エンフィールド幻想譚 クリスマスを過ごそう:中編 |
正行 |
エンフィールド幻想譚
クリスマスを過ごそう:中編
わいわいざわざわ。
パーティが始まってからはみんな思い思いに談笑している。
「じゃあここらでメルク、一つたのむ」
「ええ」
と、ルシアがメルクになにか頼んでいる。
メルクが短い呪を唱え、指を空に躍らせる。すると指から燐光が生じてその軌跡が光って
いた。やがて何か一つの図形のようなものが出来上がる。
「・・・・立体空間文字だね」
アインが軽く驚いている。
「よくご存知ですね。ええ、その通りです。これは古代より昔、神々の時代より遥か昔、
天地開闢の前から『存在』していた文字です。しかし一体何者が何の目的で用い、そ
して何故残していったのか全てが不明の、そして誰もが解読なし得なかったという」
へぇ、とシェリルやクリスがメルクの説明に耳を傾けて、マリアが鰹節を前にしたネコに
なっていた。
「補足するなら、今までこの文字を理解でき、扱えた者は誰一人とていませんよ」
総司が輪に入る。
「え・・・でもメルクさんは」
「そう。だからこの文字を扱えるのはメルク一人だろうね。少なくとも僕は扱えないよ」
クリスの疑問にアインが答える。
そんな話を横にメルクが集中してあと2個の立体文字を作り出す。
雅信も参加。
「この文字一つで世界の膨大な情報が詰まってるな」
「どういう事ですか?」
「つまり、老子が言う「道」と同じだ。この文字一つで世界の真理・法則などを表現して
るという事だ。はっきり言って『悟り』と似たようなものだから、あの文字一つを理解
するためにも最低限世界の根底を理解していないと話にならない」
メルクが苦笑しながら。
「まあ今はそんな難しそうな話はナシにしましょうよ」
「まぁ、そうですね」
メルクの側にいた金髪の天使、ファリエルも参加。
「で、何をするつもりなの」
「今見せますよ」
その言葉が終わると同時にふっ、と暗くなった。
「あ・・・・・・!」
「へ〜」
空を見上げればオーロラが。そして周りにはたくさんの小さな光がキャンドルライトの
ように辺りを照らしていた。
昼並とはいかないが十分明るい。
クリスがポツリと。
「紅蓮さんがさくら亭でやっているのと同じ事ですね」
「いや、これは何か、違う・・・・・」
「え?」
アリサさんが空を見上げながら、
「きれいね・・・・・」
「! アリサさん、これが見えるんですか?」
「ええ、はっきり見えますよ」
「なるほど」
「そういう事だよ」
「どういう事よ」
納得顔のアインと総司に対して未だ納得いかないファリエル。
「アリサさんは弱視なんですよ。そのアリサさんがはっきり見えるという事は・・・・
そうですね、ちょっと目を閉じてみてください」
疑問符を浮かべながらクリス、シェリル、ファリエルが目を閉じてみる。
「え・・・・!?」
「どうして!?」
「あ、なるほどね〜」
「見えましたか?」
目を閉じているのに見えるハズがないだろうに。
「はい」
「僕も」
しかしあっさり答えは裏切られた。
「つまり、これは情報を直接感覚中枢に送り込んでいるんですよ。人でいうなら脳です
ね。だから目を閉じても見えますし、耳をふさいでも聞こえます」
言ってる事は簡単だが、これは下手すると人を廃人にもしかねない技術だ。
「さすがはアークマスター(Arch Master)だね」
「アイン、知ってたのか」
説明している総司をよそにアインと雅信。
幸いこの会話は他の知らない者の耳に入る事はなかった。
『アークマスター』とはその時期、ある事において右に出る者はいない絶対唯一最強最高
の称号の総称である。
例えばそれが剣の『アークマスター』ならば『剣聖』に、弓なら『弓聖』にあたる。
メルクは魔法の分野においての『アークマスター』である。
シェリルがふと、質問する。
「でも聞いててその立体空間文字がすごいっていうのは分かったんですが、別にこれを
使わなくてもメルクさんならもっと簡単な方法で同じ事をできたんじゃないですか?」
確かに。それは可能である。それに対してメルクはというと、
「いや〜、私も最初は別の方法でやるつもりだったんですけど、いざやろうとしたらこ
の方法が思い浮かびまして、つい試したくなっちゃったんですよ」
あっけらかんと言い放つ。
言葉の雰囲気と内容がかなりズレている。
「・・・・・・・・・・・・」
雅信、こめかみに指を当てる。
つまりメルクは即興で組み上げたという事だ。
一歩間違えばこの場で廃人が続出しかねないのに。
「あ、大丈夫ですよ。この程度なら自信はありましたし、万一失敗した時のためのフォ
ロー用のも作っておきましたから」
マリアが、
「じゃあ残りの一つは?」
「ああ、それも今から使用しますよ」
そして、魔力場が展開されたと思ったらメルクの周りに6つの人影がいた。
「ええっと、紹介しますね。まずこちらのお年寄りの方がハーちゃんといいます」
白髪で何故か王様のような格好をしているお年寄りが挨拶をする。
「ほっほっほ。初めてお目にかかる。今日はこのような場に参加する事をお許し願えて
感謝の念が絶えません。儂らはマスターと契約を交えておるしがない精霊の一人じゃ。
今日はどうかよろしくお願いしますのう」
頭を下げた。
しかしハーちゃんって・・・・・・
「で、こちらの女性がカルちゃんです」
今度はカルちゃんか。
同じように前に出てきて落ち着いた調子で簡単な挨拶を述べる。
こっちは全身黒づくめ。というか目も髪も何もかも完全黒一色。ミステリアスな雰囲気
を醸し出している。
でもカルちゃんってのがその雰囲気をブチ壊しにしてるような。
「そして彼がバーちゃん」
バーちゃんと呼ばれた青年は短い紅の髪で騎士のような格好をしている。
直情的な印象を受けた彼だが、やはり「ちゃん」づけを取り下げてもらうよう仏頂面で
申請した。結局バーくんという事で妥協した。
「はいはーい!エアちゃんっていいまーす。よろしくね」
こっちはカルちゃんと比べて翠一色の少女。ゆったりとした服装で明るく元気に挨拶を
した。名前も他と比べてそんなに違和感はない。
「ガイだ」
まさに要点だけを述べた騎士の姿の青年。茶色の髪でちょっと老けて見える。
「ど〜も〜。こんにちわぁ。ワーちゃんと申します」
最後は蒼い長髪の女性。雰囲気は落ち着いているのだが、どこかぽやや〜としている。
6名の自己紹介が終わったらメルクが前に出て、
「許可はもらってますが、今日のパーティに加えさせてもらう事になりました。
降臨祭といって、精霊達を呼んで祭りみたいなのを開かないといけなかったんですけ
どちょうどいいからそれを兼ねて、という事で。みなさん仲良くしてやってください」
メルクの説明が終わると、お近づきになろうと、もはや光速の域に達しようかという程
のスピードでもって寄って来たアレフを初め、みんなも物怖じする事もなく話し掛けて
いった。
おそらくメルク以外にあの6名の精霊の正体を確実に知っていそうのは、
アイン、総司、レニス。
この3人。
だが、腕におぼえのある連中なら6名の存在力から薄々正体に気付いているだろう。
6名ともまず上位精霊以上の霊格を感じ取れる。
という事は全員最上位の精霊王であろう事は簡単に予測できる。
メルクはあまりこの事を気付かれたくないらしく、あんな紹介をしたらしい。
実際、その手に詳しい化け物組を除いてこのぶっ飛んだ事実に気付いている者はほとんど
いない。
にしてもやはり特にレニスは精霊に好かれているのか、話している姿を見ていると6名
も比較的好意的のようだ。
だが逆に、
ちょうど、メルク以外がこの6名の側にいない時を見計らったかのように雅信が近づき、
「”初めまして”。雅信・ノウスです」
初対面なのでやや丁寧に挨拶をした。
『・・・・・・・・・・・・・!!』
6名は唯一雅信に対してのみ難しい顔を見せた。
そして周りが華やいでいる中、ここだけ一種緊迫した空気が流れる。
特にガイが一番複雑そうな顔を向けている。
「確かに・・・・・俺は貴方達にとっては異端だろうな」
側で仔犬のルミリアが鋭い目でもって雅信を黙って見上げている。
雅信は柔らかく、そして静かに6つの畏れに近い圧力を受け止めて、言う。
「大丈夫だ」
ピッ!
二本の指を右腕に縦に走らせたと思ったら、次の瞬間にはそこがカマイタチのように二
つに断たれていた。
トクトク・・・・
やがて鮮血が手を伝っていく。
「この通り、俺はちゃんと赤い血を流す人間だ」
「・・・・・・・・・・・・・」
しばらくお互いの視線が絡み合う。
やがて一人、ハーちゃんが進み出てきて手を取った。
「もう一度お主の名前を聞かせてくれぬか?」
「雅信・ノウス。それが今の名前だ」
「ふむ。では雅信殿、改めてよろしく頼む」
その言葉からはもう殺伐とした雰囲気は全て吹き飛んでいた。
「あらら〜。すっごい切れ口ですねぇ。ちょっと待っててくださいね〜」
ワーちゃんが持っている杖を傷口に当てる。
「治してくれるのか。ありがとう」
雅信は幸い何も騒ぎにはならずに済んだ事に感謝した。
気付かれて、もしこんな事で場を冷ます事になるのは心苦しかったので。
変質しかけていた傷口は簡単に塞がった。
ここで今まで側で何も言わずに静観していたメルクが口を開いた。
「これでもう大丈夫ですね」
友人が険悪な雰囲気の中、何もしようとしなかったメルクに対して雅信は、
「メルク、黙視を感謝する」
「いえいえ」
と、これだけだった。
「ワシからも礼を言わせてもらおうかの、マスター」
どうやらハーちゃんが6名の代表格らしい。
メルクの立場上、今回は双方が自分から歩み寄った事に大きな意義があった。
ワーちゃんが自らの意思で雅信を治しそうとしたのはその結果と言えよう。
でもワーちゃんとかハーちゃんって呼び方はなんかシリアスに欠けるなぁ。
「あー、すまねえ!」
赤い髪のバーくんとやらを始め、残りも謝罪の意を示してくれた。
「いいさ。俺は精霊には畏れられる体質のようだからな。それよりこれからもよろしく
な」
苦笑しながら雅信、
「それに俺ぐらいで警戒していたら、後ろの蒼いヤツはどうなるんだ?」
「む・・・・」
後はもう打ち溶け合って、気軽に談笑する姿があった。
「はいっ、志狼お兄ちゃんにメルクお兄ちゃん。あたしからのプレゼントよ」
「ああ、わざわざありがとうございます」
「ありがとう。ローラ」
「えへへ〜、お礼は今度のデート一回でいいわよ」
「え、え〜と」
案の定志狼がちょっと困った顔になる。
そこへメルクが助け舟を。
「じゃあ今度私がローラさんにケーキと紅茶を御馳走しましょうか」
「ええっ、本当!? やった〜」
実はメルク、好物にケーキと紅茶が上げられるのだが、どんどん情熱がエスカレートして
ゆき遂には市販のものに満足できなくなって、自ら究極の味の追求に乗り出したという。
そして今ではもう、この二つに関してはプロも泣いて土下座する程の世界的な腕となって
いる。
そんなメルクのケーキと紅茶のセットなのだ。ローラの喜びは推して知るべし、である。
「じゃあ約束ね。もちろん志狼お兄ちゃんもね」
そう言い残して、またローラは別の姿を探しに行った。
「俺もか・・・・?」
志狼はこの事をシーラにどう話すかでつい悩んでいた。
一方ローラは会場を移動しながら、
(うーん、でも何て言おうかなぁ)
(あー、もうこれあげるのやっぱり止めとこうかなぁ)
(こんな事したらあいつに何言われるか分かんないし)
(でもせっかく余ったんだし・・・)
と、なにやらお悩みのご様子だった。
「ふみゃあ!ライフちゃんにプレゼントなのだぁ」
「ええ!わ、私にですか!?」
「うん。いつもメロディと遊んでくれるから、おねえちゃんが「この機会にお礼の気持ち
としてプレゼントっていうのはどうかしら」って言ったのでメロディ、一生懸命作っ
てみました!」
「あ、ありがとうございますっ!」
まさに、我ここに感極まれり状態のライフ。
箱をギュッと胸に抱いて空を仰いでるくらいだ。
「我が青春に一片の悔いなし!」
そこまで言うか?
しかしよほど嬉しかったのだろう、飛来物にも気付かなかったのだから。
ベシ!
「あいたっ」
「ふみぃ?ライフちゃんどーしたのぉ?」
「いや、何か頭に」
落ちている袋を拾い上げてみると、
(・・・・・クッキー、ですね)
中にあった走り書きを読むと「バカライフに」。それ以外はぐじゃぐじゃで判読不可能
となっていた。
「?」
「いえ、どうやら小さなサンタのプレゼントのようです」
小さく笑いながらそれをそっと懐にしまって、誰もいない飛んできた方を見やった。
ここは店の中。
ふみっ!
白い仔犬、ルミリアが単眼のヘビ、天津彦根こと通称アメを前足で踏みつけた。
「おいマテ、テメエそれはオレがとっておいたヤツだぞ。ちょっと離れた間になに断り
なく食ってんだ」
ペシッ!
アメがその足を尾っぽで払いのける。
「ああ、なんだお前のだったのか。誰もいないからてっきり置いてあるのかと思って」
嘘だ。本当は知っててやったのだが。
「ほう、テメエは食べ物が置いてあったら何も考えなしに即行食い漁るのか。
いじきたねえの」
「ちょっと間違えたくらいで何故そこまで言われねばならん。
・・・・心の狭いヤツだ。ふっ」
ドゲシ!
勢いよくアメを踏んづける。
「テメエ調子に乗ってねえか?」
「ふっ」
グリグリグリ・・・・・
足蹴にしたまま捻っている。
「・・・・・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・!」
バチバチ!
「いいだろう。ここで会ったが160年目・・・・」
「言っとくが俺はあの時、143年前に食い逃げの罪を押し付けられた怨みを忘れたわけ
じゃあないからな!」
ガブリ!(牙)
「テメエの方がよっぽど心が狭えんじゃねーのか!?」
ベシィ!(尻尾)
「大体死神はそもそも何か食べる――外から栄養を摂取する必要なんてないだろうが!」
ザシュ!(爪)
「それはオレが食べてみたかっただけだ。何か文句あっか!?」
ミシミシ!(巻きつき)
「それだけのために俺らは暗殺ギルドに追われる事になったのか!?」
ベタン!(噛み付いたまま叩きつけ)
「おー、そういえばそんな事もあったな。いやー、よくあそこまで絡まったもんだ。
それと、そもそも食べる必要が無いのはテメエも同じだろうが」
ガブッ!(噛み付き)
「俺はお前らと違ってある程度は外から補給せねばならんのだ!」
(ジョー・クラッシュ!)←?
「ヘビならヘビらしく蛙でも丸呑みしてろ!」
(タイフォーン!)←??
「これは仮の姿だ!お前こそそんな仔犬の姿をして『可愛い』なんて思ってるのでは
なかろーな!?年を考えろ!」
(絶・天狼抜刀牙!)←???
「オレは死神であって、人間の世界の枠組みに当てはめるんじゃねーよ!」
「―――――!」
「―――――!」
ぽかすかぽかすか。
こんな感じで最近低レベルな発端が多い2匹のケンカ。
が、傍目からはヘビと仔犬がじゃれ合ってるくらいにしか見られていないのが悲しい所
だった。(?)
パタパタ!
「あー!ダメですよぉ、ケンカしちゃあ」
ピタッ。
神族のミウくんが2匹に気付いて仲裁に入る。
お互いが絡みつき、噛み合ったポーズで一時停止。
「「・・・・・・・・」」
けどお互い不満そうに睨んでいる。
その後、純真な目と説得に負け、
「はい。これで仲直りですね」
ニコニコしたミウくんのペースに呑まれてしまい、握手をさせられている姿があった
ここは外。
「コケ・・・・・」
「そうだね。ちょっと寒いけどいい風だよ」
アインとカイザー。
「・・・・・・・・・・・」
「一杯、どう?」
「・・・コッコ」
返事を聞いてアインがグラスにそれなりに度数の高いワインを注ぐ。
「はい、どうぞ」
カイザーがペコリと頭を下げた。
それにクチバシを突っ込む。
「いい飲みっぷりだね。もう一杯どう?」
ス・・・、とグラスをクチバシで前に押し出す。
トクトク
「はい」
「コケーココ」
「どういたしまして」
意外とカイザーは酒豪だったようだ。
志狼よ、お前はカイザーと一緒に飲まない事を強くお勧めする。
―――――と、
「獲ったぁぁ!!」
バサッ!
後ろからいきなりカイザーに昆虫用の虫取り網が!
「ふははははは!やった、やったんだ!これで貴重なタンパク質がタダで摂れる!」
なんとヒロだった。
ホクホク顔のヒロが早速獲物を見てみると、
「こ、これは変わり身の術!?」
網の中にいたのは木彫りの鶏。
ちょこんと『作アイン』が彫ってあったりもしたが。
「コケェ!」
ザクッ!
見事ヒロの脳天にクチバシが入った。
上空からの落下スピードをクチバシの一点に集中したそのフォルムはまるで超高速戦闘機
のようだ。
「うぐっ・・・・さらば夢のフライドチキンよ」
バッタリ。
ピュー、と頭から血が出てる。
「ヒロ、そんな所で寝てるとカゼひくよ」
「・・・・・・・」
返事がない。どうやら○○の屍のようだ。
「さすがはカイザー、小細工は通用しないか」
威風堂々と現れたのは、やる気なさそーな空気漂うレニスその人。
何気にちょっと矛盾してるかもしんないけど気にしないよーに。
「今日こそ決着をつける時・・・・全力をもってお前を倒す!」
神剣レヴィスフィアを抜く。マジだ。
しかし・・・・
「レニス、せめてパーティ用の三角帽子と付け髭メガネはとったら?」
もしや、やる気なさそうな顔して実は結構楽しんでたりしてた?
言われたとおりに外すレニス。
「いくぞ」
構えたレニスにカイザーはただ首を横に振って、
「コケー、コッコッコ・・・・・」
「何?」
カイザーが静かに指し示した方向を見ると、
「・・・・確かに。こんな場で血を流す事はないな」
みんなが談笑してるのを見て思いとどまる。
「・・・・・・・・・」
ピュー。
「いいだろう。今日は特別だ」
チン。剣を納める。
「じゃあレニスも、はい」
「ああ」
「コケー」
グラスを傾けて飲み干す。
「いい味だ」
「コケッ」
「お前の酌か・・・・いただくとしようか」
クチバシで穴をあけ、ビンをくわえて器用に酒を注ぐ。
「中々、美味いな」
「・・・・・・・・・」
ピュー。
それにしても、改めてみるとすごいパーティだな。
神族、天使、堕天使、精霊王、死神、異界人、狼男、ヴァンパイアハーフ、神+魔+人、
エルフ、ライシアン、有名人、人間。
これら全員が自然に談笑している。
種族の壁、か。
「一人こんな所でどうした、雅信」
「ああ、ルシアか」
騒ぎの中心から離れた所で俺は座っていた。
グラスのオレンジジュースを少し飲んで、
「みんな騒いでるなぁ、って見てたところだ」
「そうだな。お前は中に入らないのか?」
「俺はここでいいさ。ただ見てるだけの楽しみ、というのもあるからな」
ほおづえをつきながら、ルシアに視線をやる。
「子供が大人に、そしていずれは親となる。あいつらもそろそろ親になるだろうな。
それが楽しみだ」
「それは気が早いんじゃないか?」
「そうでもないと思うが。
時間は早い。特に子供ができたらあっという間だ。あと数回で少しずつこの光景も変
わっていくだろうな。子供ができて、また年を重ねるごとに子供が成長していって
・・・・・本当に楽しみだ」
「お前・・・・よくそんな事言えるな」
「ははは」
苦笑いを浮かべて俺はグラスをとる。
「とりあえず、『今』は一度きりしかないんだ。こんな『今』の皆を頭のどこかに憶え
ておこうと思ってな。そして来年も、そのまた来年も」
「その中にお前は入らないのか?」
「・・・・・・・・・・・」
俺は黙ってグラスを空けた。
そしてまた少し注ぐ。
ルシアが誰もいない俺の隣に置いてあるグラスに目をやって、
「誰か、大切な人と飲んでいたのか」
「ああ」
昔、戦争中の厳しい中であいつはクリスマスパーティを開こうって言い出したんだよな。
”こんな今だからパーティを開こうっていってるの”
”簡単なものでもいいから”
”私には戦争が早く終わるようお願いする事しかできないけど。毎日毎日辛いのを耐え
て皆過ごしてるけど、ずっとこのままだと潰れそうで”
”もちろん今の状態じゃあ大したのはできないけど・・・・冬を越すための燃料や食物
も必要だしね”
”明日への希望を持ち直すために。まだこれからを耐えるだけの力を溜めるための休み
になればなーって”
”あ、そうそう。もちろん私は歌うからあなたもお願いね”
”・・・・ああ、分かったよ”
結局料理も飾り付けもろくな材料が無い中、必死でやりくりしてなんとかパーティを開
いたんだっけな。
目の前のパーティと比べるとホント、簡素だったな。
「こんな風にパーティを開ける今の世の中に乾杯していたところだ」
「そうか」
当たり前すぎて気付かない事。
願わくば、来年もこんな風に明るくパーティを開けるように、
そのためには皆で平和な世の中をつくっていかねばならない。
今の世の中は、今生きている人たちが創っていくものだから。
何もしないままでずっと平和が続くなんて事はありえない。
まあとりあえず、当たり前のように皆で明るく過ごせる世の中に乾杯。
カチンッ。
そんなこんなで時が過ぎ―――
「さあそろそろプレゼント交換の時間だ。参加は自由だから持ってきたやつだけ集まれ」
続く