エンフィールド幻想譚
夢見る佳人:序章
カッコー、カッコー。
静かな湖畔の森の影からカッコーの鳴き声が辺りに木霊する。
街中と比べて閑散としており、その分ゆっくりとできるこの空間が雅信は好きだった。
しかし、ここローズレイクの近くにあるカッセル・ジークフリード家の落ち着いた午後は
一人の来客によって今、破られようとしていた・・・・・。
ズドドドドドドドドドドドドドドドド!
カッセルの家の中にいる二人は徐々に向かってくる何かを捉えた。
「・・・また地鳴りか」
「これで6人目・・・と。今度は誰だ?」
「この感じ・・・・・一人か。この歩幅と体重のかけかた、足跡やその力の入れ方・・・
総合するとライフの可能性が高いな。でなければピートか?」
何を言ってるかというと、雅信はかなりの広範囲に渡って大地と感覚を繋げられるのだ。
そしてそこから疾走して来るであろう人物が大地を駆ける時の振動や地面にかける力によ
る大地の凹み具合、つまり足跡の詳細なデータ(深さや足型等)を読み取ることが可能な
のだ。
んで、雅信が感じ取った走り方のデータやここにまだ来てない、且つこんな走りをする
人物を頭のランプをチカチカさせながら照合した結果、ライフと答えをはじき出したとい
うわけである。
「アメ、一応そこのハリセンを取ってくれ」
「おう。ほら」
ペシ、と蛇の姿の天津彦根こと通称アメは慣れた様子で器用にその尾で大きなハリセンを
雅信に飛ばした。
雅信はそれを見向きもせず片手で難なくキャッチする。
目線はこんなやり取りをしながらもずっともう片方の腕の中だ。
「雅信さん!!」
乱暴にドアを開けて予想通りのライフが興奮した面持ちで詰め寄ってくる。
「ミュール国の人買いサーカスから手懐けた隠し子を誘拐して監禁した後にオカマさんに
認知をせまられて高飛びを―――」
「何を戯けた事を叫んどるかぁ!」
スパカーン。
気持ちいいくらいに澄んだハリセンの音が決まる。手首の返しも完璧だ。
そして更に追い討ちとして、
「ん。少し頭を冷やしてこい」
どこからか紐がスルスルスルとアメの近くにぶら下がってきた。
「あ、その紐ってやっぱり?」
「うむ。こういうシチュエーションでの答えは一つしかないだろう」
そして―――
カコン。
「はーい。じゃあ一旦退場してきますねぇぇぇーーーーー・・・・・」
奈落への道が開き、その顔に笑顔を残したままライフは垂直に舞台から降りた。
ドッボーン。
「いやぁ、風情のある音色よのぉ」
なんか大儀そうにふんぞりかえっている。
「・・・・アメ、お前ってこの街に来てからホント性格が変わったよなぁ」
「それは違うぞ、雅信。俺は生まれ変わったのだよ・・・ただそれだけの事なのさ」
「やっぱりあの日、アレフと街に『遊び』に行ったお前を止めるべきだったんだろうか」
顔に深いシワが刻まれる。
帰ってきたアメは大部分にわたってアレフ色に染め上げられていた。
まあそんなに悪い方向に変わったわけでもなし、お前がそれでいいっていうんなら俺が
口出しする事じゃないと思うが。
気が付けば落とし穴はどこにも見当たらなかった。ちなみにアメが引っ張った紐も。
「そもそもローズレイクから能力で横穴をあけてまで、この落とし穴に水を引くべきだ
ったのか?」
なんか無駄な事に能力を使ったようで少し後悔。
「にしてもさっきのハリセン、あれは痛そうだったな」
「何を言う。ボケにはツッコミで返すのが礼儀だろ」
真顔でそう断言する雅信。最もこれはフリだという事をアメは知っているが。
どうやら今の雅信はギャグモードにスイッチが入っているらしい。最もちゃんとこういっ
たツッコミをする人は選ぶのだが。
・
・
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ちょっと一息 (−−)/旦~
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「はぁー、でも話を聞いた時は驚きましたよー」
「お前が驚いたのはよっく分かった」
そもそもオカマに認知をせまられる事などあるのか?
「で、雅信さん。この子の名前はなんていうんですか?」
ライフがべろべろばぁ、をしながら聞いてくる。
そっと壊れ物を扱うように、雅信は腕の中にいるのを抱き抱えなおす。
「ああ、この子の名前はヘリオス・レヴィスト」
鮮紅色の瞳の男児。
「当分ここで一緒に暮らす事になった。よろしくな」
だぁー、と小さな手を伸ばしてヘリオスと呼ばれた赤ん坊はライフと握手をした。
続く