中央改札 交響曲 感想 説明

金色の翼   第3章
ましゅまろ


 悠久交響曲 金色の翼
 第3章:『記憶を失う前の君は』
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「つまり私を助けたために遂行できなかった仕事をするというわけか」
「はい。フレイさんはこれが初仕事ですからがんばってくださいね」
 フレイがジョートショップの従業員となった翌日、フレイとセリスは自警団事務所の前まで来ていた。
 フレイのせいで遅れた仕事というとトーヤに頼まれた薬草採集なのだがそれでは何故自警団事務所に来ているかというと・・・今日は自警団の野外訓練の日であり、訓練場所が例の薬草の取れる森であるため、途中まで同行しようというのだ。
「しかし自警団の訓練に民間人が紛れ込んでよいのか?」
 ふと疑問におもったフレイがたずねる。邪魔者扱いされるのではないかと心配しているのだ。しかも自分は得たいの知れない流れ者である。
「大丈夫ですよ、みんないい人ですから」
「だといいが・・・」
「あそこはたまに魔物がでますから・・・自警団が一緒だと本当に助かります」
 嬉しそうに言うセリスのセリフに聞き捨てならない部分がある。
「ちょっと待て、あの森には魔物がでるのか?」
「はい、そうですよ」
「行き倒れた私を見つけた場所はその魔物の出る森でその時は一人だったと聞いているが・・・」
 しかしセリスはそのことですかと
「大丈夫ですよ、わたしヴォーテックスまでは使えますから」
 とんでもないことを言う。それが本当ならセリスはプロ級の魔法の腕前をもっていることになる。
「・・・魔法・・・か」
「はい」
「頼りにしてるぞ・・・」
「まかせてください♪」
 そういってかわいくガッツポーズをするセリスの姿に何か底知れぬものを感じながらフレイは事務所のドアをくぐった。

「きっさま〜〜〜!!!」
 怒鳴られた。
 しかも事務所に入った途端に、である。入り口にたっていたほうきの様な髪型をした男がいきなりフレイにつめよってきた。
 いい顔はされないだろうとは思ってはいたが、まさかいきなり怒鳴られるとは思わなかった。
「貴様が・・・貴様がアリサさんを〜!住み込みの従業員だと?オラ吐け!どうやってアリサさんをたぶらかした!!」
 フレイの襟くびをつかみ、前後にゆさぶりながらわけのわからない事を叫ぶ・・・ほうき頭。
(なぜ私は怒鳴られているのだろう)
 相手が怒る理由もわからないまま自分も怒るには、フレイはあまりにも理性的すぎた。このほうき頭がアリサ・アスティアに心底惚れていて、一つ屋根の下に住んでいるフレイに嫉妬しているという事情を彼は知らない。
「あ、あの〜アルベルトさんおはようございます(汗)」
 とりあえずほうき頭・・・もといアルベルトの暴走をとめようと思ったセリスは、挨拶で話をそらそうとする。
 アルベルトはちらりとセリスのほうを向き、
「ああ〜セリスちゃんおはよう。ちょっと待っててくれ今この男に鉄槌を!!」
 だがアルベルトの暴走は止まらなかった。
「ええと・・・フレイさんは悪い人では・・・」
「貴様!セリスちゃんまでもたぶらかすとは、そこになおれ!この槍の錆びにしてくれる!」
 それどころか火に油を注いだようである。さすがにフレイもがまんできなくなってきたその時である。
「いい加減にしてください!!!!」
 セリスが・・・切れた。
「アルベルトさん!!」 
「な、なんだいセリスちゃん」
 おもわず身を引くアルベルト、彼の目にはセリスのバックに炎がもえたぎり、ゴゴゴゴという擬音が響いているようにみえた。
「フレイさんにあやまってください!」
「い・・・いやしかし・・・」
 まるで蛇ににらまれたかえるのようである。
「あやまってください!」
「だ、だから・・・」
「あやまってください!」
「・・・・・・すまん。わるかった」
「よろしい、それでは自己紹介をしてください。」
 するとアルベルトはおずおずと『左手』をさしだし、
「あっアルベルトだ」
「・・・フレイだ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 フレイも、アルベルトも、自己紹介したまま何も言わない。いや言えない。それどころか周りの自警団員までもが固まっている。 しーん、という音が聞こえそうなほど静まりかえった事務所内。
「おやどうした?」
 その状態は事務所の奥から出てきた自警団第一部隊隊長リカルド・フォスターが声をかけるまで続いたという。

「しかしずいぶんと嫌われたものだな」
 森の中、すでに自警団と別れて薬草を集めていたフレイがセリスに言った。フレイがそのようなことを言うのはアルベルトのフレイに対する態度に起因する。
「私の思い違いでなければあの男は道中ずっと私に殺気をぶつけていたようだ」
 もちろん思い違いではない。
「うう・・・」 
 うなだれるセリス。彼女はアルベルトが突然ジョートショップに住み込んだよそ者に敵意をむける・・・というこの状況を完全に失念していた。
「それにしても・・・」
 ふとフレイが呟く。
「アルベルトはなぜ私がジョートショップに住み着いたことを知っていたのだ?」
 フレイが従業員になったのは昨日、恐ろしく情報がはやい。おもわずセリスは苦笑した。
 と、その時。

 ざわり

 突然森の中で強烈な気配がうまれ、それは森全体を覆うかのように広がっていく。
「?、これは!」
 驚くセリス。彼女にはこの現象に覚えがあった。フレイをみつけた時におこったものだ。
 突然フレイが声をあげる。
「セリス、囲まれている」
 その声にあたりを見回したセリスは自分達がいつのまにかリザードマンの群れに囲まれていることに気が付いた。
「この地方にはリザードマンなんて生息していないはずなのに・・・」
 セリスはそう言いながらちらりとフレイの方を見る。フレイはジョートショップを出る時にアリサからもらった剣を手にしていた。
(そういえば人は例え記憶を失っても、忘れる前の経験は体のほうにしみついているという話をきいたことがありますね)
 そう思ったセリスは恐る恐る尋ねてみた。
「フレイさん。戦闘できますか?」
 しかし・・・
「いや、どうやら私は戦闘については素人のようだ」
 そう答えてフレイは剣を構えた。その姿は様になっていない。その時リザードマンの群れが襲い掛かってきた。
「ニードル・スクリーム!!」
 それと同時にセリスは魔法を解き放った。無数の針状の光が雨のように降り注ぎ、リザードマン達を襲う。だがその内何匹かは針の雨を逃れ、二人に向けて突っ込んできた。
 フレイは自分に突っ込んできたトカゲをよけ、力まかせに剣を振るが、さしたるダメージをあたえられない。明らかに技量が不足している。
(なるほど、この程度の腕では行き倒れてしまうわけだな・・・)
 ふと戦闘中にそんなことを考える。
 だがその時、前方からの攻撃に気を取られていたフレイは背後からの爪の一撃をまともにくらってしまった。
「ぐう!」
 背に痛みがはしる。それと同時に前方にいた一体の尻尾がフレイの腹に容赦なく叩き込まれた。フレイは後方に吹き飛び、そのまま木に激突した。
「フレイさん!!」
 セリスの悲鳴があがる。
 1匹のリザードマンが近づいてくるのが見える。
(止めを刺そうというのか?)
 だんだんと、気が遠くなってくるのがわかる。
(私は・・・死ぬのか?)
 リザードマンが自分に向かって、爪を振り上げ・・・
 その時、フレイの心に、何かが語りかけてきた。

(ひゃははっははははは!情けないねえ、あんな雑魚ども相手にそのザマとは)
 何だ?
(くくく・・・少しだけ教えてやるよ。てめえの持つ力の使い方ってやつをな)
 誰だ?
(てめえが早く、思い出すように。てめえが何者なのか、思い出すようにな)
 ・・・なん・・・だと?
 
 そしてフレイの意識は完全に途絶えた。


 キュゴオオオオオオオオオンンンンン!!!!
 爆音と共に、『フレイ』の目の前にいたリザードマンが吹き飛んだ。
「!!」
 驚くセリスの目の前で、『フレイ』はゆっくり立ち上がった・・・
 フレイはリザードマンに向けて、手をかざし、言葉を紡ぎだす。
 その言葉が何かはわからなかったが、セリスにはフレイの周りに強い魔力が集まっていくのを、はっきり感じていた。
「まさか・・・呪文を・・・!?」
 セリスの言葉を肯定するかのように、辺りの魔力がフレイの掌に収束する。
「ルーン・バレット!」
 フレイの力ある言葉とともに無数の火の球が出現し、リザードマン達に降り注ぐ。 
 キュゴオオオオオオオオオンンンンン!!!!
 再び起こる爆発音。その爆煙が晴れた時、そこにいたリザードマンは跡形もなく吹き飛んでいた・・・
「すごい・・・」
 セリスは思わず感嘆の声をもらす。
 ルーン・バレットは、火の球を飛ばす初歩的な攻撃魔法。だが・・・フレイの呪文により出現した火球は15、6はあった。熟達した魔術師ならば、複数の魔法を同時に唱えることは出来る。だが、十数発の同時発動など聞いた事がない。
「ルーン・バレット!」
 フレイの言葉から再び力ある言葉が放たれる。
「ルーン・バレット!」
 幾つもの火球がリザードマンを次々と屠っていく。
「ルーン・バレット!」
 その火球がすべてのリザードマンを吹き飛ばすのに大して時間はかからなかった。

「フレイさん・・・?」
 セリスはフレイに近づいていく。なにはともあれフレイの怪我を見るのが大切だと判断したからだ。
 だが、フレイはゆっくりとセリスの方に、振り向いて・・・
「ルーン・バレット!」
「きゃっ!?」
 セリスはとっさに反応し、結界を張って横にとんだ。フレイのルーン・バレットは今までセリスが立っていた所を通り過ぎ、すぐ後ろで爆発した。爆風により、セリスは結界ごと吹き飛ばされ、地面に体を強打する。
「一体・・・何を・・・?」
 今のフレイの呪文は『明らかにセリスをねらって放たれた物』だった。
痛む体をおこし、フレイを見るセリス。
 そして、セリスはフレイの目を見て驚いた。
 まるで死人の様にうつろなその目は・・・金色の光を放っていた・・・

「ルーン・バレット!」
 再びセリスに向けて、放たれる呪文、だが・・・・・・
「はっ!!」
 無数の火球の束は、セリスに届く前に霧散する。突然セリスの目の前に立った、リカルドの剣によって・・・
「大丈夫かね?自警団もリザードマンに襲われてね、心配になって来て見たんだが」
「リカルドさん!?」
「一体全体、彼はどうしたんだね?まるで生気を感じられない・・・ふっ!!」
 リカルドは、フレイが放つルーン・バレットを次々と叩き落していく。けた違いに強い。
「とにかく、少し眠ってもらおう」
 そう言って、リカルドはいともたやすくフレイの背後に回ると、首筋に手刀を打ちこんだ。崩れ落ちるフレイ・・・だが、
「よけて!」
 セリスが叫ぶ。フレイの掌に、火球が出現したためだ。しかしリカルドは、セリスが叫ぶよりも早く反応し、渾身の拳打をフレイの腹部に叩き込んだ。
「ファイナル・ストライク!!」
 素手とはいえ必殺の一撃をくらい、大きく吹っ飛んでいくフレイ。
 これを喰らって立ち上がれる者はそうはいない・・・はずなのだが・・・
「ルーン・バレット!」
「くっ、立ち上がって来たか!」
「ルーン・バレット!」
 フレイのルーン・バレット同時発動を剣の一振りで迎撃するリカルドもすごいが、それを打ち続けるフレイの魔力もけた違いである。並みの魔術師ならとっくに魔力切れをおこしているだろうその呪文をまるでとりつかれたかのように打ちつづけている。
(『とりつかれている?』)
 その可能性を思いつき、セリスは全感覚をとぎすませてフレイを取り巻く魔力の流れを観察した。
 そしてセリスは、フレイの影から禍々しい気配が放たれているのを感じた。
「リカルドさん、影を!影を攻撃してください!!」
「わかった!」
 リカルドはルーン・バレットを叩き落し、そのまま大きく剣を振りかぶった。高速で振りぬかれた剣はカマイタチを発生させ、フレイの影を両断した!!
「ぐわああああ!!」
 影が謎の悲鳴をあげ、ぐらりとゆれる。
 そして、ドサリ、と言う音と共にフレイは倒れて動かなくなった。
「フレイさん!」
 既にフレイからは、禍々しい気配はきえていた。すぐに駆け寄るセリス。
「彼は、取り付かれてたのかね?」
 セリスはコクリとうなずいて言った。
「はい。何かがフレイさんの影に入り込んで操っていたのを感じました」
「ふむ、しかし操られていた時の記憶はあるのかね?」
「それは・・・」
 わかりません、とセリスが言おうとしたとき、
「全部・・・覚えている・・・」
 寝ていたフレイが口を開く。どうやら目を覚ましたらしい。フレイの目は、元の漆黒に戻っていた・・・
「すまない、私がふがいないばかりに、危険な目にあわせてしまった」
 操られていた間のことは、しっかり覚えていたらしい。
「一体、なにがあった?」
 リカルドの問い掛けに、フレイはしばし考えてから答えた。
「殺されそうになった時、声が聞こえた・・・私の力の使い方を教えてやると声はいっていた」
 フレイの持つ力の使い方を教える・・・それはつまり、声の主がフレイのことを知っていると言うことになる。リカルドは腕をくみ、
「つまり、記憶を失う前の君は魔術師で、声の主はそれを知っていたという事になるのかな」
 言われたフレイはためしに自分の指先に魔力をため、放出してみる。するとフレイの指先から小さな炎が出て、ゆらゆらと揺れた。
「そう・・・みたいだな、っと、記憶喪失の事を知っているのか?・・・まてよ、リカルド・『フォスター』・・・成る程、情報源はトリーシャか」
 ピタリ賞、リカルドは苦笑した。
(しかし・・・ルーン・バレットを同時発動、その上それを連続で使用出来るほどの魔術師か・・・)
 思わず考え込むリカルド、それほどの魔術師なら、まちがいなく名が知れているだろう。
「そういえば・・・」
 ふとセリスが声をあげる。
「リカルドさん、自警団の方はいいんですか?」
「あ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・たーいちょ――!!」
 遠くから聞こえてくるアルベルトの声・・・リカルドはあわてて立ちあがり、
「それでは私は自警団をまとめて一旦戻り、この事件の調査をする。君たちはもう帰った方がいいだろう」
「そうしたいのはやまやまなのだが・・・」
 フレイは何故か困ったような顔をしている。
「さっきのリカルドの一撃が効いて動けない、どうしよう」
「「・・・・・・・・・・・・」」


 その後、リザードマン発生事件の原因を調査すべく、森に自警団の捜査の手が入った。その結果、洞窟で大掛かりな召還用魔方陣が発見されたが、犯人はようとして知れなかった。
 この事件が、後にエンフィールドを襲う大事件の始まりであったことを知るものはいない・・・・・・




 〜あとがき〜

 どっちかというとフレイの能力発現!よりもリカルド最強!!というのがやりたくて書きました。
 さて!次回はフレイに窃盗容疑がかけられる?金色の翼、第4章は『ありがとう』です!
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