い、また一切の気配を断つ事が可能。

ちなみに今までは『執事』のスキルがフル作動していた。
実はずっと、戦闘中もカイザーから離れた事はなかったりする。
皆スッパリ無視していたが。
「まあ皆さん以後よろしくお願いします。いくらカイザーさんでも鶏ですから人語は話せな
 いんですよね。ですからカイザーさんが人語を話している時は私が側にいると思ってく
 ださい。その表現がなかったとしても」
以上。カイザーのオプションの紹介でした。
話をスタジオに戻します。
「『ルナ』とか呼ばれていたな。明らかに最初のヤツより格上だが・・・カイザー、奴ら
 は何者だ?」
「分からん。ただ、奴らは外にいる連中の傭兵だ。そしてエンフィールドの何かを探して
 いるらしい」
「―――――ここか」
何かを探し当てたレニスが剣を振るう。
そして空や森に見えない無数の亀裂が入り、砕けた。

・・・・・・リリリリリリリリ、チィーチィー、キーキーキー

「もういないか」
「俺はこの事をリカルドへ伝えに行こう。レニス、お前はまだ役目があるはずだろう」
「ああ。まだ夜は始まったばかりだ。俺は持ち場に戻るとしよう」
そう。まだまだ夜は長いのだ。
だからレニスは全力を出すわけにはいかなかった。
しかし、いくら未知数の敵とはいえこれで良かったのかは分からない。



―――――ヴォン





《教会》

「・・・・誰だ?」
ここは大勢の住民が避難している。エルの姿もその中にあった。
「呼んでる。誰かが・・・呼んでる」
次第に目の焦点が怪しくなっていく。やがて虚ろな目をしたままふらりと立ち上がる様は
幽鬼以外の何者でもない。
彼女は自分の周りから徐々に風景が遠ざかっていく現象を知覚したが、それ以上に何かが、
自分の中の何かがしきりに鳴いていた。
「エル・・・・?」
異変に気付いた誰かの声。揺れる視界の中、人の間をすり抜けるようにして入口に向かう。
「ちょっと、エル!!」
その声で周りが何事かと注目する。誰かが肩を掴んでくる。
少しずつ世界が小さくなる中、自分を止めたのは、

―――――ヴォン

「パティ・・・」
「エル、どうしたの?様子が変よ」
「ん、別に・・・・」
「別にって・・・・!」
「ただ・・・「ひ・・・うわぁぁーーーーー!!」
人の叫びは声の様子でどういう状態かが分かる。
今のは恐ろしいモノを見たが故の恐怖だ。
「キャーーーーー!!」
更に悲鳴。どよめきが神の御許である教会の中で広がり、大きな波となる。
「な、何?」
急に教会の中心辺りの人口密度が上昇し、肉の壁にぎゅうぎゅうとなる。
「・・・もう、一体、なんなのよ」
「パ・・・パティ・・・・ちゃん。あれ・・・・」
「シェリル?どうしたのよ」
見るとやけに窓の付近がぽっかりとなっている。これは窓から人が離れたせいらしい。
その理由はすぐに分かった。
「ちょ・・・なによあれ」
窓にへばりついてこちらを見ている人間。しかし、ハエがたかり、骨が見え、窓に触れた
肉体がまるで緑のアイスのように溶けてずり落ちていく光景はそれがすでに人間でない事
を示している。それでも構わずにその人間であったものは窓を力一杯ガンガンと叩き、口
をだらしなくあけ、ゾッとするほど冷たい炎が宿るその片目をこちらに向けていた。
それだけではない。白い人魂のような何か、醜い子鬼、ガスのような気体に人間の顔が浮か
んでいる何か。
少なくとも窓から見える外の範囲だけでも夜の街は魑魅魍魎が闊歩する魔界と化していた。
非常事態という状況のさなか、さすがにこの光景は生理的に受け付けない。
「前もって説明されてて本当によかったわ」
でなければまず確実にパニックを起こしている。説明されててもまだ不安を訴えている人
もいるのだ。実際、中の十六夜をはけ口にしている。
「本当に大丈夫なんでしょうね」
「ご心配なく。ここには完全なシールド処理を二重に施しています。この程度なんてこと
 ありません」
「でもよお・・・魔法をかけていたのはメルクっていう少年にアインとかいうのほほんと
 したヤツだっていうぜ」
「一人は子供、一人は遊び人じゃないか」
「ああ見えても二人は魔術師組合長のお墨付きです。ご安心を」
少しでも自分の態度で住民を不安がらせるわけにはいかない事を彼は承知しているようだ。
「お墨付きねぇ。確かこの前の『巨大食虫花』も彼らが引き起こしたって聞いたけど?」
「う・・・・」
「ああ。俺それ知ってるぜ。現場に近かったからな。いやーあれは中々だった。何しろ
 虫どころか人、あまつさえ通りすがりの天使まで捕食してたからなー」
「そうそう。それで第一部隊が出てきたんだけど結局全滅したんだって?」
「そ、それは・・・・」
『・・・・・・なあ、ほんっとーに大丈夫なのか?』


「総司さん・・・・それにみんな、無事でしょうか」
「なーに大丈夫よ。みんなこれくらいでどうかなるほど可愛げのあるもんでもないでしょ」
「そう、そうですよね・・・・!」
「それにいざとなったらあたしがみんなぶっとばしてやるわよ」
「パティさん・・・・それ冗談、ですよね」
「シェリル。それどういう意味?」
「い、いえっ!その、何でもないです」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ぷっ」
『アハハハハハハハハハハ』
一時、場違いな空気が心地よかった。
「あ!!」
「どうしたんですか?」
「エルは・・・・?」
「エルさんですか?そういえば見てませんけど」
「違うの!さっきのエル・・・なにか変だった」
「え・・・」
「あ、パティちゃんにシェリルちゃん。どうしたの?そんな怖い顔して・・・」
「シーラ。ちょうどいい所に。お願い。二人とも一緒にエルを探して」
「え・・・うん。分かった」
ただならぬ雰囲気を察してすぐさま頷いてくれた。
「じゃあ、あたしはこっちを探すわ」
そう言うあたしに続いて、すぐさまシェリルとシーラもエルを手分けして探しに行った。
そして他のみんなも連れて再び集まった時にエルの行方不明という事態が確定した。
「まさか・・・・外に?」
みんなが一斉に入口を向く。
いくらなんでもそんな・・・・それが共通の思いだった。
二重にシールドされているここからどうやって出る?
結界を破る?
女性が一人、入口のドアを開けて出て行くのを誰も見咎めていない?
そんなバカな。
第一何故この状況で外に出る必要がある?
「・・・・エルが言ってた。『アタシを呼ぶ声がする』って」
ぽつりと漏らしたあたしの声に誰かが震えた。





《小国の陣営》

ジ・・・・―――ジジ・・・・
「・・・・・・?・・む・・・何だ・・・?」
魔王ディグラードの力を代行する魔術師の長。
その彼は今なお魔法を継続している。
エンフィールドの街をすっぽりと覆う魔方陣による結界魔法を維持するために、ずっと魔王
の力を借りつつも絶えず展開先との接続を繋いでいたのだ。
しかしふとまるでノイズが走ったようなイメージが流れ、接続が断たれたように真っ黒
なイメージが支配した。
が、それは一瞬で直り再びクリアーで異常のない状態に戻る。
(おそらく集中が途切れ、乱れたのであろう)
そう、彼は結論付けた。

結局それ以後二度と小さなノイズは起こらずに夜は更けていった。





《陽の当たる丘公園》

・・・・・・・・・ゆっくり、ゆっくりと『彼女』は目を覚ました。
その手に一振りの剣を携え、体の調子を確かめるように軽く運動する。

ス・・・・・!

一通り確認を終えたのか、最後に一素振りをして静止する。
「・・・・・クス」
チン。
納刀の音が鈴のように響く。
小さな笑みを残して『彼女』はその場を後にした。
妖魔の残骸である千々に引きちぎられた血や肉を浴びても、不思議と彼女にはその臭いは付
かなかった。
今は夜。
下は未だ魑魅魍魎どもの饗宴が続いている。





そう。まだ夜は始まったばかり・・・・・





     続く
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