悠久交響曲 金色の翼
第1章:「あなたのなまえはなんですか?」
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「おまえがうらやましかった」
違う!
「おまえのように強くなりたかった」
違う!
「おまえの・・・力が・・・欲しかったんだ」
違う!
違う! 違う! 違う!
わたしは強くなんかない!
なにもできない! なにもすくえない!
こんなわたしのどこが強いというのだ!
わたしは・・・無力だ・・・
ただの無力な愚か者だ!!
エンフィールドの町外れには森がある。たまに魔物が出現するそこは町の近くとはいえ決して安全な場所ではない。
しかしこの森でなければ手に入らない薬草の類もあるわけで・・・病院に頼まれて自警団や何でも屋が薬草採取にくることは決して珍しいことではなかった。
今日も、1人の少女がカゴをせおって森のなかを歩いていた。
年のころは、15・6、背丈は標準的できゃしゃな体をしているが、でるところは一応でている。銀色の流れるような髪を腰までのばし、暗紅色の瞳をした彼女はかなりの、いや、掛け値無しの美少女である。
少女は普通の人よりやや早足で歩いていたがふと気が付いたかのように後ろをふりかえった。
そこには犬のような姿をした小さな魔法生物がこっちにむかって走ってくるのがみえる。
「セリスさん待ってくださいー、そんなに急がなくても薬草は逃げないっスよ」
どうやら少女の歩調は同伴していた魔法生物をおきざりにしてしまったらしい。
「ごめんなさいテディ、でも急いだほうがトーヤ先生も喜びますから」
セリスと呼ばれた少女がテディ――魔法生物の名前である――にすまなさそうな顔をする。ちなみにトーヤ先生とは、彼女らに薬草採集をたのんだ医者のことである。
「・・・・・・あら?」
ふと誰かに呼ばれたようなきがした。
「テディ、よびましたか?」
「んーよんでないっスよ?」
「そう、気のせいかしら?」
その時であった。
ざわり
「!」
セリスは森のおくから強烈な気配がわいてくるのを感じた。森の木々の精霊が騒ぎたて、圧倒的な存在感が森の中に広がっていく。
セリスはまるでそれに引き寄せられるかのように駆け出した。
「あ!セリスさーん、どこいくっスか――――――――!」
そのまま夢中で『存在感』にむかってはしる。不思議と恐怖は感じない。
そして・・・
セリスは『目的地』にたどり着く。
うっそうとした森の中、1本の巨大な木の立っているその根元には、
一人の青年が血だらけでたおれていた。
「た、大変ッス――人が倒れてるっス、けがしてるっスよおー―!」
おいついてきたテディがこれ以上ないくらい簡潔に状況を説明する。さらには、
「ううっ死んでるっスか?」
とてつもなく物騒なことを言う。
倒れている青年は髪は黒く、赤いコートをきていた。町の人間ではない。おそらく旅人だろう。
青年の怪我はひどく、どくどくと血が流れている。
だが青年のわずかに上下する胸が彼がまだ生きていることを示していた。
「テディ!だれかを呼んできてください!」
「ういッす!!」
テディはすぐさま町に向かい、セリスはすぐに回復魔法を唱え始めた。
大衆食堂『さくら亭』にて、
「なあシーラここにリヴェティス劇場のチケットが2枚あるんだけどさあ」
アレフがシーラをデートに誘おうとする、いつもの光景が繰り広げられていた。
「ええと・・・その・・・」
誘われたシーラはあせっている。男性が苦手な彼女はなんとかして断ろうと必死になっているのだ。
「あのお、とめないんですか?」
カウンター席に座っていたシェリルがさくら亭の看板娘のパティと居候のリサに尋ねる。
「あーだめだめ、あのナンパ師になに言ったって無駄だって」
「まったくだね、それでも止めようとするのはクリスくらいのもんさ」
パティはグラスをふきながら、リサはナイフをもてあそびながらそれぞれ言いたいことをいう。実際シェリルがみると、
「やめようよアレフくーん」
などと止めにはいったクリスの言葉を
「なーに、照れてるだけだって」
の一言で一蹴してしまった。
三人があきれながらその様子をみていると、突然入り口のドアがバタンッと開く。
そこにいたのは・・・マリア・・・なぜか息を切らしている。
「マリア・・・あんた今度はなにをしたのよ」
不審に思い、たずねるパティにマリアは・・・
「マリアなんにもしてないもん!」
などと返したがもちろんだれも信じちゃいない。何故なら。
「まーりーあー!!」
マリアの背後から息を切らせたエルフの女性が追ってきたからである。
「げげっエル!」
「マリアよくもあたしのチェスの駒を粉々にしてくれたね」
喧嘩の原因発覚。
「だって純銀製の駒みててほしくなっちゃってさあ〜」
「で、複製魔法かけたらこのざまかい?このへっぽこ爆裂娘!!」
「な、なによう魔法つかえないエルフのくせに・・・やる気?」
ショート財閥のひとり娘で魔法至上主義者(ただし魔法はヘタクソ)のマリアとエルフなのに何故か魔法をほとんど使えないエルの喧嘩もまた、よくある光景のひとつである。
だがよくある光景とはいえ、喧嘩をされる店のほうからすれば、たまったものではない。パティが二人を止めようとしたその時。
「おー―――――い、たいへんだあ」
「たいへんなの・だあ――――――っ!」
ピートとメロディが店の中に駆け込んでくる。メロディの腕の中にはテディの姿があった。
「あれ?テディ、あんたセリスと薬草とりにいったんじゃないの?」
「それどころじゃないっス!大変っスー!」
あわてるテディのかわりにピートが答える。
「森に行き倒れがいたらしいぜ、怪我してるんだってよ」
「! そいつはたいへんだね、案内しな!」
最初に反応したのはリサ、すぐにテディ達と一緒に走りだした。
次にアレフとクリス、シーラとシェリルがその後に続く、
喧嘩していたマリアとエルも遅れてみんなのあとをついて行く。
「ああっもう!手ぶらで言ってもしょうがないでしょ!?」
最後にパティが救急箱をもち、店のドアに準備中の札をかけて走り出す。
パティが現場に着くと、既にみんなが青年の処置にあたっていた。
病院へ運ぶために担架を作る者、応急処置をほどこす者、魔法治療を試みる者、遠巻きに見守る者。
魔法治療を試みようとしてつまみ出される者・・・(汗)
「この人・・・助かりますよね?」
セリスは青年が即席の担架で運ばれていくのを見ながらぽつりと呟く。
だがその隣にいたリサは、青年は助からないだろうと考えていた。
青年は怪我もそうだが出血もかなりひどい、おまけにだいぶ衰弱していた。今生きているほうが不思議である。
(この男が死んだらこの子達の内いったい何人が『死』ってやつを受け止められるだろうね・・・たのむよ・・・)
それでもリサは青年が助かることを心から願った。
「ひどいな、生きているのが不思議なくらいだ」
それがエンフィールドで唯一人の医者、トーヤ・クラウドが彼を見たときの感想であった。
「傷がひどい上にだいぶ衰弱してるようだが・・・とにかくやるだけのことはやってみよう。そこに寝かせてれ」
だが青年の体を手術台に横たえた時、突然院内の灯りが全て消えた。
「ドクター!あかりが」
「あわてるなアレフ、だれか灯りをつけてくれ」
突然の停電にも動じず冷静に対処するトーヤ、
セリスは魔法で光の球をだし、病室を照らす。
「ふむ、すまんがセリス。あかりをもう少し患者のほうに向けてくれ」
「はい・・・・・・ええっ!?」
トーヤの指示どおり光の球をベッドに横たえられた男にむけたセリスは思わず声をあげた。
信じられないものを、まのあたりにしたからである。
「なっ!」
『それ』見たトーヤもまた驚愕した。他のものに至っては声すら出ない。
その男の体にあるもの、いや、なくなっているものを発見したからである。
「おい・・・これどういうことだよ」
かろうじてアレフが声をあげる。
「あれだけひどかった怪我がなくなってるじゃねえか」
そう、男の体からは、あかりが消える直前まであったはずの傷が全て消えていたのである。
しきりに頭をひねるトーヤ、それはみんなも同じだ。
明かりが消える前、誰も何もしていない、つまりあかりが消えてから再びつくまでの十秒たらずでこの男の怪我が治ったことになる。ずいぶんと奇妙な男を拾ってしまったものだ。
「とにかく弱っているようだから栄養剤をうっておくが・・・こまったな」「「「?」」」
「入院用の患者のベッドがふさがっていてな、しかも今夜は往診の予定が有る。だれか引き取ってくれないか?」
「「「えー―――――!!」」」
思わず声をあげる一同、いきなり『引き取ってくれ』といわれても困る。(まあメロディなど一部はなしが解かってない者もいるが)
その時・・・
「あの、それではわたしが引き取ります」
その声に全員が振り向いた先にはセリスの姿があった。
その途端
「なにいいい!!だめだよセリス、君みたいなかわいい娘が男を引き取るなんて!」
「やっぱりあたしが引き取るべきよ、うちは宿屋なわけだし」
「ああ、そのほうがいいな、さくら亭ならそいつが不届きなことしてもあたしがなんとかしてやれる」
「そうっス!危険っス」
上からアレフ、パティ、リサ、テディの順、
それはもうものすごい剣幕で四人はセリスにつめよった。
「でも・・・最初にこの人をみつけたのはわたしですし、お母さんなら喜んでOKしてくれるとおもいますから・・・」
この時点で全員がセリスの説得が不可能だと悟った!
セリスと親しいものはこうなったら彼女はテコでも自分の意見をかえないことを知っていた。
そう、セリスはやさしくて素直だが、おそろしく頑固でもあるのだ!!!!
その後、結局青年はセリスの家でひきとることとなり(アレフは最後までくいさがった)青年が彼女の家に運び込まれたのはそれから一時間後のことだった。
それからさらに二時間後、青年はめをさます。
目を開け、身をおこした彼は自分がベッドに寝かしつけられているのを発見した。
「ここは・・・」
知らない部屋、なぜ自分はこんな所で寝ていたのだろう。
「あっ 気が付きましたか」
ベッドの脇にひとりの少女が座っていた。銀色の髪をしたその少女はまるで・・・
(・・・妖精!?)
「? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それよりここは?」
青年は部屋の中をみまわし、少しとまどったように質問した。
「ここはジョートショップという何でも屋の二階で私の部屋です」
「何でも屋・・・」
「はい」
少女は満面の笑みで答える。そして・・・
「わたしのなまえはセリス、セリス・アスティアです。あなたのなまえはなんですか?」
「私は・・・私のなまえは・・・フレイ、だ」
それが・・・二人の出会い。
後に吟遊詩人達の間で悠久に語り継がれる物語の始まりでもあった。
〜あとがき〜
はじめまして、ましゅまろと申します。投稿活動自体はじめてですがよろしくお付き合いお願いします。
しかしいきなりオリキャラ出すとは我ながら無謀な。しかも苗字があれで・・・しかも趣味まるだしで(爆)・・・
さて次回は町案内、題名は「ようこそ、エンフィールドへ!」です。
最後に、投稿の際アドバイスをくれた亜村有間さん。ありがとうございました。