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金色の翼   第2章
ましゅまろ


 悠久交響曲 金色の翼
 第2章:『ようこそ、エンフィールドへ!』
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「う〜〜ん」
 さっきからなにをうなっている?
「なかなかぴったりなのが思いつかなくてな」
 だからなにを考えているのかと聞いている
「よし!今からおまえの事をフレイと呼ぶぞ」
 なんだそれは?
「何って、お前の新しい名前だよ。本名だとまずいだろ、よしっ、決まり!!」
 強引なやつだ


 
「記憶喪失、ですか?」
 朝――ジョートショップの朝食の席でセリスがフレイにそう尋ねた。
「ああ、フレイという名前以外・・・昨日、目を覚ます以前のことが何ひとつ思い出せない。だから行くアテもなくてな、昨夜は泊めてくれて本当に助かった。ありがとう」
 昨日、セリスとフレイが互いに自己紹介した後、フレイはセリスの家に泊めてもらった。セリスからしてみればたいした事はしていないのだが礼をいわれると照れる。
 しばらくするとキッチンから一人の女性がでてくる。
 女性の名はアリサ・アスティア、何でも屋ジョートショップの主人にしてセリスの母親である。
 アリサのそばには、テディの姿があった。アリサが生まれついての弱視であるため今は亡きアリサの夫がアリサのサポートのためにテディを召還したといういきさつがある。
「おはようフレイクンきのうはよくねむれた?」
「おかげさまで、感謝いたします」
「ふふっいいのよ、ところで・・・」
 アリサはフレイの向かい側、セリスの隣に座ると。
「フレイクン、うちにすまない?」
 いきなりとんでもないことを言いだす。その途端テディはかじりついていたトーストをのどにつまらせた。
「ごっご主人さま!いきなりなにをいうっスか!?」
 無理もない、テディでなくても驚くだろう。
「・・・質問の意図がよくわかりません・・・」 
 しかしフレイは平然とききかえした。(ついでにセリスも平然としていた)
「行くあてがないんでしょう?だから記憶がもどるまででもいいからうちで住み込みの店員になってくれないかしら。もちろんお給料もちゃんとだすわ」
「ふむ、いい話ですね」
「なにかんがえてるっスか!!冗談じゃないっス!」 
 ひとり騒ぐテディをよそに今度は店員の待遇と仕事の説明をはじめるアリサ、そして熱心に聞き入るフレイ
「セリスさんもなんとか言ってくださいっス!」
「でも男手は欲しいと思ってましたし」
 セリスもあっけらかんとしている。年頃の女性が男と同居する事にまったく抵抗をしめしていない。いったいどういう神経をしてるんだろ?
「それでは本日よりお世話になります」
 この瞬間ジョートショップに新しい店員が誕生した。
「ついてけないっス」
 そのつぶやきは誰の耳にも入らなかったそうな。


「それでは明日から始まる仕事に備えて、この町についてよく知っていただきます」
 その日の午後、フレイはセリスにエンフィールドを案内してもらうことになった。それは行き倒れていた自分を助けてくれたお礼周りも兼ねて、である。
「はい!ではここが『陽のあたる丘公園』です。住民たちの憩いの場で・・・・・」
「ああ〜〜〜〜〜〜!!!」
 そこまで説明した時セリスの背後からすっとんきょうな叫び声が聞こえてきた。振り向くとそこにはふわふわと宙に浮いてる女の子の姿があった。
「ロ、ローラちゃん?」
「セリスお姉ちゃんが男の人とデートしてる〜〜!?」
 そのローラという少女、よっぽどびっくりしているのか目を白黒させている。どうやらセリスの男連れというのはかなり珍しい光景だったようだ。
「デートじゃないですよ、今度ジョートショップの従業員とになった方に町を案内しているだ「あ〜〜〜!!」
 ローラの誤解を説明しようとするセリスの言葉は突然横から響いてきた別の少女の声にさえぎられた。そこには黄色いリボンをしたポニーテールの女の子が目を白黒させて立っていた。
「あ、トリーシャさん。今日は」
「セリスが・・・男とデートしてる〜!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 ふと、自分が普段どういう目で見られているのか少し気になったセリスだったが、とりあえず事情を説明した。
「なーんだ。つまんないの」
 セリスの言葉にこれっぽっちも邪推することなく納得する二人、心底つまんなさそうな顔をしていたがすぐにフレイの顔を見て・・・
 そしてピタリと硬直する。
「?、どうした?」
「「・・・・・・」」
 フレイが声をかけてもまったく反応がない。こころなしか二人の顔が赤い。
「ローラちゃん?トリーシャさん?」
 セリスが声をかけてようやく我にかえる二人だったが、その顔はやはり赤いままである。
「あ・・・あたしはローラ。この先の聖ウィンザー教会にすんでるの」
「え〜と・・・僕トリーシャ・フォスター。よろしくね」
「ふむ・・・私の名はフレイという。以後よろしく頼む」
 そういって握手を求めようとするフレイ。
 しかし、ローラに手をさしだすと、セリスとトリーシャが困ったような顔をし、ローラも悲しそうな顔をして右手を宙にさまよわせている。
 だがフレイはそれに気が付かず、そのままローラの右手をぎゅっと握った。
「「「え!?」」」
 すると三人は何故か驚き、不思議そうな顔でフレイをみる。
「なっなんであたしにさわれるの!!?」
 今度はフレイが不思議そうな顔をする。
「あっあたし幽霊みたいなものだから誰もさわることなんてできなかったのに」
 正確にいえばローラは幽霊ではない。彼女は不治の病にかかった時、「未来なら治療法があるだろう」と、仮死状態にされ、100年も眠っていたといういわば過去から来た少女である。実際いまではその病も注射一本で治るのだが、ローラはなぜか精神体のみが目覚め、肉体が行方不明となっている。
 なにはともあれ自分にさわれる人間がいてよっぽどうれしかったのだろう。ローラはすぐにフレイになついてしまった。
「それじゃあ、よろしくねフレイさん」
「今度教会にきてね〜。ばいば〜いフレイおにいちゃ〜ん♪」
 遠くで手を振るトリーシャと、語尾に音符をつけながら去っていくローラをみながらセリスは、
「それにしても精神体にさわれる能力があるなんてびっくりしました。」
 しかしフレイはまったく表情を変えず・・・
「私も驚いた」
 と、ただそれだけつぶやいた。


 二人が次に来たのがさくら亭。
 セリスは表にフレイを残し、中に入っていく。
「パティさんこんにちは」
「あらセリス珍しいわね、お昼すぎにくるなんて。仕事は?」
「今日はお休みです。実は・・・」
 とセリスがそこまで行った時、店の奥からものすごい勢いで彼女に迫る男が一人。
「なに!休み!?ちょうどいい、ねえ、これからデートしない?」
 アレフである。その横にはやはりというかなんというかクリスの姿もあった。セリスが困った顔でちらりとパティをみるとパティが即座に助け舟をだす。なかなかよいチームワークだ。
「ところでセリス、なんか用事があったんじゃないの?」
「あ、えーと、みんないます?」
「うん、きてるわよ。あれからどうなったのか聞きたいみたいね。みんな――セリスが来たわよ―――!!」
 するとまあ店の奥からぞろぞろと人がカウンターに集まってくる。それが口々にセリスを質問責めにしていく。この様子をみたフレイは後にこのときの事を『異次元に迷い込んだようだった』と表現している。とりあえずリサがみんなを落ち着けてくれたのでセリスはようやくしゃべることができた。
「ええと、まずは昨日の男の人が目を覚ましたので紹介しようとおもって連れてきました。どうぞ・・・」
 セリスが店の入り口をみると他のみんなもそちらをむいた。一同の注目をあびたフレイはそれでも臆することなく自己紹介を開始する。
「フレイといいます。昨日のお礼を・・・」
 しかし、
 フレイが店に入ってきた途端、その場の全員が硬直した・・・なんかデジャ・ブ
 最初に立ち直ったのは、アレフであった。
「・・・・・・だれだ・・・そいつ?」
「何言ってるんですか?昨日いきだおれていた人に決まってるじゃないですか」
 この反応は、さっきのローラとトリーシャの二人と同じである。疑問に思いつつも問い返すセリス。
「ほんとに昨日の男と同一人物かい?」
 リサまでもがそんなことをいう。不思議に思ったセリスは・・・
「フレイさん何か昨日と変わりました?」
「いや、体を洗って髪を整えただけだが」
 フレイも心底不思議そうに言う。だが、
「きれい・・・」

 いきなりシーラがそんなことを言い出した。
「まるで耽美の世界です・・・」
「こわいくらいにきれいというかこわくてきれいというか」
「ほえ〜〜☆」
 続くセリフはシェリルとパティそしてマリア、三人とも顔を真っ赤にしてフレイの顔を見つめている。
 はっきり言おう、フレイは・・・ものすごい美形だった。きのうは大怪我をしていたうえ、薄汚れていたので分からなかったが、本日は艶やかな黒髪に漆黒の目をもつ恐ろしく顔立ちの整った美青年へと大変身していたのである。
 もちろんエルやクリス、ピートにいたるまでもが硬直している。
「うにゃあ〜みんなどうしたの〜?」
 場の雰囲気にとりのこされたメロディが問い掛けるがほとんど反応がない。
「はあ、みんなどうしたんでしょう?」
「私に聞かれても困るが・・・一応お礼が言いたかったのだが、後日に回したほうがいいのだろうか」
 その上まったく状況がわかっていないセリスとフレイ。結局みんながまともに話せるようになるまで5分の時を要した。
「なるほど、それでジョートショップに居つくことになったわけか。おお〜っと俺はアレフ、敬語なんていらないからな、地で話してくれ」
「む? ああ、わかった。これからよろしく頼む、アレフ」
 さらに十分過ぎた頃にはフレイはすっかりうちとけていた。
 そしてなし崩し的にフレイの歓迎会が開かれてしまった。
「でもいいのセリス?若い男が住み込みの従業員だなんて」
「お母さんは元気そうな男の子が来てうれしいって」
「ごめん・・・聞いたあたしが馬鹿だった」
「すみこみ・・・ひとつ屋根の下・・・あーうらやましーー!フレイ!俺と変われ!!」
「あんたは・・・なにいってんのよ!」
 スパカーン!
「ア、アレフくーん。(汗)」
 そして時間はどんどん過ぎていき・・・。
 セリスとフレイがさくら亭を出たときにはすでに暗くなっていた。

「まだ2つしか案内してもらっていなかったのだが・・・」
「ふふっすっかり遅くなってしまいましたね。そうだ!あと一つだけ行きたいところがあるんですけど」
 だがフレイは空を指差しながら・・・
「もう暗い。今日いかなければいけない所なのか?」
「そうです!今日じゃなければいけないんです」
 セリスはそのまますたすたと町外れに向かって歩いていく。フレイは軽く肩をすくめ、セリスについていった。


「はい到着です」
 セリスが連れてきたそこは・・・エンフィールドの入り口――門であった。ここが今日案内しなければいけない場所なのだろうか?どう見ても重要な場所には見えない。少なくともフレイにはそう思えた。 フレイの考えていることがわかったのだろう。セリスは門の方に2、3歩すすんで言った。
「この町に来る人はみんな門をくぐるんです。でもフレイさんは行き倒れていたので、この門を見ずにこの町に――エンフィールドにやってきました」
 彼女は門の扉に手を当てて見上げる。
「だから・・・フレイさんにこの門を見せたかったんです」
「・・・・・・・・・・・・」 

「それからねフレイさん」
「む?」
「わたしはここの門番という仕事にあこがれていたことがあったんです」
 いきなり妙なことを言うセリス、話がみえない。
「エンフィールドでは門番は旅人に歓迎の言葉をおくる、というしきたりがあるんです。それがとてもうらやましくて・・・わたしも旅人を歓迎したいな、って」
「そういえば私は歓迎の言葉を聞いていなかったな・・・」
 するとセリスはくるりとふりむき、にっこりと微笑えむ。その微笑みを見たフレイはまたも彼女を妖精のようだと思った。
「だからわたしが、フレイさんに歓迎の言葉をおくります」
 そして彼女は両手を広げ―――
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「ようこそ、エンフィールドへ!」





 〜あとがき〜

 はい、今回はアリサさんと、ローラとトリーシャを出しました・・・しかし、この時点で主人公はフレイではなくセリスではないかと思わず考えてしまいました。
 次回は自警団登場のお話です。題して、『記憶を失う前の君は』です!
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