中央改札 交響曲 感想 説明

金色の翼   第十章
ましゅまろ


 〜前回のあらすじ〜

 突如フレイの前に現れた謎の怪人、シャドウ。
シャドウは自分がフレイの過去を知る者だと語り始めたのだった。




              悠久交響曲 金色の翼
            第十章:『シャドウ・マインド』




 睨み合うフレイとシャドウ。
「答えろ・・・・何が目的だ。半年前と今回の事件、両者とも私の目の前で起きたのは偶然ではないのだろう?」
「目的ぃ?てめえが全てを思い出せばはっきりするさあ」
「!?、どういう事だ」
「早く思い出せ・・・・早くな・・・・くっくっくっく・・・・ひゃっはっはっはあ!!」
「語る気が無いのなら・・・・捕らえて強引に聞き出す!」
 すばやく印を組み、呪文を唱える。シャドウにむけて腕を突き出し、
「ゆくぞ・・・ニードル・スクリ・・・」
そして力ある言葉を・・・
「くっく、グラヴィティ・チェイン」
 しかしシャドウの魔法の方が早かった。鈍い金属音を立て、地面から生えた鎖が蔓のようにフレイの腕に絡みつき、その自由を奪う。
 いや、腕だけではない。地面から新たに三本の鎖が生え、もう片方の腕、さらに両足にまで絡みついていく。

 グラビティ・チェイン、対象のどこか一箇所に絡みつき、拘束するこの魔法は4回放てば四肢全てを拘束できる計算になる。

 シャドウは動けなくなったフレイに近づき、顔を近づける。そしてまた笑いながら言った。
「とりあえず今回は顔見せだけだ。いずれそれ相応の舞台を用意してから相手してやるからよう・・・・おとなしく今は寝てな」
 シャドウはフレイの顔に手をかざす。するとフレイを強烈な眠気が襲った。

 が、その時、シャドウがふと上を見上げる。そこには・・・
「食らいやがれ!!!」
 そこには空中高く飛び上がり、ハルバードを振り上げたアルベルトの姿があった。

「グラビティ・チェイン」
シャドウのグラビティ・チェインがアルベルトめがけて伸びていく。が、アルベルトはハルバードを鎖の動きに沿って回転させながら、弾いた。
「もらった!!」
 アルベルトは勝利を確信する。そのまま落下の勢いを利用してハルバードの一撃を叩き込む!
「ジ・エンドオブ・・・」




「てめえの負けだあ!!グラビティ・チェイン!」

 ドス!ドスドスドスッ

 シャドウの足元から伸びた4本の鎖が一直線にアルベルトに向かって伸びる。それは絡みつくのではなく、一直線にアルベルトの体を突いた。
(まさか・・・グラビティ・チェインによる打撃?)
 驚愕するアルベルトに向かって新たな鎖が鞭のようにしなり、アルベルトの背中を打ち据えた。
 アルベルトはバランスを崩し、地面に落下、シャドウが勝ち誇ったように笑う。
「覚えときな!グラビティ・チェインにはこういう使い方もあるんだぜ。ま、かなりややこしく呪文を改造する必要があるがな」
 シャドウは倒れているアルベルトを一瞥する。ぴくぴくと震えているが、痛みに顔をゆがめている所をみると、気を失ってはいないらしい。
 シャドウはにんまり微笑をうかべ(この男は笑い以外の表情をすることがあるのだろうか?)アルベルトに近寄った。

「ひゃははははは!!気が変わった。・・・顔見せだけのつもりだったが面白い余興を思いついたぜ」
「なに?」
 フレイがいぶかしげな顔をする。
 シャドウは笑いながら倒れているアルベルトの頭を掴み、片手で持ち上げた。

「それじゃあショーターイムだ・・・・・・『シャドウ・マインド』!!」

 バチイッ!
 シャドウの手から光が飛び出し、アルベルトの額に吸い込まれていく。アルベルトの体はまるで電気が流れたかのようにのけぞり、びくびくと体を振るわせた。

「貴様・・・アルベルトを離せ!」
 フレイが叫ぶ。しかしシャドウは馬鹿にしたように笑った。
「動けない男がすごんでも全然こわくねえんだよ・・・ひゃはははっははは・・・」
「ならば・・・グラビティ・チェイン!!」
 力ある言葉とともにフレイの足元から一条の鎖が伸び、シャドウのグラビティ・チェインを巻き取っていく。
 そしてフレイの四肢に巻きついた鎖が解けていく。

「なるほど、グラビティ・チェインを重ねがけして俺の鎖をからめとりやがったのか・・・さすがは『紅き縛鎖』ってことかい?うひゃひゃ」
「(・・・・・・紅き縛鎖?)おしゃべりめ、お前の笑い声は耳障りだ。少し黙っていてもらおう・・・ルーン・バレット!!」
 それは狙い道理にシャドウめがけて・・・そして・・・

 バシュッ

 それは突然、シャドウの横から現れたハルバードの一撃でかき消されてしまった。そのハルバードを持っていたのは・・・
「アルベルト?」
 アルベルトがシャドウを守るかのように立ちふさがっていた。
「ひゃはははは!!こいつはもう俺様の術中にはまった!」
「なに!?」
 シャドウの言葉を肯定するかのようにアルベルトがシャドウに背を向け、フレイに向かってハルバードをかまえる。そしてアルベルトの口から漏れた言葉は・・・

「フレイ・・・殺す・・・」
「―――!?」

 驚愕するフレイにシャドウが楽しそうに笑いながら解説する。
「説明しよう!!シャドウ・マインドとは!誰にでもある憎しみや悲しみ、コンプレックス等の負の感情を暴走させる術である!――説明終わり!!こいつの心にはてめえに対する嫉妬がありありと見受けられたんでな・・・それを暴走させた!さあ行けアルベルト!あいつを殺してやりなぁ――ッ!!」
「・・・・・・フレイ・・・殺す・・・」
「アルベルト・・・」
「それじゃあおれ様はここでおさらばさせてもらうぜ?ばははーい」
 そう言うとシャドウの体は自身の影の中に沈みこんでいった。
「待て、シャドウ!」
 フレイが待ったをかけるがシャドウはそこに自分の影のみをのこして消え、その影もやがて地面に吸い込まれるように消えてしまった。
「くっ!」
 フレイは仕方なくアルベルトの方に向き直る。アルベルトはハルバードを構え、こちらを見据えていた。その構えには一分の隙もない。どうやら感情が暴走しても知性は残っているようだ。

 相手は自警団所属のアルベルト、リカルドの片腕と呼ばれ、槍を使わせたら右に出るものはいないといわれている。握り締めた手のひらにじっとりと汗がうかぶ。
 本来魔法使いというのは戦士に守られてこそ、その真価を発揮する。戦士を相手に普通はタイマンを張って勝てるわけは無い。
(戦うか?それとも逃げるか?)
 フレイは自らに問いかける。自分がどの程度の力を持った魔法使いなのかわからない。記憶喪失になる前の自分はこんなときどうしていただろうか、

 無論、答えなど出ようはずも無い。ならば・・・・
(あたって砕けろとは先人もうまい事を言うものだ。やるだけやってみるさ)
 フレイは印を切る。シャドウはアルベルトの感情を暴走させたと語った。ならば意識を奪えばこのくそったれな術を解くことができるはずである。
(いちいち呪文を唱えている暇はないな・・・)

 呪文を、口で唱えるのでは無く、頭の中で展開させることによって呪文詠唱を省くことができる。その代価としてかなりの魔力を消費するが、こればかりは仕方が無い。
 フレイの体に魔力が収束し、

 そしてアルベルトが動いた!

 自警団戦闘マニュアル:魔法使いはその術を行使する時にこそ最大の隙がある。

 アルベルトは並外れた脚力で一気に間合いを詰め、ハルバードを振り上げた。アルベルトの攻撃は、フレイが魔法を完成させるよりもわずかに早い。
 しかし、フレイの手のひらに収束した魔力が結界の役割を果たす。詠唱結界と呼ばれる現象だ。
 唱える術の強さによって結界の強度もまちまちであるが、大体が飛び道具を若干防ぐ程度である。しかし、その程度の結界でもアルベルトの斬撃のスピードをコンマ数秒ほど遅らせる効果はあった。
 二人は同時に『しまった』と思った。

 フレイの誤算はアルベルトの斬撃が予想以上に鋭かったため、コンマ数秒しか遅らせられなかった事、故にしまったと思った。

 アルベルトの誤算はフレイの魔力が予想以上に強かったため、コンマ数秒も遅らせられた事、故にしまったと思った。

 その結果、フレイは斬撃を避けそこない、胸に浅い傷を負った。
 その結果、アルベルトはフレイを仕留めそこない、軽傷を与えるにとどまった。

 どちらの思惑も外れたその結果、しかしフレイは魔法を完成させ、アルベルトは一撃を放った直後という隙を見せている。

 状況はフレイにとって圧倒的に有利であった。もちろんこの好機を見逃すフレイではない。
「ルーンバレット!!」
 フレイの力ある言葉とともに魔法が発動する。

ド、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ・・・(7HIT、コンボ)

「うおおおおおおお!!」

 初歩魔法のルーンバレットとはいえ、至近距離から連続して何発もくらい、アルベルトは大きく後方へ吹き飛んだ。

「・・・・・・・・・」
 アルベルトは地面に倒れたままピクリとも動かない。しかしフレイが警戒を解くことはなかった。
 これで終わりではない。フレイの本能がそう警告していたからである。
 そしてそれが正しいことを裏付けるかのようにアルベルトに変化が現れ始めた。


 ドクン・・・
(何故だ?)
 ドクン・・・
(何故アリサさんはあんな奴を・・・)

 アルベルトは自身の心が黒く塗りつぶされていくのを感じた。

 ドクン・・・
(何故あいつはアリサさんのそばにいる?)
 ドクン・・・
(あいつがいなければいいのに・・・)
 ドクン・・・
(殺せば・・・いなくなる・・・殺せば・・・コロセバ・・・コロセバ・・・コロセバ・・・)

「う・・・があああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 アルベルトが吼える。まるで獣のように、そして・・・

「殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる・・・」

「・・・・・・やはり・・・まだ終わらないか・・・」
 フレイは頭の中で編み上げていた術構成――呪文を唱えていなかったため魔力消費が桁違いに大きく威力も落ちる――を発動させた。
「カーマイン・スプレッド!」
 アルベルトを巨大な炎が襲う。しかし・・・・・・アルベルトは強引に炎を掻き分け、突き進んできた。
 フレイはそれならば、と炎を維持したまま片手で印を切り、さらなる呪文詠唱に入る。
「グラビティ・チェイン!」
 すると、地面から生えた鎖が、アルベルトの足に絡みつき、その自由を奪った。
「ゆくぞ・・・最大魔力でカーマイン・スプレッドを見舞ってやる!」

 しかし、

 ジャキン!
「何?」
 あたりに響く金属音、その音の源を見たフレイは驚愕した。アルベルトがグラビティ・チェインを引きちぎったのだ。
「くっ!」
 フレイはちらりと後方を伺う。そこにあるのは・・・高さ数メートル程の大岩。
 フレイは大岩に走りより、前方に身を投げ出して地面に両手をついた。そのままため込んでいた呪文を解き放つ。
「ウィンド・ボム!」
 本来、空気圧で目標を吹き飛ばすことを目的としたこの呪文は、しかし地面に向けて打ち出したため、逆にフレイの体を上空に吹き飛ばした。
 フレイは空中でヒラリと宙返りをうつと、大岩のてっぺんにスタリと着地した。これでアルベルトとの間に距離が開いた。大技を放つための時間は十分に稼げる。
 フレイは印を組み、今自分が知る、もっとも強力な魔法、カーマイン・スプレッドの詠唱に入った。

 アルベルトが即座に間合いを詰めようと駆け寄るが、こちらの呪文の完成が早い。(十分に引き付けて渾身のカーマイン・スプレッドをお見舞いしてやる)
 しかし大岩の下へ到達したアルベルトはフレイの予想だにしない行動にでた。
「はああああああ!!!」
 裂帛の気合とともにハルバードを横に凪いだ。つまり大岩に斬りつけたのだ。
 大岩は見事なまでに斜めに切断され、ゴトリという音とともに大岩の切断面の上半分が横にずれていった。
 
自警団戦闘マニュアル:強き一撃を与える前に剛き足場を得よ、強き一撃をくじくならば相手の足場を崩せ・・・

 どんな強力な魔法も当たらなければどうということもない。ずりずりと動く足場の上でフレイの足が少しふらつく、それは狙いの正確さを確かにそいでいた。
「もらった!」
 アルベルトは勝利を確信する。後は岩が完全に崩れ落ち、フレイが降りてくるところを待てばいい。
 しかしフレイもまたアルベルトの予想外の行動にでた。
 崩れる足場の上で狙いをつけるのが困難と判断したフレイは崩れかけた自分の足場へと目標を変えた。
「カーマイン・スプレッド!!」
 そして解き放たれる呪文――――
 フレイの手のひらから巨大な火炎が高圧で放射される。
 カーマイン・スプレッドの圧力は大岩の表面にひびを走らせ、ひびの間に入り込んだ高温の炎が岩を焼き、ひびを大きな亀裂へと変えていく。
「何!?」
 驚愕するアルベルトの目の前で大岩が炎を撒き散らしながら砕けていく。
「くっ!」
 砕けた岩の塊と炎があたりの土を巻き上げながら四方へ飛び散っていく。アルベルトは腕で顔を覆いながら、これが目くらましであることに気づいた。
「どこにいきやがった!」
 あたりを見回すがはたしてフレイの姿は影も形も見えなかった。

 自警団戦闘マニュアル:敵に後ろを見せてはいけない。万が一敵の姿を見失ったときは背後を攻撃されない状況を作れ!

 アルベルトは洞窟の壁面に駆け寄る、壁を背にすれば背後からの攻撃はない。
 そしてゆっくりとフレイを探し、見つけ次第殺す。そう考えていた。
 しかしここでアルベルトにとって大きな誤算が生まれた。
 壁面に駆け寄り、さあ探そうと振り向いたそのすぐ目の前にいきなりフレイが現れたのだ。これは予想外だった。
 加えて魔法使いのフレイが自分にここまで接近してきたことも誤算のひとつである。魔法使いは間合いを取るもの、そういう先入観が彼の頭にあった。アルベルトの戦闘マニュアルが裏目にでたのである。

 結果、アルベルトは見事に虚を突かれる形となった。

 フレイはアルベルトの腹にむけて両手を突き出し・・・
「ウィンド・ボム!!」
 発動する魔法。

 本来相手を吹き飛ばす、殺傷能力の低いこの魔法は、しかし壁面に密着する形で立っていたアルベルトは空気の壁と壁面に挟まれ、押しつぶされるかたちになった。
「ぐ、おおおおおおおおおおおおああああああああ!!!!!」
 アルベルトは悲鳴を上げる。彼の体が背後の壁面にめり込むに従い彼の肋骨もまたミシミシと悲鳴をあげる。
 やがてアルベルトは口から泡を吹き出し、気を失ってしまった。




 アリサさん・・・・なんで・・・なんでその男をかばうんですか?

 なんでそいつが犯人じゃないって信じられるんですか?

 そんなに・・・その男が大切ですか?



 あの男・・・・フレイが・・・・





 つづく

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 〜あとがき〜

 シャドウの邪悪さ、ここに極まれり。ここまでやってこそ邪悪の権化というべきではないか、というのが私の私見です。悠久シリーズにおいて最も好きなキャラの一人なので、これからも出番を多めに設けていきたいです。とはいえここまで邪悪なキャラクターにしちゃうと、登場するたび誰かが不幸になりそうですが。
 まあ、シャドウにはこれからエンフィールドの陰で暗躍していただきましょう。

 次回は正気を取り戻したアルベルトが何を思うのか、というお話。第十一章『悪かったな』です。
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