中央改札 交響曲 感想 説明

ツァルフォルネ
正行


ツァルフォルネ










最近、ボクはとてもごきげんだ。
だってとっても面白いヤツを見つけたから
そいつを見てるのはとても楽しい。
そいつはとても弱っちくて、つまらない事で悩んで、ちょっとつついた
だけで崩れそうなくらい脆くて、虫ケラのようにもがいて、ひどく滑稽
で、無様で、
けど、
それが、そんなあいつが、なによりも、ぞくぞくするくらい、大好きだ。
だから、ボクはまだあいつのそばにいる事にする。
かれこれ500年くらいかな? あれ? もうちょっと短いかな?
まあいいや、大して変わりないだろうし。
とりあえずここ最近はあいつがボクのお気に入り。
だから、もうちょっとあいつと一緒にいようと思う。
まだまだ、遊ばせてくれそうだ。
今は、誰よりもあいつ――雅信という名前だったか――が大好きで大好きで大好きで、
つい壊したくなるくらい、大好きだ。
ボクは女として、あいつを愛しているのかもしれない。
あいつを殺してみたい。どんな声でイクんだろう。
あいつに殺されてみたい。あいつはどんな表情でボクの四肢を引き裂くのだろう。
全てが、面白い。
本当にこんな気持ちは久しぶりだ。










「やあ、久しぶりだねっ!」
にこやかに駆け寄ってくる一人の女性。
「―――――」
その姿を確認した雅信は、瞬間息を呑んだ。
「あ、ボクが誰だか分かる?」
「ツァル・・・フォルネ」
「そうそう。元気してた? ボクは最近キミと離れててすっごく寂しかったんだよ」
そんな彼女に雅信は冷徹な刃物の輝きを目に宿したまま、言い放つ。
「黙れ」
一見なんでもないようなあっさりした声だが、目の前の女に対してのみの指向性の殺気
が多量に含まれていた。
そして、海の奥深くでゆっくりと流れるような―――怒気。
激しくも穏やかな怒りを内包しつつも、それに耐えるのではなく、流されずに完全制御
しているのは流石というべきか。
「あ、ご挨拶だね〜。やっぱり怒ってるんだ?」
「当然だ」
「あはははは。嬉しくないの?この姿。せっかくキミのだ〜い好きな人の形をマネてる
 のに」
安い挑発。最もそんなつもりはないだろうが。
「止めろ」
その姿は、雅信にとって最上級の侮辱に等しい。
「その顔で、その声で、その姿で、俺の前に立つな」
「え〜。だってキミはこの姿を求めてるじゃないか。だからせっかくキミの望みを叶えて
 あげようと思ったのに。あ、なんだったらキスでもしようか?」
「生憎、俺はそんなことは欠片も望んでない。だから止めろ」
「でも、会いたいって思ってるのはホントでしょ」
何かを見透かすような、その声。
「・・・もう一度言う。イリアの姿を止めろ」
「キミは弱い」
「・・・・・・・」
「必死になって自分を誤魔化して、折れた杖を片手に暗闇を歩いている」
「・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと風が吹いたくらいでよろめいて、うずくまり、泣く」
「・・・・もういい」
珍しい事に―――本当に、珍しい事に―――その声には誰も分からないくらい小さな震
えがあった。
「会いたいんでしょ?彼女に」
「お前はいつも俺の心を逆なでする。いつも・・・決まって俺の逆鱗に触れるような
 事をする・・・そんなに、楽しいか」
「うん。そうだよ」
「そうか」
「知ってるでしょ。ボクに言うことを聞かせたかったら・・・こうすることだね♪」
言って、スッと首に手を当てて横に滑らせる。
「そうだな・・・・お前は昔から何も言葉が通じない」



――――――――――



「ふふっ、困った男性(ひと)だなぁ・・・こうなるって分かってるのに」
血にまみれて倒れ伏す男とは対象的に、女はほこり一つついてないままその傍らに佇んで
いた。
「・・・ぐ・・・あ・・」
「キミは・・・そうやって今までも、そしてこれからもずっと地べたを這いつくばって
 生きていくんだろうね」
ツァルフォルネはゆっくりと、片膝を地につけちょこんと座る。
「・・・・・・はぁ・・・く、あ・・・・」
「でも、キミは立ち上がる。決してそこで埋もれようとはしない。必ずまた歩き出す。
 そう。ツギハギだらけの体をかかえ、脆い心を持って」
雅信はそんな彼女に答える事もできず、ただただ目で殺さんばかりの殺気で射抜くしか
できない。
「ふふ」
例え、もう体は動かずともその目までは折れていない。
殺される間際であってもそれは変わらない。
「本当にキミは面白いよ」
ゆっくりと、いとおしそうに、壊れ物を扱うかのように雅信の顔を両手で挟み、目の前
まで持ち上げる。
すると雅信の視界全てが彼女の顔だけで埋まり、またツァルフォルネの『世界』全てが
雅信唯一つとなる。
「そしてボクは・・・そんなキミが―――」

―――くす

その貌に『妖女』と謳われる所以の艶やかでいて純粋な微笑を目の前の男に贈り、全て
を伝える。
「大好きだよ」
血にまみれた男からは鉄の味がした。










これが雅信とツァルフォルネの関係を最も如実に表してます。
即ち―――遊ぶ者と遊ばれる者。
まあ、いつもこんなダークに露骨というわけではありませんが、これに近い事はよく
あってます。
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