悠久交響曲 金色の翼
第5章:『まあ、なんとなく・・・』
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フレイが仮釈放された翌日、アレフ、クリス、ピート、エル、シェリル、シーラ、パティ、マリア、メロディ、リサがジョートショップに集まった。そこで、ジョートショップの仕事の説明を受けている。
説明をしているのはセリス、こういったことには口下手なフレイよりも、彼女の方が向いている。
「・・・・・・というわけで、仕事については以下の通りです。給料の方は、歩合制になっていて・・・」
「ちょっと待った。給料なんていらないよ、10万ゴールド稼ぐためには・・・わかるだろう?」
途中でリサからの突っ込みが入る。ほかの皆も、うんうん、と、うなずいている。
「だが、『働く人にはそれ相応のお給料を・・・』とはオーナーの弁・・・」
横からフレイが口をはさむ。
「あの人を逆に説得できると思うか?」
誰も何も言わない。要するに給料を拒むことは不可能だと全員が悟ったらしい。フレイは皆の顔を見回すと、セリスに説明をうながした。
「あっ、はい。その月の稼ぎが多かった場合は月末に支払われる基本給に、上乗せがあります。基本給は働いた時間によって決定されます。あと皆さんはジョートショップの業務よりも、通常の生活の方を優先してください」
「ちなみに、これも、オーナーの意見だ」
フレイが説明を補足する。
「さて、業務内容の説明はこれでお終いになるが、ここで皆に質問したい事がある」
フレイは、再び皆の顔をぐるりと見渡して言った。
「この中で、実戦経験のある者は何人いる?」
「私と・・・」
「アタシだな」
フレイの質問に答えたのは傭兵のリサと、武器屋の店員のエルだけであった。
「ふむ、二人だけか・・・4人くらいはいると思っていたのだが・・・」
「なあ、実戦経験って、必要なのか?」
実戦経験者が予想以上に少ないことに落胆するフレイにアレフが質問する。
「ああ、実際に実入りが大きいのは、魔物退治を含む荒事だからな、戦闘ができる人間の数が収入の量に大きく影響する。それに私もセリスも魔術師だから、白兵戦のできる者が特に欲しい」
アレフはしばし考えてから、フレイに問い掛ける。
「それじゃあ、白兵戦と魔法戦の実戦経験者が二人づついるってことだろ?だったら訓練・・・つけてくれないか?」
「そうね、あたしもおねがいするわ」
後ろからパティも同意する。
「俺も、俺も!」
っと、これはピート。
「いいのか?なるべく安全な依頼を選んで受けているが、怪我をしない保証はどこにもないぞ?」
「だーいじょーぶだって、いざとなったらにげるからさあ」
アレフはおどけているがその目は笑っていない。フレイは三度皆をみまわして・・・
「それじゃあ、実戦をしてもいいという者は他にいるか?」
問いけると全員が手を挙げた。フレイはもう一度、全員をぐるりと見渡して、リサとエルに問い掛けた。
「それでは私とセリスが魔法戦を教えるとして、リサとエルは白兵戦を教えてくれないか?」
「いいよ」
「あたしもだ」
二人は快く同意した。
こうして、まずは誰が、なんの訓練をうけるかのミーティングが始まった。
「それではまずアレフが剣を使えたはずだから・・・リサに稽古をつけてもらうとして・・・」
そのフレイの言葉に、ふと疑問に思うアレフ、確か自分が剣を使えることは誰にもいっていない。気になったから聞いてみた。
「あれ?俺が剣を使えるって誰にもいってないんだけど、どうしてわかったんだ?」
だがフレイの答えは至極簡潔なものだった・・・即ち、
「まあ、なんとなくわかった」
「・・・・・・・・・」
ぽかんとするアレフ、そこへリサが補足を入れた。
「まあ、アレフの手のタコを見たら、剣が使えることはわかるからね・・・」
釈然としないがとりあえず納得はするアレフ。
フレイの『割りふり』はつづく・・・
「セリスはクリスとシェリルに魔法の同時発動や呪文短縮を教え、マリアには魔法の制御訓練を施してくれ」
「ちょっと!なんでマリアだけ制御訓練なのよ〜!」
マリアからクレームが入る。だがそれを聞くか?マリアよ・・・
「ジョートショップにくる依頼内容にはマリアが魔法を暴発させた後の後始末というのもあるのだがな・・・」
「うっ!!」
ギクリとするマリア、そういえばこの前、壊れた建物の修理をしているフレイを見たことがある・・・あの建物は確か魔術師組合を覗いて知った魔法を試そうとして・・・
「わかったらマリアは訓練だ」
「ぶ〜〜☆」
マリアがむくれるがほっておいて続ける。
「では次、ピートとメロディは身体能力が常人を超えているからな、とにかく戦って戦闘の勘を養ってくれ」
フレイの割り振りは的確だった。それぞれが、それぞれに適した訓練をあてがっている。リサもエルも、フレイを少し見直した。
「それでエルだがパティとシーラに徒手での戦闘をほどこしてくれ」
そこでエルはあれ?っと思った。そして尋ねる。
「パティはいいけどなんでシーラまで?あいつは魔術師向きだと思うけど」
それはこの場にいる皆の疑問でもあった。いわゆるお嬢様であり、ピアニストである華奢なシーラに白兵戦は無理だろう。皆がそう思った。
「あの・・・私は白兵戦なんて無理・・・」
シーラが消え入りそうな声で言う。
フレイは皆の顔と、俯いているシーラの顔を交互に見つめていたが、やがてカウンターの裏に入り、1枚の板切れを取り出してきた。
その厚さ5センチ程の分厚い板を構え・・・
「シーラ、この板を軽く叩いてくれないか?」
「え?で・・・でも・・・」
シーラは両手突き出して、首を左右にふった。
「おい、ぼうや?」
リサが怪訝そうな顔をする。
「シーラ、頼む」
「うっ・・・うん」
「ぼうや、性質の悪い冗談は・・・・・・」
ぱっか――――ん
その瞬間、シーラの正拳突きを受け、板は小気味よい音を立ててまっぷたつに割れた。
「「「「「「「「どえええええええええええ!!?」」」」」」」」
叫び声が、ジョートショップを震わせた。
その場にいた全員がびっくりしてシーラの方に注目する。だが、一番びっくりしているのは他ならぬシーラ自身であった。
「え?何で?どうして?」
シーラは信じられないという顔で割れた板と自分の手を交互に見ている。フレイは割れた板を拾い上げて説明する。
「見ての通りシーラは肉体的にはかなり高いポテンシャルを持っている。技術と度胸さえ身につければ、立派な戦士になることができる」
「・・・・・・・・・」
「恐らくシーラは先天的に丈夫でしなやかな筋肉を身につけているのだろうな、まさに原石といったところか・・・・・・ん?どうした?」
見るとシーラが真っ赤な顔して俯いていた。どうも持ち上げすぎたらしいがフレイはまったく意に介さなかった。
「確かにシーラには魔術師をやらせてもなかなかの使い手にはなれるだろうが、魔術師が多いから接近戦ができる者が増えるとありがたい。シーラ、構わないか?」
シーラは顔はしばらく真っ赤になったまま俯いていたが、やがてコクリと頷いた。
「それにしても、ぼうや・・・あんた」
リサと・・・
「なんでシーラの能力が判ったんだ?」
エルがものすごく釈然としない顔で尋ねる。
「何故かと聞かれてもな・・・」
だがそれに対するフレイの答えは至極簡潔なものだった。
「まあ、なんとなくわかったんだが・・・駄目か?」
・・・・・・二人は何もいえなくなった。
「そういえば・・・」
それまでのほほんとした顔で事態を傍観していたセリスが呟いた。
「フレイさんは前から勘が鋭かったような・・・」
(((そう言う問題か?)))
全員が心の中でつっこみをいれた。
その後、実際に訓練するべく一同はローズレイクへ向かうことになったのだが、途中で事件が起こった。
「おや?」
ふと先頭をあるいていたフレイが足を止めたのだ。すぐ後ろを歩いていたアレフはフレイの後頭部にもろに鼻をぶつけてしまった。
「っっ痛ぅ〜フレイ〜、急に立ち止まるなよ」
アレフは文句を言うが、フレイからの反応はない。
「おいフレイ?」
どうも様子がおかしい。みんながフレイの元に駆け寄る。
「フレイ君?大丈夫?」
シーラが心配そうに尋ねるがまったく耳に入ってないようで、通りの一角・・・正確にはそこに座っている一人の男を凝視している。
「フレイさん?」
クリスがフレイの顔を覗き込もうとしたその時だった。クリスはフレイの口が呪文を唱えているのに気が付いた。
「ふっフレイさん?一体なにを?」
「ルーン・バレット」
止める暇もあればこそ、フレイの力ある言葉に応えて、一つの火球がフレイの掌から飛び出した。
火球はまっすぐ飛んで、通りの一角にすわっていた男の足元につきささる。
ちゅど〜〜〜〜ん
やたらコミカルな爆発音が響き、男は
「ぐおあああ!!」
と、やたらかっこいい悲鳴をあげて吹っ飛んだ。男の体はゆっくりと弧を描き、ぐしゃり!という音をたてて、フレイの足元に落下した。
皆、なにも言えない、それどころか動けない。いきなり起こったフレイの凶行に、思考が麻痺してしまったのだ。
爆発音に通りにいた人々がふりかえり、やがてざわざわと周りが騒ぎはじめる中、フレイは足元に落下した男の胸倉をいきなり掴みあげた。
「お、おい!なにするんだ!?」
我に返ったアレフがフレイのさらなる凶行を止めようとする。
「フレイ君!?」
「フレイさん!?」
「気でも違ったのか?」
皆が次々と我に返り、止めにかかる。だがフレイは構わず男の髪を強く引っ張った。
「ぼうや!自分が何してるかわかってるのかい?再審請求ができなくなるよ!!」
リサがフレイの腕をつかむが、フレイはさらに強く髪を引っ張る。すると何故かべリべりという音を立てて剥がれる髪。フレイを止めようとした皆の動きがピタリと止まる・・・・・・・・・カツラ?
「あれ?」
それをみたリサはフレイの腕をつかんだまま、怪訝そうな顔で男の顔を凝視した。
どうもこの男の顔に見覚えがあるような気がする。
(髭があれば、誰かに似ているとは思うんだけど・・・)
そんなリサの心を読んだかのように、フレイはコートのポケットからサインペンを取り出し、男の鼻の下にちょび髭をかいた。
「げっ!!」
その途端、リサは呻き声をあげた。男の顔が自分の記憶の中にあるそれとピタリと一致したからである。
「ど、どうしたの?」
呻き声を聞きつけたパティが尋ねる。
「ゴルメス・ハイド・・・1200ゴールドの賞金首だよ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
「「「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!???」」」
ゴルメス・ハイド
賞金額:1200ゴールド
罪状:路上強盗及び障害事件の常習犯、
備考:変装が趣味
「ちっ!犯罪者が犯罪者を捕まえてんじゃねえよ」
これは通報をうけて駆けつけてきたアルベルトのセリフ。
「真面目に仕事をしろ、だまって『法律』にしたがって賞金を支払え」
そしてこれがアルベルトを黙らせたフレイのセリフである。
「それでは手続きを済ませてくる。皆は先に行っててくれ」
思わぬ収入に喜んでいるのかどうか判らない、いつも通りの仏頂面でフレイは言った。賞金を受け取るためには、自警団事務所でしかるべき手続きを取る必要があるからだ。
「あのさあ」
リサが釈然としない顔で尋ねる。
「どうして変装した賞金首が判った・・・ってまさか・・・」
そこまで尋ねかけてはっとするリサ、ほかの皆もお互いに顔を見合わせている。
それに対するフレイの答えは・・・
やはり至極簡潔なものだった。
第5章:終わり
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〜あとがき〜
アレフとリサはとても使いやすいキャラクターですね。今後の課題はいかにクリスやシェリルのキャラを立てるか・・・ということだと思います。
次回は煩悩モンスターのお話、第6章『女のプライドに賭けて』です。