悠久交響曲 金色の翼
第4章:『ありがとう』
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「よし!今からおまえの事をフレイと呼ぶぞ」
なんだそれは?
「何って、お前の新しい名前だよ。本名だとまずいだろ、よしっ、決まり!!」
強引なやつだ
「フレイ・・・うん!ぐっと友達らしくなったじゃないか」
ともだち?
「おお!友達だ」
・・・ともだち・・・
・・・・・・トモダチ・・・・・・
「お前また昼寝か・・・」
アレフの呆れたような声を聞いたフレイは目をゆっくりと開けた。果たしてそこには呆れたような顔をしたアレフが見おろしていた。
「何の用だ?アレフ」
昼寝の邪魔をされて気分を害したフレイが尋ねる。
「いやな、休日に毎度毎度、公園で昼寝ばっかりしててよくあきないな〜っておもってさ」
「休日に私がどうしようと私の自由だと思うのだが?」
「これから俺が正しい休日の過ごし方を教えてやろうと思ってな?もったいないぜ?・・・おまえくらいのいい男がこんな所で無駄に暇つぶししてるなんてなあ」
アレフはため息をついた。アレフでさえフレイの容貌には一目おいていた。中世的な顔立ちに、黒い服と赤いコートが非常にマッチしてる。実際、町を歩くと女性はもちろん男性でさえも思わず振り向いてしまうほどだ。
「お前を美形だって認識してないのはセリスくらいじゃないのか?あの性格は間違いなくアリサさんゆずりだな・・・」
心底呆れた顔で言うアレフ。
「ふむ、確かにオーナーとセリスはよく似ている。」
「あれで血がつながってないんだから世の中ふしぎだよなあ」
「まったくだ」
そこまで会話してからやおら立ち上がるフレイ、
「あれ、おまえ昼寝をするんじゃないの?」
意外に思ったアレフが尋ねる。
「おまえの誘いにのるのも私の自由。正しい休日のすごし方とやらに興味がある」
聞き様によってはものすごく尊大な口調で答える、だがフレイが言うとまったく嫌味にきこえないから不思議だ。
その言葉にアレフは笑って・・・
「よしきた!まずは腹ごしらえにさくら亭にいくぞ!」
フレイには記憶がない。故に彼には過去というものがない。
自分がこれまで生きてきたという証、すなわち想いでが存在しない。
だからフレイは時々不安になることがある。
カランカラン
「いらっしゃい、あらアレフに・・・フレイじゃない。めずらしいわね」
さくら亭に入ると看板娘のパティが出迎える。
「アレフが休日の過ごし方を教えてくれるということで、まずは腹ごしらえに来た」
フレイがそういうと、パティは、げっ、という顔をする。アレフの休日の過ごし方というのは即ち・・・ナンパだ。
「アレフ・・・フレイに変なことを教えないでよね・・・それで注文は?」
「おれ、コーヒーとサンドイッチな」
「私はミルクとサンドイッチを頼む」
ふたりは思い思いの注文をして窓際の席に座った。
しばらくして運ばれてきたサンドイッチを食べていると、外からものすごい足音がさくら亭に近づいてくるのが聞こえる。
「おそらくピートかマリアだろうな。」
すっかりエンフィールドになれたフレイがあたりをつける。アレフとパティも同感のようだ。
やがて・・・
「おーい、たいへんだーー!」
「大変です!フレイさんいますか!?」
予想通り入ってきたのはピートと・・・・・・セリス?
ずいぶんと珍しい組み合わせである。
「どうかしたのか?」
不審に思ったフレイが尋ねる。ピートがゴシップを大事件と称して持ってくるのはいつものことだが、そこにセリスが加わるとなると本気で大事件である可能性が高い。
「あっ・・・フレイさん、大変なんです」
「いや、だから何が大変なのだ?」
いつも落ち着いているセリスがものすごく慌てている。セリスは2,3回深呼吸をして・・・
「ジョートショップにリカルドさんとアルベルトさんが来て・・・フレイさんが盗難事件の犯人だって!」
「何?」
まったく話がみえない、だがすぐさま立ち上がると
「すまないアレフ、続きはまたの機会にしてくれ」
「あ・・・ああ」
「それからパティ、すまんが残していく」
「わかったわ」
フレイはそれこそピートに匹敵する勢いで、さくら亭を出て行った。
フレイにとってセリスに拾われてからが人生の始まりであった。
それは彼にとって、最初に生まれた過去ということになる。
ここからが彼にとっての想いでのはじまり・・・
ここでの生活こそが彼の全て
だからフレイは時々不安になることがある。
「一体なんの騒ぎだ?」
セリスとともにジョートショップに戻ったフレイはリカルドをみるなりそう言った。
「ようやく帰ってきやがったか犯罪者!」
アルベルトがフレイの前に立ちふさがるが、
(この男に状況説明を求めても無駄だ)
それを無視して視線でリカルドに説明を求める。
「昨夜10時、フェニックス美術館で大規模な盗難事件があってな、その容疑者として君の名前があがったわけだ」
リカルドが極めて簡素に答える。
「その根拠は?」
「てめえ!すっとぼける気か!」
フレイのセリフにアルベルトが声を荒げるがやはり無視する。
「だまってろアル。犯人を目撃した美術館職員から、犯人が君に似ていたという証言が得られた。そこでアリサさんの立会いのもと、君の部屋を調べた結果、盗まれた美術品が発見された」
リカルドはたんたんと説明する。
フレイはしばらく考えて反論した。
「私と同じ背格好の人間など五万といる。証拠能力としては低いな。美術品にしても第三者がここに忍び込んで盗品を置いてくることは不可能ではない」
「だが君が最有力容疑者であることに、代わりはない。取り調べのために事務所まできてくれないか?」」
「ふむ・・・正直、疑われるのは嫌いだ。了承した」
「フレイさん・・・」
セリスが心配そうに声をかける。
「心配はいらない、おそらく証拠不足で釈放だろう。では少しでかけてくる」
そいって平然と店を出て行くフレイ、だがセリスの不安は拭えなかった。
「それで・・・エンフィールドでは取り調べと逮捕は同義語なのか?」
いきなり牢屋に放りこまれたフレイはリカルドを睨みつけながら尋ねた。
「本来なら取り調べがおわるまで拘留、という予定だったのだがな。先ほど君の逮捕命令が出された」
「取り調べもなしにか?」
「すまんな。後日、裁判が行われ、君の処遇が決定する」
「上からの命令か?」
「・・・・・・・・・」
「ずいぶんと勝手な話だな・・・」
それと同時に殺気が生まれる。森で感じたあの殺気が・・・それは百戦錬磨のリカルドでさえ、たじろぐほどのものだった。
「それで・・・有罪判決がおりた時の私の処遇は?」
辺りに殺気をまきちらしたまま、フレイはあくまで静かに問いかける。
「終身刑、もしくは永久追放になるだろうな・・・」
「そうか・・・私は全てを失うのか・・・」
ふっと、殺気がおさまる。
「寝る・・・」
フレイはそのまま寝台に横になりすぐに寝息を立て始めた。対するリカルドの額にはびっしりと脂汗がうかんでいた。
ここでの生活こそが、ここでの想いでこそが、彼にある全て、
だからフレイはそれを失うことが怖い。
ここに居られなくなることが何よりも怖い。
それは自分の全てを失うことに等しいから・・・
「おい起きろ!」
小一時間ほどして寝ているフレイを起こしたのはアルベルトであった。
「・・・なんのようだ?」
「釈放だ・・・おら、さっさと出ろ」
「釈放だと?」
怪訝そうな顔をするフレイ。まずありえないと思っていたことだ。それに気づいたからではないだろうがアルベルトが毒づく。
「保釈金が支払われたんだよ・・・ったくアリサさんはなんでこんなやつに・・・」
その言葉に、ふと思い当たることがある。いやな予感を覚えたフレイは、アルベルトが牢の鍵を開けるや否やすぐさま外に飛び出した。
「フレイクン、無事だったのね」
外ではアリサとセリス、テディが待っていた。だが、フレイはアリサの言葉をさえぎり、すぐさま問い詰めた。
「オーナー!どういうことです。確か終身刑や永久追放の保釈金は10万ゴールドはかかるはず!」
「フレイさんくわしいっスね・・・」
「法律の類は目を通したからな・・・それでどうやってお金を工面したんですか!?」
その問いに対するアリサの答えはフレイの予期したものだった。すなわち・・・
「親切な人がジョートショップの土地を担保に10万ゴールドを貸してくれたの」
、というものだった。
「なぜです!なぜよそ者の私にそんな・・・ジョートショップはあなたの大切な・・・想いでのある場所のはず・・・」
フレイには理解できない。自ら想いでを手放すアリサが理解できない。
「あなたはよそ者じゃないわ・・・家族よ・・・」
アリサの言葉はフレイに衝撃を与えた。
「かぞ・・・く?」
「そうよ・・・私にとって家族はジョートショップよりも大切なの。だって想いでは土地ではなく、そこに住むものによって作られるものだから・・・だからフレイクンがいることも、私の大切な想いでなの」
「かぞく・・・わたしを・・・大切な・・・かぞく・・・」
「そう、それにお店だってなくなると決まったわけではないわ・・・法律によると、町じゅうの人の指示を集めれば再審請求が可能になるから・・・それで無罪になったら保釈金は戻ってくるそうだから・・・」
しかしフレイは首をふって、
「再審はあくまで再審、私が有罪であるという確たる証拠がないのと同様に無罪であることを示す、確たる証拠もありません。だから・・・」
そこでセリスが、あっと声をあげる。
「店を守る方法は二つ、証拠を集めてフレイさんの無実を立証するか、十万ゴールド稼ぐか・・・だけど・・・両方やるには人手が足りない・・・ですか?」
「その通りだセリス、」
ならば10万ゴールドを稼ぎ、ジョートショップだけでも救う方向でいくしかない・・・そうフレイが言おうとしたその時だった。
「なら、ジョートショップに証拠集めをしながら10万稼げるだけの人材がいればいいんだよな?」
突然かけられた声に驚いてふりむくと、そこにいたのはアレフだった。
「だったら手伝うぜ、大船に乗ったつもりでいろよ」
いやアレフだけではない。
「あたしもてつだうわ。アリサおばさまのためだもの」
パティがいた・・・
「私も手伝います。なにができるかわからないけど・・・」
シーラがいた・・・
「あの・・・私もてつだいます」
シェリルがいた・・・
「ここはマリアにまかせて!どんな依頼もマリアの魔法で一撃よ☆」
マリアがいた・・・
「ま・・・放ってはおけないしね」
エルがいた・・・
「アリサさんには結構世話になってるからね。ここらで恩をかえさせてもらうよ」
リサがいた・・・
「メロディ〜も〜おてつだいするのお〜」
メロディがいた・・・
「おれもてつだうぜー。おもしろそうだしな」
ピートがいた・・・
「ぼ・・・僕もてつだいます!たいして役には立てないかもしれないけど・・・」
クリスがいた・・・
「みんな・・・」
フレイが呆然と呟く・・・胸の奥が暖かい・・・なんだかよくわからないけど、こんな感じは前にもあったような気がする。
「大丈夫よ・・・あなたにはこんなにたくさんの友達がいるんですもの。きっとうまくいくわ」
アリサが、ぽんっとフレイの肩に手をおいて言った。
「友達?」
「そう、友達よ・・・」
フレイはジョートショップを守ろうとする。
エンフィールドでの生活を守ろうとする。
自分の全てを守るために・・・自分の想いでを守るために・・・
そして想いでをくれた家族を守るために・・・
「みんな・・・」
フレイは再び呟く、今度ははっきりとした言葉で・・・
「ありがとう・・・」
第4章、終わり
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〜あとがき〜
記憶喪失の人というものは、自分が積み重ねてきた過去というバックボーンがなく、とても不安になる。と聞いたことがあります。
さて、第5章『まあ、なんとなく・・・』は、フレイのとんでもない特技?が発揮されるお話です。