中央改札 交響曲 感想 説明

エンフィールド幻想譚  続・志狼の受難
正行


エンフィールド幻想譚
続・志狼の受難





※この話は心伝さんの『ちび・ぱにっく』のパラレルです。
 これはあくまで数ある話の展開の一つとしてお願いします。





「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
俺は薄暗い路地裏を走っていた。
後ろを振り向いて確認するまでもなく、相変わらず後ろから人が追ってくる気配がしてい
る。まだ姿は見えないが、元々大人と子供以上に足のコンパスに差がありすぎる。
普通ならすぐにでも追いつかれるところなのだが、そこは俺の身体能力でなんとかしてい
る。といっても全力でないとすぐに捕まるだろう。
捕まったらもうおしまいだ。おそらく二度と陽の目を見ることはなく、監禁されるだろ
う。そして『ヤツラ』にいいように弄ばれるに違いない。
俺は今太陽の下を堂々と歩ける状態ではない。だからこんないかにも街の裏って雰囲気の
路地を逃走のルートとして使っている。
そう。俺は今追われているのだ!!
「!!・・・・くっ・・・」
やがて前の角からも靴音が響いてくる。どうやら走っているようだ。追手と考えて間違い
ないだろう。
・・・いや、追手でなくても今の状態で下手に人と接触するのはマズイ。
急いで手近なところに身を隠す。
息を潜め、気配を断ち、自分は人形と言い聞かせるようにしてじっとする。
やがて隠れている俺の前で前と後ろから追っていた者たちが合流する。
「いた!?」
「ううん・・・・確かにこっちに来たと思ったんだけど・・・・」
「そう・・・」
「早くしないと。もうずいぶんと他の人にも狙われているみたいだよ」
「ええ分かってるわ。街でも一部は大騒ぎよ〜。あの姿で大通りを爆走してたからね〜。
 さっき会ったローラちゃんもものすごく張り切ってたわよ〜。絶対私が捕まえるのよ!
 そして、ふふふ・・・って」
なぬっ!!?ローラにも知れ渡ってるのか!!!
くっ・・・捕まりたくない人ワースト5に入るあのローラが・・・・
熱いはずの汗が瞬時に冷め切ってしまった。
いかん・・・状況は悪化の一方だ。慎重に、かつ速やかに安全地へ避難せねば。
「それはダメだよ!あれはボクがもらうんだから!」
「はいはい。それは彼を捕まえてからじっくり話し合いましょう。まずは捕まえないこと
 にはね・・・・」
あああああぁぁ・・・・・怖い・・死神の笑顔だぁぁ・・・・・

捕まったら確実に―――――シヌ!!

遠ざかっていく足音を耳にそう俺はもう充分、これ以上ないってくらいそれを悟った。
あの目の奥にあったキラキラと・・・いやギラギラと輝く目は天性の狩人の目だ。
自らの欲望を満たすためにはどんな犠牲をも厭わぬ・・・・そんな目。
もし・・・・もし捕まってさんざん弄ばれたあげく、そのことがシーラに伝わったらと
思うと・・・・・・

「い・・・イヤアァァァァアアーーーーーーーー」

思わず頭をかかえて絶叫。
そして我にかえる。
思った通りにあの二人が引き返してくる気配がある。
「くぅぅ・・・俺の安息の日々はいずこへ―――!?」
再び逃走。
もはや気分は脱走した犯罪者だ。
いや珍獣のほうがいいのかもしれない。
どちらにしてもろくなものではないが。
タタタタタ・・・・ではなく擬音としてはピコピコピコピコが似合っているだろう。
追われる者―――天羽志狼―――は路地裏の暗闇の中に消えていった。
らぶりーなネコミミを生やしたチビ志狼に変身をとげたまま・・・



前回のあらすじ。
ある日、志狼が目覚めるとそこには小さくなった自分がいた。
一体何故?
早速彼は原因を究明すべく旅にでる。(早っ)
愛騎『テディ』を駆り、様々な土地を巡る。その旅は辛く、そして長かった。
数々の試練を越え、ついに諸悪の根源『龍牙総司』の元へとたどりつく。
しかし、戦いを挑むものの結果は惨敗だった。更にネコミミの呪いもかけられ、なんとか
逃亡した志狼は一つの事を決心する。
この広い世の中だ。きっとどこかに俺の仲間がいるに違いない―――と。
その時、飄々とした天の声が志狼の頭に響いた。
『あ、志狼?えーとね・・・犬族の未来のためにも打倒!赤カ○ト・・・あ、これ違うや』
「奥羽の総大将かいっ!!」
『ふむふむ、こっちかな?・・・今度のド○ロストーンの在処は・・・・』
「そっちも古いっ!!つーかどこの極秘指令だっ!?」
『ああ、これだこれ・・・急ぐのだ、志狼よ。汝の命は一週間。それまでにヤツを倒さねば
 汝は一生そのままであろう』
「い、いやーー!!」
『というわけで頑張ってね・・・・だって』
「それだけかっ!?普通ここで導きの言葉とかアイテムだとか・・・」
『じゃあ僕はこれで。頑張ってね、志狼』
「あっ、オイーーーー!?」
こうして、彼は胸に七つの傷がある同士を求め、旅を続けた。
伝説のネコミミ12使徒を復活させるために。そしてこの呪いを解くために。
しかし、総司の魔の手は彼の住む街にも及んでいた。
彼の店の仲間であるルシア・ブレイブですら誘惑に打ち勝つことはできなかったのだ。
「すまない・・・だが、俺はどうしても、どうしても・・・・・・」
「ルシアさん・・・何も言わないでください」
また、志狼は一人になる・・・・
相次ぐ苦難。
今、志狼は住み慣れたこの街の住民に追われている。その逃亡生活は彼から何度も光を
奪おうとする。しかし、志狼は諦めない!
彼の明日はどっちだ!?



「全然ちゃうわっ!!」
人気のない屋根の上で一人突っ込む志狼君。
「前の話を知りたい人は俺の創造主でもある心伝さんの『ちび・ぱにっく』を読むように。
 http://www.interq.or.jp/www1/apex/index.htm にあるぞ」
以上が志狼君の住む世界(アドレス)でした。
じゃあ話を戻そう。
どこまでも続く空にそよぐ風が気持ちいい。
ただいま彼はローズレイクのカッセルの家へ屋根をつたいながら移動中である。
あそこは人の出入りも少なく、周りも人がいないという好条件だ。
ただ・・・・唯一の不安材料はそこの居候の雅信だが・・・・あいつも鬼じゃない。
話せば分かってくれるだろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・きっと。

とまあ幾ばくかの不安を抱えながらも慎重に、下の狩人に見つからないように移動する。
―――と、
「ん・・・あれは」





通りの死角に位置する部分でまだ11,2歳あたりの子供達がガラの悪い青年達に囲まれて
いた。
『彼』は少年達を無理矢理人気のない建物の裏に連れ込もうとしているシーンを目にして、
すぐさま後をつけた。
そして裏にいくと予想通りの場面が展開されている。
要するに因縁をつけての脅し、暴力である。
持ち前の正義感から当然ながら『彼』は出て行こうとしたが、その前に何者かが先に割り
込んできた。
「ちょっと待ったぁ!!」
『彼』はその姿を認め、一先ずしばし静観する事にした。





「ちょっと待ったぁ!!」
声の主、志狼は堂々と姿を現す。
「な、なんだてめえは!」
「俺は、天羽志狼!」
『・・・・・・・・・・・・・』
何故かみんなが沈黙。
「わー、かわいーっ」
タタタ、とあっさりチンピラ達の中を脱け出して志狼の元へと駆け寄る子供達。
「はっ、今の状態を忘れてたぁ!」
子供と変わらぬ背丈、ネコミミ、シッポの志狼くん。
ミミやシッポをピン!、と伸ばしてガビーン!となった。
「ねえねえミミだよ」
「わっ、本物だ!うわーうわー。さわっちゃえー」
「ぼくもぼくもー」
「ギャーーーー!」
チビ志狼、瞬殺。
その姿は伸ばした手を残してあっさり埋もれた。
置いてけぼりを喰らったチンピラsはしばしリアクションに悩んでいたようだが、ニヤニヤ
笑いをして、
「へっへっへ。坊主たち、帰りたかったら手持ちの金、3割置いていくこったな」







「ふう、大丈夫かい?」
とりあえずノシて振り返る。
「うう・・・・出番がぁ」
「やられ役とはいえこんな飛ばされ方ってひどいと思いますぅ・・・・」
なにやら後ろの方から声が聞こえてくるが別に気にするまでもないだろう。
それより、
「ね、ね。どうやったらそのミミできるの!?」
「いや、これはね・・・・・・」
などと、そんな事を聞いてくる子どものつぶらな瞳が困りものだった。
「こ・・・っのヤロウ!」
子ども達を連れて表に出ようとした志狼の後ろからくぐもった声が耳に運ばれてきた。
素早く反応し、振り向く一瞬に先ほどのチンピラの一人が遠くから何かを仕掛けようと
腕をこちらに向けているのを捉える。
(魔法!)
位置的に志狼が避ければ子どもに当たる。
男とは離れており、一足では間に合わない。
そして一本道の狭路。
志狼はそれらを一瞬で頭で整理し、子どもに被害を与えないように処理するべく迅速に行
動を起こそうとした。
が、その瞬間!
志狼が行動を起こすより早く!

ザクザクザク!

「あ?・・・・!!・・・・・ぐあぁぁ・・・あ・・!!」
「!?」
どこからともなく高速で飛んできた何かが男の腕に突き刺さった!
腕を抱えて男はうずくまる。
志狼はそれを見て止まり、思わず飛来した元に目をやった。
だが、いくら志狼が辺りを探そうとも、何者の姿も見つけることはできなかった。
(あいつ・・・・・・・)
それでも、何も見えない暗闇にフッと小さく笑いかける。
姿は見えずとも、志狼にはこれを為した者に心当たりがあった。
「どうしたの?」
「いいや、何でもないよ。さあ行こうか」
ここまでの一連の状況の移り変わりはほんのわずかな間。
また何もなかったように後ろの子どもに向き直って、首を傾げる子に優しく答える。
そしてうずくまる男とその傍らに落ちている白い羽根を残して志狼は一度も振り向かずに
その場を後にした。
そう。もはや二人にとって言葉など交わす必要はないのだから。
志狼の背中はそう語っていた・・・・・・と思う。
何分尻尾と耳が・・・・ねえ。
その後、そんな彼らを見送る一つの姿が現れ、やがてその目は倒れている男たちに向けら
れることとなった。



後日談となるが、この男たちはこの日を境に鶏に関連する食べ物全てに拒否反応が起こり、
一切口にできなくなったという。
学者が言うには、
「レスポンデント条件付けというものがある。これは所謂『パブロフの犬』という学習の
 メカニズムである。そして人が無意識に行う反応が恐怖や緊張等といった生体的変数の
 伴う情動体験と強く結びついたとき、それは症状となる。一度症状が形成されれば、
 患者は以前に体験したものと似たような刺激でも症状が誘発される結果となりやすい。
 つまり、PTSD(後天性心的外傷性ストレス障害)―――トラウマ―――。
 彼らは何か嫌な感情を伴う体験が強く心に刻まれて、それが『鶏』というキーワードで
 呼び出されているのだろう」
との事らしい。



話は志狼に戻るが・・・・・・



人間は時として、自分に都合の悪い事は忘れたがるものでもある。
忘却は無意識の自己防衛の一種なのかもしれない。
必ずしもそれは悪い事ばかりではなく、心のバランスをとるために必要な場合もある。
時として『合理化』や『退行』という行動として現れる。
しかし自分にとって都合の悪い事に対しての忘却という手段は大体が物事の根本の解決
にならない事が多い。
そう、多少この状況とは意味合いは違うが、この世にはこういう言葉がある。

『天災は忘れたころにやってくる』

正確に言うならば、これは天災ではなくれっきとした人災なのだが。
表通りに出るまで志狼は忘れていた。
否、忘れていたかったのかもしれない。

「ああ!見つけた〜〜〜!!!」
ピィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

自分が追われる者であった事を・・・・・・・

遠くから雪崩のような地響きが轟いてくるのを認め、再び志狼くんは逃亡者としての行動
を余儀なくされた。





ダンダンダンダンダン!!!
珍しくローズレイクの一軒家の戸が激しく叩かれる。
「誰か!じーさん、雅信!誰かいないのか!!」
「どうした、そんなに慌てて」
「あ!雅信。頼む、かくまってくれ!」
「ふむ。まあとりあえず中で話しを聞こう」
     ・
     ・
     ・
「・・・・・というわけだ」
話し終えるとお茶を一口すする。
「そうか。どうりで街の方が騒がしいと思っていたが、なるほど」
「ところでじーさんとアメは?」
「カッセルはドクターに拉致された」
「そ、そうか」
「アメは・・・・ちょっとした所用で数日は戻らない」
「ふーん」
と、また一口。
彼のネコミミはペタリと下を向いて、尻尾は力なく畳に垂れている。
「それにしても・・・・・・」
「な、なんだ?」
少し目を細めて雅信が志狼を見る。
表情は変わりないが、目が「恋愛こそ至上の道楽」のそれに変わっている。
「シーラに見せたらどうなることやら」
「・・・・・・雅信」
「ハハハ。やだなあ、志狼くん。何でその右手は血のように赤く輝いているんだい?」
「知りたいか?」
「いえいえ。滅相もございませんです。はい」
と、そこで雅信は窓からローズレイクを、遠くを眺めるようにしながら、独り言のように
呟く。
「でもな、志狼。この俺が考えつく事だぞ。当然あいつも―――」
コンコン
と、ちょうど玄関のドアがノックされる。
「はいはい・・・・・ちょっと行ってくる」
パタン。
ドアを閉めて雅信が部屋から出て行くのを見送りながら湯のみを傾ける。
ズズズ・・・・・
「はぁ、なんかやっと落ち着けたな、俺」
お茶を飲んでようやくホッと一息。
「まったく。シーラにだけは知られるのはマズイよな」
そのままでいるとなんとなしに外の音が志狼まで届く。
「どちら様ですか?・・・・・あ、シーラ」

ブボァッ!!

見事にお茶をバーストしてしまった。
しかしそれに止まらず更にワン・ツーが放たれる。
「総司が?・・・なるほど。ああ、志狼ね。いるぞ。上がっていくといい。今ちょうど
 志狼とお茶していたところだしな」

なにいいぃぃぃぃいいいいーーーーーー!!

売られた!?

パニックの中、45°で尻尾を一直線にたてながら志狼はともかく脱出すべきと判断する。
が、しかし!

ガシャン!

「くぬう!?なぜいきなり窓に鉄格子が!」
ガシャガシャと鉄格子と格闘するも出られない。
気分は囚人。檻の中だ。
そして―――――
「ここだ、シーラ」





ガチャ。





アホーアホー。
徐々に沈み行く夕日が照らす中、カラスが一羽。
風は稲を軽く撫でながら地を走り、一番星が輝く空のなんと澄み渡っていることか。
今日も街はいつものように静かに夜を迎えようとしていた。
解毒剤生成まであと6日。
どうやらまだ志狼の受難は続きそうである。
マル。





     了


>あとがき

心伝さんの『ちび・ぱにっく』の最後に、カッセルの所で過ごした、とあったのでそこ
からこのネタが浮かびました。
でも途中との繋がりがあんまし関係ないような(汗)
まあともかく、
チビ志狼、永遠なれ…………(マテ)
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