中央改札 交響曲 感想 説明

果て無き道を歩む者 悠久行進曲:第十三話
正行


果て無き道を歩む者
悠久行進曲:第十三話










森の一点。波紋状に広がる余波の痕、その中心に男はいた。
「さて、手加減したとはいえどこまで飛んでいっちゃったのかなー?」
そう残して男はむき出しになった地面を蹴った。





「人・・・・?」
森にいる姉弟は目の前に突然降ってきた人間を凝視した。
「お、お姉ちゃん。どうしよう」
弟、ハーズが身を寄せてくる。
その降ってきた男性をよく観察するまでもなく、体はボロボロだった。
下手すると意識を失っているかもしれない。
「どうするったって・・・・」
ひどいケガをしているから手当てをする必要がある。だが、全く素性の知れな
い人が相手ではそれも迷ってしまう。
「ぐ・・・・・・」
「あ」
意識はあるらしい。
男の人は目を開けて身体を起こそうとしているようだ。
その動きは緩慢だったが、そしてすぐこちらに気付いた。
「あ、あの・・・・」
いまだ距離をとったまま声をかけてみた。
すると、
「早く・・・!ここから、立ち去れ・・・!」
「え?」
「殺され、たくなかったら、急いで、逃げろ!」
その人は必死そうに睨んできた。
弱っているようだけれども、その迫力に更にどうするべきか分からなくなった。
「でも、ケガしてるよ・・・・・」
隣でハーズが服を握ったまま言ってくる。
どうしよう、いきなり落ちてきて「殺す」って言葉使ってる、けどケガしてるし。
迷っていると空から新たな声、やけに呑気そうな声が降ってきた。

「み〜つけたっ、と」

ガサガサと木の枝が音をたてて、人影が落ちてきた。
「だ〜れが殺されるって〜?」
その人はなんだか・・・すごく異様だった。
目を覆う眼帯に一つ目が描かれている。何より・・・その人の全身を『何か』が覆って
いる。
怖い。
弟の頭をギュっと抱え込んで、そう思った。
「ぐ・・・・」
ひ、ひどい。
倒れて呻いている男の人を、眼帯の人は蹴り飛ばした。
「オイ、『お前ら』に伝えるぞ。今、『本体』に手を出すな。いいな。
 さもなくば・・・俺様は何をするか分かんねーぞ。クク」
「貴様・・・この世界が滅んでもいいと・・・いうのか? 我等を・・追い込めば世界
 の秩序は・・失われる・・・魂は行き場をなくしさ迷い、積もる。
 まさしく、この世は地獄となろうぞ。やがて、行き着く先は世界の・・・衰弱、自壊。
 そして・・・貴様がその力を好き勝手に・・・使えば・・貴様自身も自滅する事に」
「ん〜。世界崩壊。いい響きだねぇ。上等じゃねーか。カッカカ。
 それと、世界を道連れにってのもまた一興か」
「貴様はァ・・・・・!」
何・・・何を言ってるの、この人達・・・?
分かんない・・分かんないよ・・・
「お、お姉ちゃん・・・・」
ハーズも、震えてる。だけど、あたしにはそれに応える余裕なんてない。
「ったく、『本体』が抜け殻もいいトコな状態をいい事に手を出そうなんざ、随分とせこ
 いこって。ルミリアの差し金じゃねーな。だが甘かったな。うん」
ひっ!
「あ゛あ゛!」
「ふん。霊魂だけを扱うだけならいざしらず、実体を持つ相手に干渉するためにはお前
 らも肉を持たねばならない。ヒャヒャ、一丁前に痛みを感じるんだよな。しかも、
 初めての経験だろう? 『痛い』ってーもんは。本来は、そんなものねーからな」
眼帯の人が・・・無造作に腕をもぎとった・・・?
なんなの・・この人・・・人間じゃない・・・?
「さて、これで『お前ら』にも伝わった事だし、もう用はないな」
あ・・・あ・・・・・・
今度は・・・お腹を、抉り取った・・?
「・・・はぁ・・・はぁ・・・ごふ・・・」
「今楽にしてやるぜ」
・・・! 片手で・・頭を掴んで、持ち上げた・・!?
何を―――
「・・・っ、いやぁぁぁーーー!」
咄嗟に目を瞑って、それから何かが潰れるような生々しい音が聞こえてきた。



「おーやおや。こんな所に迷子かな〜」
目の前で砕け散った残滓を適当に手で払いながら、さっきから横にいたガキどもの
相手をしてみる。
「あ・・・あ・・・・・あ・・・・・」
「お、お姉ちゃん・・・・」
「いけないな〜。ここは立ち入り禁止区域だよ、君たち」
目の前の二人はあからさまに怯えている。
ま、目の前で『人』が殺されたんだ。当然か。
「悪い子だねぇ・・・クククク」
イタズラ心に動かされ、手を伸ばしてみる。
すると、手から逃れようと必死で後退る。ショートパンツが木の葉と泥水で汚れる。
やがて、樹にぶつかった。
「あ・・・」
「ひどいなぁ、逃げるなんて・・・それともそんなに怖い人に見えるの〜?」
「お、お願い・・・助けて・・・」
「ふう。あのね、大人の人達が立ち入り禁止としているには何らかの理由があるのは
 分かるね? なのに、君達は入ってきた。そう、これはある意味当たり前の結果だ」
「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「・・・そうだな。別にお前らなんかどうでもいいしな・・・・・」
「・・・・・・・」
怯えの瞳。震える体。弱い―――弱い子ども。
ああ、そうだ。いい事思いついた。
「おい、ガキ。女の方だ。そう。お前を見逃してやる。但し、男のガキはここに残して
 な。そうしたら、俺様はお前を追う事はしないぜ。どうだ?」
「え・・・」
ふむ。中々いい反応だな。
ガキどもはそれぞれが見詰め合っている。ククク、お互いにどんな目を見たのやら。
「おらよっ!」
「やあっ!?」
女のガキの方を軽く引っ掛けるようにして蹴り飛ばす。あっさり二人は引き剥がされ、
遠くに転がる。
「さあ、逃げるも残るも自由だ。何、なんだったら助けを呼んできてもいいんだぞ」
口に笑みが浮かぶ。助けを呼ぶ、という逃げる事を正当化する口実を与えてみる。
「お、おね・・・ちゃん」
女は震えながら俺様とガキを交互に見比べ、いくらかの逡巡の後―――
「・・・・っ!」
「おねえちゃんっ!」
街の方へと駆け出した。
「・・・ククク。ハハハハハ。ヒャヒャヒャ!」
愉快。愉快。
いや、中々二人ともいい表情をするねぇ。
裏切る側と裏切られる側。
いい見世物だったな。さて、ガキの方はどうしてるかな?
森の奥に消えた女を見送って、残ったガキを見やる。
ガキは呆然と、しかしすぐに俺から逃げようとした。
「おっと、逃がさないよ〜」
ちょっと回り込んで、襟を引っつかみそのまま物を投げ捨てるように放る。
その時、ガキから何かが外れ、どこかに落ちていった。
「さあて・・・置いてけぼりをくらったこのガキはどうしよっかね」
ガタガタと涙目で震えているガキは失禁こそしていないものの、その表情はとても、
とても―――
「・・・おい」
「・・・・・・」
ガキはもう目を瞑り、丸まっている。そうすれば、助かるとでも思っているのか。
雷が落ちる時にベッドの中にもぐりこむのと同じ心理だろうがな。
そのガキを見ていると、とても心がざわめく。
不快だ。
・・・なら、どうすればいい?
「簡単だな」
殺せばいい。
「さ、お祈りはすましたか?」
急ぐ必要もないので、のんびりと歩く。
「・・・・・・・・・・」
いよいよガキの震えはひどくなる。
その首を掴み、先ほどの馬鹿どもと同じように持ち上げる。
「っ、いやだああぁぁーーーー!」
途端に、はじけるように暴れだすガキ。だが、そんなものは何ら抵抗にならない。
「・・・黙れ」
構わずにそっと、耳元でささやく。
その声に何を感じ取ったのか、ガキはもうぶらりと釣り下がるだけで、自分の体を
抱きしめるように手を回す。
「・・・おい」
俺様でも、何を言おうとしたのかは分からなかった。
そしてそれが明確な形になることもなかった。
ゴツ。
「ん?」
何かが体に当たった。
その方向に振り向くと・・・
「・・・おやおや。何の用かな」
「ハーズを、放しなさい!」
そこには、先ほどこのガキを置いて逃げ出した女が気丈な声をあげ、石を手に俺様を必
死に睨みつけていた。だが、体は正直なようで震えているのが分かる。
「ふん」
ぶおん、とお望みどおりにガキを女の方に返す。
「わ!」
いきなりの事に、男のガキは宙で大声をあげた。
女はそれを慌てて受け止めようとして、失敗した。
「い、いたた・・・」
下敷きになっていた体を起こし、突然女のガキが男のガキを抱きしめた。
「お、おねえちゃん・・・・・」
「・・ごめん、ごめんね」
「・・うっ、うぅっ」
ただ、ごめんと謝る女のガキに、ずっと涙をこぼしながら嗚咽を漏らす男のガキ。
「・・・・・・・」
まただ。だが、先ほどとは違う。
ざっ。
木の葉を踏みしめる音がやけに大きく響いた。
俺様は高速で駆け、その進路上にあった二人の頭を刈るようにして地面に引きずり倒す。
「・・・バカなヤツだ。せっかくのチャンスをフイにして。戻ってきたってことは、覚
 悟はいいんだろーな? せっかく一人は助かったってーのに。面白くねえ」
地をなめていた女のガキが顔だけを向けて、言い放つ。
「・・・それは、残念だったわね。だけど・・・ね。一人で、あんな風にして、あたし
 は・・・そんなのは御免よ。あたしはアンタなんかに負けないっ!」
虚勢とも違う、開き直りとも違う。その目。
「じゃあ、死ね」
「っ!」
大地が盛り上がり、杭のようなものが二人の体を打つ。
「ハーズ・・・ハー・・ズ」
宙に投げ出されてもガキどもは離れずに倒れこんだ。
ざっざっざ。
ガキどもは、固まっている。
女の方が男を抱きこみ、その目が俺様を・・・俺を射抜く。
涙と泥にまみれたその顔。
その腕の中には引き返し、俺の前に現れ、殺される恐怖以上の・・・衝動。

守る、女?

抱えているのは・・・子ども?

幼い二人・・・姉と弟?

俺を前にして、この『力』を前にして、なお

俺を見つめるその目・・・・





―――・・・・・悪魔



                         ―――あたしを殺すんだ・・・





チラつく憧憬。鈍色の虚空。その中で『俺』と向かい合う・・そいつたち。





「・・・・・・チッ」
いつの間にか止まっていた足を再び動かす。
ガキどもに背を向けて。
「興が削がれた・・・去ね」
「・・・・・?」
後ろからガキどもの戸惑う気配がする。
「オイ・・・お前らは、姉弟か?」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙。より混乱の度合いが深まっているようだ。
「・・・・・・いや、いい。じゃあな、とっとと家に帰れ」
今度は止まらずに俺の住処たる森と闇の中に帰っていく。

・・・そろそろ新月の日が来るな

俺の進む先、二つに別たれた道。その一つを歩く先は一面の闇色。
目の前に奈落への、地獄への落とし穴があろうとも見通す事など適わない道。
「・・・さあて、行き着く先には何が待つのやら・・・終わりか、始まりか。
 どちらにせよ今は進むしかない、か」





「・・・・・・・行っちゃった?」
「助かったの?」
「うん・・・そう、みたい」
信じられないといった顔で、ぼんやりと男の消えた跡を眺める。
やがて、一つ大きな息を吐いて、マヒしていた何かが動き始める。
「・・・帰ろう」
「うん」
ノロノロと、夢半ばのような希薄なまま家に向かう。
今更ながらに現実離れした時間に襲われていた事を実感する。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は口を開く事もなく、森の出口を目指す。
そして、ようやく禁止区域の境界線まで半分という所で、上空から甲高い声がした。
「?」
「あ、あれ、ハーピーだよ!」
女性の体と鳥が交ざり合ったような、手が翼の空飛ぶ魔物。ハーピー。
「逃げるわよ!」
少女が少年の手を引いて必死に駆ける。ハーピーはそれを追ってきた。
「あっ!」
だが、元々森の中は走りづらい。暗い上に道などない。
少年は出っ張った木の根に躓く。
「ハーズ!」
慌てて止まったその瞬間、ハーピーが狙いを定め急降下する。
その鋭い鉤爪の足が肉に食い込もうと、
「ルーンバレット!」
だが、横からの火球がハーピーを撃ち、そのまま横に滑る。
生憎と翼でそれを防いだハーピーはその勢いのまま空中で体勢を整えて再び空へと
舞い上がる。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「え、ええ」
ハーピーは警戒しているのか上空で旋回しつつ、それでも獲物を狙う目をしていた。
「い、急いで逃げよう。次は、当てる自信なんてないよ」
「そうね」
頷いて、ここから離れようとしたその時―――

ヒュ!

細長い黒い影がハーピーを貫いたように見えた。
ハーピーは途端に体勢を崩して落下を始めた。が、すぐに大きく翼が空を打つ。
今のは当たらずに、ただ驚いただけのようだった。

ヒィィィィィーーーーーーー!!

続けて耳が痛くなるような音。だけど後半部分はまったく二人には聞こえなかった。
それは人の可聴域を超えたからだろう。
ハーピーはその音が終わると途端に大人しくなり、スーとどこかへ滑空して去っていった。
「一体何なの?」
何かが太陽の光を受けて輝き、降ってきた。
ガッ!
地面に突き刺さった、その煌めきの源は一本の矢。鏑矢という、音を発生させる矢だった。
おそらくは、あの音には動物、ハーピーを大人しくさせる何かが入っていたのだろう。
少年は矢が飛んできたであろう方向を向く。それは―――今まで少年が歩いてきた方向。
そして少年の頭に浮かんだのは何故か、さきほどの眼帯の男だった。
自分を酷い目に合わせた人。目の前で誰かを殺した人。
だけど・・・だけど、最後に聞こえたあの声。
少年は思う。どうして・・・あんなに弱弱しく聞こえたのだろう。
「・・−ズ、ほら、早く帰るわよ」
「うん・・・」
少年は生返事を返す。
離れた場所に突き刺さる一本の矢から目を離さない少年に「どうしたの?」と声をかけた
が、少年はただ「なんでもない」と言って、二人は街へと帰って行った。










やがて夜が更ける。森は静かにその姿を変え、夜の住人の時間となる。
頭上の月は大きく欠け、元々光のないその世界は更に闇が色濃く現れる。
ホー、ホー、ホー。
湖のほとり。彼、シャドウはその場所が気に入っているのかそこで体を横たえていた。

息をしているのかすら分からないその姿。

そんな彼でも・・・夢を見る。

遠い・・・遠い夢を。

・・・・・・・・

・・・・

・・










―――あ、待ちなさい!

・・・・・・・・・・・・・・・・

―――もう。相変わらず無視するんだね

・・・・・うっとおしい

―――ほら、顔、汚れてるよ。ちゃんと拭こうね

俺の目の前に最近できた『姉』とやらがいる

確か俺は12

笑い話にも俺がここに連れてこられてできたのが二人の姉と一人の弟。

―――まーた父様に挑んだんでしょう。懲りないね、――ちゃんも

忌々しい・・・・今日もあの男を殺せなかった

俺がいた強盗団を壊滅させた討伐隊の隊長

残虐非道でどんな相手だろうと全て略奪し皆殺しにしてきた山賊の強盗団だ

俺も幾度となく先頭きって数え切れない程消し飛ばしてやった

だからだろう。こんな地方に直々四方守護騎士団が乗り込んできたのは

今まで無敗だった俺がこの隊長に挑み、負けた

その俺を何をトチ狂ったのかこの家に引き取りやがった

そして、何回も何回も殺してやろうとしたが・・・ヤツにはいつも敵わない

くそっ・・・!

―――もう、止まってじっとして!

この家にいるやつらと口をきくのも煩わしい

―――はい。顔拭くからねー

行く手を遮られて目の前に姉とやらの顔がある

―――消えろ

邪魔だ。消してやろうか?

それを止める理由もないので目の前の女の喉を掴む

後はちょっと力を出してやるだけで首どころか上半身くらいは消し飛ばせる

今までもそうやって幾度となく殺してきたので実証済みだ

―――あたしを殺すんだ

状況が本当に分かっているのか・・・・

弟とやらの方はともかくコイツは俺の事を聞いているだろうに

いや、かすかに震えている。だが何故その目は怯えていない?

―――・・・・・・・・

何故そんな静かな目で―――――俺が苛立つ目で見つめる?

いや、どうでもいい。目障りだ

死ね

俺は今まで通りに力を込めた










「・・・何のようだ?」
ホー、ホー、ホー。
眠っていたとしか見えないシャドウはそのまま来訪者を迎える。
ぬらり。そんな風に闇から生まれ出たかのように現れる白い仔犬。
「死神、ルミリア・ハーヴェス」
「・・・我等死神は単体の形をとっているが、全体の一つの意思を共有するもの。
 そして、この世界の機能の一部が意思を有したもの」
「ふん。今日のあの死神連中の事か」
死神は皆繋がっている。全ての情報を共有している。言うなれば目の前の固体は端末か。
だから、今日3体の死神が消滅した事はその瞬間に分かっている。そして、その直前に
伝えたメッセージもまた全員に伝わっている。
「懲りない奴らだぜ。ククク。むざむざ俺様に殺されにやってくるたーなぁ。
 ヒャハハハハハ!」
「・・・オレにその仮面は無用だ。分かっているだろう?」
ピタリとシャドウの哄笑が止む。
「そうか・・・そうだったな」
豹変。まさにその言葉が相応しいように、ガラリとシャドウの雰囲気が変わる。
今までのふざけたような態度、いやらしい口調。暴虐的な雰囲気。
それら全てがなくなっていた。
代わりに出てきたのは、人間性。『シャドウ』という仮面が剥がれ落ちた後には『人間』
としての素顔があった。
「で、何の用だ?」
「別に。ただバカな人間を見に来ただけだ」
「はは。言ってくれるな」
「まったく、長年の結果がこれか? こんな所でお前の今までが終わると思うとあまりに
 もバカバカしくて涙が出てきそうだ」
「言っとくが・・俺をお前の知っている俺だと思わない方がいいぞ」
静かな恫喝。瞬間、緊張の糸が張り詰める。
「それは脅しか?」
「さあ、な? 少なくとも、今の俺にはお前を消さないでおく必要はない」
「ふ。できるのか? 今のお前に」
「できるさ」
あっけらかんと言い放つシャドウに、しかしルミリアは一笑にふする。
「どうだか。今の貴様は格段に力が落ちているだろう。ただでさえお前は今完全じゃない。
 それに加え、月の満ち欠けは魔性や魔力に影響を及ぼす。お前は・・・あいつの闇、
 そのものだからな。ほれ、月は随分と欠けてるぞ」
「試してみるか?」
闇の中、眼帯で覆われているはずの目が光ったようにすら思えてくる。
二者の目が交差する。
「いや、今のオレはお前の監視役に過ぎないからな」
スッ、とルミリアが一歩下がる。
「哀れなものだな。人の闇に呑まれるとは・・・」
それだけを残して、白い仔犬は現れた時と同じく闇の中に溶けた。
シャドウはルミリアが完全に消えたと判断した後、月を見上げた。
「ふん。今の所、力は俺とあいつとで3:7ってところか。ここが第一の正念場だな」
(おそらく新月の日は・・・ほぼ俺の意識は無防備になるな。ここ数日ですらあいつに
 『覗かれて』いる。ま、あいつは幻覚程度にしか思ってねーだろうがな)



夜は更ける。

ゆっくりと、或いは早く。

時間はとどまることなく過ぎていく。










―――姉上!?

今まさに女を吹き飛ばそうとした瞬間、遠くから大きな声が聞こえた

・・・?

何だ。何かと思えば弟の方か

びっくりした顔で俺たちを見ているのはまだ7,8歳のガキ。

―――ど、どうしたのですか!?

顔にはありありとわけがわからない、と書いてあった。

こいつには・・・おそらく何も俺の事を聞かされていないのだろうな

―――ふん・・・

興ざめだ・・・もうどうでもいいか

水を差されて、今更殺すのも面倒になったので手を離してやる

―――・・・どうして、殺さなかったの?

・・・何を言ってる?この女は

―――・・・くだらん

これ以上口をきくのも煩わしく、また一人になろうと歩き出そうとして、

―――待ちなさい

―――・・・なんだ

うわっ!?・・・冷た・・・

振り返ると同時に顔に何かが押し当てられる。

俺の顔を拭いているのだと理解するのにそうはかからなかった

なんとなく、バカらしくなって抵抗せずにいると髪まで手を伸ばしてきた

やっと拭き終わった所で解放された

―――はい。綺麗になった

そう言って、バカのように笑っている女

なんとなく、肩透かしをくらったような気分になる

変わった、女だ・・・

―――・・・・・

これで用は済んだはずだ。俺はまた一人で歩き出す

弟の方が女の裾を掴んで俺を怖いものを見る目で見ていた

だが、女の目は・・・何故かひどく自分が惨めに思えてきた










「・・・・変な、夢だな」
目を開けると、いつもの部屋。俺の住み込みで働いているジョートショップの部屋。
窓から射し込む微かな月光。ベッドの中でわずかに目を細める。
何気なく窓の外を見やる。
大きく欠けた月。細い銀の弧を描く月。
と、何かが手に滴る。
「?」
そっと、手を顔にやると、
「・・・俺、泣いて・・?」






そう。

月の満ちる夜は魔性のものに力を与える。

その月に魅せられたように、月に狂わせられるように。

そう。

逆に月が欠ける夜は・・・・魔性のものにとって力の減衰にほかならない。

最も魔力が薄くなる夜。最も・・・魔性が薄れる夜。



その夜が、近づいていた。










     了


>あとがき

あ〜・・・すいません。
最近どうにもオリジナル色が濃い話ばっかりですね。
なんかもう自己満足のSSに成り下がりつつあるのではなかろーかと危機感がひしひし
と(大汗)
けど、もう11話書き始めた時からこの15、6話辺りまでのストーリーは決定してある
から今更変更できないし・・・(汗)
と、とりあえず! これが終わったらまた普通のイベントに戻ろう。
やっぱり悠久のキャラとか出さないと。

しかし・・・行進曲を更新するのって約1年ぶりだな。
中央改札 交響曲 感想 説明