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雫の21:ヘリオス<5>
正行


雫の21:ヘリオス<5> 〜ヘリオス君よ…永久へ〜










「……………」
「……………」
 ピーチクパーチク。どこかすごく遠くで鳥が鳴いている。ずっと遠くなのに鳴いている
のが分かるほど、二人の周りは静かだった。
「……………」
「……………」
 口下手のヘリオス・レヴィストと無口のラルク・エルフェイム。うわぁ、もうかれこれ
2時間も一言たりとて喋ってないよ。いや、別に彼らは仲が悪いとか、そういうんじゃな
いんだけどね。
 まあなんだ。ローズレイクに流れ込むムーンリバーの河口付近でラルクは猫と、ヘリ
オスは散歩に連れていた老犬(大型犬)とぼんやり戯れていた、と。ちなみに老犬は
カッセル家の犬ではない。ただ、とある家の家族とそれなりの付き合いをしており、時々
こうしてヘリオスが散歩に連れて行ってるのだ。
 …ヘリオス・レヴィスト。大の犬好き〜。
「くぅ〜ん」
「……………」
 スチャ。
 どこからともなくブラシを取り出し、そっとブラッシングをしてあげるヘリオス君。
というか、常備してるんかい。
「にゃーん」「なーお」
「……………」
 一方、こちらラルクは猫と一緒に……とゆーか、むしろ大量の猫に埋もれる勢いで寝転
がっている。
「…ウォフ……」
 むっくり。
 そんな擬音がつきそうな、ゆっくりとした動作で老犬エバが立ち上がったかと思いきや、
のそのそと川の方まで歩いていく。
「……………?」
 ヘリオスは草原に腰を下ろしたまま見送っていると、エバは流れる川の水へと頭を
近づけて………

 ぱちゃ…ぱちゃ

 水音が途切れ途切れになりながらも聞こえてくる。どうやら水が飲みたかったらしい。
 その様子を眺めていたヘリオスだったが、ふと横目でラルクを見やった。
「……………」
 そこには沈黙する猫人間がいた。
 いや、ラルクの顔の上で丸くなったり、胸で背をこすりつけたり、足の上でお座りを
しながらあくびをしていたり…etc,etc.
「………わ」
 それを見たヘリオスの感想はそれだけ。
 ところで、ラルクの口は猫の腹で防がれているのだが息とかは大丈夫なのだろうか?
「ウォン」
 と、そこでラルクを見ていたヘリオスは川で水を飲んでいた老犬エバの声に振り向く
とそこには水飲みだけでは飽き足らず、川に水浴びへ特攻せんとジャブジャブ入ってい
く姿があった。
「…………」
 やがて水浴びをしてスッキリしたのか、再び川から上がってきて…

 プルプルプルッ!!

「……気持ちよかった?」
 側に来たエバは返事の代わりと言わんばかりに、ベロンとヘリオスの顔をなめた。
「いい天気……」
「……………ん」

 かくして、ラルクとヘリオスがここで落ち着き、始めて会話っぽいのを成立させたのは
実に2時間半を経過してからの事だった。










「………あ、こんなところにいたー!」
 なんか不毛っぽいこの場を打開してくれたのは一人の少女。ラルクの異母姉である
ルビィ・エルフェイムその人だった。
「ねえねえ何してるの? あ、お昼寝かな〜?」
「……………」
「あ、違う? へー、遊んでたんだ」
 ………あれを遊んでたというのだろうか?
 ちょっとだけ、ヘリオスの側の犬の頭を撫でて、ルビィ。
「そうそう、ヘリオス君。この間の柿やレーズン、くるみに山芋、たくさんおすそ分け
 してくれてありがとうね」
 ヘリオスはただフルフルと首を横に振る。彼は気にすることじゃないという意思表示
だろう。
「………フルーツケーキで十分」
「ん。ありがとっ」
 唐突なセリフにも慣れたもの。ヘリオスのセリフを意訳するのなら『みんなが作って
くれたものが美味しかったからそれで十分だよ』といったところか。
 エンフィールドの外には農地が広がっている。その中に当時弱冠13ながらも雅信か
ら土地を貸してもらい、果樹園を始めたヘリオスの姿があったりする。
 雅信が菜園なら、ヘリオスは果樹園。親子揃って趣味が似ている。
 で、この前順調に収穫を迎えた果物をジョートショップへおすそ分け。本当ならみんな
におすそ分けするところだが、ジョートショップだけにおすそ分けした理由は………数日
後に開かれたクッキング・パーティ。もらった材料で料理好き、或いは修業中のみんな
が集まって好きにお菓子やらを作る事を目的としたパーティだ。
 ちなみにアリサさんを筆頭に、子供の参加者は沙也、マリーネ、ルビィ、葵、セイレン
に……なんと今回は悠梨(6)も参加していたという。
 なお、出来上がりは当然集まったみんな…子供達や親が試食する事になっている。
 セイレンなんかはこの場が喫茶『オニキス』の新メニューの丁度いい練習場になってた。
 あ、山芋やくるみなんかは雅信と一緒に山や森などに採りに行ったものです。
「ラルクも楽しかったよね〜」
「……ん」
 確かに頷くラルク。
「…うん」
 これはヘリオス。『ありがとう』といったところか。
「沙也ちゃん、ちょっと失敗しちゃってたけどね」
 当時のキッチンバトルばりの戦場を思い出してるのか、彼女の言葉の端々から笑みが
こぼれる。
 まぁ戦場といってもみんな和気藹々としていたが。
 ちなみに、次の収穫予定はリンゴだ。沙也なんかは既にアップルパイでこの雪辱を
晴らさんとばかりに燃えていた。
 マリーネがその横で何故か消火用のバケツを用意していたが、その真意は未だ謎である。
……そういう事になっていた。
「セイレンは……すごい出来だったね」
「うん。あれはみんなの追随を許さなかったもんねー」
「マリーネさんのも……うん。葵さんも……上手くなってる。次も楽しみ……
 ルビィさんもね」
「あ〜、ありがと〜」
 なお、今回ヘリオスにはルビィ嬢のフルーツケーキでバッタリ倒れたという小話が
残っている。
 例え口にすれば病院のお世話になると分かっていようとも、みんなが誠意をもって
作ったものには真正面から受け止める。その結果だった。
 というか、ヘリオスはそこまで考えちゃいない。自分の育てた果物で、みんなが一生
懸命に作ってくれたものが前にある。ならば有難く頂こう、と。
 それだけ。
 余談だが、アインはその横で件のフルーツケーキを片手に首を傾げていたという。
「ラルクは……?」
「……………」
 ヘリオスがラルクに水を向けるも、ただ静かに見据え返されただけ。結構怖い。
 でも、頭に乗っかってる猫が落ちないよう気をつけてるあたり、なんだかなぁ。
「あー、「何が?」って」
「……一番気に入ったのは?」
 ヘリオスがそう言い直した途端、即座に反応が返ってきた。
「……………」
「えっとね、「アリサさん」だって。あの柿を使ったデザートのやつね」
 もっともその反応を読み取れたのはルビィ嬢のみ。ラルク専用翻訳機の面目躍如だ。
「……そうだな」
 楽しそうにほんの少し目を細めて側の犬の背をそっと撫でるヘリオス。
 いつもと変わらず、その読み取れない表情で猫達と戯れているラルク。
 そんな二人が面白いのか、明るく笑っているルビィ。
「来年も………いい果物が育てられれば…いいな」
 ぽつりと、ヘリオスが誰ともなしに呟いた言葉。
 そして、
「……………ん」
「え? …うんうん、そっかそっか」
「……………?」
 何やら通じ合ってる姉弟をよそに、一人だけ怪訝な顔のヘリオス。…といっても、
こっちもラルクばりに表情の起伏が少ないけど。
「あのね………「来年も楽しみにしてる」だって」
「……………ああ。そうだな………来年も、美味しいものを育てて、みんなで……」





 これは、とある秋の日の事。
 エンフィールドのとある静かな場所でのほんの小さなやりとりだった。






 というわけで、ヘリオス君のお話。
 結局、犬派VS猫派はできませんでした。
 というか、当初の予定ではルビィ嬢を出す予定はなかったのですがー…あまりの
二人の不毛さに急遽用意しました。(ただ単に私の力量が足りなかったともいふ)

 さて、次は誰にしようかなー。これでラルク、ルビィ、沙也、悠梨。
 残るはセイレンにマリーネにカイナに葵、八雲かな。
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