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雫の3:ヘリオス<2>&天津彦根
正行


雫の3:ヘリオス<2>&天津彦根




き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

今日もローズレイクに学校の鐘の音が響く。
やがてぽつりぽつりと下駄箱に人が集まってくる。
そんな人ゴミの中、右顔が不自然なまでに伸びた髪で覆われている男子生徒がいた。
よくよく見ると、その下には火傷の痕が窺える。
名をヘリオス・レヴィスト。雅信の子であり、カッセル家の息子でもある。
「あ、ヘリオスさん」
エンフィールド学園の校門、そこで彼はセミロングの黒髪、スミレ色の瞳の少女で
年下の友人でもある天羽沙也とバッタリ会った。
「……ああ」
いつものカチューシャ、明るい声。そんな彼女をそっとまぶしいものを見るように目を
細める。
そして目だけで周りを見る。珍しく彼女の周りにはいつものみんながいないようだ。
「一人か……?」
「うん。ちょっといい?」
「………?」
「実は明日悠梨がヘリオスさんの家に遊びに行きたいって言ってね。
 それで、明日いいかな?」
「ああ……」
素っ気無く頷くヘリオスに沙也はクスクスと小さく笑う。
「?」
どうしたんだ、と目で尋ねている。
「あ、ええとね、悠梨ってばど〜もまだアメさんだけは苦手みたいでね」
「…そうか。まあ、アメは……頑張ってるみたいだけどな」
二人を想像したのか、ヘリオスの顔がわずかに綻ぶ。
「悠梨ってヘビが大の苦手だからね〜」
「アメは…『女の子に嫌われていたままでは男が廃る!』って言ってる」
そこでまた、二人顔を見合わせて苦笑する。
「どうにも悠梨はカッセルおじいさんや雅信おじさんと遊んだり、お話するのは好き
 なんだけど、アメさんがね〜」
「まあ……それは…」
そこで前の光景を思い出す。
積極果敢にアプローチするアメに、涙目になって動かない悠梨ちゃん。
アメがオロオロとしていた様が思い出せる。
アメとしては女の子を泣かしたくはないので、どうしたものかと最近は色々
仲良くなるための作戦を練っているらしい。
この前なんかはサーカスの玉乗りの練習をしていたし。
「小父貴とお爺様は……その内仲良くなれるだろう、って言ってた。
 俺も、そう思う」
「そう?」
「ああ……アメは、すごいから」
「……………あ〜なるほど」
沙也は知っている。アメのそういう事に注ぐ情熱のすごさを。
きっと、そう遠くない未来、時間はかかっても二人はいつか、仲良くなるだろう。
「……そうだ」
「なに?」
「これから時間は?」
「大丈夫だよ」
「ちょうどそろそろいい時期のがあるからな」
「あ、そうなんだ!」
ヘリオスは小さいながらも自分で果樹園を世話し、そこで採れたものはジョートショップ
におすそ分けして、アリサさんやシーラがそれでパイなどを作って知り合いの皆で食べる
のが恒例化している。
最近では沙也やセイレン達も練習がてら腕を振るっている。
今の短いやり取りにはそんな事が含まれていた。
「いつもありがと。じゃあ明日来る時に出来たのを持っていくね」
「ああ………今年は雨が良い具合に降ったから、中々上出来だと思う」
「へ〜、楽しみだな〜」
「……………」
そのまま鼻歌でも歌いそうな沙也を横目に、ヘリオスは小さく口元で笑みを形作った。
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