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金色の翼   第6章
ましゅまろ


悠久交響曲 金色の翼
 第6章:女のプライドにかけて・・・」
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 フレイが仮釈放されてから一ヶ月、経営は順調であった。
 当初はフレイが容疑者であるために客足が遠のくことが懸念されたが、意外にもフレイが有罪だと本気で信じている者はあまりいなかった。その理由は彼の今までの勤務態度にある。
 フレイはその性格上(言葉使いから見ても)、決して愛想はよくなかったが、引き受けた仕事はほぼ完璧にやりとげ、また依頼主の無茶な注文にも不平一つ言わないというその姿勢により、無愛想=真面目、という図式が出来てしまったためである。
 今日もジョートショップは人々の指示を得るため、そして十万ゴールドを稼ぐために仕事を始めるのである・・・が・・・・・・・・・

「アレフはどうした」
「遅刻・・・ですね」

 以上、朝礼におけるフレイとセリスのやり取り(笑)。

 ジョートショップでは臨時従業員(アレフ達の事)は週末に次の週の出席できる日を報告し、それをシフト表に書き込むことになっている。今日のシフトは、アレフ、クリス、リサ、エルの4人だったのだが・・・
「クリス、何か知らないか?」
「アレフ君なら、2時間ほど前に用事があって遅れるかもしれないっていってたけど・・・」
「ナンパか」
「ナンパだね」
「ナンパだな」
 上からフレイ、リサ、エルの順、全員が同じ結論に達した。

カランカラン♪

 店のドアが開く、客だ。
「おはよう〜、フレイさんいる〜?」
 やたら元気のいい声で挨拶して入ってきたのはトリーシャだった。
「おはようトリーシャ、どうしたんだ?こんな朝早くに・・・」
「えーとね、自警団からジョートショップに仕事の斡旋だってさ」
「自警団から?」
 自警団からとは随分と珍しいことだ。妙な顔をする面々、
「正確にはお父さん・・・第1部隊からなんだけど、最近町を荒らしてる魔物の捕獲を代わりにやってほしいって」
 それを聞いてますます妙な顔をする面々、自警団が自分達の手に余る魔物の捕獲を何でも屋に依頼するとは思えない。田舎の町とはいえ彼らは戦闘のエキスパートの集団なのだから・・・
「つまり、他の事件に人手が回っていて、魔物を捕らえてる暇がないから依頼してきたわけだね」
 リサがそうトリーシャに問い掛けた。トリーシャは頷いて、
「うん、もともとはお役所から頼まれた仕事だってさ」
「ふむ・・・それでどんな魔物なのだ?」
「えーとね、特に人には危害は加えないみたいなんだけど、町じゅうの食べ物を盗んだり女の人に抱きついたり着替えを覗いたりするんだって」
「どんな魔物だそれは・・・」
 さすがにフレイでもそれはあきれる。
「うまく捕らえられたら・・・・・・」
 しかし、トリーシャの提示した報酬の額はなかなか割のいいものであり、特に急ぐ仕事もなかったためか、引き受ける事になった。
「ところでさあ」
 ふと思い出したかのように、トリーシャはフレイに尋ねた。
「アレフさん何かあったの?なんか『俺の子猫ちゃんが〜!』って言いながら街中を走ってたけど」
「・・・・・・トリーシャ、それは何時の話だ?」
「ん〜〜、5分ぐらい前かな」
「・・・こんな時間まで何をやっているんだあの男は・・・」
「アレフさん・・・欠席・・・っと」
 セリスはシフト表のアレフの欄をインクで塗りつぶした。


 それから20分後フレイ、クリス、リサ、エル、トリーシャは橘由羅の家の前にいた。ちなみにセリスは店番に残り、トリーシャは『面白そうだから』という理由でついてきた。
「ねえ、なんで由羅さんの家に行くの?」
 クリスが恐る恐る尋ねる。
「私の知り合いの中で『こういう事』に長けている者は由羅しか思い浮かばなかったからな・・・」
 さらりと言い放ち、入り口をノックをする。
「こういう事・・・?」
 クリスはものすごく嫌な予感がした。そしてにげたくなった。そもそも由羅の家はクリスにとっての鬼門だ。由羅に見つかったらまた抱きつかれるに決まっている。
 
抱き。

 そう、こんなふうに・・・って・・・
「あら〜クリス君じゃな〜い。アタシに会いに来てくれるなんて〜」
 遅かった。
「う、うわああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 嬉しそうにクリスに抱きつく由羅、あまつさえほお擦りを始める。完全にフレイ達が目に入っていないようだが、とりあえず挨拶をする。
「由羅、久しぶりだな・・・」
「あら、フレイ君もいたの〜?それにリサとエルも、メロディならいないわよ?」
「うわああああああああ!!」
「実は頼みたい事があってな」
「ああああああああ!!」
「な〜に〜?」
「ああああ!」
「クリス、うるさい」
「だ、だってー!」
 クリスは涙目になって訴えるような目でフレイを見ている。フレイはため息をついた。
「由羅、とりあえずほお擦りだけでもやめてやれ、それから頼みがあるのだが、いいか?」
「いいわよ〜んはいってはいって〜♪」
 クリスを確保した由羅はフレイの『頼み』の内容も聞かず、上機嫌で一行を居間に案内した。
 ひょっとして、これは計算ずくか?なんてリサとエルとトリーシャは思ったりした。
 全員が居間で席につくのを確認してから、フレイは用件を切り出した。
「実は魔物捕獲の依頼が入っててな、どこに生息しているかわからないからおびき出そうと考えているのだが、その魔物は食べ物と女に目がないそうでな・・・」
「ふ〜ん、それで?」
「金のかからん女で釣ろうと思う、色仕掛けの仕方を教えてくれ」
「「な!」」
 それまで黙っていたリサとエルがあわてて声をあげる。
「ちょっと待てフレイ、まさかアタシたちに色仕掛けをさせようっていうんじゃないだろうな?」
「その通りだ。ちなみにトリーシャは従業員ではないからする必要はない、やるのはリサとエルだ」
「冗談じゃないよ、私は嫌だからね」
「そんなに嫌か?」
「ああ、嫌だね」
「仕方がないな、私がやろう」
 爆弾発言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「「「「はい?」」」」
 いまなんか・・・とってもすごい事を聞いたような気がする・・・
「アノ・・・イマ、ナント?」
 ブリキ人形の様にぎぎいっと首を動かし、カタコトの自国語でといかけるリサ。
「だから、私が色仕掛けをしようと言ったのだが?」
 あっさりと返すフレイ、フレイは由羅の方を振り向き、
「私を色仕掛けができるレベルに女装させられるか?」
 と、質問した挙句・・・
「あ〜ら、面白そうね。それじゃあ、こっちにいらっしゃ〜い。お化粧してあげる」
 という由羅の返事を受けて・・・
 そのまま彼女と二人で居間を出て行った。
 その場に残されたリサ、エル、トリーシャは呆然としていた。さっきクリスも一緒に由良に引きずられて行ったようだが、そんな事気にしてられない(ひでえ)。
「いいのかなあ・・・」
 トリーシャが呆けたように声をしぼりだす。
「い、いいんじゃないか?」
 リサは生返事をする。
「あ、ああ、そうだな」
 エルも生返事をする。
「でもさ・・・ボクなんとなく、この後の展開読めるんだけど・・・」
 トリーシャは苦笑した。
 その言葉にハテナマークを頭上に浮かべる二人。
「どういうことだ?」
「うん、あのさあ、フレイさんってものすごい美形じゃない。ボクなんてまともにフレイさんの顔を見られるようになるまで3日もかかったし」」
 リサとエルは、こくこくと頷く。
 ちなみにリサとエルは丸1日、シーラに至っては10日もかかっている。さらに言うなれば、初めてフレイを見た女性の95%が頬を染めている。
「それでさあ、フレイさんくらい美形の人が女装した場合は・・・」
 トリーシャがそこまで説明しかけた時、由羅が戻って来た。
「おまたせ〜フレイ君の女装の完成よ〜」
 そう言う由羅がにやにや笑っているその表情を見たトリーシャは、自分の予想がほぼ当たっている事を確信した・・・
 そして由羅の後ろからゆっくりと顔をだしたフレイの姿は・・・
「「げっ」」
 リサとエルの呻き声と・・・
「やっぱり・・・」
 このトリーシャの一言が雄弁に物語っていた・・・


「どうした?何故固まっている?」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 呻き声をあげたままピクリとも動かなくなったリサとエルに怪訝に思ったフレイが問い掛けるが全く反応がない。
「トリーシャ、一体どうしたんだ?この二人は」
 展開を予想していたために比較的まともなトリーシャに聞いてみる。
「多分・・・女性としてのプライドを思いっきり傷つけられたんだと思う・・・」
 そういう彼女の顔も少し赤かった。
 無理もないだろう。紫を基調とした女物の服を着込み、唇に真っ赤なルージュを引いたフレイは、絶世の美女へと、変貌していたのだから・・・まあ、元が絶世の美男子なのだから、あたり前といえばあたり前であるが・・・
 トリーシャはこれ以上フレイを直視していると、危険な世界に足を踏み入れそうになるので、眼をそらす事にした。
 一方由羅の方はというと、妙に誇らしげである。
「ど〜お〜?『お姉さま(はあと)』って呼ばれそうなほどの色気があるでしょ〜?リサもエルも、もう少し女らしくしないと負けるわよ〜」
 そして由羅のその言葉は、リサとエルのプライドをピンポイントで刺激した。
「なにを、言うんだ!フレイは男だぞ?」
「そうだ!アタシ達は女なんだ!男に負けるはずがないだろう!」
 プライドを刺激された二人はむきになって反論する。
「「そう、アタシ(私)達には男にはない色気というものが・・・」」
 激昂してフレイの方を見る二人・・・
 
 ・・・・・・負けた・・・・・・
 
 一瞬くじけそうになる。しかしそれを認めるには二人はあまりにも意地っ張りだった。
「ぼうや!」
 リサはビシリと指を突きつけた。
「私達とぼうやと、どちらが魔物を釣れるか・・・勝負だ!」
 いきなりわけのわからん対抗意識を燃やし、やる気をだすリサ。
 フレイの頭にハテナマークが浮かぶ。 何だ?色じかけは嫌じゃなかったのか?
「ああ、そうだね」
 エルもフレイに詰め寄った。こちらもやる気だ・・・
「アタシ達の女のプライドにかけての勝負・・・逃げるんじゃないぞ!」
 フレイの頭に、もひとつ浮かぶハテナマーク。 待て、逃げたのはお前達の方じゃなかったのか?だから私が女装したんだぞ?
 考えてみれば理不尽な話である。従業員のためにわが身を犠牲にして女装したというのに、女装した途端、その従業員が因縁ふっかけてくるのだから。
「さあ!いくよ!」
「さっさと来い!」
「? ? ?」
 頭に無数のハテナマークを浮かべながら、フレイはリサとエルに引きずられ、そのまま外に出て行った。
「あ、あははははははは・・・・・・」
 後にはトリーシャのかわいた笑い声がむなしく響いた。もはやトリーシャにはついていく気力もなくなっていた。

 その後の勝負の結果についてはトリーシャは実際に見たわけではない。ただ勝負の後に、怒ったリサとエルが、手近にいた1体の魔物(何故かロープでぐるぐる巻きにされて、フレイの足元に転がっていた)に八つ当たりし、ぼこぼこにした事のみを噂として知った。




                              第6章、終わり




 追記

 いつのまにか由羅が部屋からいなくなっていたのを不審に思ったトリーシャは、別室で由羅によって着せ替え人形の如く女装させられ、おもちゃにされているクリスを発見した。





                              第6章、終わり




 さらに追記

 この事件の顛末は、トリーシャの流した無責任な噂により、またたくまにエンフィールド中に知れ渡った。
 結果、ジョートショップに女装したフレイを指名しての依頼が殺到したという。





                              第6章、終わり
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 〜あとがき〜

 いや、こんどこそ第6章終わりです(笑)
 何とゆうか、このHPではおなじみのエピソードなのでオリジナルティーを出そうと悩みましたがうまくいったかな?

 さて、おなじみの次回予告ですが、もうそろそろサブタイトルの法則はご理解していただけたでしょうか?毎回、その話で使われるセリフをサブタイトルに使っているのです。
 次回のサブタイトルは『ナンパ師やめます』で、アレフメインのお話です。色々内容を想像してください(笑)
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