中央改札 交響曲 感想 説明

金色の翼   第8章
ましゅまろ


 ローズレイク、
 エンフィールドのはずれに位置するそこは生き字引の老人が住むのみで人が訪れ
る事は少ない。だからこそフレイにとって魔法の鍛錬をするのには都合のよい場所であった。


 今、フレイの目の前には砲丸が置いてある。フレイは精神を集中させ、その口から呪文を紡ぎだした。
 そして砲丸に向けて片手をかざす。
「ルーンバレット!」
 フレイの口から飛び出した力ある言葉とともに手のひらから砲丸と同じくらいの大きさを火球がとびだす。もっとも初歩的な火属性の攻撃魔法だ。
 ルーンバレットは見事に砲丸の真下に着弾し、爆音をたてながら発生した爆風が砲丸を空中へ持ち上げた。
「ルーンバレット、ルーンバレット!」
 つづいて二発・・・三発・・・フレイの手のひらから放たれたルーンバレットが次々と砲丸の下部に命中し、本来なら重力に従って落ちるであろう砲丸を爆風で持ち上げていく。
「ルーンバレット!ルーンバレット!・・・ルーンバレット!」
 さらに四発・・・五発・・・六発・・・
 並みの魔法使いであれば四連発が限度であるその魔法を次々と発動させ、砲丸にあてていく。
 七・・・八・・・九・・・発
 ピシ・・・ピシ・・・ピシリ・・・
 爆発に耐え切れなくなったのか、砲丸の表面に亀裂が入っていく。
「ルーンバレット!!」
 とどめとばかりに今度は四発同時に火球を放つ。やはり砲丸の下部に着弾し、結果砲丸は空高く吹っ飛んでしまった。
 13連発・・・それがフレイが連続ではなったルーンバレットの数である。前述した通り並みの魔法使いであれば四連発が限度である。そこから考えればフレイの魔法の実力は非常に高い。
 しかしフレイの表情は優れない。まるで不気味なものを見るような目で自分の手を見るのみである。
「何故私にこんな力がある?」
 ポツリと呟く。
「半年前――リザードマンに襲われたときに目覚めた力――魔法・・・リザードマンを蹴散らした魔法の力・・・」
 フレイには過去の記憶がない。セリスに拾われるまでの――半年以上まえの記憶がまったくない。故に、自分が何故魔法を使えるのかしらない。
『高い魔法の実力を手に入れたそのプロセス』がわからない。わからない以上、それは不気味な力でしかない。
(魔法好きなマリアなら『儲けた』と、楽観的に考えるのだろうが・・・)
 記憶喪失になる前は魔法使いだったのか?
(それはまちがいない)
 ルーンバレットを十発以上も連続発射できるような魔法使い?
「とても真っ当な人間とは思えないな」
 はたして自分は何者だったのか?普通の暮らしを営んでいた人間だったのか?
 魔法を使うたびにフレイは自分が何者なのか、考えさせられる。そしてひどくいらつく。
 普段落ち着いているフレイだが、自分の記憶のこととなるとひどく感情が乱れる。
「私は何者だ?」
 フレイは自分に問いかける。答えが返ってこないことを知りながらも。
 フレイは空を見上げた。先ほど打ち上げられた砲丸が自分の脳天めがけて落ちてくるのが見える。
 フレイは天に向かって手を掲げ、再び呪文を唱える。
「カーマイン・スプレッド――!!!!!」
 掲げた手のひらから天をも焦がさんばかりに巨大な火炎が立ち上る。
 亀裂の入っていた砲丸は高圧で噴出する炎を浴びて砕け散った。
「私は一体何者だったのだ!!?」
 

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 悠久交響曲 金色の翼
 第八章:『てめえなんかと』
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「うるせえ!素人は引っ込んでろ!」
 陽のあたる丘公園に罵声が響き渡る。
 その場にいた者達は声の方に振り返えり、ある者は呆れ、ある者は頭を抱えていた。
 そこでは髪の毛をおったてた背の高い男と、彫像の様に美しい容貌を持った男がにらみ合っていた。
 言わずと知れた自警団員のアルベルトとジョートショップのフレイである。
 しかし両者とも何故か腰にエプロンを、頭に三角巾なんぞを着けている。
「ほう、自警団が炊き出しのエキスパートだとは知らなかったな」
 フレイが表情を全く出さずに毒ずく。
「な、な、なんだとてめえ!」
 対してアルベルトの方は顔を真っ赤に染めあげて叫んだ。
「はあ・・・」
 二人の側で黙々とおにぎりを握っていたセリスはため息をついた。
「なにも被災者への炊き出しの最中に喧嘩しなくたって」
「そうっスね・・・」
 テディも相槌をうち、それからため息をついた。


 原因はタバコのポイ捨てか火の不始末かそれとも火付けか・・・とにかくエンフィールド住宅街で大規模な火事が起こった。人々は公園に避難し、ジョートショップの面々は炊き出しにかりだされた訳なのだが・・・
 どういうわけかアルベルトが乱入し、常日頃好意を持っているアリサの姿を見るや否や手伝いを申し出てきたのである。
「あ、アリサさん。手伝いますよ」
「そんな、悪いわ・・・アルベルトさんもお仕事があるでしょう?」
「いやいや、いいんですよ」
 と、まあこんなわけである。
 それだけならまだ良かった。
 いや、アルベルトの手伝いによって作業――おにぎり作成――の効率が上がる分、非常に歓迎すべきことだった。
 はりきるあまり釜の前でお握りを握っているフレイのポジションに割り込んできさえしなければ・・・
「よし!フレイ。後は俺に任せな」
 しかしフレイは『あっそ、じゃあ後お願い』、と言って任せるほど無責任ではなかった。自分が受けた仕事は人任せにせず、自分でやる・・・これがフレイの考えである。このような真摯な態度こそ、保釈後もジョートショップへの依頼が絶えないニ番目の理由だ。(ちなみに一番はアリサの人望)
 フレイは丁重にそれを伝えた。しかしそれでおとなしく引き下がるアルベルトではなかった。彼はいま、恐ろしくやる気になっている。アリサを手伝う気満々である。しかしそのやる気は、
「てめーは黙って俺にまかせりゃいいんだよ」
 という暴言となって飛び出した。
 全てはアリサさんのために!これが今のアルベルトの行動原理なのだがそのやる気が空回りしている事に彼自身が気づいていない。
「手伝いを申し出てくれるのはまこと喜ばしいが、それを強要してどうする・・・」
「んだとお〜!」
 加えてアルベルトの目の前にいるのはアリサと一つ屋根の下に住む青年である。嫌でも対抗心が持ち上がる。
(っく!なんでアリサさんはこんなやつを・・・)
 そしてよせばいいのにフレイはアルベルトにこう言った。

「アルベルト・・・本末転倒という言葉を知っているか?」

 ぷち、

「うるせえ!素人は引っこんでろ!!」
 陽の当たる丘公園に罵声が響き渡る・・・
 こうして最初の二人の言い争いに続くのだった。


 この二人の喧嘩は別に今に始まったことではない。(実際にはアルベルトが一方的に因縁ふっかけてくるのだが・・・)
 町中だろうが仕事中だろうがお構いなしに喧嘩をふっかけてくるのだ。
さらにフレイ自身がよせばいいのにアルベルトの罵詈雑言を、それをさらに上回る悪口雑言にて切り返すため余計に事態がややこしくなる。加えて喧嘩の最中にもフレイの方に余裕があることがアルベルトの怒りに油を注ぐ結果となるのだ。
 口喧嘩の最中もフレイの手だけが別の生き物の様に動き、次々とおにぎりを作っていってるのがその証拠だ。

「まったく、なんでアルベルトさんはいっつもこうなんスかねえ?」
 周りの者・・・炊き出しを待つものや、ジョートショップのアルバイト達――アレフ、シーラ、ピート、クリス――が頭を抱える中、セリスとテディは比較的マイペースに炊き出しを続けていた。
「フレイさんもフレイさんっスよ、自分の言葉が火に油を注いでる事がわからないっスかねえ?」
「確かにわかってないとは思いますけど・・・」
「けど・・・なんすか?」
「むしろ口喧嘩を楽しんでる様に見えませんか?」 
「え〜〜!?」
 常日頃から『人の心がわからなければ魔法生物なんてやってられないっス』と豪語している魔法生物はいまだ言い争っている二人の様子を見たが・・・
「楽しそうっスか?」
 疑問だ・・・特にフレイの場合、いつもむっつりした表情のため感情が読めない。
「フレイさんは記憶がないじゃないですか・・・」
 セリスが答える。
「ここに来てからの半年、それが今のフレイさんを形作る全てです。だから、時々貪欲に想いでを求めているように見えるんです。仕事も、遊びも、そして喧嘩も・・・色んな体験から想いでを欲しがっているように見えませんか?」
「・・・・・・・・・」
「それに・・・」
 セリスがあさっての方を向く。つられて振り向いたテディの目にはアリサの姿があった。アリサはフレイとアルベルトの喧嘩を見ている。テディが見た自分の主人のその表情は・・・
「ご主人さま・・・笑ってるっスか?」
「お母さんは目が悪い分、人の感情を読み取るのがうまいから・・・多分お母さんの目には仲のいい喧嘩友達がじゃれあってるように見えるんだと思う」
「そういうもんスか?」
「そういうもんです」
 もう一度喧嘩している二人の方を見ると、どうやらクライマックスが近いようだ。アルベルトがビシッと人差し指をフレイにつきつける。
「こうなったら・・・!どちらが多くお握りを作れるか勝負だ!!」
「その勝負を受けるに当たっての私の利得は何だ?」
「ごちゃごちゃゆうな!勝負を受けやがれ!!」
「仕様のないやつだな・・・別に構わないが・・・」
 そう言ってフレイは釜の中に手をつっこみ、一塊のご飯を掴む。それをぎゅっぎゅっと握り、三角形の形に整えた。
「もう米はないぞ?」
 フレイが冷たく宣告する。その言葉どおり釜の中のご飯はなくなっており、フレイの目の前には喧嘩の最中も休まず作りつづけていたお握りが並べられていた。
 かっくん・・・
 アルベルトは馬鹿みたいに顎を落とした・・・

 それを見ていた一人と一匹は・・・
「でも、依頼主から苦情がきてるっスよ?仕事中に喧嘩するって」
「まあ確かにこの辺でアルベルトさんのフレイさんに対する偏見を払拭させておく必要がありますね・・・(リカルドさんもアルベルトさんが仕事をさぼってフレイさんと喧嘩するから困るってぼやいてたし)」
「?、どうするつもりっすか?」
「簡単なことです。アルベルトさんには一度、フレイさんと一緒に仕事をしてもらいましょう。これにより、フレイさんへの理解度はUP!ついでに好感度もUPです!」



 三日後・・・
「・・・・・・・・・で、こうなったわけだが・・・」
 エンフィールドから二キロほど離れた所に天窓の洞窟と呼ばれる場所がある。
 その洞窟の奥にはえている目薬茸を採ってくるのが本日のフレイの仕事である。
 ちなみこれは依頼された仕事ではない。目薬茸の『ある効能』を知ったセリスが個人的にお願いした仕事である。
「まあ、今日は他に仕事があったわけではないから構わんが・・・」
 ただ出発前にセリスが妙なことを言っていた。すなわち・・・
『洞窟の前に一人同行者がいるので仲良くしてください』
・・・とのことだ。
「同行者がいるのなら、わざわざ目的地で合流しなくても出発の際に共にいけば済むことだ・・・そう思っていたが・・・」
 洞窟前でその同行者を見たとたんフレイはセリスの意図を全て悟った。
 そのまま同行者と合流し、天窓の洞窟の奥を目指して進んでいるのだが・・・
「・・・・・・・・・で、こうなったわけだが・・・」
 フレイはあらためて同行者を見た。
 ここ、天窓の洞窟は天井から光がさしこむことがその名前の由来となっており、たいまつの類がなくとも相手の様子はよく見える。
「ったく・・・なん・・・・・・なんかと・・・」
 その男――同行者は男だった――はフレイの顔をみるなり明らかに不満そうに何事かを呟きながらフレイの真ん前を歩いている。
「いつまで文句を言ってるつもりだ・・・『アルベルト』!」
 名前を呼ばれた同行者はキッとフレイを睨み付けた。
「なんでてめえなんかと一緒に仕事しなきゃならねえんだよ!!」
 先ほどからぶつぶつと呟いていた不平を大声で叫ぶ。
「先ほどから文句ばかりだな」
 そのフレイの存在こそがアルベルトの不平の原因なのだが。
「参考までに聞くがどういう経緯でここに来たのだ?」
「隊長からアリサさんから仕事を頼まれたんだがうけるか?って聞かれたんだよ」
 振り向きはしないものの一応律儀に質問には答えてくれる。
(なるほど・・・リカルドも『グル』か・・・)
「なのに・・・くそっ!なんでてめえなんかと!!!」
 そして再び文句を言うアルベルト。さらによせばいいのにフレイはそれに突っ込みを入れた。
「そのセリフは既に四度目だ。明らかに語彙が不足しているな・・・」
「なんだとてめえ!」
 激昂したアルベルトは振り向いてフレイの胸倉を掴んだ。そして数秒ほどの沈黙、洞窟に険悪な雰囲気が漂う。
「文句をいっても始まらん・・・」
 不意にフレイが口を開く。
「仕事を受けた以上、文句を言わずに最後までやり遂げる、何でも屋も自警団も同じ事だ」
「くっ! 確かに・・・」
「それにこれより取りに行く目薬茸かなんだか知っているか?弱視の特効薬だ」
「何!?本当か!!」
 アルベルトの怒りの表情が和らぎ、フレイの胸倉をつかんでいた手を今度は両肩において詰め寄った。あまりの勢いにフレイは少し身を引いた。
「あ、ああ本当だ。今朝調べた故間違いはない」
 すると途端にアルベルトは張り切りだした。
「よし!こんな所でぐずぐずしてらんねーぞ〜。まっててくださいアリサさん『あなたの』アルベルトがあなたの目に光を取り戻して見せます!」
「アルベルト?」
「ふっふっふ、アリサさんの弱視が治ったら今まで以上に化粧に気を使わなくてはそうだ、この前手にいれた新色を試してみようそれから新しいアイシャドウも欲しいなそれからそれから」
 フレイが呼びかけるもアルベルトは既に己の世界に入り込んでしまい聞いちゃいない。『仲良くしてください』そうセリスは言っていたが、なんだか急に不安になってきた。
「おい、アルベルト」
「そうだいっそのこと髪型もかえてみるか前は髪型変えたら俺だってわかってもらえなくてむなしかったがこれからはそんな事もないだろうオールバックにしてびしっとスーツを着てそういえばそんな俺のスーツ姿みてホストみたいだなと言いやがった奴がいたなもちろんジ・エンド・オブ・スレッドを問答無用でくらわしてやったがあいつ退院したっけか?」

「・・・・・・・・・・・・馬鹿か?」
「んだとお、てめえ!」
 しかし悪口は聞こえるようだ。フレイは軽く肩をすくめ・・・
「囲まれてるぞ」
「何!?」
 慌ててアルベルトが辺りを見回すと自分達を取り囲むモンスター達の姿があった。
「・・・リザードマンだな・・・」
 フレイがぼそりと呟く。そして以前セリスが言っていた事を思い出した。

『エンフィールドにはリザードマンは生息していません』

「つーことは何か?また誰かがモンスターを召還してやがるってことか!!」
「召還?」
「2ヶ月前のリザードマン発生事件はその後の調査で誰かがモンスターを召還した結果だってわかったんだよ!」
「なるほど・・・ところでアルベルト」
「なんだ?」
 アルベルトは不服そうな顔をする。次のフレイのセリフが予想できるからだ。
「魔法使いの私がこの狭い空間で一人で切り抜けるのは不可能だ。アルベルトなら一人で切り抜ける事は可能だが、その後目薬茸の回収はまず不可能だろう」
 フレイは一度、言葉を切った。みるとアルベルトはますます不服そうな顔をする。
「そこでだ・・・二人で切り抜けるよう合力しないか?」
 やっぱり・・・という顔をするアルベルト。
「共闘か・・・ちっ!よりによっててめえなんかと・・・」
「・・・五度目だ・・・いい加減にやめろ」
「うるせえ!いくぞ、おら!」
 アルベルトは吼える。ハルバードを掲げ・・・
 フレイは唱える。外敵を蹴散らす呪文を・・・

 そして・・・




 〜第8章:終わり〜
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 〜あとがき〜

 アルベルトは主人公を嫌いになりきれてないからこそああして口喧嘩をするものと私は考えております。で、主人公もアルベルトが嫌いじゃないからいちいち喧嘩に応じる。二人は実は自覚してないだけでとても仲がいいのでは?というのが私の見解です。(ひょっとして常識か?)   
まあフレイがあんな性格なんでアルベルトが虚仮にされる形になってしまいますが。我ながら随分えらそうな性格のキャラになっちゃったなあ〜(汗)

ちなみに本文中のルーンバレットは並みの魔法使いは4連発が限度と書いてますが、それはゲームにおけるその魔法のエフェクトに起因します。あれは4連発だ!というのが私見

次回は完全シリアスで、第9章、私のお気に入りのあのキャラがついに登場、あんなおいしいキャラなのにボイスが入ってないのは納得いか〜ん。というあの方です。題して『過去を知るもの』です。
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