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エンフィールド幻想譚 平凡な街に:第八話
正行


エンフィールド幻想譚
平凡な街に:第八話










それはボク・・じゃない、私が幻獣騎士団に入団した日



―――どういう事なの、おじさん・・・・・・?

No.9をもらって、おじさんを驚かせようと思って・・・

―――今、言ったとおりだ

そしたら、逆に私が驚いちゃった。・・・可笑しいよね

―――ねえ・・・そんな冗談は面白くないよ

そう。面白くない冗談だ。それが本当なら・・・

―――冗談じゃない

あたしは・・・あたしは・・・?

―――俺が、君達の、両親を殺した

なんで・・・

―――俺が君達の人生を奪った

なん・・・・で・・・・

―――君達はもう俺を十分に超える力を、殺す力を持っている

・・・・どう・・してよ・・・

―――さあ、どうする?










《自警団本隊》

「これでほぼ確定したわね、ヒロ」
「ああ。ようやく魔力の発生源も掴めた。輝羅、状況は?」
「今のところ結界陣に問題はなし。不死者も連携がとれてないから各個撃破は容易かと。
 ただ、倒してもキリがないのが問題ね」
言いながら、また一閃。
「そうだな。うーん、さてどうしようか」

―――――ジ

その時、力ある者は捉えた。一瞬だがハッキリとしたわずかな結界陣の綻びを。
「いかん!?」
「陣が……揺らいだ?」
リカルドの傍にいる魔術師組合の長がすぐさま目を合わせる。
「あの方角は………リサさん達か! く、さすがにこの状況であの戦力ではいささか
 不安だな。ライフくん! ライフくんはいるかっ!」
「はいっ!」
「すまんが、ローズレイクに急行してくれ。朝まであそこを落とされるわけにはいかん」
「分かりました! ライフ、ローズレイクに向かいます」
「頼む!」



【ライフ、ローズレイクへ向かう】





《西門》

「……?」
既に辺り一帯焼き尽したレニス。完全には消滅はできないとはいえ、中々再生を阻む
よう手を加えた炎を辺りに放っている。とりあえずこれでもうこの辺りは問題ないだろう。
陣の元へ戻るべく足を向けたその時。そこへ、やってきた『何か』。
「!」
剣を抜く。そして無造作に飛んできた何かを払った。
「中々、良い反応だな」
闇から姿を現したのは、中年の男性。無精ひげにみすぼらしい旅装束。
しかし、その目が放つ獣の光は間違いなく、気を抜くには危険な人間だと教えている。
瞬間、男が消えた。
「な!?」
油断はしていなかった。それでも知覚できなかった。
背中に冷気を感じる。考える前に全力で前に跳んだ。
「ふむ。今のを避けるか。どうやら『当たり』のようだな」
ニタリ、と初めて感情を表す。それは愉悦。楽しくて楽しくてしょうがないという笑み。
「そろそろ『乾いて』きたのでな。そこへちょうどいい具合に戦だ」
チャリ。柄を持ち直す音が響く。
「くくく。ここで貴様を喰らうとしよう」
「そうか」
周りの炎が全て消えた。それによって夜闇がおしよせ、より一層光の柱、結界の光が
照らす白い明かりが目立つ。
男の旅装束の下、わずかに光を返す軽鎧に彫られている黒炎のエンブレム・・・
「そのエンブレム……ディストウェルブ黒騎士団か」
「そうさ。今は退団したがな」
ディストウェルブ黒騎士団。
世界五大国の一つアスリア連合国の擁する騎士団。世界三大騎士団の一つでもあり、
三大騎士団随一とも謳われている。
「しかし、俺を喰うには役不足だな」
男が熱気を感じたと思えば、レニスは全身に炎を纏わせていた。
手の神剣が炎にてらてらと輝く。
「死者になれば銘など無意味だろう」
「その通り! そうこなくてはな! くははははは!!」
哄笑。そして二人を中心に激しい気流が生まれる。それはまるで全てを吹き飛ばさんと
せんがごとく。

ドゴオオォォォォン!!!

巨大な何か同士がぶつかり、街が震えた。



【レニス、乱入者と戦闘開始】





いよいよ、エンフィールドの各地で壮絶な戦闘が始まった頃・・・





《教会》

教会内。そこで志狼は彼女達にエルが消えた事を知った。
そして同時にもう一つ。リカルドに知らせなければならない事がある。
「十六夜!」
「ああ。ここは俺に任せろ。お前が行ってくれ」
「すまない。ここはしばらく頼んだ」



【志狼、街へ】





《役所》

「あ……人!?」
ローズレイクに向かう途中、この戦時中有り得ない事にライフは死霊の街と化したエン
フィールドをぼんやりと歩いている女性を発見した。
「! 危ない!」
その女性に向かう死霊の群れ。ライフは突進し、すぐさま朱色の長大な斧を振り上げ、
降ろす。

斬!

ありえないほどあっさり、紙のように易々と死霊は霧散する。
「無事ですか!?」
「ええ。ありがとう。おかげで助かったわ」
意外としっかりした声で返ってきた女性をライフは安堵とともに初めてその顔を見た。

―――違和感

何かがおかしい。
改めて見ると、妙齢の女性だがどこか生気がない。そしてその手にあるのは剣。
ややほっそりした、女性的な感じを受ける剣。
一般人が持つ物ではない。それほどその剣の発する気は格が違っていた。
そう、ライフが知るこの街の強者達が持つ武器と引けを取らない程の……
この街にまだこのような女性がいたのか、ライフは疑念を抱く。
だが、まずはあえてそれを無視してたずねる。
「あ、私はエンフィールド自警団第一部隊のライフと言います」
「ああ、そうでしたか。名乗るのが遅れてすいません。私はリリアと申します」
「しかしどうして外に? 今は戦時中ですよ!」
「ごめんなさいね。でも、探している人がいるの」
「探している人?」
「そう……私のたった一人の家族を探してるの」
「そんな……危ないですよ。それなら我々自警団に……」
しかし彼女、リリアはまるでライフが見えていないように、うわ言のように続ける。
そんな彼女にライフは訝しげにする。
そこで一つ、気づいた。彼女の腕にある刺青、そのマーク……血の涙を流す閉じられた瞳。
その上には純白の数字。

No.9

東方では”苦”とも”究”とも”弓”とも読まれるナンバー。
しかし、ライフは聞いている。
No.9は……

「そう。私の、私の弟の名前は―――」

そしてそのマークこそが、幻獣騎士団員である事を示すエンブレム。
世間では全く知られていないが、事実上の世界最強の騎士団。その知らざれる実力は
世界三大騎士団をも凌駕する。
極東に鎮座する不沈の国。ツァオ国の騎士団。
東の死神、決して刃を向けてはならない相手が、目の前にいた。

「ヴィル……弟はヴィルトっていうの」

キン……
「……え?」
一筋の光がライフの左腕を走った。
呆然と見やるライフの目には気付かぬ間に抜刀されていた剣。
「そんな…っ!?」
その剣は東洋のものに近いが、それでも太刀や打刀とは抜刀のスピードは比べるべくも
ない。そもそも造りが違う。
それでも、抜刀が目にとまらなかった事実にライフは戦慄した。



【ライフ、『彼女』と接触】





それから時間は流れ……



《自警団本隊》

「何が……一体何が起こっている………?」
厳しい顔で唸るリカルド。

バリバリバリバリ……!

陽の当たる丘公園付近、こことローズレイクの中間付近では先程から長時間に渡り超絶な
雷が縦横無尽に暴れ狂っていた。

かと思えば、

ゴオオオオオォォォーーーーーー!!!
ドドドドドド……!

西門では巻き起こる炎。休む間すらなく次々と繰り出される赤い嵐は、あの中で未だ
戦っている事を示している。

ギャアアア……
グオオオォォン……
パウ!

更に正門。おびただしい数の空を舞う魔物が飛び交い、光がそれらを引き裂く。
しかし、何度光に呑まれようともその影は中々減らない。

ドン! ドン!! ドン!!!
キュイ、ズガガガガガガガガガガン!!!
キンッ! クワン! ヒュイイイィィィィィーーーーーー!!

そして……東門。この中で最も凄まじい区域。最早そこには誰も近づけない程の余波が
ここからでも伺える。



それらは全て、激戦の証に他ならない。



(カイザーくんから得られた情報……一流と超一流の力を持つ2人の傭兵。だが、軍は
 攻めては来ていない……何が狙いだ? 工作員か? 今攻めてこないとなると、最も疲
 労がピークに達し、気が緩む明け方を狙って攻め込んでくるつもりか?
 ……………これは……もう一つの予防策を実行せねばならんかもしれんな)



そして……



「!?」
「なに……!」
東門、西門、ローズレイク。正門とここを除いた結界柱が唐突に消失した。
それにより、街を覆う結界の効力は失われる事となる。
「リサ、紅蓮、レニス!?」
輝羅がその事態の意味を悟る。



エンフィールドは再び闇へと返った。



【結界消失。再び地獄へ……】











様々な思惑の元、戦いは続く・・・・・










     続く
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